八雲の現代型の英語教育の次のステップ
ネイティブチェックの質
榑松先生:たしかに、文法訳読中心の英語教育からアウトプット型で使える英語を中心とする現代型の英語教育に到達している。他の学校で、ここまできているところはそうは多くはない。しかし、ここまできたのだから、質をもっと向上させるステージに変わるのだと思う。
1つは、先ほど校長も語っていた、ネイティブチェックの問題をなんとかしたいということがある。たとえば、スピーチの原稿のチェック。
生徒たちの原稿を見ていて、文法的に正しいだけでは、生徒が自分の想いを、世界で伝えることはできないと思うときはしばしばある。言い回しとか、語用とか、もしかしたら発想そのものもチェックしなければならないと思うときもある。
しかし、これをジャッジするのに、どんなに優秀な日本人の英語教師も、判断しにくいときにしばしば直面する。そんなときネイティブスピーカーの先生に相談するわけだが、その教師がたんにネイティブスピーカーというだけでは、明快にジャッジできないことのほうが多い。
どちらでも使えるようねという判断がくだるけれど、いやどちらが適切か説明できる言語の専門家がちゃんといる。
だから、英語という言語を教えられる外国人教師のネットワークを大切にしていきたいというプランがある。
知性と感性を総合した英語教育へ
もう1つは、これも近藤校長がいつも語っていることだが、感性教育を英語教育にどのように織り込むかということ。英語劇を練習する生徒の英語をアドバイスするときに、気づくのだが、ある英文を美しく発音する生徒はたしかに多い。
しかし、いかなるシチュエーションでもその発音で英語を語るのはおかしいよねと。その英語が使われる、シチュエーション、その言葉を発している時の気持ち、その言葉に伴う行動、表情をイメージしてごらんという対話をする。
ことばのリズムも大切だ。「お・も・て・な・し」を「ホ・ス・ピ・タ・リ・ティ」とは英語では言えない。音韻論の話になり難しいから、生徒には説明しにくいが、いずれにしても、そのときの伝えたい気持ちを英語で表現するにはどうしたらよいのか、そのイマジネーション。つまり、英語における知性だけではなく、感性も大切だという次のステージが必要になってきている。
だから、知性を集積してきた今までの教材を変える必要はない。むしろ、ことばの持つ感性を考える時間をどう織り込んでいくかという質の探求を先生方と議論していきたいと思う。
そのためには留学という時間は、生徒にとっては考える時間を大量にもたらす。来年以降は3か月の留学の機会をたくさん開拓したいとも思っている。
(英語の本当の楽しさを知ったとき、未来が拓かれたと語る在校生)
田畑先生:それはまさに生徒自身が身に染みて感じていることです。中学までの英語体験やサンタバーバラの研修は、自分の英語が通じたというだけで、楽しかったと。
しかし、高1になって2週間のホームステイの海外研修では、その楽しさのイメージを打ち砕かれてしまうところから始まったというのです。
その生徒は、中学までは、みんなといっしょだったし、私たちの未熟な英語力に合わせて、外国の方々は耳を傾けてくれた。でもホームステイでは、日常生活の中で、その土地の人々との交流も多い。すると、外国の方にとってはいつもの対話スタイル、リズム、スピードで話されるから、自分の英語力では全く太刀打ちできなかったと。
そこからどう立て直すか、必死になった。そして通じ合う瞬間まできたときに、本当の英語のコミュニケーションの楽しさを体験したと。この苦しさを乗り越えたときに訪れる楽しさこそ本物なのだと感じた。将来、国際関係の仕事をするときに、この体験こそ大いに役に立つのではないかと語ってくれました。
近藤先生:まさに生徒が自分の内側から必要だと身に染みて感じた英語教育のニーズだ。時代はどんどん変わる。その変化を生徒が直に感じ取れるというのは、やはり教育の総合力を創っているからだと思う。今後も、この生徒自身の想いやニーズを真摯に受けとめて、次の現代型の英語教育を、八雲学園全体に浸透させるにはいかにして可能か。大いに先生方と議論を深め、いっしょにやっていきたい。