八雲学園 グローバル教育3.0に転換

2018年4月から、八雲学園は共学校になる。生徒の未来は、2018年問題としての少子高齢化の影響、2020年の大学入試改革の影響、2030年の第4次産業革命本格化の影響などを受ける。時代の大きな変化を読み解き、八雲学園は大きなチャンレジをすることにした。

それが、Round Square(ラウンドスクエア:以降「RS」と表記)加盟校になるという決断である。3年前からRS候補校として、加盟の準備をしてきて、2017年正式に加盟校として認定されたのである。RSは世界40カ国の私立学校が高い理想のために、教科書とキャンパス内だけの教育から世界に飛び出る体験を大切にする教育を目指すことを心1つにする共同体である。

現在、グローバル社会は、光と影の相克の様相を呈し矛盾がさく裂している。生徒の未来は、もっと魅力的で多様性に寛容なグローバル世界として組み立てていかねばならない。そして、それを創っていくのはいまここにいる生徒たちだ。彼らが真のグローバル世界をつくるリーダーに成長する本物教育を実践する世界の私立が校が結集したのがRSだ。

進学とか大学入試問題といった意識とは全く違う広く高い問題意識を共有するグローバル教育を行っていく覚悟の一環として共学校に転換することを決めた。by 本間勇人 私立学校研究家

(左から高等部長菅原先生、2人の高3生、理事長校長近藤先生、2人の高2生、国際教育顧問・ラウンドスクエア名誉会員榑松先生)

RSは、IDEALSという高い理念を共有する世界40カ国の私立学校の共同体。そのIDEALSというのは、<Internationalism, Democracy, Environmentalism, Adventure Leadership and Service>という6つの学びの頭文字をとって共通理念としている。

これらは、教科書や教科の学習の中には収まり切れず、実践的な体験やディスカッションを通して学ぶ理念。冒険や奉仕活動は、日本では想像できない極限状況に直面する学び。ナチス時代迫害を受けたクルト・ハーンが、エジンバラ公の協力でイギリスに亡命して創った学校がモデルになっている。このクルト・ハーンの自己体験から見出した人間の存在への想いは、壮絶なアウシュビッツ体験の中で生きる意味を見出したヴィクトール・E・フランクルや治安維持法事件で逮捕されながらも君たちはどう生きるべきかを説いた吉野源三郎と共通する心性だろう。

 

忘却してはならない根源的な精神。その精神を学び体得する学びがIDEALSに集約されている。今やこの理念は、40カ国の私立学校に共有され生き続け、そこに八雲学園も参加したのである。

RSは、年に一度、ラウンドスクエア国際会議(RSIC)を開催する。2016年はドイツで、2017年は南アフリカで行われた。加盟校から1,000名の生徒と教師が参加し、ホスト校のIDEALS活動を共有する。実際に、その学校が行っている冒険や奉仕活動を追体験する。そして、ディスカッションを行い、グローバル世界で起こっている壮絶な問題をいかに解決するかグループワークを行う。

この会議は、実にスリリングでエキサイティング。内なる高い理念の炎を燃やし、参加者が1つになる。毎年開催される会議によって、この内なる炎を絶やさないために、加盟校が1つになって活動を続けていくモチベーションにもつながっている。

 

2016年は、候補校として2人の生徒(当時高2)が参加した。八雲学園は、イングリッシュファンフェア、サンタバーバラ研修、イエール大学との芸術交流、3か月留学など、優れた英語教育の環境が整っている。2人は、英語力の不安はなかったにもかかわらず、RSICには衝撃を受けた。参加者の問題意識がふだん接している日本人とは全く別次元の高さだったからだ。教科書やキャンパス内での教育では収まり切れない問題意識。意識は世界の問題に広がり深く迫っていく。

高2の八雲生は、IDEALSという理念を実現する学びは、生半ではできないことを痛感。帰国後、八雲学園でRSのメンバー校として学ぶことがいかに重要なことであるか、それを提唱するアンバサダーとして覚醒した。

2017年秋は、南アフリカでRSICが開催された。前年ドイツに行った生徒2人は高3になってからも、高2生2人と同行した。高2生は、やはり先輩たちが初めて参加した時のようにワクワクしながらも戸惑いつつ、ハードルを乗り越えてきた達成感を抱いていた。

一方、英語力の問題以上に、自分の想いを、バラザ(南アフリカでは、リラックスして深い話し合いをすることをバラザと呼んでいる)で、伝えられなかったことが課題であると明確に認識していた。やはり世界を広く深く見つめるには、ふだんから時事問題などに触れ、友人や家族と話すことは重要だと感じたようだ。

今まで、父親が時事問題について話しかけてきても、聞き流してしまうことも多かったが、今は全く違うという。問題意識は対話によって見出すことができるのであると。

高3生は、今回はある使命をもっていた。もっと対話に参加し、自分の想いだけではなく、日本の問題や課題についても共有してこようと。他人事の問題や課題ではなく、自分たちの問題や課題が、世界の人と共有できるかどうかが大切なのではないかと。

すなおに、互いの心を開き合うことができるかそこにチャンレンジした。だから、心を開きあうにはどうしたらよいかについて考えを巡らしていたようだ。RSICでは、世界40カ国から集まってくる。出遭ったときに、相手の所属している国からその人をイメージする先入観や固定観念を、話し合いながら払しょくしていくことはいかにしたら可能かということを考えたようだ。

この対話の時に抱く相手に対する先入観や固定観念は、何も自分たちだけが抱くわけではない、相手もそうだ。だから、対話によって、国と国が話しているのではなく、1人の人間として話し合うのだという糸口を見つけることが大切なのだと。そこから先入観や固定観念は崩れていくと語ってくれた。

実は、この彼女たちの交流に対する考え方こそ、新しい八雲学園のチャンレンジなのである。

これまでの日本の英語教育は、このようなIDEALSを理念とするグローバルシチズンとしてのリーダー同士の交流を育んでは来なかった。国際理解教育といっても、異文化理解と称して、現地に行って、モノとしての文化を見てくる程度だった。あるいは、最近でも、たしかにWebによって、世界の情報を調べることができるようになったが、直接個人と個人の交流ではなかった。

情報や商品を、グローバルに獲得することはできるが、中高の段階で、個人の考えや世界観を共有することは、たまたまに過ぎなかった。中高の国際交流ももちろんあるが、それは学校と学校の交流で、個人の世界の問題について共有する場はなかなかつくれなかった。

しかし、今は中高生個人が自分の考えを持っていれば、世界に影響を与えることができる時代でもある。国や自治体や学校の枠組みの中での、ステレオタイプな交流ではなく、IDEALSという理念共同体という枠組みの中での、個人個人の世界観を共有するグローバル教育が、始まったのだ。

八雲学園のチャンレンジは、ストレートにそれでいて自分勝手ではなく、IDEALSという人間の存在にとって一番大事な理念を共有したうえで、中高生個人個人が、自らの想いをグローバルな規模で共有し、直接未来を多様性の中で協力して創造していく時代を開くことである。

その動きは、八雲学園の中で、はやくも始まった。南アフリカから帰国後、4人の八雲生は、RSのアンバサダーとして活動を開始したのだ。

 

それは、ラウンドスクエア委員会発足というプランの実現である。まずは、その一環として、ラウンドスクエアの「Baraza(バラザ)」とよばれる活動を校内でも行っていく。あるテーマについて英語で意見をシェアしていく。世界に視野を広げ、自分たちの世界観を深めていくことを八雲学園全体で取り組んでいこうというのである。

一握りの生徒が、グローバル市民としてのリーダーシップを発揮するのではなく、個人個人全員が発揮していくのである。高校卒業後、RSの直接的なかかわりはなくなるが、それはRSの世界の私立学校も同様である。したがって、RSのメンバー校の卒業生は、今度は学校から離れ、1人ひとりの持ち場で、何かあったら、交流ができるようになる。

それぞれが、一見目の前の問題解決に挑むわけであるが、IDEALSの理念を共有した世界の仲間が協力したとき、その問題解決は、一挙に世界の問題を解決することにつながる可能性があるのだ。

英語教育、語学研修、留学のような枠を超えて、世界の問題を解決するための理念の共有というグローバルな規模の交流の新たな場が、RSであり、そこを八雲学園はグローバル教育の拠点とするのだ。

ケイトスクールとの交流はどうなるのかと問われるかもしれない。実はケイトスクールもRSの加盟校である。したがって、ケイトスクールとの交流も、RSの広がりのある交流へとシフトしていく。より深い絆ができていくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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