高3生のダンスは卒業への通過儀礼のクライマックスの1つ。モニターにレ・ミゼラブルの映画の一部が流れた。とすぐに、3年生が現れた。純粋な水の色で身を包みながら、それは悲しみの涙なのか、それは恐怖で凍てついてるのか、氷の塊のような姿が出現した。
もちろん、レ・ミゼラブルであるから、19世紀前半のフランスの革命の動乱期の物語である。市民と抑圧する軍隊の衝突を経て痛みをともなった昇華に到る革命と自由の物語である。そして、その混迷の中でも人間は愛し合い、助け合うという愛の物語であもる。
だから、当然そのストーリーをダンスで演じるわけである。もしこれが高校2年生までのレ・ミゼラブルのダンスならそれでよかっただろうが、高3のダンスは、レ・ミゼラブルのテーマだけを伝えるのではなく、そのテーマを通して、自分たちの幾つもの想いとメッセージを力強く表現した。そしてこれが、八雲学園の高3の伝統的な流儀なのである。
民衆の一群が中央まで進んだときに、颯爽と現れたのは軍隊。人数的には圧倒的に少ないが、その黒装束は、純粋な水の色を破壊する迫力をもって出現したのだ。
そして、民衆は一斉に旗を開いた。しかしそれは旗であって旗ではなかった。軍隊に挑むためのバリケードのように対峙した。会場は固唾をのんだ。
民衆と軍隊は対峙して止まったが、次の瞬間、民衆の中からジャン・ヴァルジャンが登場。軍隊と一騎打ちを演じた。愛のために死をもかえりみず、立ち臨む勇気をみごとに演じきった。しかし、この愛は、娘への愛、息子への愛、仲間への愛であるばかりではない。人類への愛の象徴的パフォーマンスであり、言うまでもなく高3生の母校八雲学園であり、先生方であり、後輩へのメッセージだった。
昨年、高3生はダライ・ラマに会った。優しい笑顔の背景にどこまでも深い悲しみとそれがゆえに愛情を示したダライ・ラマ法王。自分たちの幸せや愛情の背景に、多くの小さき命が犠牲になっていることを忘れないで、耳を澄まして風の音を聞きなさい。そしてその風にあなたの意志と祈りをのせなさいと。
しかし、その風はあなたの心の中で吹いているのだと。
そうだ、ヴァルジャンだけではなく、自分たちも内なる風に耳を澄まそう。風は立ち上った。民衆は一丸となって協力することを決めた。旗は翼になって風に乗った。もちろん、この風はチーム八雲へのエールと感謝と去り立ち難い叫び声である。