香里ヌヴェール学院 モヤ感が深い学びを生む

2017年4月、香里ヌヴェール学院は、校名変更、共学化を果たし、21世紀型教育改革を立ち上げた。学院長石川一郎先生は、2冊の教育関連書籍を出版し、全国各地から講演依頼を受けている21世紀型教育改革の旗手である。

そして、4月24日、NHKのEテレ「テストの花道 ニューベンゼミ」に出演。正解が1つではない2020年大学入試に頻出されるはずの問題の案内人としてゲスト出演したのだ。番組の中で、そのような典型問題として、2017年中学入試で同学院が出題した「思考力入試問題」も紹介した。

この「思考力入試問題」こそ、香里ヌヴェール学院の人気を生み出した奥義でもある。by 本間勇人 私立学校研究家

 

(香里ヌヴェール学院は、PBL型授業研修と思考力入試問題作成プロジェクトの活動が、毎月のように開かれている。)

同校にとって、思考力入試問題は、21世紀型教育改革のアドミッションポリシーのシンボル的存在。カリキュラムポリシーの柱の1つにPBL(プロジェクト学習)型授業があるため、そのエッセンスを問題に反映させている。PBLとは、生徒が「主体的・対話的で深い学び」を促進できるように、深イイ問題が投げられる。正解が1つではないから、最初はモヤ感満載なのだが、そこを仲間とワイガヤで議論したり調べたりフィールドワークに出かけしながら、新たな問いに気づく。

そのとき生徒は、あのアハ体験をする。なるほど!そっかあ!というモヤ感の霧の中に一条の光を見出すのだ。やがて、新たな問題を解決しようとわくわくしてくる。そして、最優的にもくもく(黙々)探究の道へと没頭していく。

このような渦がだんだんと周りの知やネットワークを巻き込み、探究活動は広く深くなっていく。こんな知の道を、「思考力入試問題」で体験し、共感する生徒に入学してきてほしいというメッセージが込められている。

(思考を広げ深めるときに、マインドマップやベン図など「思考ツール」もフンダンに使う。中1の国語。)

そのアドミッションポリシーに映し出されているカリキュラムポリシーの象徴的存在は、中1のヌヴェール科や高1の探究ゼミ。見学しに訪れたときは、高1の探究ゼミが行われていた。

探究ゼミでは、ディベートや修学旅行のプロデュース、未来都市企画提案などクリティカルシンキングとクリエイティブシンキングをフル活用して、プロダクトをきちんと生産する探究活動を年間通じて行っていく。まさに本格的なPBL。チームでディスカッションする学びのスタイルは基本。

PBLのもう一つの特徴は、教師と生徒が共に学ぶという対話型。実は論理的に議論しいく際に、そのベースになるのは、合理的思考スキルより前に、互いに自由を承認するできる相互尊重の状態。絆がちゃんとないと話し合うことなどそもそもできない。教える教わるの関係には、ネットワークの相互尊重の絆が形成できないのだ。

探究ゼミでは、思考の成長も重視しているが、このように互いに尊重して協働作業ができる仲間作りのプログラムも仕掛けている。正解が1つではない問いを投げるのは、深い学びができるようにすることも目的だが、正解が1つではないからこそ、互いに刺激し合い、多くの気づきが生まれるからだ。実際、授業の振り返りにおいて、多くの感じ方考え方に新鮮な感覚を抱く生徒が多い。

そして、講義形式ではなく個性尊重と同時に協働スタイルで行うということを、生徒と共有するために、まずは学びにダイブしようというわけで、香里園は都会か田舎か?都会派と田舎派に分かれてディベートを行うことになった。作戦を立てるためにディスカッションは大いに盛り上がる探究ゼミとなった。

(高1の英語の授業もPBL型授業)

しかし、生徒にとって最も時間を費やす学園生活は各教科の授業である。そのため、この探究ゼミのようなPBL型授業をさらに凝縮して普段の授業にも実践していくというのが21世紀型教育改革。たとえば、モヤ感やわくわく感を内燃させる工夫として、高1の英語では、自己紹介の英語プレゼンテーションを行っていた。自分のことについて思いを巡らすことは、誰でも最も関心が高いことだからである。

語りたいというモチベーションが英語という言語能力を高めるのは、すでに多くの人によって実証されている。

また、“If could Fly”という英語の歌に耳を傾け、その歌詞の解釈や物語の構造についてディスカッションするシーンもあった。夢や恋について語り合うのは青春時代の特権。Growth Mindsetができあがるのだが、もちろん、この過程で仮定法を学んでいくのである。

(中1の英語は、ダイナミックイマージョン教育。)

中1の英語もインパクトがあった。いきなり20分間教師が英語でしゃべりまくった。生徒は、いったい何が起こったのか驚きモヤ感満載。それでもとにかく聞き取ろうとした。先生がしゃべり終えた後、いったい私は何を語ったのかと問うた。すると、生徒はクラスの知を結集して、こういったんじゃないかああいったんじゃにかとワイガヤになった。

先生の狙い通り。わからないなんて関係ないということに、生徒は気づいたのだ。おそれずに、まずは英語の海にダイブしようと。その後英語の歌に合わせてリズムをとったり、ゲームをしたりしながら、英語を学んだ。

英語のPBL型授業は、中学の初回の授業から、「英語を学ぶ×英語で学ぶ」というダイナミックなイマージョンの授業にたった。

かくして、香里ヌヴェール学院は、教師も学び生徒も学ぶPBL型授業が全面展開となった。石川学院長のもと、モヤ感から深い探究への道を歩むことになった。なるほど「テストの花道」のプロデューサ―とシンクロするはずである。道を究める者どうしということであろう。そして、NHKという媒体と石川一郎先生の書籍と同校の教育活動が、子どもにとって何が大切かその種を運ぶことになろう。大いに期待したい。

 

 

 

 

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