工学院の図書館 新しい学びの拠点 (1)

2015年にPISA(OECD生徒の学習到達度調査)は、「協調学習」の調査をする予定である。従来通り、読解、数学、科学のリテラシーも調査するが、1人ひとりのリテラシー習得のための学び以外に対話や議論など「関わり」を通して学ぶ新しい方法が注目されている。グローバル人材の希求、ICTによるイノベーション教育の隆盛が、相互に協力し合う学びや共に生きる活動を必要とするからでもある。では、このような新しい学びの実情は、日本の教育ではどうなっているのであろうか。どうしても大学受験準備が授業の中心にならざるを得ないというのが、多くの現場の教師の本音であるともよくいわれる。しかし、2007年以降ほとんどの学校で司書教諭が置かれてからというもの、新しい学びの拠点として学校図書館が機能するようになった。その先進校である工学院大学附属中学校・高等学校(以降工学院)の図書館の司書教諭有山裕美子先生に聞いた。(by 本間勇人:私立学校研究科)

 

■学校図書館とは生徒の読書のための機能以外にどんな機能があるのでしょうか?

有山先生:「読書」のための施設というイメージが強いのはその通りです。そして閲覧図書だけではなく、書庫に本がたくさんあることからもおわかりのように、情報の収集・保存・提供の場としての機能があります。

ただし、今まではその機能は書庫にあって見えなかったかもしれません。生徒が調べたいと思えば、いくらでも図書を検索できたし、できるのですが、今は図書館の機能はさらに広がっています。

実際工学院の図書館の空間自体多機能になっています。独り静かに読書もできます。また自習室としても活用できるようになっています。卒業生がチューターとしてアドバイスもする空間となっていますね。しかし、アクティブな活用方法も出てきました。NIE(Newspaper in Education)という教育に新聞をという活動は、本学院でも活発で、コンテストで受賞する生徒もいます。また、教科の授業でも図書館そのものが活用される機会も年々増えています。

情報を調べ、整理・分析し、編集して、発表していくという情報編集の学びが増えてきているからでしょう。

 

■それは、知識を憶えることにとどまらず、クリエイティブな学びですね。新しい学びとしてプログラムされているのでしょうか。

有山先生:隣の工学院大学では、いわゆるPBL(Project based Learning)という探求型の学習のプログラムは行われています。中高でもこれからそのようなアクティブラーンニグのプログラムは生まれてくると思いますが、今はそれぞれの教師が創意工夫しています。私たちが大事にしているのは、生徒のボランタリーな自発性です。好奇心に満ち、興味と関心があるから、探求という道が開けるのだと思います。

ですから、本学院の図書館の機能の根っこは、図書館にある情報に触れることによって、世の中のことを知り、もっと知ろうと様々な経験をしていろいろな可能性を広げて欲しいのです。まずは、そこからはじまると思います。図書館は知るという自由、つまり旺盛な生徒の好奇心を守るところです。

 

■その好奇心旺盛な生徒が集まる場所という意味では、まさに新しい学びの拠点ですね。

有山先生:そうだと思います。本学院の図書館の運営は、私たち教師だけではなく、生徒の図書委員会も行います。おそらく他校に比べてかなり積極的に深くかかわっていると思います。中高合わせて30人以上メンバーがいますが、みな自主的に参加してきます。委員たちのチームワークは相当パワフルだしタフですよ。

たとえば、工学院の図書館に多くの生徒を誘おうと、まるでブランディング企画のような活動もしています。高校の図書委員は、「ペンギン会」という名称をつくり、キャラクターを選定し、それに基づいたしおりづくりやネームづくりをしています。しおりなどは、夢工祭(文化祭)で小学生から大人まで多くの人に参加してもらってしおりづくりの体験ワークショップまで行います。

もちろん、地道に図書や資料の整理をしたり、資料を保存したりと、図書館機能の基礎もおろそかにすることはありません。義務ではなく、本に対する愛着がそうさせるのだと思います。ですから、図書委員おすすめの本を紹介する活動は、まるで友人を紹介するときのように、楽しんでだからこそクリエイティブに行っているのです。おすすめコーナーのPOPはなかなかのものです。

おもしろいのは、ただ楽しんでいるわけではないのです。POPを制作する学びも真剣に行います。三省堂書店のPOP王内田剛さんを招いて講習も企画してしまうのです。

 

 

 

 

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