順天 自然と社会と自己の均衡点(2)

「多」という言葉と「均衡点」が意味するところは、自然の摂理と一貫する。しかも、その摂理は、自然のみならず、社会や人間の精神にも生態系さながらリンクしているはずだという仮説を立てるのが21世紀型スキルとか21世紀型教育のものの見方・考え方である。学園には「順天求合」に込められたコンセプトがたしかに花開いていた。

多重知能

高度な科学の知見を身につけるサイエンスコースでは、放課後自分たちで見つけたテーマや仮説を証明するために実験を行うことは有名な話であるが、それ以外にもとにかくレポートを書くことやプレゼンすることにも力を入れている。

もちろん、与えられた課題をこなすのではなく、課題は自分で見つけ、検証していくのだ。だから、サイエンスコースで議論されるテーマは、自ずと多様にならざるを得ない。その典型例が、夏休みの公開講座ワークショップ。それぞれのメンバーが、自分で選択して参加した科学実験やワークショップ、科学コミュニケーションは多種多様。

精神と物理のインタフェース上に命があるなど、20世紀型教育では思いもよらないことをレポートにした生徒もいる。イギリスのロイヤルアカデミーが行っている科学コミュニケーションにも参加した生徒もいる。この科学コミュニケーションは、科学の最前線を子どもや市民にわかるようにプレゼンするもので、日本では今世紀になってやっと意識されるようになった。

それまでは、科学は専門家のもので子どもや市民は関係ないという考え方が日本では支配的だった。科学における21世紀の考え方に生徒たちは大いに触れてきたのである。遺伝子組み換えによって、利己的遺伝子をパワフルにしてしまう科学の両刃の剣も体験してきた生徒もいる。

科学も多角的にとらえるのが21世紀型教育。文系・理系という分け方そのものが問われる。自分の多角的な才能をいかにして引き出すか。21世紀型教育の大テーマは多重知能育成というということが本当のところなのかもしれない。

しかし、多重知能は分裂した知能ではない。どこかで均衡点があるというのが、科学の根本発想。つまり「順天求合」。

多重知能の開発

このような多重知能はいかにして育成されるのか。それが主題編成型体験学習とも呼べる順天独自の体験学習の連続。

中1では、世界遺産の富士山が大テーマで、あらゆる角度から調べたり、ホールアースという富士山の洞穴探検まで体験したりする。そして、それらをまとめ、プレゼンする。

中2は、大テーマが鎌倉時代。中1と同じように体験するが、鶴岡八幡宮までつくってプレゼン。これはデモンストレーションのトレーニング。企画提案は、中途半端なものではだめというのが、21世紀型企業の手法である。

中3の大テーマは沖縄。

中1では地学的なものの見方、中2では歴史的なものの見方、中3では歴史・環境・平和・国際政治など多角的な領域のものの見方を体験する。学年によって、大テーマが違うから、それだけでも多重知能を育成できるが、さらに大テーマ主義だから、各テーマの中でさらに多角的なものの見方が養える。また中3になると、大テーマ自身の中に大テーマが内包されていて、複雑系だ。しかも、ここではやくもクリティカルシンキングをトレーニングすることになっている。

21世紀型スキルには4Cという大きなカテゴリーがある。クリエイティビティ、コラボレーション、コミュニケーション、そしてクリティカルシンキング。中3の段階で、これらすべての準備が整うのである。

そして、高校になると、主題編成型体験学習の拠点が国内から海外にシフトする。生徒たちは、タイ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどの中から選択して体験してくる。中学の時とは違い、大テーマは自分で考えることになる。選択意志決定。これは中学までは「オピニオン」でよかったものが、それが「ディシジョン」に高まるということを意味している。

格差問題、日本とは違う文化の差異、日本の自然とアメリカの自然の比較研究、ニュージーランドにおけるイギリスの植民地主義の失敗の歴史的意義などなど多角的に考える時間を体験する。

大テーマについて考える切り口は、科学的視点や文化人類学的視点、歴史学的視点、地理学的視点など多様。多重知能がこうして生徒の各学年の発達に応じて仕掛けられている。

かくして、将来法律を学んでも、金融経済を学んでも、医療関係に進んでも、遺伝子工学に進んでも、官僚になっても、グローバル社会最前線に進んでも、多重知能という技術と、自分の中に均衡点という宇宙の法則を見出して立ち臨むことができるのである。

 

 

 

 

 

 

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