Created on November 28, 2016
文化学園大学杉並(以下、文杉)を訪問しました。ダブルディプロマコースの成果を知る上で、IBとの比較も有効な視点になるだろうと考え、欧州のインター校で昨年IBディプロマを取得した高木美和さんに取材してもらいました。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家
久しぶりにインターナショナルな雰囲気に触れて、とても新鮮で刺激になりました。自分はIBを修了したこともありDD(ダブルディプロマ)には興味がありましたが、実際に見学してみて、日本で行われているとは思えないほど自然に英語が飛び交っている授業に正直驚きました。 by 高木美和:早稲田大学教育学部1年
最初に入った高校2年生の教室では、3つのグループに分かれて、それぞれパソコンを囲んでプレゼンテーションの準備をしていました。先生に対する質問はもちろん、グループ内の会話も英語で行われています。トピックは第一次世界大戦で、カナダとの関わりから大戦の影響を考えているのが印象的でした。
大戦の前期、中期、後期をそれぞれのグループでまとめ、グループのメンバー同士が違うグループから情報を入手し、それぞれの持っている情報をシェアする「ジグソー法」と呼ばれるスタイルで学んでいました。どの生徒もリラックスした心地よい雰囲気の中で、まじめに取り組んでいます。
次に入ったのは高校1年生の教室。BCプログラムの校長であるダン先生が「Planning」という授業を行っていました。
この授業は、生徒の視野や可能性を広げることを目的に、多種多様な仕事について知るというもので、IBディプロマでもこのような授業を経験したことはないため、非常に興味深く拝見しました。職業のイメージを高校生の段階で持てるのは有意義ですし、同時にうらやましいとも感じました。
この日はLawyer(弁護士)についての授業でした。生徒たちは輪になって並べられた椅子に座り、ダン先生と対話します。まずダン先生が口を開いて尋ねたことは、「弁護士って何をする人?」でした。
となり同士で話し合った後、それぞれの生徒が考えたことを発表します。
この授業の運び方はダン先生が意識するアクティブラーニングの一つです。先生が前に立って、「弁護士とはこういうことをする人だ」と説明するのではなく、逆に生徒たちに質問を投げかけていくのです。「Answerではなく、Questionを与えることが生徒の学びをサポートすることにつながる」と、授業後のインタビューでおっしゃっていました。
日本の生徒は人前で自分の意見を発表することをあまりしない、そしてそこで間違えることを嫌うとよく言われます。しかし、この授業を受けている生徒にはそれはまったく感じませんでした。それはなぜか。ダン先生によると、DDには4つのルールがあるからだそうです。このルールこそが生徒が進んで発表をする秘訣なのです。
DDの4つのルール
1.I can do it (私はできる)
2.It’s okay to make mistakes (間違えてもいい)
3.It’s okay to say “I don’t understand” (わからなくてもいい)
4.Someone’s always there to help (助けてくれる誰かはいつもそばにいる)
先生方の働きかけによりこのルールは生徒たちに浸透し、自由に発言する力が身についていると感じました。実際、分からないときにはその場で説明を求める生徒が何人かいました。英語でコミュニケーションするとき、分からなくてもそのまま流してしまうことは、経験上よくあることですが、文杉の生徒たちは、質問することが学びに繋がるということをしっかり理解しているのだと思います。そしてこれが短期間で英語を飛躍的に上達させた一つの理由でもあるのでしょう。すでに英検1級が2名(1次試験合格者)と準1級が3名という実績があるそうで、近い将来全員が準1級を取得できるとお話されていたのは、決して誇張ではないと感じます。このような4技能を測定する英語資格は大学進学などの明確な指針となる以上に、コミュニケーションが不自由なくできるようになるための目標になり得るところに私は価値を感じます。海外での生活を通して感じたのは、正しい文章を読んだり書いたりすること以上に、人を相手にしたときに瞬時に言葉が出てくることの重要性です。議論はあっという間に次の展開へと移っていきますから、いちいち立ち止まって正しい表現を考えていてはついていくことができません。文杉の生徒にはこういった「英語で議論する力」がついていると実感しました。
ダン先生はこれまでにも様々な国で授業を行い、校長として17年間生徒を教え続けてきたそうです。そんなダン先生は文杉の生徒が一番優秀だと太鼓判を押していました。その理由は数学と化学の成績にあります。バンクーバーの生徒と同じ試験を受けさせた結果、文杉の生徒が平均点で彼らを上回ったのです。(全BC州カリキュラム45校で1位)勤勉な日本人の性格も一つの理由ですが、BC州が世界で初めて文杉で試みたCo-teachingも理由の一つです。Co-teachingとは、同じ授業を英語と日本語の両方で行い徐々に生徒たちが英語だけでも理解できるようにしていく授業です。クラスを見学させていただいた際も外国人の先生と日本人の先生の両方が生徒たちのグループワークを見て回り、生徒が苦労している部分を説明していました。驚いたのは生徒たちが使っている教材がすべて英語で書かれた、分厚り海外のものだったことです。通常日本語でやるような生物の勉強を彼女たちは辞書の力を借りながらもしっかり行っていました。
もう一つ海外の仕組みによく似ていると感じたのがassessment rubricを使った評価法です。文杉の廊下を歩いていると生徒たちの作ったポスターなど様々な課題が目に入ります。それぞれまるで違う題材について作られているように見えるそのポスターには明確な評価基準がありました。これはIBと同じ仕組みで私にも馴染みがあり少し懐かしさを感じました。
まだ海外での学校生活にそれほど慣れていないころ、なんでもいいから論文を書きなさいと言われ困ったことがありました。内容は思いついてもどこからどう書けばいいのか本当に手も足も出ない状態でした。それをサポートするのがこの評価基準です。構成力、分析力、単語力など細かくレベル分けされ、それに沿って生徒は自分が興味の持てる議題についてまとめる。これは自ら学ぶという姿勢を引き出させるのに最適な方法だと私自身の経験でも感じました。
DDは日本と海外の履修科目を両方こなす必要があるということで、最初は、生徒たちにとっては負担も大きいのではないかと思いながら授業を見学させていただきました。しかし、むしろ自ら学ぼうという姿勢が一人ひとりの生徒から感じられ、私自身よい刺激を受けました。また、日本とカナダのバイカルチュラルな教育環境は、日本人としての美徳も忘れず、グローバル社会にも適応できる人材を育てるのに最適だと感じました。 (続く)