Created on June 19, 2024
6月12日(水)、文化学園大学杉並(以降「文大杉並」)は、「キャリア探究オープニングイベント」を開催しました。高校1年の生徒約300人と約100人の社会人が100グループに分かれて3回対話をしました。
100人のうち60人くらいは保護者で、残りは外部の関係者です。その社会人は皆さん多様な仕事をして活躍している方々でした。中には、ライフシフトの時代を先取りしたキャリアチェンジをして自らの仕事が進化している方もいました。起業家も多かったようです。
それぞれの社会人が、なぜ今の仕事に就いたのか、今の仕事はどんな仕事なのか、やりがいはあるのか、そもそも仕事をするとはどういうことなのかという観点から語られていました。その語り方はもちろん現状の仕事の「ファクト」の話もありましたが、仕事を「志事」に置き換え、家業を「稼業」と置き換え、その両方に共通するものは何だと思うと問いかけている方もいました。
その方だけではなく、同校の教育理念である「自分の価値観を磨いてくれる感動体験」に通じる本質的なバリューを語り合う対話になっていました。
とかくキャリア教育は、進路先教育になりがちです。仕事で活用されるスキルや方法論に話が流れ、本質的な仕事の価値についての話にはなりにくいものです。ところが、今回は、仕事をすることによって人間がウェルビーイングになるということはいかなることか?自分だけが幸せであればよいのか?他者のために貢献する仕事というのは果たして簡単なのか?など対話は、回を重ねる度に深まっていきました。
ある生徒は、それほどやりがいがある仕事だということですが、やりがいがあればある程、仕事は順風満帆というより多くの困難があり、そんなとき理不尽な思いというのはないのでしょうかと、問いながらも、社会人の方を気遣うシーンもありました。
世の中に「やりがい搾取」があるということなど、文大杉並の生徒は、すでに多様な社会課題を「自分事」にして探究をしています。ですから、そのようなジレンマ問題を投げかける広い視野高い視点深い思考共感する情緒などを備えつつあるということが伝わってきました。
このように外部の社会人との対話が深まっていくには、プログラムにはギミック(仕掛け)がたくさんあったと推察できます。まずは、このギミックが当日動き出すように、普段の授業や探究活動などに自然な状態の「対話」を学校挙げて織りなしてきたと思われます。
対話が始まるや心理的安全なゾーンを教師が設定している段階から生徒自らが設定できるように、共感的な状況を尊重するマインド作りが積み重ねられてきたに違いありません。また、教科横断的な学びの視点も培われてきたことでしょう。
今回は、3回のセッションがありました。最初と最後のセッションは、生徒の興味関心のある仕事と社会人の仕事がマッチングするように組み合わされていましたが、2回目はそのフレームをあえて外したそうです。
対話を進める合間に、染谷先生から、「Do, Think, Feelを大事にして、いま、ここに集中して対話するように」というリアリスティックリフレクションという仕掛けもありました。このタイミングのよいリフレクションフィードバックもまたプログラムの重要なギミックです。
3回目の対話が終了した時に、OST(オープン・ステージ・テクノロジー)の手法で、何人かの生徒が自らリフレクションして気づいてことをプレゼンしました。みな、どの仕事にも共通している価値を見出していたのには、驚きました。
「収入を得ることももちろん重要ですが、好きを大事にしていることに気づきました」「自分以外の人のために仕事が成り立っていることに感動しました」
「仕事は楽しむためにやる気の源をもっているということ。興味関心がやる気になることなどで人生が動き出していることなどに気づきました」
なるほどオープニングイベントだったのです。このように、生徒自身の中にいろいろな問いが生まれる環境をデザインしているのが文大杉並の高1の学年団の先生方です。それをサポートするのが次世代教育開発部部長染谷先生です。また、偏差値による受験指導を行うのではなく、生徒が自分の中に価値あるものを見出し、それが発揮される仕事との出会いの機会を設定するのが進路指導部長の篠塚先生の役割です。この3者がフラットにプロジェクト型でプログラムを作っているわけです。
そして、そこに100人もの社会人がコラボレーションする柔らかいネットワークを紡いでもいるのです。いわばコミュニティシップ型の組織が、文大杉並に生まれ始めたといっても過言ではないでしょう。新しい学校の組織スタイルです。
実際、イベント終了後、60人くらいの社会人が残り、自然とリフレクションの輪になっていました。自分たちは、今回のキャリア教育をもっとブラッシュアップするサポーターだというのです。それによって文大杉並のような最上級の教育を日本中に広めていくインフルエンサーになるのだと。これぞコミュニティシップといわずして何と言いましょう。
染谷先生は、「もはや学校のリソースだけで、生徒の才能を開発するのでは、難関大学にはいるだけで満足してしまいます。生徒たちはもっと先を生きるのです。その生きざまは多様だし活力あるものになってほしいのです。学外の社会人それぞれの私たちの見たことも聞いたこともない経験値に生徒が学べるこのイベントは、本当に得難い感動体験そのものです」と。
進路指導部部長の篠塚先生は、イベントの最後に「私は教師以外の仕事をしたことがありません。ですから、この激変する時代における多様な仕事や新しく生まれてくる職業など知識としてしか理解できません。それでは、リアルなみなさんのキャリア教育を行うのは難しいのです。ですから、このように、社会人の皆さんに協力していただけ、本当に感謝しております」と語りました。
感動的なシーンです。というのも、篠塚先生は、生徒全員の前で自分の弱みを明かしたのです。かつての教師像ではちょっと考えられません。でも、弱みを強みに変えるために、これほど社会人の方々と協力できる環境を作ることができる能力こそ篠塚先生の強みです。
弱みを共有し、自分の強みでそれを大切な価値に変えることこそ、文大杉並の心意気です。そして、互いの弱みを補い合って強みを生み出していくつながりこそコミュニティシップの面目躍如なのです。