§3 2020年大学入試問題も見え植えながら原点回帰
児島先生:期せずして、共立女子も同じ動きになっています。2月4日C日程の入試を改革しました。1日、2日のA日程、B日程の入試は今まで通りですが、C日程は、皆さまと同じように「思考力重視」「思考のプロセス重視」の入試を実施します。完全中高一貫校になったときに、創設以来100年以上もの間行ってきた普遍的なリベラルアーツに基づいた教育をより実践的に可視化した「4つの力」というものつくっています。
①「関わる力」(人間関係力)
②「動く力」(計画行動力)
③「考える力」(情報活用力)
④「解く力」(問題解決力)
この4つがそれですが、10年前から、この4つの力を、すべての教科や行事、部活、キャリア教育などの教育活動に埋め込んできました。つまり、これは「カリキュラムポリシー」の明快な表現だと思っています。ここまで明快であれば、アドミッションポリシーとして、「4つの力」を色濃く反映した新しい入試を、そろそろやってもよいと判断しました。
「グローバル教育」「2020年大学入試改革」「アクティブラーニング」といった昨今話題になっているキーワードに対し、共立女子らしいリベラルアーツ型の対応で十分に、いやそれをカバーするに余りある力を備えていることを受験生及び保護者にお知らせするのもアドミッションポリシーの大切な使命ですから。
その新しい入試というのは、「合科型論述テスト」と「算数(考える過程も記述)」、「面接(ものの見方考えた方を問う)」の3セットの入試です。このテストの特色は皆様がおっしゃっている「思考力テスト」に相当すると思います。基本的な知識といっても、日常的な知識でよく、4つの力を総動員して考え、判断し、表現することに挑んでもらうことを目的にしています。
「合科型論述テスト」は、理科と社会と国語が融合しています。公立中高一貫校の適性検査のように、理科的に考える大問、社会科的に考える大問、国語科的に考える大問が、一問ずつ配列されているという形式のものではなく、サンプル問題を見て頂ければわかりやすいのですが、tたとえば、物質の変態という理科的知識が、気象現象を説明する原理になり、その気象現象の原理がわかれば、異常気象を生み出す理由を説明することができ、異常気象がもたらす社会的な問題を解決するにはどうしたらよいか考えるという学際的な問題に発展していく問いの流れになっています。おそらく、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で話題になっている思考力重視や合教科という話につながる発想だと思います。
すなわち、サンプル問題のように「弊害の解決」というテーマを掘り下げると、自然現象、社会現象、心理的現象とのつながりが見えてきます。そのとき、物質の変態や気象現象の知識は、憶えていなくても大丈夫です。試験では必要な知識は情報開示してありますから、その知識を活用して考えていけばよいのです。
「算数」では、問題解決のプロセスも書く問題を出題します。さらに、その解決した問題の原理を活用して、自分で問題を作成するという問いを自ら発見する問題も出題します。思考するとは、与えられた問題を解くだけではなく、自ら問いを設定するということでもあるからです。それには、原理に立ち戻るところから問いを設定しなければなりません。
そして「面接」ですが、それは4つの力の素養があるかどうか問いかけますから、「口頭試問」のような感じです。かえつ有明のパフォーマンス評価をする思考力テストや聖学院の「思考力ものづくりテスト」とこの点でアドミッションポリシーが重なると思います。
清水先生:共立女子では、2007年ごろから合科型の「特別教養講座」を先駆け的に実践してきているのですね。
児島先生:はい、その通りです。「特別教養講座」は、国語、社会、理科、家庭科、体育科などの教員が協働してプログラムをつくるプロジェクト型学習です。授業でアクティブラーニングを行う以上の探求型教科横断型のプログラムです。調べ学習、講義、フィールドワーク、議論、レポート、プレゼンなど一連のプロジェクト型学習になっています。あるときは絵本出版にまで発展するなど、先ほどお話した4つの力というリベラルアーツが結晶した取り組みだと言えます。
そして、サンプル問題を作成したとき、この特別教養講座を実施してきた教員に頼むと、すぐに興味を持って、互いに議論しながら取り組んでくれました。議論は結構ヒートアップしましたが、一気に作成することができました。やはり、このようなリベラルアーツの実績があったから、このタイミングでC日程の入試改革ができたのだと確信しています。
(高校 地理歴史部作品がヨーロッパ大会で1位獲得:「特別教養講座」のメンバーが顧問の地歴部の活躍。「第7回全国高等学校鉄道模型コンテスト」のモジュール部門で最優秀の文部科学大臣賞を受賞した作品が日本代表として「ヨーロピアンNスケールコンベンション」(ドイツ シュツットガルト)に出品され、1位を獲得。)
渡辺先生:スタイルや方法は違いますが、「思考力」と「議論やものづくり、対話」までを問う問題を前面に出す入試を、3校とも同時期に試みるというのは、やはり偶然とはいえないですね。
清水先生:やはり、知識に偏ったペーパーテストの限界が訪れたのだと思います。思考力重視とはいっても、それは主体的に意思決定したり表現したりする土台ですから、そこまで問うとなると、従来のペーパー試験では、測定ができない。その限界に生徒ひとりひとりの才能を合わせるのは、どこか転倒しています。
PBLやアクティブラーニング、体験学習を通じた思考力や創造力の育成に取り組んできて、知識や論理以外に、信頼を創る力、自信を生み出す力、チームワークをつくることができる力まで身につけることができる手ごたえを感じています。であるならば、このような学びを通じていっしょに成長していこうというメッセージを共有できるような最適な入試問題を新たに開発したい。そして、そういう想いが受験生や保護者にも求められ、共感されるようになったのだと思います。まさに大転換期です。
石川先生:全く同意いたします。私たちは、時同じくして10年前に、今の転換期を乗り越える準備をしてきました。当時は、大学合格実績が重視され、哲学だとかキリスト教主義におけるオンリーワン・フォー・アザーズだというと、一部の大手進学塾からは、そんなものは止めてしまったらとまで言われてきました。しかし、私たちは大学合格実績と子どもの成長物語は必ず一致するという信念を持ち続けていました。それが、2020年大学入試改革によって、ある意味裏付けらえたのかもしれません。
児島先生:私もそうだと思います。特に成長物語は今こそ大事だと思います。10年前までは、もしかしたら、その進学塾の方が言われていることは部分的には正しかったのかもしれません。というのは、女子校ではさすがにできないような聖学院のテントを張りながらの北アルプスの登山なども、かつては家庭のリクレーションで行っていたのではないのでしょうか。
哲学とまではいかないかもしれませんが、一家団欒の食事時に、家族で議論することも少なくなかったでしょうし、兄弟姉妹の切磋琢磨もあったでしょうから、塾や学校は大学合格実績を出すことに邁進したとしても、家庭力で子どもの成長物語を担保できていたのかもしれません。
しかし、今では、女性が社会進出する時代ですから、家庭力は学校に期待されていると思います。そうなってくると、生徒の成長物語は、知識注入型の講義型授業やペーパー試験だけでは、描くことが困難になってきたと言わざるを得ないでしょう。
(急ピッチで加速する共立女子のグローバル教育)
共立女子のOGに感謝される授業の1つに「礼法」の授業があります。これはもしかしたら、お二人の言う哲学や礼拝に相当するかもしれません。住宅事情もすっかり欧米化し、襖も畳も床の間も珍しくなってきたと思います。ですから、「和」の礼法を家庭で身につけることは難しいと思います。
グローバル教育の背景には、「和」の精神の学びも必要であるという考え方が一方であります。日本の「型」の文化が、実は外国人にも興味と関心をもたれています。それは、「型」には、ギリシア哲学の「真・善・美」に共通する何かがあります。また、信頼関係を生み出すアート=技術とみなすこともできて、共感されるからだと思います。
そして、この「型」があるからこそ「型破り」な創造性を育むことができ、それが生徒それぞれの成長物語にもなっていくのだと思います。
渡辺先生:石川先生、たしかかえつ有明でも「守破離」という「型破り」を成長の曲線としてイメージしていましたね。「知のコード」でしたか。
石川先生:はいそうです。「知のコード」はメタルーブリックな話なので、またいずれ詳細をお話しする機会をいただきたいと思いますが、渡辺先生のおっしゃる通り、基本精神は「守破離」で「離」という型破りな創造性とか芸術性とか、実は共立女子の美術のプログラムに刺激を受けたのですが、そこまで生徒の成長物語を描くサポートをしたいと考えています。
(アート部員と哲学対する石川校長)
渡辺先生:聖学院もたしかタイ研修を行っていますね。型破りに相当するような生徒の成長物語はあるでしょうね。
清水先生:はい。ございます。自分たちの日常が、タイやミャンマーの子どもたちには、非日常であり、タイの状況は自分たちにとって非日常であることのギャップの大きさに、気持ちや言葉や行いが追い付いていかない自分を見つけてきます。そこから、自分は何者なのか、何を考え何を行えばよいのか、悩みもがきます。原点に立ち返る。そこから彼ら自身の成長物語が始まります。
(少数民族アカ族と共に。タイ研修で)
渡辺先生:その原点回帰は、建学の精神に帰るという意味と人間の根源に立ち戻るという二重の意味がありそうです。そこを起点に生徒一人ひとりの成長物語が描かれていくとしたら、たしかに家庭力だけでは難しい。かといって学校だけでできるわけでもない。
その証拠に、みなさんの学校は、学校内外にネットワークをつなげています。家庭もそのネットワークの1つでしょう。進学する大学もその1つでしょう。私立学校は、その生徒の成長物語を支える拠点として建学の精神に原点回帰をする時代がやってきたのです。そういう意味で転換期ですね。そして、その強い意志こそ、この転換期を乗り越える力であると改めて確信しました。