Created on 3月 3, 2017
首都圏入試の熱も冷めやらぬ2017年2月19日(日)、「第1回新中学入試セミナー」が和洋九段女子中学校高等学校にて、21世紀型教育機構の主催で行われました。
先進的な取り組みである21世紀型教育を推進する学校の先生方が中心となり、「2018年度 様変わりする中学入試を予想する」をテーマに実施。
各校で行われている21世紀型教育の実践内容やその教育に対応する資質を測る入試について、それぞれの立場から見た講演やパネルディスカッションなどを開催。私立中高一貫校の先生方をはじめ、多くの教育関係者や受験生親子が一堂に会しました。(教育見届け隊ライター/市村幸妙)
今春2017年の中学入試で爆発的に実施校が増え、注目を集めた新入試――「思考力入試」や「英語入試」、「適性検査型入試」。
今回行われたこのセミナーでは、これらの新しい入試から2020年の大学入試改革の狙いを見定め、さらには日本と子どもたちの未来を支える21世紀型教育について実際に触れられ、理解できるものとなりました。参加した方々にとって、日々研鑽を重ねる先生方により行われている新しい教育の具体的な姿がより明確になったのではないでしょうか。
総合司会を務めたのは、工学院大学附属中学校・高等学校校長の平方邦行先生。
「従来通りの2科・4科入試に加えて、今年2017年度入試で激増した新しい入試、特に『思考力入試』や『英語入試』が、来年以降の教育界の変化を予感させるものなのではないか」と期待を寄せます。
2011年秋に発足した、この「21世紀型教育をつくる会」の経緯や概要について説明があり、さらに昨年9月12日に装いを新たに改組したことなどを報告。
「IBと同様のアクレディテーション機構として、各校が学校を上げて21世紀型教育に取り組むことを確認しました。欧米から受ける教育をなんとなくアレンジされたようなこれまでの日本の教育にくさびを打ちたいのです。日本の中から生み出された21世紀型教育を世界に発信したいという強い思いを持った団体です」と話す平方先生のことばに力が込められているのを感じました。
平方先生は、教育関係者に混ざって見受けられた受験生親子にもわかりやすいよう、講演の大切なポイントをまとめてくれました。
プログラムは「講演」、「パネルディスカッション」、「展望」の3部制で行われました。
第Ⅰ部の講演者は以下の3人の方々です。
【講演①】テーマ:2020年大学入試改革に影響を与える私立中高一貫校の教育
まず登壇したのは、21世紀型教育機構理事長であり、富士見丘中学校・高等学校理事長・校長の吉田晋先生です。
富士見丘は、SGH(スーパーグローバルハイスクール)として「サステイナビリティ=持続可能性」という観点などから、様々な社会問題を探究する課題解決学習に取り組んでいる学校です。
今回の講演では高大接続改革について、なぜ今行われる必要があるのか、社会構造から考える企業のあり方や大学選択、現状の受験生親子における中高選択の動機について、丁寧な解説が行われました。
同時に2020年を待たず今後の大学入試において、最大の目玉となっている英語入試と4技能の英語教育についての説明がなされました。文科省への提唱やさらには主体的に動くことのできない大学生の増加と、その原因・責任を高校に押し付ける大学の姿勢に対しても檄が飛びます。
だからこそ、この入試改革や高大接続改革には大きな意味を見出されています。「カリキュラムポリシー、ディプロマポリシー、アドミッションポリシーの3つのポリシーを大学が明確にしていくことで、受験生は大学名に捉われない、自分の将来や夢、目標に沿った大学選びが可能になります」と力強く語り、同時に「脱・偏差値」の考え方を提唱した吉田先生。
さらに富士見丘において「社会的グローバル人材として活躍できる教育を行っていきます」とより一層の教育の充実について宣言するのでした。
【講演②】テーマ:2017年中学入試分析と2018年の新展望
次に登場したのは、首都圏模試センター教育情報部長の北 一成氏です。主に新しいタイプの入試である「適性検査型(思考力)入試」と「英語入試」に焦点を当てた講演を行いました。
まずは今年2017年度入試の総括から。中学受験者数は、この4年間で少しずつですが上昇し続け、現在は首都圏では15%を超えていることが伝えられました。
なお、2月1日午前の実受験者数として発表されたのは3万7,201人。Web出願の増加により、一見受験者数は少ないように見えても実受験者数は増えていると北氏は指摘します。
注目すべきは、いわゆる従来型の2科・4科型入試の受験生数は減少傾向にあるということ。その減った人数を補っているのが、新聞やテレビ、ラジオなどでも話題になった「思考力入試」や「英語入試」といった新しい入試形態です。さらに、これらの入試の中でも形態は各校それぞれで、プレゼンテーション型や得意な科目を選択するタイプ、そして協働作業を行うものも出てきているということです。
来年度以降、これらの入試の導入を検討している学校が多いそうで、「来年以降もさらに増え続けるでしょう」と北氏は言います。
全体傾向としては、2020年の改革時期が不透明なため、大学付属校に人気が集まっています。またアクティブラーニングのメソッドが確立している学校は引き続き人気であることなどが、綿密なデータ収集や取材に基づき、具体的な注目校名と入試内容などが伝えられていきます。
そのなかには、この後のパネルディスカッションで登壇予定の大橋清貫先生が学園長を務める、三田国際学園の名前も上がります。
今春入試で125校が実施した「適性検査型(思考力)入試」について北氏は、「新しい入試は“希望の入試”です。これまで私立中学受験に関心を持たなかった保護者が私学へ目を向け、私学も豊かな資質と高い意識を持った生徒を迎えることができるためです。さらに、これらに関心を持つ保護者は、多くが大学入試の先を見据えている」と言います。
偏差値や大学合格実績などのデータに縛られず、我が子にあった学校選びを行い、私学も意欲のある子どもたちを受け入れる大きな機会となっていくのです。
【講演③】テーマ:21世紀型教育の果実そしてフューチャールーム
講演の部を締めくくるのは、21世紀型教育を今年度から本格的にスタートさせる和洋九段女子校長の中込 真先生です。今春の入試では、1897年に創立された伝統校が取り入れる21世紀型教育に受験生の期待が集まり、注目度の高い学校として人気が出ました。同校は今年生まれ変わり、歴史の1ページを新たに刻み始めます。
同校では、まずルーブリックで教育の指標となる示す方向性を探りました。最初は個人から始まって、その後に集団となり、最後は思考や発信力、対応力、通用する世界観も広がり深まりながら、世界へと広がっていくイメージなのだそう。
中込先生は「PBL(Problem based Learning)授業をすべての教科で取り入れ、自ら発信できる生徒を育成します。将来は社会に貢献できる女性に育ってほしいです」と笑顔で話します。
伝統校の和洋九段女子ですが、これまでの価値観も新たに位置づけし直し、時代に即した新たな息吹が吹き込まれました。
中込先生は、このルーブリックを整備したことによる良かったことの一つに、目指すべき道標があるため例えば学年ごとの研修旅行や文化祭などの学校行事でも「例年通り」ということばは使う必要がなくなったそうです。
また小グループにまとまりがちな女子の特色が、共感から協働へと、小さく育てて大きく飛躍させる学びの広がりのテコになることも改めて確認できるようになったということです。
学校としての大きな改革元年となった2017年、和洋九段女子はPBLとICTリテラシーを磨くこと、さらに充実した英語教育を掲げ、多様性を受容しながら飛躍する生徒たちを育てていきます。
なお、「フューチャールーム」とはPBLのための実験室のような視聴覚を中心とした教室です。同校を訪れた際にはぜひ覗いてみてください。
パワーポイントの画面をスマホなどで撮影する関係者や保護者が多数いたことは、現代らしい様相の会だったのでしょう。それらのエッセンスを惜しげもなく披露された講演者には今後とも発信を楽しみにしたいと思います。