Created on 10月 20, 2019
―みなさんにとって、SGDsの取り組みは、学校の教育を超えて、かなり社会に結びついているのですね。すてきですね。ということは、この活動は、中3が終わっても続くわけですよね。東京オリンピック・パラリンピックの話まででているわけですから。
「今年の5月にシンガポールの研修に中3全員で行ってきましたが、SDGsの取り組みはそれほど活発ではなかったし、シンガポールの同じ世代の生徒と話しても、知らないという反応でした。何かいっしょに考えていくことはできると思います。」
「シンガポールは急激に経済を発達させたから、米国と同じで環境問題にあえて関心をもたないのかもしれませんが、一方で今まで企業の方と話をしていると、SDGsの問題、特にCO2排出など削減に取り組まないと、経済リスクがあることがわかってきているので、無視はしていないはずです。もっと話し合いが必要です。」
「私の場合は、今回国連とネットワークを結ぶことができたので、将来は国連にもっと提案していけるようになりたいですね」
「私は、スゴロクだけではなく、もっといろいろなゲームを開発していけばよいかなと思っています。」
「今回SDGsに関連する取り組みをして感じたのは格差の壁ですね。富裕層は、困っている人たちにもっと目を向け、助ければよいはずなのに、そういう動きは少ないです。私は自らはお金をもうけ、困っている人に還元できるファンドを作ったりしたいと思います。」
「私はまた違うアプローチかな。企業とか国連とかそういう大きな団体を動かすことも良いと思いますが、私は小学校の時赤い羽根募金の活動を体験したりして、草の根運動の大切さを実感しています。地域の人が、駅を活用した時に、あっこういう大事なことがあるんだと気づいてもらえるような掲示や呼びかけをしたいと思います。SNSなどの活用もしたいですね」
以上のように、SDGsスゴロクプロジェクトメンバーとのインタビューの一部を見てもらいましたが、和洋九段女子のSDGsのプロジェクトの取り組みが、たんにSDGsとは何か知識レベルの調べ学習で終わらずに、企業や国連やユネスコなどの団体と対話レベルで結びついていることが了解できました。
それだけではなく、さらに多くの人々を巻き込み、SDGsのグローバルゴールズを共に解決していくための大切な問題意識を共有していく社会貢献活動ともいうべき広がりをもっていることも分かりました。2020年東京オリンピック・パラリンピックで社会的インパクトを生みだすエネルギーが蓄積されていることが実感できたのです。
さて、和洋九段女子という女子校が、このような本格的なオーセンティックなプロジェクト学習を、学校挙げて行っていることは、歴史的な目で眺めると、相当大きな意味が二つあります。
一つ目は、SGDsに取り組む姿勢は、世界共通の根本問題を取り扱うということを意味しています。教科書の世界の知識の領域では、世界共通の根本問題を掘り当て、それをいかに解決していくか思考し、実際に活動につなげていくことはできません。これは同校のすべての授業がPBL型授業で行われているということにも密接な関係があるでしょう。
さて、なぜ根本的問題かと言うと、外務省のホームページにはこうあるところからもわかります。
「持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。」
SDGsは、全ての国にとって普遍的な問題だということが明快に表現されています。しかし、歴史的に見ると、この環境問題や格差問題などのグローバル・イシューは、2001年になってはじめて国際的に意識されたわけではありません。
1972年にローマクラブが公表した「成長の限界」が端をはっしています。このまま世界の問題を放置しておくと100年で地球は限界に達してしまうという警鐘を鳴らしたのです。そこから、様々な国際環境会議やフォーラムが毎年のように開催されていますが、公表以来、47年がたっています。削減が進んでいるという見方もありますが、昨今の凄惨な事態を引き起こしている自然の猛威やテロの日常化を見ていると、ますます成長の限界は近づいている切迫感を感じないわけにはいきません。
SDGsへの取り組みは、それゆえ学びの根源的な問題だといってよいでしょう。和洋九段女子はそこに立ち戻って、PBL授業や活動をしているのです。
二つ目は、SDGsのキーワード「持続可能な社会」を示す“Sustainable Development”という言葉が生まれたときの重要な意味がここには暗示されています。その意味は女子校だからこそなおさら重要なのです。実は、この“Sustainable Development”という言葉は、1987年に誕生しました。
1984年に、「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」が設置されました。委員会は、1987年、報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」を発表して、これまでの議論やリサーチのまとめを報告しました。このときのリーダーがノルウェーの首相のグロ・ハーレム・ブルントラントさんです。この報告書は、「ブルントラント・レポート」と呼ばれる程です。グロ・ハーレム・ブルントラント首相は、ノルウェー初の女性リーダーです。オスロ大学卒業後、ハーバード大学でも学んだ医者でもありますが、そのときの世界ネットワークが、ノルウェーのみならず、世界の社会的枠組みを変える大きな影響力を与えるのに一役買っています。とにも、社会的イなパクトを生みだした女性なのです。
和洋九段女子の女子校教育のモデルが、もしかしたらグロ・ハーレム・ブルントラントさんの生き方と親和性を持っている可能性が高いのではないでしょうか。
第一次産業革命以来、化石燃料をつかって技術革新を行い巨大な男性中心社会や組織が造られました。その中で、子供や女性や貧困層は、虐げられてきました。
ところが、第二次産業革命、第三次産業革命が成長の限界を生み出してきたことが明らかになり、徐々にその抑圧や格差は問い直されるようになりましたが、依然としてそれは解決されていません。
それが、今年9月23日にニューヨークで開催された「国連気候アクション・サミット2019」で、スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんが発した演説が象徴しているように、金融業をはじめとする多くの企業が、国を超えて、CO2排出ゼロにしようとか、AI社会による限界費用ゼロ社会を推し進めようとしています。
第4次産業革命は、今までマスクをかけられてきた化石燃料活用の根源的な問題が明らかになっていく時代です。
それを明らかにする活動のリーダーシップを発揮するのは、抑圧されてきた側として当事者だった女性によること以外に考えられないでしょう。女子校は、第三次産業革命までの社会を築いてきた男子の目を気にする必要がありません。遠慮する必要はないのです。それがゆえ、自ら今までにない新しい社会や世界を描くことができるでしょう。
男子校や共学校の男子は、いったん自分たちが抑圧する側にいることを認識しなおし、その殻や壁を自らぶち破る辛く苦しい心の葛藤を超える必要があります。それは実際にはとても難しいことです。
社会は常に中心からではなく、周縁から変わるダイナミズムが作動します。それが歴史的力学です。社会の中心にいた男性は、なかなかその居心地の良さから離れるのは難しいでしょう。それは今まで社会が変わらなかった大きな理由の一つだと言われてもいます。
男女共学の場合、今では苦しい立場の男性を支える女性という役割がまた働きます。心理学的にはいっしょにいるわけですから、当然の流れです。
もちろん、果敢にこの葛藤を乗り越えようとしている男子校や共学校もありますが、まだまだ少ないわけです。したがって、女子教育は、そこを一気呵成に発展させていくことがでます。あらゆる授業でPBLを展開して探究の構えを準備し、SDGsにこれだけ本格的にかつ真剣に取り組んでいる女子校である和洋九段女子に期待がかかるのはそういう理由があるのです。