Created on March 20, 2014
2008年から本格的に進路指導に力を入れて6年。いわゆるGMARCH以上の大学合格実績は300%に飛躍。世にいう受験勉強に偏らずに教育の総合力を通して進路指導を実践してきた。5日前に卒業式で巣立ったOGが26名再び八雲学園に還ってきて、高1高2に大学受験体験談を語った。はやくも進路へのモチベーションをシェア。これが教育の総合力の一端を示す証である。
具体的にどんなテキストや模試を使ったか受験ツールの話、スケジュール管理の方法、知識の覚え方と考えることのメリハリという理解の仕方、部活との両立、メンタルケアとそのための友情ロールプレイなど、在校生はその臨場感に役に立つと真剣に耳を傾け、憧れの先輩の言葉を通して、大学受験という問題解決のためにモチベーションを引き継いだ。
教育の総合力とは、問題に立ち臨んだときに、ツール、ロール、ルール、メソッド、タフネスなどの総合的なデザイン思考ができるということ。今回は、体験談のあとに卒業生が八雲学園の教育について語り合い、その総合的な思考が鍛えられた教育の質に迫ったアクティビティの紹介をしたい。by 松本実沙音:21会リサーチャー(東大文Ⅱ)
一見異質のものに深いつながりを直感できるOG
3月19日八雲学園にて、卒業したばかりの元高校三年生の生徒26名が集められて新しい試みのイベントが開催された。それは、在校生向けの受験体験談の共有と、「八雲学園の教育」及び「自分の分岐点」をテーマにディスカッションをするというアクティビティだ。私は、後半のディスカッションを取材させて頂いた。
まずは輪になって座り、紙コップが卒業生の一人に渡された。「八雲学園の教育の特徴を皆でひとつずつ言っていって下さい。そして、それを紙コップと結びつけて下さい」という課題が言い渡される。同じことを二度は言えないため、25通り(午後の参加者は25名)の答えが必要となる。更に、それを全て「紙コップに結びつける」という難しい課題。卒業生達はとまどいや、自分のところに回ってきた時はどうしようという焦りを隠せない様子であった。
しかし、彼女たちは柔軟に対応した。誰一人として投げ出すことはなく、輪を一周することができたのだ。紙コップの形や役割を比喩的に捉え(もともとレトリック学的にはコップは受容のメタファが隠されている)、それを八雲の教育を結びつけることによって、幾通りもの答えをつくりだしたのだ。「八雲では、Welcomeの精神を大切にすることを何度も教えられた。紙コップのように、何でも受け止めることができる学校だと思う」という風にだ。
彼女達が挙げてくれた八雲学園の教育の特徴としては、主に次のようなものがあった。
まず、英語に触れる機会が多いこと。海外研修やスピーチコンテストに加えて、English Fun Fairや英語で行う文化祭などもある。英語は、彼女達にとっての八雲における学生生活の大部分なのだろう。
次に、マナー講座があることや、月に一度行なわれる芸術鑑賞について述べる学生も多かった。八雲では企業向けのマナー講座を実施しており、「品性を学ぶことができた」と卒業生のうちの一人は言っていた。「マナーに厳しい学校だと思います。何の役にたつのだろうと疑問を持ったこともあったが、普段の生活の中で活かす場面がいくつもあった。紙コップの、一見するとたいして役にたたなそうで、実は色々な用途がある点と似ています」と、前述のアクティビティで答えてくれた卒業生もいた。
月に一度の芸術鑑賞は、美術館・ミュージカル・映画・パントマイムなどを観に行き、鑑賞後は「芸術鑑賞ノート」にパンフレットやその内容をまとめるという流れのイベントだ。今までどのような場所へ行ったのか記録したものを見せてもらったが、なんと合計435回もこのイベントは実施されているのだ。1996年からずっと続けられている伝統行事である。
このように、卒業生たちは、ここに書ききれない程の八雲学園の教育の特徴を挙げてくれたのだ。
聞いてみると、このアクティビティは、途中で打ち切りになってしまうこともあるそうだ。「何の役にたつのか」という疑問の空気が蔓延し、課題に答える前に思考が停止してしまうこともあるとのことだ。論理的思考に偏っている場合そうなるケースが多い。
しかし八雲学園の卒業生たちは、学生生活のうちに培った対応力をもってして、見事に答えてみせたのだ。教育を紙コップと結びつけて語るという強引な課題でも、柔軟にこなすことができる。このスキルこそが、八雲学園の教育の総合力であり、感性教育そのものであり、教育の質を表しているのではないだろうか。
盛り上がるディスカッション
次に、1グループ5人に分かれて、少人数でのディスカッションが行われた。テーマは「私は八雲でどう変わったか」「八雲で私が変わったきっかけ」だ。私も、一つのグループに参加してディスカッションを中から聞くことができた。ここで彼女たちが口にしたのは、やはり「Welcomeの精神」だった。
八雲学園では、生徒達が掃除をする。トイレ掃除も生徒達の仕事だ。来てくれた人が快適に過ごせるようにという気遣いも、「Welcomeの精神」の一つだ。この心構えは、他者に対するものだけではない。自分に降りかかる出来事や直面する課題に対しても、彼女たちは「まず受け入れる」という姿勢でいるということを学んだと言っていた。
つまり、したくないことや気が進まないことでも、まず受け入れ、行動し、その後でそれが良いことなのか自分が好きなことなのかを判断する、という姿勢だ。これは最初の紙コップのアクティビティでも彼女たちがとっていた姿勢である。
またこの姿勢のおかげで、友人関係をグループで括ることをしなくなったとも言っていた。どんな人とも仲良くなれると言う。彼女たちには、受け入れる力、つまり「Welcomeの精神」がきちんと染み込んでいるのだ。
「紙コップは、上を向ければ物を入れられます。八雲では、いろいろな知識を学び、マナーを身につけることができます。そして紙コップを下に向ければ、中の物を外に出すことができます。同じように、八雲では、学んだことをアウトプットする術も同時に学べます」と、卒業生の一人は語っていた。
彼女たちはこれから、それぞれの紙コップを上を向かせたり下を向かせたりしながら、「Welcomeの精神」をもってして、更に多くを学んでいくのだろう。
これからも成長し続けて欲しい
イベントの最後に、校長先生が卒業生達へ向かって次のメッセージを送られた。
「気持ちは若いまま持ち続けることができます。八雲で学んだことを時折思い出しながら、これからもどんどん成長していってください」
この言葉を聞いて私は、校長先生はじめ他の先生方の気持ちも、卒業生たちの気持ちも、「Welcomeの精神」の響きを奏でていると思った。そしてそれをいつまでもシェアし続けられるからこそ、八雲では、今回の卒業生達のような生徒が育っていくのだろう。