Created on December 26, 2018
静岡聖光学院の先生方は、教科を超えて同時多発的にアイデアを出し合い、一気呵成に実行に移していく。失敗は試行錯誤の糧である。そもそも学問は仮説、実験、検証、再挑戦が基本だ。このようなが学問ベースの教育を、創設者ピエール・ロバート神父は創った。
それゆえ、PBL型授業などは、当然と言えば当然で、時代の要請に応えるというより、時代が追いついてきたといったほうがよいだろう。しかし、だからといって、これでよいと変えない理由を並べることはない。学問も時と共に変化する。今や1人で研究室にこもって論文を書いていればよいという時代ではない。
たとえば、榊原先生の理科の授業。「岩石(玄武岩と花コウ岩)の密度を測定するPBL型の授業」展開を見学した。理科は、実験をすれば、PBLではないかと短絡的に思われがちだ。しかし、生徒たちが決められた手順通りに実験を行うスタイルの授業など、榊原先生は眼中にない。
「実験のやり方を生徒自身が考えて実行する」というプロジェクトチームのダイナミクスを生み出すPBL型授業をデザインするのである。予定調和的な一般の理科実験の授業風景とは違い、実験のやり方を自分たちで考える行程は生徒たちのモチベーションを高め、主体的に実験に取り組む効果をあげていた。
生徒たちは「アルキメデスの原理を用いた測定方法」や「岩石を立方体に整形する測定方法」など、さまざまなアイディアを出しながら実験に取り組んでいたのだ。実験のまとめのアクティビティーでは「グループによる実験結果のブレ」や「実験手法の違いによる誤差」などにも触れており、サイエンスという学問にはやくも準ずる仕掛けがデザインされていた。
その仕掛けとは、4、5人のチームに分かれて、実験方法についてディスカッションする→与えられたたくさんの実験道具の中から、必要な実験道具を選んでグループにもってくる→自分たちの考えた手順で実験を行う→実験の結果から、玄武岩と花コウ岩の密度を計算する→グループの代表が実験方法と結果についてクラス全体にプレゼンテーションを行う→実験結果についての考察に対しフィードバックするというプログラム。
理科は何も実験だけではない。特に物理は、イマジネーションが大切である。電子黒板とタブレットを連携させながら、物理現象と法則を結合するアクティブ・ブレインを活性化して行く授業はスリリングである。
特に英語は、CEFR基準でC1英語を目指していてハイレベル。だから、動画や画像をみて、エッセイライティングを瞬時に行っていくなど、実にダイナミックだ。英単語を覚えることもするが、それはクイズレットというアプリをつかって、ゲーム感覚で行っていくから、生徒たちはワクワクする。
そして、C1英語というのは、多様性の中で、未知なることに遭遇した時、瞬時に対応できるコミュニケーション能力や創造的問題解決能力が必要だ。隣に国立大学の静岡大学があるが、そこで学んでいる留学生との交流も、同校は盛んだ。
日本の文化についてプレゼンしながら、日本に親しんでもらいたいというプレゼンテーション交流会を見学したが、これは英語の学びというより、多様性の中で、どのように判断して人間関係を構築していくかという本当の意味での国際交流の場だった。
だから、英語のスキルがアップしてから交流しようというのではなく、まず中1からでも、チャレンジしたいというモチベーションがあれば参加できるプログラムだった。海外から来た方々は、英語のスキルを求めているのではなく、ハートフルな関係を求めているのである。
中1は、日本の伝統であり、宇宙ステーションにも活用されている折り紙発想を伝えようとした。しかし、それは実は日本語でも伝えにくいことだ。なかなか伝えられない。とっさにとった行動は、折り紙をいっしょに折るという行動だった。留学生は、この中1の神対応に大いに盛り上がった。
しかし、中1生は、内心、燃えていた。今度こそ、ちゃんと英語でも伝えられるようにしたいと。PBL型授業は、一方で論理的思考、批判的思考、創造的思考という高次思考力を鍛えるのに最適な学びであると同時に、Growth Mindsetや人間関係作りなどの非認知能力も豊かにできる授業である。
このことを強く実感しているのが、トライを重ねている教師であり、いっしょに学んでいる生徒である。だから、教師と生徒だけではなく、生徒と生徒が学び合う輪が広まっていくのだ。
だから、放課後、それぞれ自分が得意とする教科を押し合う聖光塾が開かれるようにまでなった。50人以上が参加するウネリにもなっている。
そして、保護者に対して、生徒が宗教的精神について伝授するキリスト教講座にまで発展している。
静岡聖光学院において、PBL型授業は、あらゆる場面で、生徒がアイデアを出し、活動していく足場になっているのである。