2015年3月21日(土)工学院大学新宿キャンパスで21会の「思考力×教育」セミナーが実施された。定員100名のところ120名ほどの参加者があった。昨年同日に実施されたセミナーと比べて人数が増えているのは当然としても、情報感度の高い保護者や教育関係者がスライドの写真を撮ったり、メモをしている様子が多く見られたことは、21世紀型教育に対する関心が確実に広まってきていることの証左であろう。セミナーは保護者対象の教育セミナーと小学6年生を対象にした思考力セミナーの二つの会場に分かれた。この記事では2時間に及んだ教育セミナーの概要をお伝えする。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家
講演①「大学入試改革で変わること」 吉田晋(富士見丘学園理事長校長、日本私立中学高等学校連合会会長、21会会長)
この日の教育セミナーは、日本私立中学高等学校連合会会長の吉田晋先生の講演でスタートした。最近まで中教審の委員を務め、中等教育関係の教育行政に深く関わっている吉田先生が、大学入試改革に関連して起こっている新しい英語教育の流れや、思考力重視の入試の意義について語った。子どもたちを待ち構えているグローバル社会に対応するために、従来の官僚エリート養成型では追いつかないこと、本気で21世紀型の教育や思考力テストを推進していくことの重要性について強調した。
講演②「SGHと大学入試改革」 江川昭夫(佼成学園女子 教頭)
続いて登壇した佼成学園女子の江川昭夫教頭先生は、吉田先生の問題提起を引き継ぐようにして大学入試改革の背景にある世の中の変化について触れた。教育にもグローバル化の波が押し寄せてきている今、国内の偏差値を基準にした大学選びの意味がなくなりつつあること、その変化の延長線上でスーパーグローバルハイスクールやスーパーグローバル大学の改革を捉えていく必要があることを示唆しつつ、昨年SGHに指定を受けた佼成学園女子のグローバル教育に関する取り組みを紹介した。
講演③「思考の翼としてのICT」 品田健(桜丘 副校長)
桜丘の副校長、品田健先生は、iPad導入によって学校にどのような変化があったかという実例を交えつつ、21世紀に目指すべき ICT教育のあり方についてプレゼンテーションを行った。授業が活性化するということ以外に、予測できない未来に対応する力を身につけることがICT教育の大きな意味であるという前提のもと、情報検索、活動記録、コミュニケーションなどのツールとしてiPadを活用している様子を紹介。人工知能が人間を凌駕すると言われる時代に要求される人間の知性とは何かという問題を提起した。
講演④「偏差値を突破する思考力」 伊藤正徳(聖徳学園 校長)
続いて登壇した聖徳学園の伊藤正徳校長先生は、学生時代には必ずしも優秀とは言えなかったアインシュタインの経歴に触れ、偏差値という尺度で測定する頭の良さということに疑問を投げかけた。そして聖徳学園の生徒が制作した英語のムービーを紹介しながら、知識やスキルを活用してコミュニティに貢献していく姿勢が、人と協働していく21世紀市民社会の基盤になることを語り、一人で閉ざされた偏差値的なヒエラルキーの中に囚われていることから解放される道であることを示唆した。
講演⑤「未来からやって来た留学生のための思考力」 石川一郎(かえつ有明 新校長)
10分間の休憩を挟み、教育セミナー後半部は、この4月から新校長に就任することが前日に発表されたばかりのかえつ有明の石川先生。今春に東京大学に合格した生徒のエピソードを例にとり、21世紀型教育の実践は、何ら大学合格という結果に矛盾しないことを再確認したという。その際、流行りのアクティブラーニングという言葉を使ってただ双方向の授業をやればよいというわけではないこと、リベラルアーツに基づいた本当のアクティブラーニング(「Proactive Learning」と表現されていた)は、生徒の潜在的な才能を開花させ、既存の価値観を超えて発想する「突破思考」につながることを力強く語った。
講演⑥「思考力セミナー解題」 本橋真紀子(聖学院 数学科主任)× 有山裕美子(工学院大学附属 司書教諭)
聖学院の本橋先生と工学院大学附属の有山先生のチームは、子どもたちが受けていた思考力セミナーの様子と、思考力テストの内容および理論的背景について説明を行った。生徒の興味関心を引き出すために、生徒自らが問いを立てることが思考力テストで重視されるポイントである。どれが正しいかと問う代わりに、どれが好みかと問うことからテストは始まった。また、一人で完結するのではなく、協働していくプロセスも思考力テストの評価ポイントになる。子どもたちはチームに分かれ、サプライズを経験することで興味関心を育み、知識と思考のネットワークを広げていくのだという。
講演⑦「21会の新機軸」 平方邦行(工学院大学附属 校長)
教育セミナーのトリは、この日の総合司会として、各講演のポイントをそれぞれ要約しながら会を進行していた工学院大学附属の平方校長先生。平方先生は世界の教育改革の潮流を俯瞰しながら、現在日本で行われている教育改革は始まったばかりで、すでに第3の波にある欧米に比べて遅れていることを指摘した。そんな中にあり、21会は2011年秋の発足以来、ずっとこの動きを捉え、日本でそのリード役を果たしてきたこと、そして今後もその役割を果たしていくことを力強く宣言し、セミナーは幕を閉じた。