今春、アサンプション国際中学校高等学校(以降「アサンプション国際」)は、校名変更、共学化、21世紀型教育の実施と多角的な教育改革を実施した。半年が過ぎて、その改革のテンポは序破急。英語、理科、数学のイマージョン教育の評判は、世界に点在する帰国生にも轟き、学校説明会の参加者もグローバルな様相を呈してきた。10月1日の中学と高校の説明会参加者の数も増えた。両方を合わせて前年対比136%である。
改革学年は、中学校1年生と高校1年生であるが、C1英語やPBL、そして哲学的学びは、他学年にもインパクトを与えている。今年の高3の成果にも、良い影響がすでに生まれてるという。つまり、8月までの改革のテンポはじっくり行う「序」(すでに昨年からじっくり準備を重ねてきていたという)であったのが、9月になって、そのテンポは「破」にシフトした。一人一台のタブレットの環境(貸し出し用のPCは60台強あるので、授業によってすべての学年が活用)は、中1と高1であるが、C1英語とPBLの学びは他学年に急激に拡大しはじめた。by 本間勇人 私立学校研究家
(左から理科弓庭先生、国語紅谷先生、校長江川先生、英語丹澤先生、英語篠原先生、英語廣田先生。校長室で、いまここで未来を創ろうと語り合ったという。)
そして、江川校長は来年、改革の勢いを「序破急」の「急」にシフトすべく、多くの先生方と日々語り合い、先生方の授業も見学し、フィードバックしながら対話を深めている。生徒とも不定期ではあるが、校長哲学教室も開き、考えること、気づくこと、行動することのスキルについてメタ的な対話を実践している。
江川校長は「今のところ対話は小さく初めているのですが、そのうち大きく育ちますよ。マタイの福音には、こんな趣旨の聖句があるんですが、ご存知ですか。ある人がからし種をとって畑にまくと、それはどんな種よりも小さいが、成長すると、野菜の中でいちばん大きくなり、空の鳥がきて、その枝に宿るほどの木になるというのです。私は、これは教育も同じだと思っているのですよ」と語る。
かくして、たくさんいるネイティブスピーカーの教師のPBLは、広くほかの先生方にも波及した。
ロング先生の高1の生物の授業は、弓庭先生とのコラボ授業。C1英語×PBL×ICT×生命科学という21世紀型授業のプロトタイプの一つ。授業終了後に、クリエイティブティを普段の授業で養うことができるのかというテーマで対話。丹澤先生と廣田先生が通訳してくれたので、思う存分対話ができたのだが、コンテンツを創るという、learning by makingは、やはり時間が足りない。
しかし、サイトに入って、5分で人間の人体の臓器を組み合わせて、人体を再現してみようというトレーニングを行う時、5分間でできない生徒もいる。そんなときその限界を超えるには、どうしたらよいのか生徒と瞬間的なリフレクションやフィードバックをするとき、実はクリエイティブティの種やモチベーションが生まれると。
つまり、Whatとしての創造性なのか、Howとしての創造性なのかは、探究授業と普段の授業とでは役割が違ってよいのではないかということのようだ。授業と授業の合間の短いひと時ではあったが、このような対話ができる学習する組織を江川校長は着々と形成しているのだ。
廣田先生の高2の英語授業も実におもしろかった。ジレンマ、トリレンマの思考実験問題を英語で出題。チームでディスカッションして、問題解決していく。もちろんオールイングリッシュなのだが、思考が深まるにつれ、英語から日本語に移行ししてしまう。
廣田先生は、簡単な問題だとオールイングリッシュでできるが、それだと思考するトレーニングとしては、生徒たちもおもしろくない。どうしても、一見身近な問題だけれど、その背景には大きな問題や、自分たちにとっても人生の岐路にかかわるような問題が隠れていることに気づいてほしいし、生徒自身もそういう問題を考えたいと思っている。
では、そのような高次の問題も英語でディスカッションできるようになるにはどうしたらよいのか?英語力を高めることは当然だが、それ以上に環境設定が大切ではないか?対話の中でそのことに気づいた廣田先生と江川先生は、なるほどだからこそやはり帰国生や留学生などの多様性ある環境を学校の中に持ち込まなければと。学習する組織とは、対話の中で、クリエイティブな問題を見出す仕掛けであり、それをどのように解決していくか、みんなで動くエネルギー態なのであろう。
田中先生の中3の古典の授業。教室に入ると、侃々諤々議論している。枕草子の回の授業で、議論しながら、何か創作編集している。古典といえば、古典文法と古語の暗記に基づいて、文語を現代語に変換する授業だと思っていた。
ところが、現代版「枕草子」を創作しようというのがテーマだった。清少納言の文体を模倣しながら現代版にするのだが、現代語を使った随筆を書くのではない。清少納言になったつもりで、その当時の言語で、現代を読み解くという設定。
田中先生いわく、「古語も言語ですから、やはり実際に使ってみなければ、古典に親しめないし、現代との比較スタディーもできません。また、生徒は古語を使う過程でいろいろな思いがよぎるでしょう。古典の授業も創造的な学びはできるのですよ」と。
21世紀型教育は、古典の世界にも新たな光をあてる。授業が創発の場になっているアサンプション国際。2018年は、いよいよ「序破急」の「急」のテンポで改革は進むのではなかろうか。