聖学院 PBLの成果

昨今中学入試において、適性検査型入試や思考力入試は、トレンドになりつつあるが、すでに聖学院は、2012年から思考力テストに取り組んできた。なぜ取り組むことができたかというと、これもまた今でこそアドミッションポリシーとかカリキュラムポリシーという言葉が、中学入試においても使われるようになったが、当時から聖学院は、教育の内容を入試に反映させていた。
 
つまり、思考力入試を行うには、そこに反映される授業が展開していなければならないわけである。その頃、聖学院は、文化祭や物理部の高大連携、タイ研修旅行などに、プロジェクトマネジメント手法を取り入れ、授業にもPBL(Project based Learning)を導入する授業改革に着手していた。
 
アクティブラーニングが今のように喧伝されていない時代に、聖学院は、はやくも時代精神を読み解き、動きだしていたのである。そして、その成果は学内で着実に生まれている。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
2017年1月14日、聖学院講堂で、最終2017年度中学説明会が行われた。戸邉校長の「世界の最前列で輝く男子に」というスピーチに誘われて、中1と高2の在校生が登場。清水副校長とトークセッションが始まった。
 
飾らない自然体のトークは、まさに世界の最前線においても、オープンマインドで柔らかい共感的なコミュニケーションができる姿を示唆していた。どうして、このように成長するのかというと、その場の状況に合わせて、自分の考えを表現する場数を踏んでいるからである。そして、その場数のトレーニングがPBLという探究学習である。
 
 
今では、中学のロングホームルームは、すべてPBLスタイルで行われているし、多くの授業にもこのスタイルの授業は広がっている。もともと国語の授業などでは、毎回3分間スピーチが取り入れられていたし、単元の終わりの方では議論、ディベートが組み込まれてきた。それに、なんといっても同校の図書館が学びの拠点として機能しているために、PBLの浸透速度は速かったといえる。
 
説明会で登場してきた生徒だけに特別なのかというと、学内の多様なイベントやポスターセッションなどでの多くの在校生の活躍を見れば、すべての生徒が共通して醸し出しているコミュニケーションの雰囲気であることが了解できるだろう。これを教育の成果と言わずして、何を成果と言うのだろう。
 
もちろん、大学合格実績も成果の一つであるから、聖学院の進学実績の好調さで判断しても良い。しかし、人間としての姿と大学合格実績としての結果の両方が揃っている学校は意外と少ない。
 
さらに、説明会と同時開催された思考力入試対策講座である「思考力セミナー」も中学入試説明会の風物詩として、多くのメディアでも取り上げられるようになった。
 
 
同校の思考力入試は「ものづくり思考力」と「記号論的思考力」の2種類ある。前者は、自分の発想をデザインしながら考える過程を楽しむ思考力入試で、後者は言語や写真、図形、数字などの記号を素材として、自分の先入観や視点を転換して新たな自分を発見する過程に目を輝かせる思考力入試。
 
まさに知の世界の最前線で輝く体験ができるセミナーだし、入試なのである。受験であるから選抜機能はもちろんがあるが、それに挑戦することで受験生は自分の成長を受けとめることができる。ある意味才能発掘入試でもある。
 
今回は、立体図形をモチーフにした思考力セミナーが行われた。はじめに9つの立体が提示され、二つに分類するところからはじまった。分類の基準である視点によって、分け方は変わる。視点が変われば世界は変わる体験。
 
 
しかし、この程度のカテゴライズは、参加した小学生にとっては当たり前で、当たり前だと視点が変わればものの見方も変わるという考え方は、だから何なんだとなる。
 
そこで、実はこの9つの立体図形は、すべて同じであると考えることもできる、その理由はなにか議論してごらんと。生徒たちの間には、なぞなぞでも解くのかという不思議な気分が流れる。それぞれの図形に補助線を書いたり、もってきたモノサシをあててみたり、創意工夫するのだが、なかなかこれはという理由が見つからない。
 
それもそのはずだ。その創意工夫の行為そのものが、すでに硬い幾何の発想に規定されていたのだ。そんなとき、スクリーンに、マグカップがドーナツに、ドーナツがマグカップに変容する動画が繰り返し映し出された。
 
 
そして、アーとか、なるほどとか、生徒の歓喜の声があふれでた。ここでスーパーバイザーの本橋先生からトポロジーという現代数学の柔らかい幾何の考え方が解題された。
 
トポロジーという柔軟な「置き換え」は、ノーベル化学賞などの受賞者が、新物質の発見や作成の時に活用する考え方でもある。
 
つまり、聖学院の数学科にとって、数学は、領域横断的な数学的思考をベースにした授業を展開する教育を実施しているのであり、それが入試に反映しているのである。もちろん、80%は演習なので、安心して欲しい。同校中学入試にも一般的な算数の試験もある。
 
 
しかし、ここで大事なことは系統的な堅固な学習と既成の考え方を転換する柔軟な学習としての探究学習の両輪が、今後の中等教育では必要であるということなのである。
 
実際、IBやAレベル、APコースといった欧米の数学では、自然現象、政治経済、哲学、社会学、心理学、医療など様々な分野で実際に適用できるようにカリキュラムが組まれている。これをリベラルアーツの現代化と呼びたい。
 
2020年大学入試改革で、日本の数学の学習指導要領がここまで追いつくかというとおそらく難しいだろう。しかし、生徒の未来は、いまここから始まっている。学習指導要領の改訂を待つのではなく、すぐそこにやってくるAIやBT生活の大前提となるクリエイティブ社会に対応するには、独自のリベラルアーツの現代化に挑戦する以外に道はない。
 
 
聖学院の思考力入試やPBL型授業や教育活動は、その道を確固たる信念で歩んでいける大きな成果を生み出し、まさにその道のかなたに、「世界の最前列で輝く」人間に育っている聖学院の生徒の姿があるのである。
 
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