八雲学園といえば、破格の英語教育、進路指導、チューター制度、芸術鑑賞という4本の教育の柱が有名。そして、これらを本物体験で培う感性教育で統合する「総合力」で日本一であることも有名であるが、その集大成が毎年秋の文化祭で公開される。教育の「総合力」とは何かを追った。 by 本間勇人:私立学校研究家
ドリル部に結実する総合力
八雲学園の全生徒が憧れるドリル部。文化祭のクライマックスは最終日2回目のドリル部のパフォーマンス。高3のドリル部卒業式(引退式)でもあるから、その盛り上がりは尋常ではない。
まず後輩のまばゆいパフォーマンスで会場を盛り上げつつも、高3がいつ登場するか、まだかまだかという雰囲気を会場全体に生み出していく。そして高3生12人の登場。派手なドリル部の衣装とはまったく対照的な黒装束で全員出現する。
このメタファーは、会場側はすぐに飲み込めた。この高感度なセンスが感性教育の極致である。八雲を去らねばならないレクイエムであると同時に、未来への不安を会場は共に受け入れていた。高3は卒業してしまうんだという想いが、先輩の個人名をあちらこちらから呼ぶ叫びになった。エールというより、いかないでという悲鳴にも聞こえた。
それに答えるように、鏡の仮面姿をパッと見せた。私たちではなく、あなた自身をみなさいと、目の前にいるのは、もう共にいることはできない私たちなのだよと。
でも、心配しなくてもよい。私たちもいつまでも悲しんでいないで、八雲時代に見つけた自分の希望に向かってまい進するから。遠くにいても、今度はOGとしていっしょにいるからと。
暗雲を振り払い、その向こうから光が笑顔が躍り出た。会場から溜息がもれたのは言うまでもない。
そして、再びいつものドリル部の衣装で戻ってきた。今まで応援してくれてありがとう。そして会場からもありがとう。今回の八雲学園のテーマ「MESSAGE」のビジョンが共有された瞬間だ。
会場には、在校生、保護者、受験生、そしてOGが駆けつけていた。特にOGは、自分たちの伝統を引き継いでくれていることに感謝の気持ちでいっぱいになり涙していた。「MESSAGE」の意味は八雲の精神であったのだ。
最後に、近藤校長は、12人のドリル部のメンバー1人ひとりに感謝と未来に向けて花束で「MESSAGE」を伝えた。しかし、これは、生徒全員に贈る「MESSAGE」。これを生徒は全員知っている。なぜか?それは入学式や卒業式のときに、同じ体験をするし、必ずその姿を全校生徒が見守るからだ。
高3のドリル部のパフォーマンスには、破格の英語教育、進路指導、チューター制度、芸術鑑賞の教育がすべて浸透していた。
英語教育は英語のみならず、米国の文化を吸収することだ。ミュージカルに見られるエンターテイメント性。そのエンターテイメント性は、学問としての物語作成スキルが背景にある。本物を米国で見たり体験したりする。
そして、芸術鑑賞は、実は体育祭のときに全学年が取り組む創作ダンスによって成果を生んでいるが、その最高の成果物をドリル部が表現していると言えよう。
チューター制度は、教師と多角的にそして深く話し合う習慣と化している。高3が感謝の言葉を披露したとき、いかに先生方と対話を積み上げてきたか、それが自分たちを作りあげていることを語った。
進路指導は、今回の暗雲→仮面→素顔→光→帰還→贈物という成長物語のシークエンスにパーフェクトに表現されていた。感性教育の完成態は、4本の柱が区別できないほど一体になっていたのである。