工学院 PIL×PBLを全面展開へ(1)

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)の校長平方邦行先生は、工学院の目差す21世紀型教育を実行するとは、授業改革をおいて他にないという信念を学内外の先生方、生徒、保護者にことあるごとに語る。

知識を伝え、記憶するだけの20世紀型教育から、知識そのものも吟味しながら、知識と知識を組み合わせたり、組み替えたりしながら、自ら発見した問題を解決していくIB型思考力はいかにして可能か。それは米国ハーバード大学やMITなどが先進的に開発してきたPILやPBLの授業の本質を踏まえた授業改革によって可能になると。

今年一年かけて工学院の先生方が、校長と共に一丸となって研究に取り組む。日本の教育が変わる瞬間をドキュメンタリー風に追跡取材していく。by 本間勇人:私立学校研究家

PIL及びPBLという授業システムを開発する時に、大事なことは何であるか?これを抜きに組み立てていくと、先生方の個性が発揮されないし、自在に授業が回転しない。枠にはめられる感じがするからである。道具やアイテムは、使いこなせなければただの廃棄物に過ぎない。

そこで、先生方は、外にテクニックを求めるのではなく、まずは自らの内を観察することから始めた。

たとえば、4月に新中1が入学してきた時、まずは工学院の理念をロゴス化した3つの校訓「挑戦・創造・貢献」をどのように生徒と共有するのか、してきたのか振り返る。

まずは、学年主任であり、社会科主任であり、今回のPIL×PBL授業の開発のメンバーである松山先生は、「学年だより」で、3つの校訓を中1やその保護者に近づきやすい言葉に「置き換え」て伝えた。この行為は、PIL×PBL授業では、重要な最近接発達領域の共有の営みである。ハードルを低くしながら、生徒が自分なりに考えて乗り越えることができるように問いかけているのである。

松山先生は、オリエンテーションにおいて、まずは≪one for all all for one≫の体験から、前に踏み出すアクションの大切さ、壁をいかにして乗り越えるか考え抜く力の大切さ、仲間を助けることの大切さを実感できるようにプログラムを設計していく。

体験、実感、関心、好奇心・・・から学びが旅立たなければ、モチベーションは内燃しない。

最初の学年のロングホームルームでは、生徒1人ひとりが今年1年の想いを漢字一字にこめてプレゼンするところから始まった。松山先生も2012年の4月に「祈」という漢字から始めたというデモンストレーションを行った。

すると、生徒はそれが東日本大震災を踏まえていることにすぐに気づきグーッとこのイベントに集中していった。興味・関心が、魂に触れたときに湧き上がる。その雰囲気が教室に広がった。

このプログラムは、教科の授業ではないが、ある意味教科横断型の授業だとすれば、PIL×PBL授業の本質を共有している。

しかも、このプログラムは、平方校長が就任する以前から行われていた。ということは、PIL×PBL授業の本質は「暗黙知」として工学院には存在していたことになる。

このように、暗黙知として存在しているPIL×PBL授業の本質と通じるものが、学内でどこまで広がっているか、シェアする研究が始まったのである。

 

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