聖徳学園 国際貢献プロジェクト学習の成果

3月14日、聖徳学園で「日本にいながら出来る国際貢献」授業の成果報告会がありました。高校2年生全員が1年間かけて、担当する国の抱えている問題を分析し、自分たちができる貢献を行っていくというグループプロジェクトです。グループに分かれて実践してきた活動成果をクラスの代表者が発表しました。 By 鈴木裕之 :海外帰国生教育研究家

国際貢献するという気持ちが大切であるのは、ユネスコ憲章前文の有名な一節「心の中に平和のとりでを築く」を引くまでもなく、相互理解を通じた平和の実現につながるからです。一方で、国際貢献するという気持ちは、情報や知識の伝達のように簡単に届けられるものではありません。いくら講義によって「現実」を伝えたとしても、それが貢献という行動を起こすことに至るのは難しいものです。

聖徳学園のグローバル教育センター長の山名先生は、「人と人との繋がり」に注目します。そこにこのグループプロジェクトの眼目があります。さらにその「繋がり」は、外に出る体験ばかりではなく、想像力によって見えない他者にも及んでいくのだと語ります。

今回のプロジェクトで生徒たちが担当した国は、パナマ、インドネシア、ルワンダ、ミクロネシア、ラオス。名前は知っていても、実際に人々がそこでどんな生活をしているのかまでは、多くの人はよく知らないのではないでしょうか。山名先生は、JICA(国際協力機構)の職員と協力しながら、クラスごとに担当の国を割り当て、そこから生徒たちの探究心が湧き起こるような設定をしました。5つの国を比較して調べるのではなく、自分の担当国が決められるというのは、自分の生まれる国を選べないことと同様、ある種の「運命」とも言える前提です。それが定められるからこそ、その国の人々に感情移入し、真剣に問題点を探ろうとするのです。

それぞれ異なる国から支配を受けてきたこれらの国々を歴史的に見てみることも一つのアプローチとして興味深いことです。しかし、貢献という視点から考えるとき、歴史に問題の所在を求めても解決にはなりません。生徒たちは、それぞれの国が抱えている問題をどうすれば少しでも解決に近づけるのか、今自分たちが日本にいながらできることを現実に実行していくことに集中していました。そういう意味ではこの1年間のプログラムは、PBLのモデルであると言ってよいでしょう。

PBLの推進機関であるBIEのジョン・ラーマー氏は、PBLに必要な要素を4つ挙げています(EDUTOPIA「PBL: What Does It Take for a Project to Be "Authentic"?」より)。

  1. そのプロジェクトが教室を越えた現実世界のニーズを満たすか、または生徒の生み出したものが現実の人々に利用されること。
  2. そのプロジェクトが生徒の生活に関わりのあるトピックや問題(または近い将来彼らが直面する問題)にフォーカスされていること。
  3. たとえそのプロジェクトが架空の状況設定だとしても、現実的なシナリオやシミュレーションに基づいていること。
  4. そのプロジェクトが実際の現場で大人や専門家が使用するツールやタスクを伴っていること。

聖徳学園の国際貢献授業では、途上国の衛生に対する意識を向上するためにポスターを制作したり、途上国への関心を高めるためにブログやツイッター、ユーチューブなどのソーシャルメディアに記事や動画を掲載したりするなど、上記の要素を満たし、なおかつ現実社会にイノベーションを起こすレベルにまでチャレンジしていることが分かります。

「模擬国連」が国の代表として政策をシミュレーションし、交渉という政治的側面に意識を向けるのに対して、「国際貢献授業」は、一市民の視点からできることを考えるという点に特徴があります。同時に、自分一人ではできないことがことがあるという限界への気づきが、仲間や関係する外部団体との連携に繋がっていくという好循環を生み出しているのです。こういう活動を通して、中には国際政治の舞台に立とうとする生徒も出てくるのでしょう。聖徳学園では、両者のバランスがうまく配分されています。

高2生5クラスの発表が終わると、オーディエンスであった高1生とのグループディスカッションが行われました。このディスカッションによって先輩の経験が後輩たちに手渡されます。もちろん後輩たちが担当する国は先輩とはまた異なる国になるのかもしれませんが、国についての情報や知識よりも、もっと大切な気持ちが引き継がれるのです。

さらにこの気持ちはⅠCTによって増幅されます。ツイッターやYoutubeは彼らにとって、ポスターを作るのと同じ感覚です。それは、世界に一斉に配信されるという意味で大きな可能性を秘めています。当然リテラシーは磨かなくてはいけません。使う言語についても、日本語で発信するのでは効果は半減以下です。現地の人に届けるメッセージであれば、英語でも効果は薄いかもしれません。ですから、生徒たちは、現地の言葉やイラストを駆使してメッセージを伝える努力をしていました。

聖徳学園では、今年東京大学への合格者を輩出しました。PBLとグローバル教育、さらに英語やICTが組み込まれる学びが、大学進学準備という側面からも評価されるようになる日も近いのではないでしょうか。

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