桜丘 桜華祭で見たイノベーティブな学習環境

桜丘中高の桜華祭を取材しに出かけたリサーチャーの佐伯氏からレポートが届いた。周辺エリアや校内のデザインなど、生徒を取り巻く環境が、学びの場として機能しているという印象を報告してくれた。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家/佐伯憲太郎(慶應義塾大学理工学部):リサーチャー

 

佐伯氏のレポートは、周囲の環境の良さに言及することで始まっている。佐伯氏自身が私立中高一貫校の卒業生であるから、6年間通う学校の学習環境というものに敏感なのであろう。

王子駅から桜丘中高に向かう途中、公園や都営荒川線の路面電車を横切る。交通の便が非常によい場所でありながら静かな土地だ。偶然にも、公園では市民の祭りが開催されており、街の人情を感じることができた。

9時の桜華祭開始前に正門に着く。すでに周りには生徒や父母らしき方々の姿もある。受付は生徒たちで行われ、笑顔で迎えてくれた。とりあえず、校内を1周してみることにする。

続いて氏の目は校内の環境、空間デザインに注がれていく。そして空間デザインが生徒の雰囲気にもよい影響を及ぼしていると見ている。

敷地には、円形の棟などユニークな形の校舎があり、開放的な雰囲気が感じられる。食堂や通路など、オープンな場所に本が置かれていたり、通路に絵画のレプリカが飾られていたりと、校舎全体が学びの場として機能している印象だった。歩いていると生徒が気さくに挨拶してくれ、教師と生徒の間も会話が弾んでいる様子で、アットホームな雰囲気である。

一通り巡ったあと、気になった展示を見てみることにした。

最初に訪れた書道部では、アルファベットを組み合わせて漢字を作る『英漢字』や、1人1行ずつ書いて作ったという大きな作品を見ることが出来た。

単に自分たちの作品を展示するだけでなく書道に興味のない人も楽しめるよう選んでいる点や、感想を積極的に聞いてフィードバックに努めようとしていることが印象に残った。

次に、美術部を見た。

コンクールの入賞者もいるという油絵を始め、水彩・油彩・色鉛筆の絵から彫刻まで、幅広い形態の作品が展示されていた。また、顧問の先生や外部の方の作品も展示されていたり、授業で作った余りを再利用したというはんこコーナーもあるなど、単に部の発表をするだけでなく、目の肥えた来場者や子供も一緒に楽しめる配慮がされていた。

レポートにある「配慮」という単語が鍵であろう。学習環境を考える上で、配慮というキーワードは重要だ。佐伯氏が書道部、そして美術部の展示で感じたことを集約する言葉が「配慮」である。見に来る人を楽しませたい、興味を持ってもらいたい、何を期待してやってくるのだろう・・・、こういった配慮の精神が満ち満ちていることが文章から伝わってくる。しかし、このような精神性は、どういう環境によって育まれるのだろうか。氏のレポートにヒントがないかどうか、探っていくことにしよう。

教室では高校1年のクラス展示が盛んに呼び込みをしている。

事前に学内で行われた企画コンペティションで2位だったという、演劇を行うクラスを見ることにした。

毎年演劇は人気のある展示らしく、今年も多くのクラスが演劇を行っているようだ。中でも、このクラスでは『ハリーポッター』『アラジン』と魔法を題材とする作品に加え、科学トリックで人気のドラマ『ガリレオ』という異色の3つの作品をパロディしたストーリーを自分たちで考え、注目を集めていた。さらに、せっかく人が集まるのだから何らかの形で社会に貢献出来ないか、という意見から募金を行っており、シリア・ユニセフなどいくつか募金先を調べた中から多数決で福島・相馬市の犬を助ける募金に決めたという。既に1日目で8千円以上が集まったそうだ。

自分たちの企画を盛り上げるだけでなく、さらに誰かの役に立てようという発想に感銘を受けた。

なるほど。配慮は社会貢献につながっていくから、ボランティア活動は必然的な帰結であるわけだ。しかし、配慮の精神はどうやって育まれるのか。

 

写真部では、写真の展示だけでなく、展示されている写真自体の販売も行っていた。売り上げは写真の印刷や消耗品にかかる経費の補填に使うそうだが、それでも毎年赤字なのだという。しかし、あくまで展示が主体なので、販売に力を入れることはしていないそうだ。

商業的にならず、自分たちがやりたいことを貫く姿勢は気持ちがよかった。

「自分たちがやりたいことを貫く」―他者に対する配慮が根底にあるから、これは単なるわがままではない。オンリーワンであることを志向し、他者のために奉仕する―これはリベラルアーツの精神そのものである。

ようや佐伯氏のレポートの意味が解けてきた。数学科に在籍する氏の発想は帰納的だ。最初に結論があるわけではない。まず事例を集めて検証するという思考プロセスゆえに、彼の見ている方向は最初は分かりづらいが、論理は明快で、矛盾はない。

高校1,2年生のオープンキャンパスレポートが展示されていた。夏休みの課題として出されたものを公開しているようだ。

1年生は行った大学とその様子、感想が書かれていた。早い時期からオープンキャンパスに行かせることで将来を具体的にイメージできるよう考えられたのだろう。

2年ではより細かく、大学と学部のセールスポイントから、周囲の環境・施設、受験方式など、さらには大学生にインタビューする項目まであった。単にオープンキャンパスに参加し、何を学べるか、などの大学から提示される情報を収集するだけでなく、実際に受験するときやキャンパスライフを送るとき、自分が必要となる情報を知るためのレポートで、将来をイメージする上で非常に有益な課題だと思った。

 確かに、レポートを見てみると、大学・学部のセールスポイントや、大学生へのインタビュー、そして訪問した感想など、数多くの項目があるが、フォームが決まっているので、比較対照が行いやすいのであろう。こういった課題を通して、生徒たちは情報収集や編集スキルを向上させているのであろう。

 

高1によるプレゼンテーションが行われていると聞き、行ってみることにした。

授業で「将来の私」をテーマに全員がプレゼンし、クラス内から選出された代表が発表を行っていた。大きく、「今までの私」「なりたい職業」「その職業になるための道のり」「目指す大学・学部」「夢がかなったら」「参考資料」という順でプレゼンがされ、かなり具体的なことまで調べ上げられていたのが印象的だった。高校1年から将来の目標を意識することは、3年間の高校生活を有意義に活用するための助けになるだろう。また、早いうちから自分で情報収集やまとめをしたり、プロットに従って発表を行うなど、自分で考え人に伝える経験をしておくことは良いことだが、単なる経験で終わらず、要点のわかりやすい発表になっていたことに驚いた。相当練習をしてきたのだろうか。

今度は中学生のプレゼンテーションを訪れた。

ちょうど、中学2年の発表で、ある班は「平和」というテーマのプレゼンをしていた。

「1人1人にとっての平和」「学校での平和」「日本での平和」など、多様な側面から平和を考え、それらの共通する部分として「お互いを認め合うこと」という結論を導いていた。発表スキルという点では先ほどの高校生には及ばないが、「分析と統合」という基本的な姿勢に忠実に考察がされており感心した。中学生の頃からの経験があっての高校生の発表なのだろう、と納得した。

桜丘のプレゼンがどのように編集されるかというプロセスについては、同じ日に取材をしている本間勇人氏が詳しい記事をすでに掲載しているので、そちらもご確認いただきたい。

桜丘 桜華祭が映し出す「学習する組織」(1)

桜丘 桜華祭が映し出す「学習する組織」(2)

桜丘 桜華祭が映し出す「学習する組織」(3)

 
 

 

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