今年も八雲学園の他校には真似ができない英語教育「English Fun Fair(EFF)」が行われたが、毎年毎年質的向上がある。今年も質的飛躍が果たされた。その飛躍とは何か探ってみたい。by 本間勇人:私立学校研究家
ダイバーシティ
他校では真似ができないことの1つは、もう15年以上も多くの外国人講師に参加してもらい続けているという点である。しかも、いろいろな国出身の講師。今年も約70名、19か国出身の外国人講師が大集合した。
このEFFに参加する八雲生は、中学1年生から3年生、約500名。八雲学園では、全員が一定水準の学力を身につけるという教育が方針。それがこのEFFでも実行されている。
そして、今年の中3にとっては、格別の想いで立ち臨んだEFFでもあった。というのも、外国人講師の参加者は、その年その年の日本と外国人との関係も反映しているが、今年は台北やベトナムなどアジア出身の外国人講師の割合が増えていた。
これは八雲学園の英語教育が欧米文化のみならず、広くグローバル対応に移行していることを物語ってもいる。そして、中3にとっては、サンタバーバラ研修や今年の春から始まった高1の3ヶ月留学が、すぐ控えている。先輩たちからの話を聞くと、とにかく多くの国の人々が英語を語っているのに、わたしたち日本人は何をやっているのだろうというミッションを感じないわけにはいかないという。
日本の隣人も英語でコミュニケーションがとれる。日本人が世界から孤立しないように英語でコミュニケーションしなければならないが、私たち中3八雲生がまず行動しようというミッションを抱くEFFプログラムになっていたのである。
オープンマインドをつくる仕掛け
世界の人々と対話するには、たしかに英語のスキルは重要である。しかし、まず何よりウェルカムの精神が大前提。互いに考え方も感じ方も価値観も異なる世界の人々と話せるには、まずはこちらが受け入れなければならない。おもてなしの精神は、日本の文化であり、グローバルな世界でも通じる精神であることを実感する機会でもある。
(外国人講師1人ひとりを案内する八雲生)
(ファーストコンタクトから圧巻。約500人の八雲生と外国人講師とのコミュニケーションが始まった)
このウェルカムの精神は、八雲学園の精神でもあり、今回のイベントにおいてのみ適用されるものではない。2020年東京オリンピックパラリンピック開催誘致にあたり、「おもてなし」という精神は世界中から注目されるようになったが、実はそれまでは、奥ゆかしい雰囲気で、明るく活発に表現するイメージはなかったのではないか。
ところが、八雲学園ははやくから、「おもてなしの心」を世界標準として活用すべく「ウェルカムの精神」として表現し行動してきた。
「今日の生徒の様子を見ていて、本当に八雲生は明るく積極的に外国人の方々とコミュニケーションしているっと思う。英語の授業では基礎から応用まで英語力や技術を磨いている。それを実際の世界で使ってみようというのも、ねらいの1つなのだが、実はオープンマインドになってもらいたいと思うところからこの行事は始まったんだよ。
(今年は受験生の見学者も多かった。受験生に注ぐウェルカムの精神の準備も万全)
最初から、八雲生がこんなに活発だったわけではない。はじめサンタバーバラのカリフォルニア研修に行ったとき、なかなか外国人と打ち解けることができなかった。それを見て、いきなり海外で経験するのもよいが、やはり事前に準備をすることは大切であると気づき、この体験から逆算して計画した。おもてなしの心を持っていても、その気持ちを相手に伝えるには、オープンマインドになる必要があるし、その意味を生徒と共有し続けるためにも、≪ウェルカムの精神≫という表現をしているんだよ」
と近藤先生は、EFFの歴史的意味を語る。
インタビューの意味
EFFは、体育館と各教室の2か所で行われた。体育館では1学年全体が集まり、次々と外国人講師にインタビューヲしていく。できるだけ多くの外国人講師とコミュニケーションをして、情報を収集する。
このインタビューの意味は、1つは勇気を奮い立たせること。オープンマインドになって、信頼関係を築いても、コミュニケーションが続かなければ、その関係は持続しない。信頼関係を持続するには、コミュニケーションをし続ける勇気が必要。では、コミュニケーションとは、何だろう?
コミュニケーションとは、まずは自分とは考え方も感じ方も違う他者と通じ合うという自信を共有することである。互いに思いを引き出し合える驚きの体験ではないだろうか。八雲生は、最初は準備した質問を投げかけるが、コミュニケーションは、予想もしない問答が生まれるものだ。
出身国や故郷はどこかと聞くと、君たちはどうなのとなる。八雲生もそれに回答しなければならない。問答は質問の連鎖で、互いの心の泉から回答をl汲み出す作業である。心にしみ出す泉。問答が続けば続くほど、心は泉で満たされる。
トレーニング
教室では、チームごとに、「Opposite Challenge」という、投げかけられた英単語に対する対義語を一番速く言えた人が勝ちというゲームやジェスチャーで表して他の生徒がそれを英語で言い当てるゲームなども行われた。
そしてプログラムも佳境を迎える。それは自分を語るトレーニング。自分にとって大切なものを示しながら、それは何か、なぜ大切なのか自己を表現していく。
基本は、トピック→トピックセンテンス→ディテールという話し方。外国人教師はじっくり耳を傾け、具体的なことを詳しく尋ねていく。なぜ?という問いはあまりしない。生徒の具体的な体験を引き出すことに専念する。コミュニケーションはお互いの体験をシェアすることである。大切なことは具体性。すべてのヒントは体験から、具体的なものから。そのような問いの立て方が今回のプログラムのコンセプトだったのだろう。
高1生の活躍
EFFは、中学の八雲生のためのものだったが、受験生の見学のサポートをするのは高1生だった。
(受験生を見守る高1生の優しい眼差しと姿勢)
受験生はEFF全般の見学が中心であるが、一般の説明会ではなく、この行事を見学に来たということは、ある程度英語ができる生徒が多い。だから、プログラムに参加する受験生もいた。外国人講師と高1生のチームに勇気をもって参加し、英語でコミュニケーショを楽しんだわけである。
(高1生のノリもグローバル感覚)
今回参加した高1生には、つい先月の10月まで3ヶ月留学を体験してきた生徒も多く、この体験教室空間は完璧に英語圏だった。こんなにもナチュラルに英語でコミュニケーションをとることができる生徒が確実に増えているとはと感動したが、ここに八雲学園の英語教育の質的飛躍が凝集されていたのである。
高1生も中学3年間このEnglish Fun Fairをはじめ様々な英語のプログラムにチャレンジしてきて今がある。八雲学園の英語教育の優れて奥行きが深いことを改めて感じ入った。