Created on 3月 2, 2017
聖徳学園では、2015年以降、生徒全員がiPadを1台ずつ所持し、さらに全教室に電子黒板を設置するなど、ICTを本格的に取り入れていることで注目されています。その聖徳学園で、「アクティブ・ラーニングを実践するタブレット端末活用授業の開発研究-教科ごとのタブレット端末を活用した双方向型授業の開発研究―」と題した発表会が行われました。中1から高2まで様々な授業が行われていた中で、私は中学1年1組の英語基礎コース(宮林幸恵先生)、中学2年2組の歴史(涌島訓先生)、そして中学2年3組の国語(久保圭司先生)の授業を見学してきました。(高木美和:早稲田大学1年 21世紀型教育機構リサーチャー)
まず見学したのは中学2年生の国語です。今回の題材は「走れメロス」。どの学校でも取り扱う有名な作品ですが、ここで興味深かったのは、授業の進め方です。授業の最初に、「メロスの問題解決能力について30秒で発表できるようにまとめること」が目標として掲げられ、この目標に沿ってディスカッションやプレゼンテーション、そして評価という流れができていました。
久保先生は授業開始直後に3、4人のグループを編成し、今までで一番苦労した経験についてグループ内でディスカッションさせます。「走れメロス」の主題に関連するような経験を思い出させることで、授業内の対話が活発になっていくのが分かります。
グループの発表者として代表が選出されると、次にタイムキーパーなど、一人ひとりに違う役割が与えられました。そのことでグループ内の連帯感も生まれ、全員が積極的に授業に参加することに繋がっていくのです。
このグループワークに活用されていたのが、ロイロノートです。話し合った内容をその場で送信することができ、生徒と先生が考えを瞬時に共有するツールとして活用されていました。
そしてロイロノートは、もう一つ、評価の明確化という役割にも活用されていました。国語という科目は、何を学んだかわかりづらい教科だからこそ、目標を明確にしておくことが重要だと久保先生は授業の最後にお話されていました。ルーブルック評価の観点を配布することで、最初の目標がどの程度達成されたのかということが、最後に確認できるという構成になっていたのです。ICT機器が単に独立したツールとしてではなく、授業構成や授業の狙いをより効果的にする役目を果たしていることに気づかされました。
次に見学したのは、中学1年1組の英語基礎コースです。Alice and Humpty Dumptyを題材にして、グループワークが行われています。先生は各グループに大きい紙とポストイットを渡しており、大きい紙には穴埋め問題が、ポストイットには単語が書いてあります。生徒はグループで話し合いながら正解を導き、その結果をiPadで撮影して先生にロイロノートで送っていました。
結果を受けとった先生から、今度は生徒に解答が送られ、全員で答え合わせをします。先生はすべてのグループがそこまでできたことを確認してから今度はその文章を読んで録音するように指示しました。
さきほどの国語と同様に、このクラスでも生徒一人ひとりに役割が与えられていました。一人が英文を読んでいる間、別の生徒が録音しているといった様子を見ていて、発音まで記録できる点にICTの可能性を感じました。英語のクラスでは、ロイロノート以外に、Quizletなどのアプリも利用して発音やイメージを活用した単語力の補強を行っているようです。
ICTの活用により、生徒が楽しく授業に参加するだけでなく、反復練習することも楽しみながら行えるようになっています。また、先生の側からすれば、生徒一人一人の達成度が容易に確認できるという利点があります。
私自身、英語教師を目指す身として、とても参考になる授業でした。
最後に中学2年2組で行っていた歴史の授業を見学しました。歴史といえば先生が教壇に立って教科書に沿った内容を板書し、それを生徒がノートに書き写すというイメージです。とても静かな授業風景を想像しながら教室へ入ると、その先入観はまんまと覆されました。他のどの教科よりも生徒たちが活発に発言していたのです。5、6人のグループに分かれて話し合いがすでに始まっていて、覗いてみるとみんなiPad片手に教科書で何かを探しているようでした。
この授業の目標は「帝国主義とはなにか?条約改正はどのように達成されたのか?」という問いに答えることで、その目標は、いつでも生徒が確認できるように電子黒板に写されています。
ともすると先生が一方的に年号や主要人物を教える受け身の授業になりがちな歴史の授業ですが、ここではロイロノートを通して送られた何枚かの写真をヒントにして、人物の名前、なにをしたのか、その活動が他にどう影響したのか、といったことを歴史的な順序を並べ替えながら理解を深めるというグループワークになっていました。まるでパズルを一つ一つ組み立てるようで、生徒が主体的に取り組む学びがそこに展開されていました。今回は時間が足りなかったため行われませんでしたが、いつもは授業の最後にグループごとにたどり着いた結論を先生に送り、電子黒板上でそれを発表する場を設けるそうです。
最後は、先生お手製の小テストがClassiというアプリに送信され、生徒全員の知識の定着を確認するという授業構成になっていました。
今回見学した授業ではいずれもICTを活用することで、従来の授業ではかなわなかった学びが展開されていました。生徒たちは自分たちのペースに合わせてiPad内のファイルを行き来したり、先生は生徒から送られてきた課題を簡単に記録したりすることができます。また、グループワークの成果は生徒間で共有もできるため、授業外での学びにも有効です。歴史の授業でも見受けられたように自分で情報を探して処理する、情報処理能力を培う勉強もICTとアクティブ・ラーニングを組み合わせることで可能になりました。インターネットが普及し情報にあふれた現代で情報処理は絶対的に必要なスキルであり、それを生徒たちに指導するのは教師の役目ともいえます。つまり「ICT×アクティブ・ラーニング」は今後教育者にとって避けては通れない道であり、そして聖徳学園はそれをいち早く実践に移したと言えます。
これに加え、すべての授業に共通するものが3つありました。キーワードは「目標、時間、役割」です。先生は毎回必ず生徒たちに授業で達成すべき目標を明記することでなにをするべきか一目でわかるようにしていました。また、ディスカッションの時間やスピーチの時間などを決めてタイマーをセットすることで時間内に達成する集中力を鍛え、一人ひとりが役割を担うことで責任感を与えました。私はこれら3点が学校という場に限らず生きていく上で必ず必要な人間力につながるものだと感じました。企業に入るにしても海外で生活するにしても必要なスキルです。アクティブ・ラーニングの中で、主体性を伸ばし、知識の活用を図っていく上で、聖徳学園が行っている「ICT×アクティブ・ラーニング」の学びはとても有意義なものだと感じました。