工学院 1人ひとりの物語(1)

工学院大学附属中学校・高等学校の図書委員は、小説家橋本紡さんと語り合った。図書委員の心の底からの想いに司書教諭の有山先生が心動かされ、橋本さんを招いた。生徒の想いに動かされた橋本さんは、語りの中で生徒の心を動かしていく。心が動く、互いの語り合いの「はじまり」のシーンに立ち会えた。by 本間勇人:私立学校研究家

橋本さんとつくる1人ひとりの物語

橋本さんと図書委員の対話は、3部構成から成っていたようだ。成っていたようだとは、すべてのパートに立ち会ったわけでなく、あとから有山先生に聞いたからだ。

第1部は、2時間半にわたる橋本さんの語りと対話。対話の場面では、参加した図書委員全員が質問をする。橋本さんは笑顔で、質問しないことを許さなかった。みなと同じですでは済まされない。

第2部は、橋本さんのサイン会というパフォーマンスの中で、1人ひとり対話していく。橋本さんがサインをしている間、サインを依頼した図書委員1人ひとりは橋本さんと直接対話する。私は、橋本さんと生徒の時空になったので、そこで去ることにした。浅薄にも、そこで終わるのだろうと思ったからだ。

だが、ちょっと考えればそこで終わるわけはない。第1部で、橋本さんは、幾度も人生の転機を突き進んできた話をたっぷりした。そして今またまた人生の転機を生きているという話で終わったが、そこで大切にしているものは何かについても語った。それを聞き漏らさなければ、第3部に自然に移行していくことは予想できたはずだ。

しかし、橋本さん自身、小説を書くときも、今回のようなイベントも、予めシナリオやプロットは書かないのだから、後出しジャンケン的に、予想ができたというのはおこがましい。

どこまでも丁寧に密着すればよかったのだが、あくまで橋本さんと図書委員1人ひとりの時間を大切にしたかったから、密着するのはよしただけなのだ。と、第3部の最高の瞬間に立ち会えなかった口惜しさの言い訳にしておきたい。

さて、その第3部だが、夜7時まで続いたという。車座になって、語り合ったという。午後2時から始まったこの企画。心の底から橋本さんに会いたかった発案者高2の図書委員は、第2部までは口数少なかったのに、車座の写真では、しっかり橋本さんの隣にいるではないか。なんて幸せな時間なんだ。図書委員1人ひとりの物語を紡ぐ時間だったのだと思う。

橋本紡さん
1997年に第4回電撃ゲーム小説大賞にて『猫目狩り』で金賞を受賞。作品中にも今回の図書委員との対話の中でも猫が頻繁に登場する。『半分の月がのぼる空』は、テレビアニメ化、実写ドラマ化もされるほどの人気。「九つの、物語」は、サリンジャーの「九つの物語」と交差する傑作短編集。

Twitter icon
Facebook icon