工学院 カリキュラムイノベーション始まる

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)は、今年の中1から、ハイブリッドインタークラス、ハイブリッド特進クラス、ハイブリッド特進理数クラスの3クラス制を実施。授業の改革が生徒の才能を拓く教育をつくることになるという信念を先生方が共有し、昨年からハイレベル英語、PIL・PBL型のアクティブラーニング、ICTの導入、思考コードの創出などの準備をしてきた。

もちろん、これらはたんなる21世紀型スキルではない。同校の校訓である「挑戦・創造・貢献」という信念を生徒がグローバルな状況でより有効に発揮できるための学びそのものなのである。by 本間勇人 私立学校研究家

中1の3クラスの1時間目の授業を横断していくと、日本の教育のシーンは完全に転換したのかと驚くほどの変わりようだった。今までは、どこの学校でも知識の理解→知識の演習→知識の定着という授業だった。

しかし、工学院の21世紀型教育は、知識の理解と知識の活用は、最初の段階では、自分の体験に照らし合わせて、イメージを拡散する。チームで議論することで、互いの体験の中でシェアする。このプロセスが、多様な問いを生み出し、TOKでいうところの、ナレッジクレイムやナレッジクウェスチョンを生み出す。

自ら問いを発見することで、あまり気が進まなかった領域の問題にも興味と関心を抱きはじめる。そこから、一気呵成に問題解決への議論となり、自分たちなりのプロトタイプを編集する。そのプロトタイプと先生の専門知をかけ合わせる時、あっ!とジャンプする。

この知の飛躍は、大人から見れば当たり前だったりする。しかし、その気づいた生徒にとっては、大飛躍なのだ。驚きなのだ。ここを無視しないでできたことを承認するところから、生徒1人ひとりが才能を拓く道へと、それぞれのゲートをくぐりぬけるようになる。

この拡散→収束→拡散→収束→・・・の単純な思考のプロセスが、しかし、進むにつれて、指数関数的に思考の次元を飛躍させていくのである。

(ゲームをやるところから授業がスタート。フロー状態をつくるために心を開放する。と同時にインスピレーションを放つ体験を積み上げていく。クリエイティビティを育成する際に、必要な通過儀礼)

今までは、さあこの問題をやるよと教師が問題を提示してきた。しかし、21世紀型教育は、自分の体験を大切にするから、問いに気づくところから出発する。そんなことはわかりきっているという抑圧的な言葉は、最近接発達領域を潰してしまう。つまり、才能の開花の道を破壊してしまう。

そこを丁寧に学び合い、中3の後半には、そのまどろっこしさがなくなるように学びの発達を促していくのがアクティブラーニングの特色。

そして、今回中1は全員がiPadを携帯。授業中に使うのは当たり前の世界になった。これにロイロノートスクールのアプリケーションがインストールされているからたいへんな革命が起きているのだ。

工学院は、司書教諭有山先生の活躍が他校にない特色の1つでもある。週に1度、中1は全員図書館で「デザイン思考」という授業を受ける。iPad、ワークシート、図書、付箋紙などを使いながら、論理的に思考するだけでなく、直感的なインスピレーションも活用する。いわば、システム思考とデザイン思考をマネジメントしながら、考えるコンピテンスを身につけていく新しい教科である。

iPadは調べる道具でもあるが、ロイロスクールノートが埋め込まれていることによって、

ブレインストーミング

親和図法

シナリオグラフ

座標系図

バリューグラフ

イネーブラー・フレームワーク

因果関係ループ図

プロトタイピング

ストーリテリング

即興

などの創造の翼を広げる手法を自在に使える。生徒はこれに画像や動画もどんどん貼りつけ、発想を拡散する。

しかし、そこから折り返し、今度は「編集」という収束に向かう。どこのプロセス段階でもチームで「議論」するから、視点は多角的になるし、コラボとは何か実感できる。

もちろん、最後は自分1人で編集。手法はエッセイライティングやパラグラフライティングなどの手法。しかし、ロイロスクールノートは情報の収集分析のポートフォリオいやそれ以上のプロセスフォリオをコンパクトに収納できるから、紙ベースのノートであれば膨大な冊数が必要になるところ、iPad1つで、記憶を引き出し、編集しながらリフレクションすることができる。

これを便利というのだろうが、実は同じ時間でも情報処理速度が加速するから、実は思考の密度も上がっていることになる。便利さ以上に思考の機能の有益性があるのだと思う。

外国人教師が英語以外の教科でも存在し、インタークラスでは数学や理科のイマージョン教育も展開。もちろん、たとえば数学の場合、ベテラン教師三浦先生とコラボするから、英語だからわからないという心配はまったくない。

「ハイレベル英語×PIL・PBL型アクティブラーニング×ICT」という21世紀型教育がパーフェクトにスタートした工学院。中学の授業はエンリッチメントな創造的才能開発をする。そして高校からはIB型のディープでハイレベルの思考ベースの学びの展開にアクセルを踏む。もちろん、その結果、大学入試の結果は大いに期待できるだろう。

2020年大学入試改革における新テストの準備は万全だ。しかし、工学院の本当の目標は世界大学ランキング100位の大学にまで射程は広がっている。米国の名門プレップスクールであるケイトスクールやチャドウィックスクールがもし東京に舞い降りてきたら、いわゆる御三家とか呼ばれている学校はすぐに色あせる。

工学院は桜蔭や開成のような学力エリートスクールを目標になどしていない。ケイトスクールやチャドウィックスクールのような学校と学問レベルで(=リベラルアーツレベルで)交流ができるような知のエクセレントスクールになろうとしているのであろう。

かくして、「デザイン思考」の新教科を編集している有山先生は、こう語る。

「とにかく、興味と関心が大切。これはもう信念。ここからしかクリエイティビティは生まれないと思います。だから、デザイン思考では、この興味と関心から生まれ出ずる創造性を阻む4つの壁を徹底して取り除きます。」

4つの壁とは、

・正解を一発で出すそうとする気分

・失敗=悪いという気分。

・「まじめ」や「客観的」が正しいという気分。

・範囲・枠にこだわる気分

簡単にいうとプレイフルを大切にしているということである。

 

Twitter icon
Facebook icon