共立女子 一大プロジェクト「ブックトーク」(3)

共立女子のブックトークが一大プロジェクトである理由は、「関係」というキーワードにある。米津先生によると、「課題図書」と「関係」する本を探し、その関係について考え、思いを馳せるというのが大きなねらいの1つであるが、その「関係」が同じジャンルの本から、異なるジャンルの本に広がることも期待しているという。多角的かつ多次元という柔軟な≪関係性≫を見出す挑戦ということだろう。

(取材で訪れていた時、ちょうど校長室では、共立祭の実行委員、生徒会のメンバーが集まっていた)

この≪関係性≫の捉え方や見え方が、学年が上がるにつれ、変化していく。つまり成長していくわけだが、渡辺校長は、こう語る。

「≪関係性≫の捉え方が変化していく、つまり成長していくには、読書体験による感想文の編集、ブックトークの作成という学びの機会の積み重ねが大きな影響を与えるのは間違いありません。

感想文やブックトークの作成過程それ自体、自己と他者との≪関係性≫です。しかもその≪関係性≫を生成するのは≪対話≫によるわけです。≪対話≫の積み重ねが、自分を、そして自己と他者の関係を豊かにしていくわけです。

まずは自分の感覚に共感する体験、それが他者の目・客体からみた自己を知る体験に移行し、さらに自己と他者が相互に入れ変わり、主客一体となる体験を通して、自己も他者も豊かになていく。このサイクルの繰り返しは弁証法という意味で≪対話≫、つまりダイアローグです。

ヘーゲルやピアジェ、デューイなどは、この弁証法を考え抜いたわけですが、彼らの理論があって、生徒たちの成長があるのではなく、このような生徒たちの成長の軌跡を、理論化すると、哲学者のようなものの見方が当てはまるということでしょう。

最近では、この哲学者の考え方を応用し、かつ子どもたちの成長の分析をして多様な学習理論が作られています。共立女子のブックトークのような学びの有効性も、このような学習理論によって、裏付けられると思いますが、中等教育段階で大事なことは≪対話≫を日々の授業の中で大いに活用することでしょう。」

また、渡辺校長は美術のプログラムとの≪関係性≫についてこう語る。

「ブックトークで生徒の成長を改めて確認できますが、実は美術の授業でも生徒の成長の軌跡を認識することができます。いやむしろ美術作品になっていますから成長の痕跡が可視化されると言った方がよいかもしれません。

中1では、静物画や、コラージュ、自刻像などを制作しますが、自分への興味が明確に表れています。中2になると自分の好きな音楽などをCDジャケットなどに表現しますが、それは他者と共鳴したいという側面が出てきていますね。

そして中2から中3にかけて、想定自画像と模写を制作します。さらに本当の関心を抱いている自分へと深まっているのがわかります。また模写も、表層的な表現ではなく、作者の眼になりきって、ブックトークでいえば、自分と作者が入れ替わって、一筆一筆にどういうイメージや感情、考えが込められているのか他者を想定しながら描いていくのです。

このように考えてみると、国語と美術の≪関係≫にも親和性があるのではないかと思えてきます。ブックトークを編集するのも美術の作品を制作するのも同じ生徒ですから、当然そうなるのでしょう。ですから、他の教科とも≪関係性≫はあるはずです。」

今回の取材で、さらに共立女子の≪関係性≫の広さと深さを知る機会を得た。それは、中学に帰国生入試で入学し、今年高1になっている生徒3人と出会えたことである。

ブックトークの取材をしにきていると言ったら、彼女たちは、高校になると、ビブリオ・バトルになるのですよと、さらに成長のステージは上がるのが共立女子の特色だと教えてくれた。

彼女たちは、部活にイベントに学業にがんばっているが、共通しているのは、ポジティブシンキングの持ち主であるということが確認できた。部活やイベントがあるなら、積極的に参加して楽しむのは当たり前だと語るし、辛かったり悩んだりすることはないはずはないが、乗り越えようとする自分がたしかに存在しているのだと。

そのようなポジティブシンキングは、帰国生の特色で一般入試で入ってきた生徒とは違うのかとたずねると、それは人によって違うけれど、日本文化を背景に持っているということと海外の文化の背景も持っているということで、違いは感じることもあるという。

だから、3人は共通して、共立女子の「礼法」の授業が面白いのだと。やはり、知らない日本文化が多いので、それを知る機会はたいへん興味深いのだという。

3人にとって、≪関係性≫といったとき、同じだから共感したり、感動するばかりではなく、違いを知って、互いに尊重し合えるという意味での共感というものがあるのだということだ。

昨今、「グローバル」とか「ダイバーシティ」という言葉がメディアで頻繁に取り上げられるようになったが、それは3人のように違いがわかるから、共感・共鳴するという≪関係性≫のことなのである。

共立女子の教育は、ある意味≪関係性≫に対するものの見方・感じ方の広がりと深さの成長を促進する教育なのかもしれない。そのような≪関係性≫の概念の成長はリベラルアーツであり、グローバル教育の根本問題なのではあるまいか。

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