共立女子 中学の国語の授業 メタシナリオ(1)

21世紀型教育、グローバル教育、ICT教育、リベラルアーツなどグローバル人材を育成する新しい教育がにわかに一斉に叫ばれるようになった。この時代の精神はもはや確かなものであろう。しかし、時代をつくる人々の営みは、時代の理念を多様に具現化し、20世紀を振り返れば明らかなように、常に悪貨は良貨を駆逐するような動きに転じるのも常である。

そこを再び転じるために、いわば21世紀型教育が立ち上がってききたはずであるが、目に見えるきらびやかな花だけをみていたのでは、花を生成する根源を見忘れてしまう。その証拠に21世紀型教育を開花させる種はどこにあるのかと問うても、すぐには回答できないのが世の現状である。

そこで、21世紀型教育のパラダイムを提唱する共立女子の先生方にそこを改めて問うた。by 本間勇人:私立学校研究家

共立女子は、すでに教科横断型のプロジェクト型学習(PBL)を、各教科の先生方と有志の生徒がコラボレーションして実践してきた。そしてその記録は、「研究報告」というドキュメンテーションにまとめあげられてきた。あるときは、そこに到る過程で、絵本を編集制作して出版したり、プレゼンテーションしたりしてきた。

この一連の過程こそ「21世紀型教育」であるが、この活動は「特別教養講座」として行われているばかりではなく、社会科の授業や理科の授業でも行われている。つまり、21世紀型教育は、たしかに授業で可能なのである。しかし、それはなぜであろうか。

そこで、今回は国語科主任の今井先生に、21世紀型教育を可能にする種を見るために、言語教育の基礎である中学の国語の授業を見学させていただくことにした。教科横断型の特別教講座を実施している今井先生は、このように語る。

「リサーチやディスカッション、プレゼンテーションなどいわゆるPBLのような学びは、未来という解なき社会に備える時に必要です。ただ、形だけリサーチし、ディスカッションし、プレゼンすることは簡単で、それでは、生徒自身も何を学んでいるのかわからないでしょう。

特に入学したばかりの中学生は、20世紀型の教育が習慣化していますから、正解をすぐに求めますね。その状態で、PBLをやっても、最初は楽しいですが、解が多様であることの意義になかなか気づけません。」

そして、渡辺校長は、「解なき社会では、正解が一つではないから、自分で考えることが大切であるとは、とてもシンプルな言い方ですが、これが21世紀型教育の根源ですね。わたしたちにとって、この言説は、当然です。

しかし、20世紀型教育を当たり前であると思ってきた先生方にとって、この言説は隕石が落ちてきたようなものです。95年以降に本格化したIT革命以来、彼らの不安は増大し、壁を作ってきましたが、それは生徒たちも同じです。その不安を解消するところから始めるケアは重要ですね」と語る。

PBL(プロジェクト型学習)の前提は、PIL(ピアインストラクション)型講義。PILでは、生徒どうしが問答するシーンを、講義の中に介在させるわけであるが、その問答は放っておくとおしゃべりになり、横滑りし、パーソナルな話からパブリックな話に飛べない。

したがって、PILの前に、教師と生徒の問答形式の対話体験が必要なのである。この体験がやがて、PILやPBLに生きるのである。

金井先生は、この問答形式の授業を通して、生徒が成長すると語る。

「入学してきたばかりのときは、先ほども述べましたが、正解をすぐに求めがちです。先生!正解を教えてくださいとなるわけです。ところが、問答形式の授業は、生徒の解答をyes・noで評価しません。生徒の考えの気づきを評価しつつ、理解を深める問答のやりとりがあるわけです。

当然生徒は、自分の考えを言っても大丈夫なのだと思うようになります。信頼関係が生まれてきますね。すると、私はこう考えたのですが、先生の考えとは違いますが、いかがでしょうと問いかけてくるようになります。高3になると、先生の考えもありですが、私の考えの方が、この点において最適ではないでしょうかと問いかけるようになる生徒もでてきます。

私たちが共有している生徒の成長のメンタルモデルは、教師から生徒への問答から、生徒から教師への問答へと転換していくことですね。」

渡辺校長も、次のように語る。

「その通りですね。国際バカロレアに10の学習者像というメンタルモデルがありますが、そのメンタルモデルの大前提は、学びは教師中心主義でも生徒中心主義でもないのです。学習者中心主義なのです。

つまり解なき社会にあって、未知の知識を学ぶのは、生徒だけではありません。教師も一緒に学びます。既知のものから未知のものへの挑戦というリスクを生徒にだけ取らせるわけにはいかないでしょう。ですから問答の双方向性こそ重要です。教師が問いかけ生徒が解答するというのは双方向ではありませんね(笑)。」

かくして、問答法の基礎が反映している中学の国語の授業を取材することになったのである。

 

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