順天 世界標準の国際教育(1)

平成26年度スーパーグローバルハイスクール(SGH)申請校は、全国で246校。国公立は127校、私立は119校である。そして順天も悠久の歴史を持つ教育をさらに未来に向けて豊かにすべく、SGHの申請に挑戦した。

30ページにわたるSGH構想調書を完成できたということは、これまでの順天の教育の棚卸しができ、明日の教育の構想がまとまったということを意味する。教育のコンセプト、ビジョン、アクションの青写真ができたということなのである。

その全貌は、文科省の発表までしばらく待たねばならないが、レシテーションコンテストとスピーチコンテストにコンセプトを感じることができた。by 本間勇人:私立学校研究家

グローバルスタンダードな国際教育とローカルスタンダードな国際教育

順天の国際教育は、その歴史も長く、実際に交流するエリアの範囲も広い。特に2000年からは、「英知をもって国際社会で活躍する人間を育成する」とビジョンを改めて、「進学教育」「国際教育」「福祉教育」の3つのベクトルで、グローバル人材を育成している。

そしてさらに、昨年度から高校にEクラス(イングリッシュクラス)とSクラス(サイエンスクラス)を設けて、IB(国際バカロレア)のDP(ディプロマ)や米国のAP(アドバンスプレースメント)コースのレベルにハードルを合わせた。

これによって、「進学教育」「国際教育」「福祉教育」が、完全にグローバルスタンダードな国際教育へとさらに歩を進めることになった。というのも、日本の学習指導要領では、このDPやAPのレベルにまでいっていないため、同じように高校卒業資格を取得しても、DPやAPを取得した海外の生徒とグローバルな視野でディスカッションすることができない。

今回の文科省のSGH開設の大きな理由は、世界同時的グローバル人材育成時代にあって、今の学習指導要領ではモノサシが合わないので、早急にグローバルスタンダードに合った教育課程を作る必要があるが、経験のないところでいきなり実施しても画餅になるため、実績を積み上げている学校に協力しもらいたいという意図があった。

では、申請246校が、すべてこのような世界標準の国際教育の実績があるかというと、そこは足並みがそろわないだろう。なぜなら、自分たちが実践してきた「国際教育」が、グローバルスタンダードを目指していたのか、ローカルスタンダードに過ぎなかったのかという自己評価をする機会がなかったからだ。

ところが、順天はそれが可能だった。校長長塚先生は、こう語る。

「たとえば、IBのDPの核になるプログラムは何かというと、卒業論文(EE:Extended Essay)、「知の理論」(TOK:Theory of knowledge )、「CAS」(Creativity, Action, Service)が含まれる。このEE、TOK、CASという3つのプログラム以外に、もちろん教科が有機的につながっている。

日本の学習指導要領には、教科の学びは優れているが、それらをつなぐ3つのコアがない。ちょうどドーナツのようになっているのだが、その穴の部分を埋める作業がグローバルスタンダードな国際教育。穴を埋めずに教科学習だけで国際教育を行っているうちは、まだ日本のローカルルールで教育を行っているということである」と。

そして、長塚先生は、ボランティアとしてのサービスやクリエイティビティを強調された。順天では、国際教育の一環として、イギリスのギャップイヤ―の期間を利用して教育ボランティアの使命を帯びて日本にやってくるイギリスの学生を毎年2人受け入れている。

この学生の存在はたんなる英語のアシスタントではない。彼らはプロジェクト・トラスト(英国のギャップイヤ―支援団体)というNGOで長期のトレーニングを受け、異文化尊重や人権擁護、世界の平和のためのアクションという使命を帯びて、日本にやってくるのである。

日本だけではなく、タイやマレーシアなどを訪れる学生もいる。彼らの姿勢は、基本文化人類学や社会学の方法論であるエスノグラフィー。訪れる国に何かを教えてあげるとか、改善してあげるとかいう上から目線ではなく、その国の人々と交わり、その国の人々の流儀で問題を解決することをいっしょに考えるスタイル。

だから、彼らと交流する順天の生徒は、俄然エンパワーされるのである。

このエンパワーメントの相互評価が、グローバルスタンダードの評価方法で、今のところ、1点刻みの得点評価の日本の教育にはない方法論である。

したがって、3つの柱の1つである「国際教育」の一環としてプロジェクト・トラストと連携していることは、エスノグラフィーという新しい評価による進路を考えるチャンスになり、同時に本物のボランティアを学ぶ機会でもあるのだ。

そして一事が万事というが、他の教育活動も、すべてこのように3つの柱がリンクしている。たとえば、全学年LHRで行うグループコミュニケーションは、アイデンティティと進路の螺旋プラグラムでありながら国際問題を考え、ボランティアの精神を学ぶプログラムにもなっているのである。

今回は、その教育活動の1つであるレシテーションコンテストとスピーチコンテストを取材した。

 

 

 

 

 

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