12月1日と3日、聖徳学園で国際貢献授業の成果報告会がありました。このプロジェクトは、今年4月からJICA(国際協力機構)の職員やボランティアの方の協力を得ながら、貧困で苦しんでいる国のために自分たちが貢献できることを考え実行していこうというものです。高校2年生全員がチームに分かれて、発表をしました。単に調べることで終わらずに、自分たちが今ここでできることを実行しようとする点が、このプロジェクトの肝になっています。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家
2日間にわたる成果報告会では、1組から7組までの生徒全員が、クラスで取り組んできたテーマ国について、プレゼンテーションをしました。プログラムを見ると、テーマ国は、チュニジア、ブルキナファソ、コロンビア、ケニア、ルワンダ、中国、モザンビークとなっており、私にはほとんど馴染みがないか、または馴染みがあると感じていても実はほとんど何も知らない国が並んでいました。生徒たちは、自分が担当する国について、JICAで実際に現地に暮らしていた方からの取材やインターネットなどからの情報を統合して、チームごとに国際貢献を実際に行っていくことになるわけです。
例えばチュニジアについてのプレゼンテーションでは、不幸にして起こったテロによって打撃を受けたチュニジアの観光業に少しでも貢献できるように、ポスターを作ろうとか、あるいはYOUTUBEにプロモーションビデオを流そうとか、すぐにでも実行可能なアイディアが次々に発表されました。東日本大震災の時にチュニジアが贈ってくれた支援物資(ツナ缶6万個!)のことを例に挙げるなど、リサーチや取材による裏付けがしっかりとしているため、実行しようとするアイディアも説得力のあるものになっています。
また別のグループでは、農作物、特にチュニジア産オリーブに注目し、それを日本でもっと広める企画を立てていました。企業のマーケティング部門さながらの創造力とセンスです。
しかし本当にすごいのは、それぞれのアイディアや企画が、このプレゼンテーションで終わりになるのではなく、実行に移されていくという点です。そのプロセスを通して、生徒たちは自分達が関わった国についての理解や関心をますます深めていくことになるのです。
日本に住みながらも国際感覚は養えるということを学校現場が理解
し、 それを実践していくことが日本が世界と対等に向き合える国として 成長していくことなのではないかと私は考えています。
今回の授業はそうしたコンセプトのもと実施しました。実際にアクションを起こすということまで求めたのは、何かしらのアクションを起こすということは難しいことではなく、 ただ自分のアイデアと意識、 そして仲間の協力があれば誰でも出来ることなのだということを生 徒達に理解して欲しかったからです。 身近でも出来ることがいずれは色々なところを巻き込み大きくなっ
ていく。 その第一歩の踏み出し方を生徒達がこの授業を通してで学んでくれ たらと願っています。
「日本に住みながらも国際感覚は養える」という言葉は、海外の大学・大学院で学び、海外での勤務経験もある山名先生だからこそ言える言葉でしょう。国際貢献のために必要な事は「アイディアと意識、そして仲間の協力」なのだという言葉は実に力強いメッセージです。
国際理解教育というと、海外に出かけることばかりを短絡的にイメージしてしまいがちですが、実は行動を起こすことこそが大切なのだと気づかされます。そして行動を起こそうとするには、自分の中の「情報のアンテナ」を磨いておくことが必要になります。今回のプレゼンテーションのテーマになっていた国々は日本ではほとんど報道がありませんが、それでも生徒たちは、この活動を通してこれらの国についての情報感度を上げたわけです。実際、ブルキナファソを担当した生徒の一人は、それまで名前すら知らなかった国だったけれど、家族と団欒をしていた時に見ていたテレビ番組で、たまたまブルキナファソの名前が出た時、すぐに意識がそちらに向いたそうです。そこで、この国のことを今学校で調べているんだと、家族にブルキナファソのことを教えてあげる機会ができたと話していました。
グローバルな問題というのは身近なところで行動を起こすことから、関心を持つことになるし、それがさらに次のステップへと向かうことにつながるわけです。確かに、ボランティア活動というのも、そもそも関心があるからボランティア活動をするという面ばかりではなく、活動をしていくうちに、現状についての認識が増していくという面があります。
それにしても、カウンセラーとしても日々活動するだけあって、山名先生の生徒への目配りは細やかです。全員が参加する以上、プレゼンテーションの得手不得手というのは出るものでしょうが、そのような部分的な見方ではなく、発表を待っている間の生徒の様子や、終わってからのちょっとした一言から、生徒の状況をよく把握しているのです。まさにSGT(スーパーグローバルティーチャー)である所以です。
生徒の活動を地域の貢献につながるというコンセプトは、聖徳学園で行っている他の活動でも見られるものです。そこには時代や地域に合わせて学校を開いていこうとする伊藤校長先生の学校運営の方針が反映されています。
伊藤校長は次のように語ります。
グローバル教育の機会はこれまでもあったのですが、どうしても欧米に偏りがちでした。先進国とは異なる途上国に対する意識もしっかり持って、他の人のためにと考える事の大切さと大変さも学んでくれたならばと思っておりました。ですから、 一部の生徒ではなく、すべての生徒にきちんと参加してもらうことを意図したのです。
ここに聖徳学園のグローバル教育に対する明確なスタンスが表れています。
「Think globally, act locally (グローバルに考え、ローカルに行動する)」というのは、国際バカロレアのCAS(創造・活動・奉仕)でよく使われる表現ですが、まさにそれと同質の教育が聖徳学園の国際貢献授業にもあったのです。 つまり、グローバル市民としての意識を育てる教育というのは、地元地域も含めた、他者のための貢献を行うことから始まるということです。「個性」「創造性」「国際性」を教育の柱に掲げている聖徳学園ならではの骨太なプログラムなのだと言えましょう。