Created on October 2, 2018
キーノートスピーチ 本当に価値ある学校
次はキーノートスピーカーの登壇。「2020年大学入試問題を突破する本当に価値のある学校」と題し、香里ヌヴェール学院学院長および21世紀型教育機構理事の石川一郎先生からお話しがありました。まずは、石川先生のベストセラー『2020年の大学入試問題(講談社現代新書)』に掲載されている写真を見て、イマジネーションするワークから始まりました。
そして、男子校と女子校を比較した感想をフランクに述べます。「何か突破しよう」「やってみよう」というのは女子校のほうが強くなりがち、男子校は正解を求めるような感じがするとのこと。そんな中、時代はクリエイティブな方向に向かっていて、21世紀型教育機構の男子校聖学院と静岡聖光学院は、大きくパラダイムシフトを果たしているといいます。
次に、東京大学工学部の推薦入試の小論文。クリエイティブのほうに寄った入試が課されるようになりました。
慶應義塾大学環境情報の小論文では、「心から面白いと感じていることを研究し」「これまでにないビジョンやコンセプトを創り出す力が必要」と慶應の学生像まで、入試問題で明言するようになったことも紹介しました。
筆者も小論文が専門領域です。いままでは知識をもとにした論理的思考を問う出題が多くを占めていました。入試直前にネタ本を暗記して受験という姿が一般的だったと思います。
しかし、2020年に向けて批判・創造的思考が問われる出題が注目されるようになりました。知識を詰め込んでいくだけではなく、それを「本当に正しいのか」と批判的に捉えつつ、未来に向けてどういう解を創造するかが問われる、高度な思考が求められる時代に突入したといえます。
さらに、早稲田大学政治経済学部の国語の問題にも触れました。
過去は差をつけるための問題だった早稲田政経が、「選んで終わり」ではない、才能を拾い上げる入試に変わるといいます。入試自体は記述・論述問題に切り替わり、基礎学力は新テストを利用するという形に変わります。石川先生は、早稲田の政経が変わり、どこが追随するかを注目すべきだと指摘します。
こうした出題が日本の最高峰と言われる大学群から出題されているというところが鍵なのです。早稲田大学の新思考入試や人間科学部のFACT入試、お茶の水女子大のフンボルト入試、追手門学院大のアサーティブ入試など、偏差値という指標に埋もれていく高校生の才能を拾い上げる希望の入試が、今花開こうとしています。
話題はCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠。ヨーロッパ全体で外国語の学習者の習得状況を示す際に用いられるガイドライン)に移ります。新テストの英語が外部検定試験に移行する流れはご存知の方が多いかと思います。昨今ではC1レベルを求める大学が増えています。C軸はあらゆるテーマで議論ができるレベルです。単語量勝負ではなく、自分の専門的な事柄で英語でやり取りできる受験生を求めている様子がわかります。学問は国内だけで完結するものではないからです。
こうした求める受験生の変化は「知っているか知らないか」という知識・理解思考偏重からの変化に他なりません。石川先生は時代やその要請が変化する中で、「自分で考えろ」ということが多くなると言います。正解のない解が問われる、と。「言われたことをちゃんとやりなさい」という知識理解思考、「知っているものの組み合わせる」という論理的思考が求められる時代から、「新しいものをつくる」という創造的思考が世の中に求められているのだと力説します。
そして、知識理解思考(低次思考)と論理的思考や創造的思考(高次思考)の差を埋める教育を展開するのが21世紀型教育機構だと述べます。才能は一つの指標では測れません。学校は知識理解思考(思考コードでいうA軸)・論理的思考(B軸)を育成するところが多いですが、実は未来をつくるには創造的思考(C軸)も大事です。
また、石川先生は、大学は研究機関であるという感覚が日本の大学には希薄だと警鐘を鳴らします。研究の成果が世界で役立っていない。それが日本の大学が世界ランキング上位とならない要因の一つではないかといいます。
21st CEOの出身者の中には世界大学ランキングの大学へ進学する高校生が増えています。やりたいことがなければ海外へ行けばいい、という判断の結果だと言えそうです。
以前、国際進学シンクタンクを経営している知人は「海外大学の進学は、一般的な日本の大学選択基準を持ち込むことは避けたほうがいい」と述べていました。それは上位海外大学には世界中から意識の高い高校生が集うから。キャンパス内では学びについての議論が飛び交い、プロジェクトに巻き込み、巻き込まれることが日常です。彼は「日本の大学選択のように、志なくブランド名で選ぶと確実に心が折れる」といいます。
21st CEO出身に海外大学進学者が多いのは、学校で高校生たちにGrowth Mindが宿り、他者との共生を意識したキャリア形成が行われている証でもあります。それは、21世紀型教育機構の理念に「ゴールデンルールにのっとり、グローバルゴールズを解決できるグローバルシチズンを育成するクリエイティブスクールを応援します。」と明記し、加盟校の学校教育の中に埋め込んでいるからです。
そして、石川先生は国公立の中高が既存の学校のあり方を提案する中、なぜ私学なのかを今一度考える時代にきたといいます。日本に留まることを前提とせず、世界という概念で活躍する人を育む場として私学が成長すること。『海外に行くことが大事』ではなく、グローバルゴールズに向き合う子どもたちを送り出すことが私学の使命ではないかと、私たちに語りかけます。
そのためには、グローバル教育を3.0にアップデートする必要があると石川先生は言及します。
グローバルイマ―ジョン(英語で色々なことに取り組む)、英語を使う人の考え方で学ぶこと、PBL×STEAM。そして、大事なのはアート。芸術は副教科ではないのだと。これらをすべてを組み合わせて学ぶことが大事であり、私学の教示であり、教育であるといいます。
みかけで「海外大学に行かせる」ということではなく、「保護者、教員、学校を含め、我々大人はどういう地球市民を育むべきか」という本質的な視点で教育を再考してほしいと訴えます。
そして、最後に石川先生は男子教育はどうあるべきかを考えるために一言添えました。感覚的な部分が大きく、独断と偏見があることを述べたうえで「お母さんが面倒を見すぎるのではないか」といいます。一種の無茶苦茶さがあり、様々な人たちととともに実行し、序列を超えた「生きるパワー」を期待している、と。そして、そうした男子の存在が21世紀型教育の第3ステージに突入する契機となるに違いないと締めくくりました。