富士見丘 思考を相対化する「思考力」(2)

「新傾向問題」は、与えられたデータに自分の持っている知識・体験を結びつけ新しい考え方を生み出す思考の過程を大切にしている。

大島先生:単なる記憶の再生や既存の公式をあてはめるのではなく、考える過程を大切にする問題。しかも受験生がその過程を追求していくときに、「集中力」「忍耐力」「持続力」「努力する力」も必要とするような問題。

コンセプト的には受験市場でも賛同を得ると思いますが、実際に問題を作成する段階になるとなかなか難しいと思います。やはり10年以上積み上げてきた本校の地道な努力が問題に反映していると自負しています。

板垣先生:思考の過程といったときに、私たちは、次のような3つの能力を考えています。

①「マッピング能力を求める」:本文の中にヒントや必要な情報が含まれているケースが多い。したがって、そこで要求される能力とは「必要なデータや情報」を“探す”能力である。それは同時に、「現状の自分の不足しているデータや情報」を意識し、認識する能力でもある。

②「情報編集能力を求める」:必要な情報を収集し整理するという「情報処理能力」だけではなく、新たに収集した情報に、既知の情報を組み合わせて自分にとって役に立つ新たな情報につくり変えていく、言わば「情報編集能力」が求められる。

③「系統化能力&表現力を求める」:「新傾向問題」は、記述論述型が主流を占める。なぜなら自分にとって有意に編集された情報を系統化させ、相手に納得させる形で提示する能力を求めているからである。表現力、納得力とは系統化能力から生まれるものである。

つまり、「与えられたデータ」と「自分の持っている既存の知識や体験」を組み合わせて、新たな情報を編集していくわけです。そして新しく編集された情報を、相手に伝える段になると、試験ではそれは記述論述型になる場合が多いのですが、たんに論理的に書くというわけではないのです。

大島先生:帰国生入試で大切にしているのは、②番目の「情報編集能力」。自分の体験を生かして記述論述するわけですが、論理的に書くだけでは、「納得力」という表現力が加わらないのです。一般的な入試の読解問題では、客観的に読んで記述する場合、体験を持ち出しませんから、論理的に書くだけでよいのです。

しかし、本校の「新傾向問題」が思考力型というのは、そこは微妙な差異なんだけれども、才能や資質を見出すという意味では大きな違いが仕掛けられていると思うのです。

板垣先生:その通りですね。だから、そこにこだわって「系統化能力」と「表現力」を区別しているのです。体験を生かして記述論述するというのは、たしかに難しい挑戦ですが、実は客観的に文章をみている自分ではなく、受験生自身が考える中心に位置して取り組むことができるのです。

「WILL」入試同様、受験の主体としての生徒を強く意識し、生徒本人を眺める視点を有しているアドミッションポリシーを具現化している入試問題になっている理由は、このような考え方に立っているからです。

また、以上のように、明快に生徒の能力を求めていますから、これに準拠して問題を作成するビジョンは学内で共有できるわけです。10年以上の試行錯誤の中で実現できたと思います。また、このような「新傾向問題」は作成するときワクワクするものですし、どんな考えを記述論述するのか楽しみです。そしてなるほどと納得させられた答案を書いた受験生は、その後やはり学びや行事、部活で頭角を現してきます。

大島先生:教師の側がワクワクする問題をつくると、実は生徒も真剣に取り組んでくれます。そこにこそ生徒が「集中力」「忍耐力」「持続力」という力を発揮する対話が成立します。

入学後のその姿が、入試問題に取り組む段階で映し出されてくるということです。だから私たちも身が引きしまう思いで問題作成に取り組むのです。創造的緊張感というやつですね。

 

 

 

 

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