富士見丘 生徒と教師が共に学ぶ強烈な組織

今年3月19日(日)に関西学院大学で開催された全国スーパーグローバルハイスクール課題研究発表会(SGH甲子園2017)において、高校2年のチーム(3名)がプレゼンテーション部門(英語発表の部)で優秀賞を受賞した。
 
同時に、優秀賞3校の中から1校が選出される審査員特別賞も受賞し、7月に開催される国際的な研究発表会「Global Link Singapore 2017」に最優秀校とともに招待される快挙を成し遂げた。
 
各SGH校は、文科省に認定され、いずれの学校も、探求学習、プレゼンテーション、論文編集などに力を注いでいる。そのハイレベルな環境の中での受賞であり、シンガポールでのいわば国際会議に招待されたわけだ。
 
富士見丘の生徒の探究学習における力量がいかにすさまじいものであるかわかるだろう。この強烈な学ぶ力はいかにして可能なのだろうか。その秘密を探ってみたい。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
 
その秘密は、実は生徒と教師の信頼関係を基礎に共に学ぶ組織になっているところにある。この共に学ぶ組織とは、マサチューセッツ工科大学の上級講師であるピーター・M・センゲ博士の研究成果で、グローバル企業のプロジェクトチームのプロトタイプとして多く活用されている。また、次期学習指導要領の主体的で対話的な深い学びの考え方にその影響を与えているほどの重要なチームワーク及びリーダーシップ論。
 
1 ビジョンの共有
 
共に学ぶ組織の条件は5つあるが、そのうちの1つが「ビジョン共有」。富士見丘の生徒と教師は、共に「持続可能」なグローバル社会を創造するというビジョンを共有している。「サスティナビリティから創造するグローバル社会」がSGH校の大テーマであることからもそれが授業の中に浸透していることが了解できる。
 
 
(チームワークとビジョン共有が大きな力となった)
 
また、SGH校に認定される以前から、学校全体でエコ活動に取り組んでいる。近隣の商店街と協働して生ごみを有機肥料に変換して活用する持続可能な環境を追究しているのは、その代表的な活動である。
 
2 メンタルモデル
 
学びの組織は、ビジョンを共有するだけでは稼働しない。1人ひとりが共通の価値観をもたなければそのビジョンに向かって1人ひとりが活動できないからだが、富士見丘の場合は、建学の精神自体が、「忠恕」という相手を尊重したり思いやったりする寛容な精神をメンタルモデルとしている。
 
 
(タイやUAE,イギリスなど多くの国の交換留学生を受け入れるおもてなしの精神が浸透しているシーン)
 
3 チームワーク
 
共有されたビジョンを実現するには、メンタルモデルをシェアしたメンバーが協働して活動する必要がある。チームワークが必要であることは言うまでもないであろう。
 
 
(高校1年生「サステイナビリティ基礎 ―慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科大川研究室によるグローバルワークショップ 」今回のテーマは「Connecting-Creating new alliance relationship」。3~4名の各チームがそれぞれ一国の立場に立ち、それぞれの国の外務大臣による交渉を経て、利害関係が一致した国同士が経済提携の合意文書にサインするワークショップ。「経済」を現実の世界で学ぶ機会は、一般の学校にはない。)
 
そして「忠恕」があるからこそ、外部の学びの組織と連携できる。慶応義塾大学や上智大学、イギリスやシンガポール、ロサンゼルスをはじめとする海外のたくさんの学校と信頼関係を築き、連携できるのは、富士見丘にはチームワークづくりの土台がすでにあるからである。
 
4 システム思考
 
論理的思考、クリティカルシンキング、クリエイティブシンキングを統合して、自然と社会と精神の循環を持続可能なシステムにする思考。
 
富士見丘では、岩手県釜石のフィールドワーク、シンガポール、台湾、マレーシアでのインタビューやリサーチなどを通して、自然に現れている問題、社会に起きている問題、世界の人々の痛みの問題を明らかにし、それらを創造的問題解決して、再び自然と社会と精神の持続可能な好循環を創り出そうとしている。
 
 
(日本とマレーシアの経済を比較し、問題を明らかにし、解決策を提言していく。準備段階と実際にマレーシアのフィールドワークを終えてからのプレゼンを比較すると様々な気づきやアイデアが加わり、その飛躍的な成長ぶりに驚愕。)
 
最近では、STEAM教育に力を入れているため、アート分野とSTEM領域の横断的な学びを行い、システム思考からさらにデザイン思考に発展させている。
 
5 自己マスタリー
 
チームワークにしろシステム思考にしろ、思考技術を自己陶冶することは欠かせない。また、グローバルな団体と連携したり、海外でリサーチをし、プレゼンをするにはC1英語(英語のスキルだけではなく、英語で考え、英語で議論ができるレベル)のIELTSやTOEFLを土台にした英語力を養成する特別講座やe-Learningの機会も完備している。
 
 
(留学先で、科学の授業で質問しているシーン。質問を英語でできることが自己マスタリーの重要ポイント)
 
また、何より、イギリス、米国西海岸、オーストラリアなどの短期・中期・長期の多様なヴァリエーションの留学機会や修学旅行も完備している。そして、模擬国連部は、学びの組織の5つの要素を結合させた象徴的な活動でもある。
 
これらの機会は、教科書に収まりきれない無限の学びの階梯が続く。それゆえ、生徒のみならず、生徒共に教師も学ぶ機会となる。生徒も教師も自己マスタリーをする機会がある知的好奇心・知的刺激に満ち満ちた学校なのである。
 
 
(結成まもない模擬国連部だが、その活躍は目覚ましい。)
 
さて、この5つの要素を統合しなければ画竜点睛を欠くことになる。どうやって統合するのだろうか?それは生徒と教師の信頼関係を持続可能にする「対話」によってである。いつでもどこでも、この対話で満たされている学校それが富士見丘。米国のエリート学校であるプレップスクールに相当する小規模学校がゆえに(学費は、それらプレップスクールの3分の1であることも忘れてはならない)、1クラス40名以上の学校ではまったくできない「対話」が可能なのである。
 
しかもこの「対話」は、生徒が常に未知との遭遇をして、それを乗り越えるにはどうしたらよいのか内発的なモチベーションとしてのニーズがあるがゆえに行われる。つまり、常に必要から生まれた真剣勝負としての対話なのである。
 
 
(米国西海岸修学旅行事前準備。対話が満ち満ちている、)
 
もはや教科書程度の知識量など、彼女たちにとっては、グローバルな無限の知の前では、ほんの少数の分量に過ぎない。自然と社会と精神の実際の問題を解決するにはどうしたらよいのかという必要から生まれた本物の学びが富士見丘の教育の豊かな質を生み出しているのである。
 
 
(シンガポールの名門校ラッフルズ女子高校との対話。富士見丘の対話はグローバル世界でも広がりをみせる。)
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