八雲学園 ラウンドスクエアなグローバル教育(2)

§2 多様性の意味 バラザミーティング以外のアクティビティで見えた

国際会議は、バラザミーティングが中心で進行していくのかと思ったが、アクティビティも多くて驚いたという。Christie Lakeというキャンプ場に行き、火おこし体験、カヌー、鳥小屋つくり、キャンプファイヤー等の野外体験をした。楽しい部分もあったが、本格的なスリリングな自然の中での体験は、冒険と言った方がよいものだったようだ。
 
ラウンドスクエアスクールは、IDEALSという6つのテーマを理念として共有している。それは、 International Understanding, Democracy, Environmental Stewardship, Adventure, Leadership and Serviceである。
 
簡単に分けることはできないが、バラザミーティングが、International Understanding, Democracyの体現であり、山や海や湖畔での自然体験や奉仕活動などのアクティビティは、Environmental Stewardship, Adventure, Leadership and Serviceの精神が内生的に成長する機会だと言えるかもしれない。
 
 
とにかく、ラウンドスクエアスクールは、現実の問題に真摯に取り組むことを重視している。それは、実践的で冒険的な極限の体験こそが、個人の変容だけではなく、社会や世界が肯定的に変化をすることを促す真のリーダーシップを生み出せるというラウンドスクエア創設者クルト・ハーンの信念であり、それが今も脈々と継承されているのである。
 
自分が肯定感を持てるようになり、それで社会に貢献し、社会を動かすというイメージとは少し違うリーダーシップ観がここにはある。社会や世界自体がポジティブに変わるようにリーダーとして貢献するということ。そんなタフなリーダーシップのスキルや能力(とラウンドスクウェアは明快に表明している)を養う機会をこれほど頻繁に設けている学校は、日本にはあるだろうか。
 
今回国際会議に参加した5人の八雲生のトークを聞いていて、ネガティブな気持ちや思いをどうポジティブに変えるのか、自分が思ってもいない状況でも、それを乗り切るタフな精神力が重要であることをいろいろな場面で語っていたが、彼女たちが使っている「ことば」は、おそらくバラザミーティングやアクティビティで、ラウンドスクエアスクールのメンバーも頻繁に使っていたのだろう。
 
 
そのことについて尋ねたら、本や授業で学んだわけではないから、そうかもしれないけれど、自分たちにとって当たり前のことばになっているから、国際会議でそのことは意識しなかったという。
 
いすれにしても、バラザミーティングも必死に取り組んだが、このアクティビティやバラザチームから自由になって活動するときが、実は、なかなか辛かったのだという。
 
今回の国際会議のテーマは"Bring Your Difference"で、このテーマについて多くのキーノートスピカ―のプレゼンを聞いては、バラザミーティングをするわけだが、それはかなり抽象的な議論の展開で、たしかに難しい。しかし、なんとか自分の主張は論理的につくることはできた。
 
しかし、アクティビティの場面やバラザチームから自由になって新しいメンバーと多くのコミュニケーションをする場面では、完全に予想外の話で盛り上がり、ついていけなくて愕然となったときが多かった。
 
それでも、タフに取り残されないように、自分から進んで話に行くチャレンジはした。ところが、なかなか厳しかったのだと。なぜかというと、実は1000人の生徒たちは、八雲生と同年代の生徒である。だいたい、四六時中世界問題を語り合っているということはあるはずもなく、1週間毎日コミュニケーションしているのだから、この年代なりの趣味やサブカルチャーの話も大いにする。
 
八雲生は、彼らが話しているキャラクターやスターや、人気イベントやテレビ番組について知らないのは当然だ。いちいちそれは何?と聞くわけにもいかない。自然なコミュニケーションの文脈に、リサーチみたいな質問はさすがに場を乱す。社交性というより社会性を疑われると感じたという。
 
しかも、当然ではあるが、彼らは日々の教育活動は、すべて大学進学準備教育でもある。自分たちがどんな大学を目指し、そのためにどんな準備をしているかという話には、大学受験のシステムが日本と違い過ぎて、何を言っているのかわからないという。
 
国際バカロレアのスコアの話やSATのスコアの話も、センター試験と同じようなものかなと思って聞いていると、全く違う話の内容にやはり戸惑うばかりだったという。
 
 
カナダに来る前に立ち寄ったイエール大学やコロンビア大学の話題も、大学というよりアイビーリーグ全体の話の文脈ででてくるから、そもそもアイビーリーグって何なのかわからなかった。
 
異文化理解は大事であるが、文化は生活や政治や教育システム、経済、歴史など多様どころか多岐にわたる。海外の文化の膨大な知識ネットワークの海の前にただ佇むだけの自分たちに焦りを感じたという。
 
しかしながら、八雲生は、そこでハッと気づいたのである。これが"Bring Your Difference"だったのだと。日本にいたら、アイデンティティは、自分の個性に注目することに終始してしまう。しかし、その背景に、文化、歴史、政治、経済、教育、サブカルチャー、衣食住という生活などがある。それを日本の文化とひとくくりにすれば、日本人というアイデンティティと自分の個性というアイデンティティの両側面があることになる。そう気づいたという。
 
そして、戸惑っていたのは、海外の生徒の話だけではなく、自分たちが日本のアイデンティティを表面的にしか語れないということに原因があったのだと。日本文化の深いところをきちんと主張できないから、知っている知らないだけで、興味を持ってもらえない。
 
興味や関心を互いに持つことから対話は始まるのだということに。日本にいたら、知っている知らないだけの話でも、その背景は当たり前のようになっているから対話ができるが、海外に出ると、普段から深層まで意識していないと、共感を得られないのだと。
 
そして、1週間のプログラムも終盤に近付くにつれて、自分たちが日本人だけでかたまっていてはいけないとということにこだわりすぎていたことに気づいていく。たしかに、欧米の生徒が話し合っていると、同じ国の生徒同士だけでかたまっているようには見えないが、欧米の生徒の文化アイデンティティは、日本よりもかなり共通しているのではないかと。
 
となると、彼ら彼女たちも同じような悩みを抱えているかもしれないのだ。ポジティブでタフな精神がついに本領発揮する時がきた。
 
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