2016新春 私学人鼎談 転換期を乗り越える力(2)

§2  思考力・判断力・表現力の時代

児島先生:たしかに、2015年というのは「グローバル教育」「2020年大学入試改革」「アクティブラーニング」というキーワードで埋めつくされた感がありますが、だからというわけではなく、今皆さまとお話ししたように、すでにそれに対応できる準備はできていたし、もしも「2020年大学入試改革」がなかったとしても、新しい教育のカタチの実現に向けてまい進していたことでしょう。

そういう意味では、先ほども渡辺先生から話があったように、「2020年大学入試改革」は時代の大転換の象徴的な出来事に過ぎないのかもしれません。ですから、文部科学省の諮問機関である中教審の議論が詳細はまだまだこれからどうなるかわからないけれども、時代の精神として、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」そして「意志力」の育成の基本線は変わらないでしょう。

渡辺先生:そうだと思います。それでは、共通して10年前から準備をしてきて新しい教育のカタチである21世紀型教育を創ってきて、成功したあるいは手ごたえを感じている要因について対話を進めたいと思います。

石川先生:うちは、2009年から今でいう「思考力テスト」をアドミッションポリシーの1つとして実践してきました。実はこれは豊洲に移転したときに本格的に開始した帰国生入試で学んだことを取り入れました。当時の帰国生の受け入れは、聖学院のような帰国生やグローバルシチズンとしての家庭の師弟を受け入れる環境作りは主流ではありませんでした。どちらかというと、海外から帰国して、日本でエリートの道を歩みたい。東大に入るために、英語力を生かして、勉強するというのが、塾にもウケました。

清水先生:そういう意味では、理念先行型で動いた聖学院はタイミングが早すぎたかもしれません(笑)。

石川先生:おそらくそうでしょうが、聖学院の帰国生入試や英語入試は、今こそベストタイミングですから、これからライバルになると思います(笑)。帰国生の人数はまだまだ中受験生人口の10%もいませんからね。いっしょにがんばりましょう。さて、うちでは、帰国生はIB(国際バカロレア)のディプロマの科目の1つであるTOK(知の理論)型の哲学授業をやっています。

このTOK型授業を行うのは、もちろんネイティブスピーカーの教員です。そもそも彼らの中高時代の授業は、今でいうアクティブラーニングで、1つのテーマを深堀していきます。文献調査をしたり、フィールドワークをしたりして探求し、収集してきた情報を整理し、自分のアイデアを明快にしながら、今度は議論していきます。その過程の中で、自分の考えはブラシュアップされます。強力な根拠も発見します。そして、レポートというかエッセイをまとめてプレゼンするという授業になります。

このスタイルの授業は、ネイティブスピーカーの教員のみならず、帰国生の多くも海外で同様の体験をしてきていますから、当然のように授業を進めていきます。アクティブラーニングがなぜ必要かなどという疑問はもちません。むしろ、なぜ必要としないのかと問うでしょう。ですから、もしこの環境がなかったら、そもそも帰国生はうちを受けなかったでしょう。

 しかし、この環境がマッチしたわけです。ということは、このグローバル時代にあって、新しい教育のカタチは、今までのような知識注入型の講義形式よりも、探究・議論・表現という3X型の授業がより大切になるのではないかと気づいたのです。それであれば、一般生も同様に実践していこうと、3X型のプログラムを強化したのが「サイエンス科」です。

今では、一般の授業も講義とアクティブラーニングのバランスが取れてきました。それゆえ、一般入試も、「知識・技能」問題と「思考力」型問題のバランスを考えて出題するようになりました。そして、「サイエンス科」の取組みもアドミッションポリシーとして「思考力テスト」として出題するようになりました。

こちらは、説明会があるたびに、「思考力テスト対策講座」をやります。1年目の最初のころは、5、6人でしたが、11月から50人を超えるようになりました。それからというもの、人気の体験授業になっています。図書館ドルフィンでやっているので、かりにわからない知識に遭遇しても、図書を閲覧できるので、「知識・技能」の領域のハードルはないに等しいですね。それゆえ、目いっぱい考えるテストになります。目いっぱい考えることは、受験生に敬遠されるかなと思いましたが、考える過程で、受験生それぞれの発見や気づきがあって、好奇心が生まれ、モチベーションもあがるという体験をしてしまうのですね。ですから、リピーターも多いですね。

(「難関思考力テスト」対策講座のシーン)

帰国生のかえつ有明、哲学授業「TOK」「サイエンス科」のかえつ有明というのは、定着してきたのかなと思います。そして、さらに2016年は、初日は従来型の「思考力テスト」ですが、2月4日は「難関思考力テスト」と称して、パフォーマンス評価型入試を立ち上げました。

「思考力」の流れは今まで通りなのですが、「対策講座」で議論する部分は、従来の「思考力テスト」だと自問自答になっていましたが、4日のものは、議論をしてもらい、その場面に教員も立ち会い「ルーブリック」で評価していくことになります。カリキュラムポリシーとアドミッションポリシーのより密接な関係がデザインできたと思います。「思考力テスト対策講座」は、いつも定員オーバーの人気です。

清水先生:思考力テストは、2010年から行いました。大学受験のための英語力ではなく、使える英語にシフトしていましたから、やはり「思考力・判断力・表現力」が重要だという意識は学内でもありました。また、もともと体験学習が盛んで、たとえば、中学時代は、北アルプスに登るプログラムのように、テントを張って、野外で暮らしながら登っていくハードなものもあります。糸魚川農村体験もあります。いずれも、生徒が暮らしている日常生活では体験できないものばかりです。

それらをプロジェクトマネジメントの方法で自分たちで主体的にかかわって、考えて行動するプログラムにしていますが、これはプロジェクト型の学びで、今でいうアクティブラーニングですね。「記念祭」と呼んでいる文化祭の実行委員の生徒もこのプロジェクトマネジメントの手法を活用して、自分たちで調べ、議論し、プランを立て、実行し、リフレクションして、次の年に活かしていくというプロジェクト活動をしています。

(毎朝礼拝で目を閉じ祈り、自分の賜物に向かい合います)

そして、これは3年前に大きく変えたのですが、毎朝全校生徒がホールに集い「礼拝」を行います。北アルプスを、チームで協力し合いながら登り切ったときの雄大な光景は、創造主である神との出会いの瞬間です。いかに人間はちっぽけな存在か、それでも体力のある仲間が体力のない仲間を励まし、荷物をチームで分かち合い、登り切ったとき、互いに協力し合えば、成し遂げられることに気づきます。

農村体験で、自然に実際に触れ、しかしながら、自然を活用しながら生きていく糧を得ていく農村の人々の知恵に驚き、感謝する構えが生まれてきます。日常生活ではあることに興味をもたなかった食糧ができる以前の非日常を見て、自分の身の回りのものには、自然と人々の関係の全体が結実していることに気づきます。そして礼拝では、そんな神に包まれ、自然の恵みの恩恵に浴し、人々に支えられている自分とはいったい何者なのか目を閉じ、祈りながら問いかけます。毎朝メディテーションをしているわけです。

石川先生:それは、かえつ有明のアクティブラーニングの始まりにも似ていますね。心を開き、相手を受け入れながら安心して対話ができる状況、マインドセットと呼んでいますが、うちでは、それを大切にしています。そして、そこで仲間と考え方や感じ方が違うことに気づき、やはり「自分軸」が明快に見えてきます。

清水先生:かえつ有明は、キリスト教主義ではないけれど、先生方は、自然に対し、他者に対し心を開く尊敬すべき先生方がいらっしゃるのは、そういうわけですね。私どもの学校も、やはり様々な体験学習や礼拝を生徒と共に学べるのは、キリスト教という隣人愛というマインドが根底に流れているからかもしれませんが、オープンマインドを大切にしています。

そして、それが巧まずして、日々の授業の中に生徒との対話を豊かにする方法として、非日常で体験したプロジェクトベースドラーニング(PBL)を導入する「うねり」になっています。体験学習や行事などのパフォーマンスを評価するのには、「ルーブリック」が最適であるということで、随分はやい段階で「ルーブリック」の作成にチャレンジしていましたね。それが授業でも活用されるようになり、「ルーブリック」は、たとえばブルームのタキソノミーのような思考力の段階を参考にしながら、学内研修で授業で問いかける問いの分類を議論したりして精査しています。

(聖学院の人気の「思考力セミナー」)

生徒たちの好奇心やモチベーションが内燃しているのをみて、教師もそれに応える最適の授業改革にチャレンジするし、その「うねり」を生徒も共感して、さらに共振する「うねり」が生まれています。 そういう教育内容を、石川先生のおっしゃるように、一般入試や思考力テストに反映させています。同じように「思考力セミナー」を説明会のたびに同時開催していますが、やはり定員はいつも超えてしまいます。

そして、実は私どもも新しい「思考力テスト」を開発しました。2016年入試から行います。それは「思考力ものづくりテスト」です。「思考力セミナー」では、レゴや木材、ワークシートなど、手を使いながら議論していくアクティブラーニング型になっているのですが、今までは「思考力テスト」になると、かえつ有明さんと同じように自問自答型のペーパーテストだったのです。しかし、それではカリキュラムと入学試験がまだまだ密接でないということで、やはりlearning by makingというアクティブラーニングのスタイルをとりれるものを行うことにしたのです。

しかし、まだ一人の作業ですから、今後はそこに議論や対話も盛り込むスタイルのものも考えたいと思いました。たしかにルーブリックがあるのですから、やれないことはない。良いヒントを頂きました。ありがとうございます。

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