富士見丘は、教師が一丸となって、授業と自主探究の「5×2」というプログラムを中心に、スーパーグローバル教育を拡張している。その拡張の方法の1つは、リサーチ、ディスカッション、プレゼンという一連のプロジェクト型学習(PBL)を授業の中に埋め込む作業である。
そしてもう1つは、大学やNPO・企業などとの連携ネットワークの拡大である。このカリキュラムイノベーションともいうべき過程で、大島教頭は、プレゼンは論理的な情報伝達ではなく、ストーリーテリングが聴き手に世界を導くアクションであり、思考は論理的なものばかりでなく創造的な思考もあるということを確信するに到る。そんなとき、GiFTとの運命的な出会いがあった。
大島先生:GiFTの『ロールモデルカフェ』は、ロールモデル一人ひとりの生き様というストーリーを俯瞰する体験ができるという点が新鮮。今までネットワークを編んできたプログラムは、どちらかというと何を行うか考えるのか作るのかという、1つの目標を達成するものが多かったと思います。
卒業生や大学生との連携では、当然そうなります。ところが卒業後あまり時を経ずグローバルな世界で活躍している人材は、長大な人生ではないけれど、すでに幾つかの関門をくぐりぬける経験を積んでいます。
その都度、不安、恐怖、迷いがあるでしょうが、そこを包み隠さず共有してくれた上で、結局はそれに目を曇らされることなく、乗り越えたときの自信を積み上げてきたストーリー全体を語ってくれるところがこのワークショップの魅力だと感じました。
辰野さん:その通りなんですね。『ロールモデルカフェ』では、ゲストに生き様(Being)そのものを語ってもらいます。そのために、ワークショップを行う前のゲストとの打ち合わせを何よりも大切にしています。講演慣れしている方の場合、どうしても論理的なシークエンスに従って話しがちです。しかし、この『ロールモデルカフェ』では、参加した生徒もゲストも、いっしょに生き様を共感するところから始めますから、シークエンスというより、ストーリー全体を語ってもらうというのがこのワークショップの特色なのです。
三代さん:ですから事前の打ち合わせは、論理的な説明会のようなものではなく、やはり体験シミュレーションになります。私たちがロールモデルになり、自分を開示してストーリーを語るところから始めるのです。
鈴木さん:そのときゲストはそのプロセスの中でインパクトを受けます。そして、この感覚でよいのだと、ストーリーの中身だけでなく、自分の物語を素直に語る自己開示に向けた気持ちの準備をしてもらうのです。もともと参加することを受け入れてくれているわけですから、そのインパクトは響き合いますね。
辰野さん:ですから、生き様を共感できるプロセスのデザインと場づくりが大切なわけです。
大島先生:スタンフォード大学のアルバート・バンデューラは、恐怖を払拭することはできると言っている。小さなステップを次々とクリアしていくと、最初は「無理!」と思っていることも、意外と早期に克服できるということのようです。
GiFTがゲストとしてジョブスのような人を招き講演を聴かせるのではなく、ゲストの生き様の共有を通じて生徒1人ひとりの自己肯定感や自校効力感を共鳴できる『ロールモデルカフェ』という空間を創っている意味がますます大切であると感じました。
辰野さん:小さなステップですが、ゲストの方の生き様は、生徒のみなさんのこれからに大きなインパクトがあると確信しています。その向こうにどんな未来のストーリーを描くのでしょう。楽しみです。
鈴木さん:今こうやって語ること自体は、物語のパラドクスで、どうしてもロジカルになってしまいますが、ワークショップでは、ここはあまり使わないでしょう(笑)。
三代さん:同じ日本人どうしでもダイバーシティの気づきがあると思います。分析するのではなく、共感するところから、自分や他者と向き合い、学び合い、尊重し合う関係性を生むことができると思います。
大島先生:たしかにそうですね。そこからしか未来を描くことはできないわけですね。未来は論理では解不能ですから、なるほどそうなんですよね。未来へのトルソーを創造する生徒の様子が目に浮かぶようです。今日は貴重なお話をありがとうございました。