PBL

富士見丘 SGH サスティナビリティ演習の成果

富士見丘は、SGH(スーパーグローバルハイスクール)アソシエイト校及び認定校として3年間プログラムを開発し実践してきた。慶応義塾大学理工学部や慶応義塾大学SFC、上智大学など多くの高大連携プログラムと同校の教員による「サスティナビリティ演習」という新教科プログラムがDNAのように相まって、相乗効果を生んでいる。
 
今回高2の生徒が1年間「サスティナビリティ演習」を行ってきて、いよいよシンガポール、マレーシア、台湾などフィールドワークに出発する前の授業を取材した。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
生徒は、マレーシアグループとシンガポールグループに分かれ、それぞれ3人ずつくらいのチームに分かれてプレゼンの練習をしていた。プレゼンをしていは、他のチームや先生方からフィードバックをしてもらい、プレゼン内容やパフォーマンスのブラッシュアップをしていたのだ。台湾へは、すでに一足先に旅立っているということだった。
 
一行は、各国のサスティナビリティ関連施設などを訪れ、説明を受けたり、連携高校との交流がメインになる。各チームのプレゼンを聞きながら、共通のコンセプトが見えてきた。
 
 
プレゼンは、日本の現状とマレーシア、シンガポールの比較スタディをしながら、互いの違いを見出していくのだが、その比較のポイントが各チームによってかなり具体的に絞られており、そのポイントにおける違いと共通点を見出していく。
 
幼児教育、都市づくり、経済成長と環境教育など、1年間サスティナビリティ演習で多角的に調べ考えていくトレーニングを経ながら、各チームが問題だと思ったことをいかに共創的に問題解決していくのかというのがコンセプトだったのだろうと推測させるに充分なプレゼン内容だった。
 
チームのプレゼンのあとに向こうの国の人と、このプレゼンを通して何を共有したいのか教えて欲しいと頼むと、間髪入れずに教えてくれる。私が尋ねたのは、彼女たちのプレゼンにその内容がなかったからではなく、プレゼンが、すべて英語で行われたので、私がついていけなかったからだけにすぎない。
 
「日本の都市とマレーシアの都市の比較をするのだけれど、どうしても向こうの都市のことについては経験が少な過ぎますから、先入観がどうしてもあります。だから、私たちの仮説を聞いてもらい、先入観を打ち砕いてもらうのと同時に、互いに環境にやさしい都市づくりの問題やその解決を考えられないかというのがポイントです。互いに共通する重要な問題をシェアできると期待しているし、シェアできたとき、本当の交流が生まれると思います。」
 
 
考えてみれば、富士見丘は、カリフォルニア州の修学旅行や3ヶ月留学、長期留学など海外体験は他校に比べ圧倒的に豊かであるが、互いに共通の自分たちの身近な問題であると同時に世界共通の問題でもある重要性を共有して、共創的問題解決をしていこうといのは、海外の学びのレベルがあまりに高すぎるではないか。
 
それにしても衝撃的なプレゼンテーションがあった。それは経済成長と環境教育の関係について論考して見事な英語でプレゼンしたチームがったからだ。
 
日本とマレーシアの経済成長率の比較をしながら、日本の先進性とマレーシアの発展途上の差を見せつける推移グラフから始まった。これは相手の国の生徒はなんて思うのだろうと、ドキドキしたが、その後すぐに、どんでん返し。なんともスッキリ爽やかな進行になった。
 
 
高度経済成長時期の両国の差があったが、その時、日本ではイタイイタイ病や水俣病のようなあまりに酷い公害問題が発生した。その問題解決を、環境庁がどのように対応したか、そして教育では何が行われたかを語り、現在日本は、環境にやさしい経済社会を創ろうとしており、私たちも教育で参画していると。教育では、環境問題について学ぶ機会が織り込まれているからだと。
 
マレーシアは、もはや日本に追いつき追い越そうとしている。そのとき、環境にやさし経済社会をはじめから作る準備をしておけば、日本のようにならない。
 
それに、教育といっても、知識を得るだけでは役にたたない。アクティブに行動しなくてはと。そして、私たちも3・11で震災被害を受けた釜石に実際にいって、市民の方々と語ったり、インタビューをしたりして、同じ日本人でもテレビや新聞だけではわからないことが余りに多すぎることにショックをうけた。
 
自然災害や環境問題についてもっと積極的にかかわらなければならないという私たちの意識がアンケートの結果でもはっきりでたとグラフをバーンと映し出した。だから、アクティブな教育は役に立つのだと。なんて説得力がるのだろう。
 
 
20世紀に日本は経済成長社会を目指してきたが、その矛盾を明快に論じ、マレーシアの行く末を気遣い、そうならにように私たちが何ができるかいっしょに考えましょうというプレゼン。
 
写真あり、グラフあり、フローチャートありで、見事なパワーポイントであった。また自分たちが共有する問題は、国連が採択したグローバルゴールズとも共通する。それほど重要な問題なのだと説得力ある事例を畳みかけるプレゼンでもあった。そして、さらに驚いたのは、母国語のように英語を語り、聴衆を共通の世界に巻き込むパフォーマンスだった。
 
 
さすがは在校生に帰国生がたくさんいる富士見丘だと思ったら、なんと富士見丘で英語を学んだ2人だった。休んでしまったもう一人の生徒は帰国生だったが、2人は違うのだと。
富士見丘の英語の環境は、一般生が帰国生と同じようなレベルになる環境を開発しているということを示唆しているのではあるまいか。
 
だから、帰国生が口コミで評判を聞いて富士見丘に入学してくるのだろう。いろいろ納得させられるサスティナビリティ演習の一コマであった。
 

工学院 21世紀型教育改革の基盤できる

2013年4月、平方先生は、工学院大学附属中学校・高等学校の校長に就任するや、21世紀型教育改革にとりかかった。IBやSGH、ブルームのタキソノミー、CEFRなどのリサーチやフィールドワークに教員を巻き込みながら、PIL×PBL型の授業改革を断行。
 
 
(工学院の教育改革の歴史と未来を語る平方校長)
 
 
2014年度にはいるや、教員全体でPBL研修を行い、そのためのプロジェクトも立ち上がった。そして、まずはじめに「思考コード」という基準作りを行った。このコードに従って、PBL型授業の見学をし、思考コードの軌道修正もした。この年の中1は、2017年に高1になるときに大きく改革ができるように準備がスタートした。この準備が、次の年のハイブリッド構想の設計図となった。高1の3ヶ月留学も開始した。このプログラムが在校生全体の意識を高める力にもなった。
 
2015年には、プロジェクトチームはiTeamというイノベーションチームに進化し、思考コードで定期テスト分析をするまでに進化。S-P表も活用し、授業改善、生徒の弱み強みの共有、問いの質のアップなど、データサイエンス的な議論が学内でできるようになった。
 
同時に英語教育もC1英語を目標に、ケンブリッジ出版のCLIL手法が埋め込まれているテキストを活用。中1のハイブリッドインターナショナルクラスが立ち上がった。帰国生や英語体験者が多く、英語ばかりでなく、数学、理科、社会もオールイングリッシュで展開することになった。
 
 
(思考コードベースの授業×テスト×評価の三位一体改革について語る太田教務主任)
 
2014年にスタートした「思考力テスト」のもとになったデザイン思考の新しい授業もパワフルになった。中学生全員iPadをもち、one to oneの授業展開も繰り広げられた。
 
何より、高橋一也先生(現教頭)がグローバルティーチャー賞トップ10入りして、学内全体の21世紀型教育改革は拍車がかかった。
 
2016年には、ハイブリッドインターは中1、中2にしか設置されていなかったが、その先駆けとなった中3の生徒も全員iPadを授業で活用するようになり、思考コードに基づくC1英語×PIL×PBL×ICT教育×リベラルアーツの現代化という21世紀型教育改革の方程式が完成した。
 
特に2016年は、iTeamを高橋一也教頭を中心に、TOK(田中英語科主任、太田教務主任、加藤学年主任兼eTeamリーダー)という3人の先生がリーダーシップを発揮し、学内全体にコーチングシステムを浸透させ、21世紀型教育改革を推進する「学習する組織」を持続可能なものにしている。その一環として、太田先生をリーダーとした若手教員のiTeamキャッチアップ研修も立ち上がって、日々研鑽自己マスタリーに励んでいる。
 
 
(英語教育について語る田中英語科主任)
 
2017年は、中学全体の21世紀型教育改革の基盤はかなり盤石になったので、いよいよ高校1年を手始めに21世紀型教育改革を本格的にスタートする。もちろん、忘れてはならないことは、この過渡期にあって、大学進路指導の改革も同時進行で行われていることである。高2、高3は改革の完成を待つことはできない。いまここでが最重要である。進路指導主任の新井先生が指導に集中し尽力し、21世紀型教育改革を未来につなぐ力技を遂行している。
 
2017年1月14日、2017年度中学入試のファイナル説明会が行われた。いつもの会場では収まりきれないほど多くの受験生親子が参加したので、急遽隣接の工学院大学の大講義室を活用。
 
この21世紀型教育改革の歴史を、平方校長が語り、次に教務主任の太田先生が、授業改革について具体的に語り、さらに英語科主任の田中先生が、英語教育改革の実際的な効果を生徒の活動の動画を使いながらスピーチした。
 
 
(思考力セミナーを主宰している高橋一也教頭)
 
同時に中高校舎の図書館では、PBLスタイルの「思考力セミナー」を高橋一也教頭をスーパーバイザーに思考力入試チームが実施していた。ある都市の気候現象のデータをもとに、都市の在り様を洞察していき、最終的には自分の考案するドリーム都市をレゴで作り上げるところまでいく。リサーチには、参加者はiPadも活用。
 
データリサーチから始まり、分析をしていき、発見した構成要素を論理的につないでいく過程を、個人ワークとグループワークを組み合わせながら歩んでいく。そして最後は自分の考えるドリーム都市をレゴでプロダクトするのだが、現実の都市とドリーム都市のギャップをクリティカルに考える過程も埋め込まれている。
 
このプロセスの中で際立っておもしろかったのは、分析段階で、クリエイティブシンキングを活用しているところ。分析だから論理的ではあるのだが、おもいきり仮説を挿入するから、そこはクリエイティビティが必要となる。
 
 
つまり、これはどういうことかというと、情報→理解→応用→論理→批判→創造という思考の次元をリニアー(直線的)に進むのではなく、クリエイティブシンキングを挿入して、ループあるいは螺旋を描きながら考えていくプログラムになっている。そう「プログラム」。コンピュータのプログラミングにも相当するフローチャートループが埋め込まれている。
 
2017年、思考コードにプログラミング思考が新たに加わる。STEAM教育やCLILもスタートする。隣接する大学のいわばSTEAM研究棟も新設され、そこを中高も共有できる。高1でもハイブリッドインターナショナルクラスが開設され、帰国生も入学してくる。新宿キャンパスの活用も検討されている。
 
 
(最終保護者会では、「英語入試」の傾向と対策について田中先生が説明。英語入試の受験予定者のために別室で行われた。)
 
そして、まだ企業秘密ではあるが、平方校長によると、日本初のプランが予定されているという。工学院の21世紀型教育改革はさらに進化する。なにゆえにこうなのか?教員のありたき「学習する組織」を協働して創るモチベーションや情熱が大きくなっているからだ。Growth Mindsetされた教師が外からもどんどん参画したいと応募してくる。もちろん、その魅力はTOKを中心とするITeamによる涙ぐましい創意工夫とプロデュースによるのである。(by 本間勇人 私立学校研究家)
 

聖学院 PBLの成果

昨今中学入試において、適性検査型入試や思考力入試は、トレンドになりつつあるが、すでに聖学院は、2012年から思考力テストに取り組んできた。なぜ取り組むことができたかというと、これもまた今でこそアドミッションポリシーとかカリキュラムポリシーという言葉が、中学入試においても使われるようになったが、当時から聖学院は、教育の内容を入試に反映させていた。
 
つまり、思考力入試を行うには、そこに反映される授業が展開していなければならないわけである。その頃、聖学院は、文化祭や物理部の高大連携、タイ研修旅行などに、プロジェクトマネジメント手法を取り入れ、授業にもPBL(Project based Learning)を導入する授業改革に着手していた。
 
アクティブラーニングが今のように喧伝されていない時代に、聖学院は、はやくも時代精神を読み解き、動きだしていたのである。そして、その成果は学内で着実に生まれている。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
2017年1月14日、聖学院講堂で、最終2017年度中学説明会が行われた。戸邉校長の「世界の最前列で輝く男子に」というスピーチに誘われて、中1と高2の在校生が登場。清水副校長とトークセッションが始まった。
 
飾らない自然体のトークは、まさに世界の最前線においても、オープンマインドで柔らかい共感的なコミュニケーションができる姿を示唆していた。どうして、このように成長するのかというと、その場の状況に合わせて、自分の考えを表現する場数を踏んでいるからである。そして、その場数のトレーニングがPBLという探究学習である。
 
 
今では、中学のロングホームルームは、すべてPBLスタイルで行われているし、多くの授業にもこのスタイルの授業は広がっている。もともと国語の授業などでは、毎回3分間スピーチが取り入れられていたし、単元の終わりの方では議論、ディベートが組み込まれてきた。それに、なんといっても同校の図書館が学びの拠点として機能しているために、PBLの浸透速度は速かったといえる。
 
説明会で登場してきた生徒だけに特別なのかというと、学内の多様なイベントやポスターセッションなどでの多くの在校生の活躍を見れば、すべての生徒が共通して醸し出しているコミュニケーションの雰囲気であることが了解できるだろう。これを教育の成果と言わずして、何を成果と言うのだろう。
 
もちろん、大学合格実績も成果の一つであるから、聖学院の進学実績の好調さで判断しても良い。しかし、人間としての姿と大学合格実績としての結果の両方が揃っている学校は意外と少ない。
 
さらに、説明会と同時開催された思考力入試対策講座である「思考力セミナー」も中学入試説明会の風物詩として、多くのメディアでも取り上げられるようになった。
 
 
同校の思考力入試は「ものづくり思考力」と「記号論的思考力」の2種類ある。前者は、自分の発想をデザインしながら考える過程を楽しむ思考力入試で、後者は言語や写真、図形、数字などの記号を素材として、自分の先入観や視点を転換して新たな自分を発見する過程に目を輝かせる思考力入試。
 
まさに知の世界の最前線で輝く体験ができるセミナーだし、入試なのである。受験であるから選抜機能はもちろんがあるが、それに挑戦することで受験生は自分の成長を受けとめることができる。ある意味才能発掘入試でもある。
 
今回は、立体図形をモチーフにした思考力セミナーが行われた。はじめに9つの立体が提示され、二つに分類するところからはじまった。分類の基準である視点によって、分け方は変わる。視点が変われば世界は変わる体験。
 
 
しかし、この程度のカテゴライズは、参加した小学生にとっては当たり前で、当たり前だと視点が変わればものの見方も変わるという考え方は、だから何なんだとなる。
 
そこで、実はこの9つの立体図形は、すべて同じであると考えることもできる、その理由はなにか議論してごらんと。生徒たちの間には、なぞなぞでも解くのかという不思議な気分が流れる。それぞれの図形に補助線を書いたり、もってきたモノサシをあててみたり、創意工夫するのだが、なかなかこれはという理由が見つからない。
 
それもそのはずだ。その創意工夫の行為そのものが、すでに硬い幾何の発想に規定されていたのだ。そんなとき、スクリーンに、マグカップがドーナツに、ドーナツがマグカップに変容する動画が繰り返し映し出された。
 
 
そして、アーとか、なるほどとか、生徒の歓喜の声があふれでた。ここでスーパーバイザーの本橋先生からトポロジーという現代数学の柔らかい幾何の考え方が解題された。
 
トポロジーという柔軟な「置き換え」は、ノーベル化学賞などの受賞者が、新物質の発見や作成の時に活用する考え方でもある。
 
つまり、聖学院の数学科にとって、数学は、領域横断的な数学的思考をベースにした授業を展開する教育を実施しているのであり、それが入試に反映しているのである。もちろん、80%は演習なので、安心して欲しい。同校中学入試にも一般的な算数の試験もある。
 
 
しかし、ここで大事なことは系統的な堅固な学習と既成の考え方を転換する柔軟な学習としての探究学習の両輪が、今後の中等教育では必要であるということなのである。
 
実際、IBやAレベル、APコースといった欧米の数学では、自然現象、政治経済、哲学、社会学、心理学、医療など様々な分野で実際に適用できるようにカリキュラムが組まれている。これをリベラルアーツの現代化と呼びたい。
 
2020年大学入試改革で、日本の数学の学習指導要領がここまで追いつくかというとおそらく難しいだろう。しかし、生徒の未来は、いまここから始まっている。学習指導要領の改訂を待つのではなく、すぐそこにやってくるAIやBT生活の大前提となるクリエイティブ社会に対応するには、独自のリベラルアーツの現代化に挑戦する以外に道はない。
 
 
聖学院の思考力入試やPBL型授業や教育活動は、その道を確固たる信念で歩んでいける大きな成果を生み出し、まさにその道のかなたに、「世界の最前列で輝く」人間に育っている聖学院の生徒の姿があるのである。
 

八雲学園 グローバルリーダー養成WS 英語教育の一環

八雲学園の教育は総合力ということを大切にしている。総合力とは、生徒一人ひとりが、多様な学びの環境や体験を通して、自分の世界を広め深めていくことである。もちろん、自分の世界とは独我論ではない。ウェルカムの精神を大切にしているのが何よりの証拠である。価値観や考え方、文化の違いを尊重しながら、自分の世界を世界中の人々が共感してくれる表現活動ができるリーダーシップ教育が、八雲学園の教育の総合力である。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
八雲学園の英語教育はあまりにも有名であるが、その教育がグローバルリーダーを養成するプログラムに連なっているという理解は意外と広まっていない。
 
中1にはいって、 すぐにレシテーションコンテストがある。英語力を育てる環境の1つであるが、学年全体、保護者の前で、自己表現に勇気をもって挑戦する機会でもある。
 
中2になるとスピーチコンテストに発展し、英語力にこんどは自分の世界を広げる作業がいよいよ本格的に始まる。
 
 
中学では、イングリッシュファンフェアといって、日本在住のネイティブスピーカーの講師80名とチームになって、いわば異文化交流カンファレンスを企画運営する。交流に参加する側であり、同時に運営する委員会集団でもあって、リーダーシップと個人の世界の両方に目配りする機会が開かれている。
 
文化祭や英語祭では、英語劇を行う。中3になるにつれて、ミュージカル風に発展するが、音楽ありパフォーマンスありで、自己表現のいわば総合芸術化が行われる。この段階では、英語力といより、人間と言語と芸術を総合的に体験することになる。
 
そして中3から高1になる春休みにサンタバーバラに全員で海外研修旅行に挑戦。姉妹校のケイトスクールの先生や生徒とも交流し、中3までに積みあげてきた英語力と人間力と自分の世界観を土台にコミュニケーションしてみる。
 
そして、ワクワク楽しい研修旅行を体験しながらも、ただそれだけでは本当の世界コミュニケーションができるわけではない。もっと英語力をもっと海外で勉強をということになる。毎年夏前に行うイエール大学との国際音楽交流で、その思いはますます募る。
 
 
そのモチベーションが、3ヶ月留学を生み、ラウンドスクウェアという世界のエスタブリッシュ私立学校400校のコミュニティのメンバー校になる機会もゲットした。
 
それは、いわば、世界の私立学校による世界会議で、そこで話し合うことは、文化交流のみならず、世界の問題を議論し、世界をよりよくするためには自分たちはどうしていくかというグローバルリーダーの資質を試されるビッグチャンスでもある。
 
そして、実際にそこに参加した勇気ある八雲生は、いくら歴史の知識や環境学の知識や政治経済の知識を持っていても、英語が堪能でも、世界に対する高い問題意識と自分なりのアイデアを持っていないと、議論に参加できない。参加できないということは貢献できないということと同じ意味なのだということを思い知らされて帰ってきた。
 
1人世界について思い巡らしているだけでは太刀打ちできない。やはりもっと勉強して、もっと議論する機会が欲しい。菅原先生と近藤先生は、すぐに彼女たちの想いをカタチにしようと奔走し、まずは有志が集まってグローバルリーダー養成WS(ワークショップ)をスタートした。
 
 
はじめ、身近な小さな出来事が世界の大きな問題につながっているという議論をしていこうと思ったようだが、先生方の期待を大いに裏ぎり、いきなり権力の弾圧の問題や家庭と社会の問題、なぜ不平等社会が生まれるのか、正義とは何か、高い意識のディスカッションがとびかった。
 
幾つかのグローバルゴールズ達成のためのフローチャートをチームで議論し、プレゼンもした。そして、まだまだ議論すべき新たな問題が生まれてきた。
 
菅原先生と近藤先生に、議論が自分の世界を掘り下げて行く経験がいかに大事か改めて実感できたので、このような機会をこれからもつくっていきましょうと大いに盛り上がった。
 
八雲学園の教育は、こういう体験の中から生徒自身の欲求にこたえる形で深まっていく。グローバルリーダー養成WS。また一つクオリティの高い教育が生まれた瞬間だった。
 

富士見丘 アクティブラーニングのスーパーモデル

富士見丘では、SGH(スーパーグローバルハイスクール)認定校として、プロジェクト学習のベースであるアクティブラーニングが学内に浸透している。SGHは高校のプログラムであるが、同校は中高一貫校の強みを活かして、中学でもそのエッセンスを実施。破格のアクティブラーニングのプロトタイプが完成した by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
中学1年では、昨年からLHRの時間を使い年間8回ぐらいアカデミックスキル基礎講座を行っている。ベースはアクティブラーニングで、その特徴は次の5つ。
 
1) 思考スキルとして、「比較・対照」「理由・根拠」「抽象化」「カテゴライズ」などをプログラムの中に埋め込んでいる。
2) 知識は論理的思考のエネルギーとして、思考と分離しないで融合させている。
3) ディスカッションと個人ワークの時間のメリハリをつけている
4) 模造紙、ポストイット、ロイロノート、iPad、電子黒板などアナログとデジタルの思考ツールのバランスの良い組合わせをデザインしている。
5) 創造的思考、批判的&論理的思考、共感する力、協働する力、ICTリテラシーの5つのメタルーブリック(思考コード)をもとに、タブレッドによる自動リフレクションシステムを開発している。いわゆる≪higher order thinking≫が基礎になっている。
 
 
中1の7回目のアカデミック基礎講座のトピックは、「フローチャートづくり」。学びのパターンは、身近な体験を通して「フローチャート」の意味を見出すということ。具体から抽象へシフトすることで、今度は別の具体的な現象に応用・適用ができる。
 
美濃部先生によると、「とくにフローチャートは、授業でのみならず、行事や生徒会で活動を運営する際にも適用できるし、なんといってもICTによるプログラミングの基礎的な考え方だから重要なんだという実感を生徒と共有したい」ということだった。
 
 
部屋の掃除ついて話し合っているテキストを読んで、掃除の手順のフローチャートをまずは自分で考え、チームで一つのフローチャートを創っていく。個人の考えを明確にしてから、ディスカッションすることで、軌道修正することになるから、自分の論理をクリティカルシンキングすることにもなる。ここに多くの気づきが生まれる。
 
リフレクションの全体の結果をみると、カテゴライズは、前回よりも十分に行ったという結果になっていたから、フローチャートの意味・意義を生徒は体感していたことになる。美濃部先生のプログラムデザインの目的はうまくいった。
 
 
また、個人ワークで考えてまとめて、さらにロイロノートでシェアしたりしたから、一人ひとりは没頭したという反応が前回よりも強くでていた。アクティブラーニングはともすると拡散して終わりになる。それはそれでよいのだが、たとえ短くてもいったんまとめて抽象的思考に飛ぶことに没頭する瞬間をつくりたいという美濃部先生の想いと創意工夫はある程度達成された。
 
一方で、今回は、ICTリテラシーに関しては、調べたり編集したりするためには使わず、ロイロノートをおもにシェアするために活用したから、前回ほど反応は高くなかった。リフレクションは、すべての反応が高くなることが目的ではなく、授業の目的に応じて反応が高い領域とそうでない領域がでるのが健全である。
 
 
そういう意味で、今回の授業は美濃部先生と中1の生徒の協働作業として成功したといえる。アクティブラーニングは、この瞬時のリフレクションシステムによって、生徒一人ひとりの取組みの強みと弱み、授業の強みと弱みが、教師も生徒も共有できる。
 
 
活動というのは、あらかじめイメージをして、その過程の中で試行錯誤と軌道修正のフローチャートループが出来上がると、成長思考につながっていく。そして、このフローチャートループの連続が、多様な価値観やものの見方・考え方を尊重しつつ、最適解としての結論や新たな仮説を導くことになる。
 
 
(個人のリフレクションシートも瞬時に出る。学年全体の集計結果の一部。それぞれの項目には5つの小項目がさらにあり階層構造になっている)
 
不確実性の時代は、正解は1つではないが、それだけに独善的な考えに陥りやすい。そうならないように、ディスカションしたり、協働したりしながら、最適解を共有していくことによって、難局を乗り越えていくことができる。
 
 
(カテゴライズしたかどうかの小項目は、批判的&論理的思考の項目に属している)
 
富士見丘のアカデミックスキル基礎講座は、この難局乗り越え体験のシミュレーションの場でもある。おそらくここまでのフローチャートループを完成させたアクティブラーニング授業は、世界でも類をみないであろう。
 

聖パウロ学園 生徒1人ひとりの希望を応援

聖パウロ学園は、高尾山に連なる自然豊かな森の中にある。少人数の高校がゆえに、生徒1人ひとりの才能を見出す学びの環境を大切にしている。もともと教師と生徒の「対話」がベースになっている授業やイベント、部活が実践されているから、知識偏重型の教育から、主体性・多様性・協働性という人間力と思考力・判断力・表現力という考える力を重視する転換ビジョンを掲げる学習指導要領の改訂は、大歓迎である。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
2017年1月9日、次の日の始業式の準備の一環として、教員全体研修が行われた。その名も「学園長勉強会」。高橋博学園長による21世紀型教育改革のビジョンを先生方1人ひとりと共有する勉強会。
 
そのビジョンとは、21世紀型教育改革は、知識をたくさん覚えてすばやく引き出せる能力だけを学力とするのではなく、生徒一人ひとりが、自分の関心のあることを、リサーチし、議論し、考えて深めて、自分の世界観やものの見方を広げ深めていける力を身につけていく学びの環境を創ること。
 
 
それぞれの関心を広げ深めていくのだから、その過程でオリジナリティ、クリエイティビティが豊かになる。一方で、その過程では、協働というチームワークが大切になるから、聖パウロ学園が大切にしているman for othersの精神も豊かになる。
 
それぞれの関心は、生徒1人ひとりによって違う。しかし、その関心を世界に広げていく学びのスキルは、聖パウロ学園のオリジナルでかつ普遍的な学びの理論に基づいている。
 
ただ、その学びの理論を今まで見える化して、学園の教師全員が共有するという研修はあまり行ってこなかった。そこで、今回「学園長勉強会」を通して、聖パウロ学園の学びのシステムの見える化を高橋学園長は企図したのだ。ワークショップ型の研修は、具体的で実践的な展開になるから、その過程で、わかった気になっていたビジョンを改めて実感できるようになる。
 
 
学園長自らがフォシリテーターになって、先生方と議論し、先生方が共通して持っている暗黙知としての学びの理論をシェアしていく。
 
題材は、昨年の東大法学部の推薦入試の論文問題。難民受け入れに対する3つの異なる考え方をディスカッションによってクリティカルに考え、自分の難民問題の解決策を提案する問題。
 
もちろん、高橋学園長は、この問題を先生方と解くことを目的とするのではなく、このような問題を解くには、聖パウロ学園としてどのようなキーコンピテンシーを育成していけばよいのか、またそのキーコンピテンシーを土台に、どのような学びのスキルを生徒とシェアしていけばよいのか授業の方法を語り合い、図に変換し、プレゼンする研修となった。
 
 
いわゆるアクティブラーニングのプロトタイプをワークショップ型スタイルで議論し、共有していったのである。
 
高橋学園長は、ふだんから、自己肯定感の低い日本の生徒たちが、聖パウロ学園の生徒のように、自分の関心ごとを広げ深めていきながら、自信をもち、自分の未来展望に希望が持てるようになってほしいと先生方と対話している。
 
そのためには、まずは聖パウロ学園の授業をその確固たるモデルにしていきたい、そのために定期的に「学園長勉強会」をいっしょにやっていこうと会を締めくくった。
 
 
そして、この研修を持続可能にし、かつ普段の授業で最適なカタチとするために、学習する組織にしたいと「プロジェクトチーム」を立ち上げることも付け加えた。
 
聖パウロ学園は、生徒一人ひとりの希望の実現をサポートする学習する組織を形成していく。今年の4月から迎え入れる高1は、2019年に大学を受験するから、2020年大学入試改革は一見すると関係がない。
 
しかし、すでに4技能英語は前倒しで改革が行われているし、高校時代の学習履歴とクリティカルシンキングを重視する東大推薦入試タイプの入試問題も増えてきている。大学入試改革を待つまでもなく、学びの体験や思考力、コミュニケーション力は重要である。
 
 
(研修会終了後、リフレクションと今後のプランを議論するプロジェクトチーム)
 
そして、その学びのスキルや能力は、大学卒業後、激動の社会の中で人生を歩んでいくときにも必要なものである。聖パウロ学園の教育は、いまここで生徒1人ひとりが未来を創る力を身につけることを応援する新しい態勢づくりに挑戦しているのである。
 

聖徳学園― 創造性を解き放つPBL

聖徳学園の伊藤校長先生は、校長就任以来次々と学校外の団体とのコラボレーションを進めてきました。独立行政法人のJICAや大学の研究室、あるいは地元商店街や地域とのつながりも重視するなど、学校全体がまさにプロジェクト学習をしているかのようです。今回の訪問では、中1の2学期に10週に渡って行われてきた「シネマアクティブラーニング」と呼ばれるプロジェクトを見せていただきました。プロの映画監督とコラボレーションし、ICTを活用しながら進めている授業の様子をご紹介します。( by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家)

シネマアクティブラーニングというのは、映画監督である古新舜(こにいしゅん)氏が進めているアクティブラーニングで、映画作りを通して教科横断的な学びをチームで行っていくというものです。聖徳学園では、古新監督を講師として招き、トークノートやApple TV、それにiPadなどのICTツールを活用する形で独自のプロジェクト学習に仕立てています。

伊藤校長によれば、映画を学びの題材にしてみようという着想は、欧米の学校で行われる「演劇(Drama)」の授業から得たということです。台本にあるストーリーを再現するドラマの演出に加えて、「撮影・編集」という観点が加わる分、映画作りのプロセスは複雑になりますが、監督業を実際に行っている古新氏がファシリテーターとなれば、細かな枝葉を落として、核となる部分に学びをフォーカスすることが可能になるはずということで実現したプロジェクトなのです。

この日は、作品を仕上げるための最後の授業ということで、これまでの復習を兼ねて、古新監督が講義をするところから始まりました。小気味よいテンポと歯切れのよい口調で、これまで進めてきた映画作りのプロセスを確認します。生徒を引きつけながら、一斉授業は一斉授業として効率よく進めていく様子は、大手予備校の講師だったという古新監督の腕がさりげなく発揮されているところでした。

復習とリフレクションが終わると、チームに分かれて作品最後の仕上げを行う時間です。アニメーションの撮影を行うチームは教室に残り、その他のチームは撮り残しているシーンを撮影しに、教室から外へと出かけて行きました。

面白かったのは、台本に忠実に撮影をしていくところもあれば、その場のノリを大切にして台本にこだわらないところもあるなど、それぞれのチームの個性が表れてくるところです。中には、演じたいイメージが先にあり、そのシーンを挿入するために台本のストーリーをその場で作り変えているチームもありました。

古新監督は、どのチームのやり方も尊重し、何かを求められたときだけ助言をしていくというスタンスです。決して自分からあれこれ言わないのは、生徒が自分で気づくことに大きな意味があると、体験を重視しているからなのでしょう。

授業見学の案内をしてくださった伊藤校長は、各チームの撮影を見守りながら、「生徒たちは自分たちの映画が作品として完成した後に、一つ一つのプロセスの意味を振り返ることができてくるはずです」と、このプロジェクトの意義をジグソーパズルを完成させる作業に譬え、体験する学びに大きな意味があると強調されていました。

伊藤校長のお話を伺いながら、アウトプットすることで培われる学びの意義に改めて気づかされました。学びというとついインプットに焦点を置き、インプットがあってこそアウトプットができるかのように考えてしまいがちです。しかし、表現というアウトプットの機会が与えられることによって、自分の新たな可能性が開かれていくような学びだってあり得るわけです。

考えてみれば中学1年生は、つい半年前まで受験のためにインプット重視の学びをずっとしてきたのです。知識を持つことの重要性をいわば強迫観念のように刷り込まれてきた可能性すらあります。そのような学習観からすれば、映画作りにおいても、ストーリー構築や演技力・編集技術など、映画を制作する上で必要となる知識や技能を十分に身につけてから作品を制作するという発想をしてしまうかもしれませんが、そのような技能を重視し過ぎると、「上手くできる」ことに囚われて、自分らしい表現が阻害される場合もあるのです。

中学1年生の時期だからこそ、まずは体験しながら表現する機会をあたえようとするところに、聖徳学園の目指している教育の真髄があるように感じます。それは、生徒を教科という枠に閉じ込めるのではなく、自身を解放する方向に学びを転じようという態度です。そして、古新監督という「プロ」が指導にあたるからこそ、逆に、知識や技能を相対化して指導してもらえることもおそらく織り込み済みであったことでしょう。

まずは自分達のやりたいようにやってみる。そこから学びが始まるということがこのプロジェクトの意義であるわけです。

ICTは、このプロジェクトでも大活躍でした。ICTの環境をバックアップする横濱先生は、伊藤校長や古新監督と非常に良好な関係を築いていることがよくわかりました。授業の狙いや学校の目指す方向といったものを素早くキャッチし、一を聞いて十を知るが如くに必要な環境を整えていくのです。

技術的な興味関心を中心に考えるICT関係者も多い中で、授業に参加する先生や生徒たちの目線に立つことのできる横濱先生は非常に貴重な存在だと言えるでしょう。

iPadは、一人に一台が渡されているので、カメラを2台設置して違うアングルいから撮影することもできるし、一人が台本通りの撮影をしている一方で、その撮影シーンをメイキング映像風に撮るということも可能になります。撮影したものを違うチームにも共有する際に有効なのがApple TVです。また、トークノートというSNSはここでも大活躍していました。チームの打ち合わせは、トークノートを利用して授業前に共有されているから、授業時間は撮影等に有効活用できるのです。

ICTもまた自己を開放し表現するための強力な道具です。YouTuberを人気職業に押し上げるほど映像制作を身近なものにしたiPadやiMovieは、表現する行為を特殊な才能を持つ者だけのものから解放しました。一方で、映像制作以外の才能を発揮する人を活かすこともできるのです。絵を描くのが好きな子は絵を描くところを動画に撮って公開することができるし、野球が好きなのであれば、やはりその自分らしさを記録することもできる。

このようにして出来上がった生徒の作品は2学期の最後に上映会という形で発表され、いったん完結します。しかし、伊藤校長の頭の中では、次のピースがまた用意されていることでしょう。6年間の学びは、ジグソーパズルのような大きな完成図へと向かっているのです。

和洋九段女子 探究型アクティブラーニングの挑戦<2>

和洋九段女子のPBL型アクティブラーニングは、3つのscaffoldingがしっかりと形成され、その上に≪higher order thinking≫が展開されていきます。そしてその高次思考の重要なポイントは、「コペルニクス的転回」の仕掛けだったのです。
 
 
 

<コペルニクス的転回>

 
1) イメージ
 
宿題などで創造的思考ができる「足場」をつくって、授業が始まるや「30年後の社会はどうなっているのか」まずは1人ブレストとなるわけですが、ここは、生徒一人ひとりが、イメージを膨らませる重要な段階。勝手気ままな想像のように思えるかもしれないが、イメージを膨らませる足場がしっかり準備されているから、論理的な思考とイマジネーションは交差している。生徒がすぐにフロー(没入)状態になるには、考え込むのではなくイマジネーションの広がりがポイントなのです。
 
2) 事実
 
次に30年前の社会を振り返る対話が、水野先生と生徒の間で行われます。社会を支えるルールに焦点が与えられますが、それは現在ではすっかりなくなっているものもあります。つまり、制度設計は社会の変化によって変わります。
 
 
3) コペルニクス的転回
 
過去の事実にしろ、未来社会のイメージにしろ、実は現在のいまこで生活している自分の目で見ているものばかりです。グループでディスカッションをしているうちに、その見方が変わります。
 
しかし、自分が変わるだけではなく、社会のルールも変わることを認識するのです。1人ブレストとかグループブレストとか、「ブレスト」という言葉をキーワードにしていることからも、コペルニクス的転回=クリティカルシンキングが埋め込まれていることは了解できます。
 
今回は、自分が変わることと、時代が変わることの相関性についてはディスカッションしませんでしたが、いずれ、このようなPBL型授業が進行していけば、多様なものの見方をするようになった「自分軸」と時代の変化の関わりに気づくはずです。
 
天動説から地動説にパラダイムシフトすることによって、政治経済、自然科学、価値意識など大きな転換を果たしたように、自分と社会の変化の関わりは、大きな価値の転換に導くでしょう。
 
和洋九段女子のPBL型アクティブラーニングは、キャリアデザインも行われているということだと思います。
 
 

<学びの空間>

 
このように、≪higher order thinking≫のトレーニングのみならず、成長思考と訳されるGrowth Mindsetやものの見方を180度転回させてしまう価値の大転換まで生まれるPBL型アクティブラーニングを可能にしているものは、実は学びの空間のデザインによるところが大きいのです。
 
1) リアルスペースとサイバースペース
 
1人ブレストやディスカッションのシーンは、自問自答や対話を通して考えるシーンですが、同時にiPadでサイバースペースに入り込むし、フュ―チャールームの複数枚の大画面に投影されたサイイバースペースは、不思議な空間です。リアルな空間とサイバーな空間が交錯して、非日常空間が構成されているかのようです。
 
 
ここで重要な生徒たちの気づきは「可視化」ということです。自問自答をアウトプットして大画面に投影して可視化することによって、シェアができるのです。実はこのシェアは、フュ―チャールームだからこそ一瞬のうちにできます。一人ひとりが自分の考えをiPadに打ち込むと、全員の表現が一斉に投影されます。
 
まるで、リアルスペースとサイバースペースの交差が、時間をショートカットするかのような錯覚に陥りますが、それは錯覚ではなく事実です。今まで答案を集めて、印刷して共有するまでにどれだけ時間がかかったか計り知れません。それに、面倒だから、代表者の表現を共有するだけのケースが多かったのではないでしょうか。これでは、一人ひとりの才能を開花できません。
 
2) スタジオ
 
プレゼンする時は、スタジオに早変わりです。大画面に投影されたものを背景にスピーチする雰囲気は、あのTEDさながらです。プレゼンテータ―も凛として話します。聴く側も真剣です。話すとは考えることです。聴くとは考えることです。でも、それはそのような脳の働きを刺激する空間がデザインされているから可能なのです。
 
 
3) アフォーダンス
 
フュ―チャールームは、ICTの環境が先進的であるばかりか、机も可動式で、チームを作るときも個人で作業する時も、自由自在です。あるときは、1人集中して自問自答し、あるときは友人と対話をして、多角的に考えます。あるときは、大画面が映画館のように度迫力の映像を流します。あるときは、スタジオに切り替わり、TEDよろしくプレゼンに燃えます。そして聴く側は賞賛します。
 
これらは、普通教室ではなかなかできません。なぜでしょう。空間がファシリテーションしてくれないからです。PBL型アクティブラーニングは、教師やスタッフがファシリテーターになるだけではなく、時空もファシリテーションするのです。
 
空間や時間が思考を促し深めていくという技術が、実は建築の世界やアートの世界ではよく使われます。心理学では、この時空に埋め込まれた仕掛けの作用を「アフォーダンス」と呼んでいます。
 
 
水野先生のPBL型授業はかなり緻密に計算されて作られています。たいへんな作業ですが、実はこれは空間をスタジオと見立てれば、リハーサルということになります。リハーサルのないコンサート活動はありません。リハーサルのないメディア芸術祭もありません。教室は学びのアート空間です。であれば、リハーサルがあるのは当然です。
 
リハーサルの出来が、本番の学びを成功に導くカギです。リベラルアーツ・ルネサンスとはどうやらバックヤードとか舞台裏が極めて重要だということでしょう。
 
 
そして、どんなパフォーマンスも終了したら振り返りをします。水野先生は、授業終了後、中込校長と新井教頭と3人で、リフレクションをしていました。PBL型授業への挑戦は、教師どうしの同僚力が欠かせません。教職員一丸となって21世紀型教育改革に取り組む熱い意気込みが伝わってきました。

和洋九段女子 探究型アクティブラーニングの挑戦<1>

和洋九段女子中学校高等学校(以降「和洋九段女子」と表記)は、今年2016年の春から本物21世紀型教育を推進する学校としてある意味大胆な21世紀型教育改革を行っています。
 
この改革の1つの柱は、知識注入型の授業から高次思考≪higher order thinking≫を促進する授業に変わることです。和洋九段女子は「探究型アクティブラーニング」に挑戦しています。by 本間 勇人 私立学校研究家
 

<3つのScaffolding>

 
水野先生のPBL(探究)型アクティブラーニングでは、始まるや「30年後の社会はどうなっているのか」まずは1人ブレスト(個人ワーク)しようという問いが投げられます。いきなり壮大な問いに、見学している方は驚くのですが、生徒はすぐにフロー(没入)状態になります。
 
しかも、この問いはまだ伏線に過ぎず、順を追いながら「トリガークエスチョン」が投げられます。それは、「30年後の社会にはどんなルールが制定されるか?」という社会が変われば制度設計も変わるという創造的思考に高まっていきます。
 
つまり、IB(国際バカロレア)でいうところの高次思考≪higher order thinking≫を活用しながら、憲法12条における人権と公共の福祉の均衡点を探る授業だったのです。
 
 
それにしても、中3で、いきなり≪higher order thinking≫とは、やはり目を丸くしないわけにはいきません。しかし、見学していると、徐々にその秘密がわかってきました。
 
1) 考える足場づくり
 
それは、宿題のあり方に、まず工夫があったのです。2種類のプリントが提供されていました。1つは、丸山真男の「権利の上にねむる者」。もう1つは朝日新聞のAI(人工知能)についての記事。大事なことは、素材が違うにもかかわらず、問いは同じであるということです。①「テキストに出てくる難しい単語を調べなさい」②「テキストを要約しなさい」③「テキストに書かれている内容に対する意見を書きなさい」
 
これは、つまり、「知識」→「理解」→「応用」という≪higher order thinking≫の基礎になる思考力を宿題でトレーニングして、PBL型授業に臨む段取りになっているのです。この思考力こそ≪higher order thinking≫ができる「足場」なのです。
 
 
大事なことは、丸山真男の憲法12条にかかわる内容やAIの記事の内容のみならず、基礎的な思考のスキルをトレーニングする足場を造っているということです。つまり、従来の教育では、Whatが重要で、それをどれだけ記憶できるかが重要だったのですが、PBL型アクティブラーニングでは、思考のスキルとしてのHowも重視されるのですが、水野先生は、それを、「考える足場」として丁寧に組み立てているということでしょう。
 
大学入試でも、文章を読んで、要約して、自分の意見を書く論述問題が出題されています。2020年大学入試改革以降は、さらにこのタイプの問題は出題されるようになるでしょう。ですから、一般には、高校の国語の授業などで、このトレーニングはしっかり行われるはずです。それが、和洋九段女子では、中3の自宅学習でできてしまう段階であるとは、やはり驚愕です。
 
2) Growth Mindsetの足場づくり
 
宿題や1人ブレストでは、わからないことなどがあり不安になったり、限界を感じたりする場合もあるでしょう。そこで、グループブレストというワークが挿入されます。互いのものの見方を歓待するわけです。
 
そして、自分とは違うものの見方・感じ方があることに気づきます。大げさかもしれませんが、生徒にとっては、それは自分の見方が変わる瞬間です。宿題で自分の意見をまとめる作業が、実はここで大いに功を奏するのです。先入観の枠をいったんつくって、その枠を、ここで超えることになるからです。
 
 
枠を超えて発想の自由人になる挑戦こそ、Fixed Mindsetから解き放たれGrowth Mindsetに転換する体験です。挑戦する勇気と立ち臨める自信もまた≪higher order thinking≫の足場になります。
 
3) チームワークの足場づくり
 
このグループブレストは、やがて協働作業にシフトします。リサーチやディスカッション、プレゼンのためのストーリーの編集は、チームで協力し合わなければ成就しません。グループブレストというグループワークは、チームワークづくりに昇華していきます。挑戦、創造、そして貢献という活動のサイクルがPBL型アクティブラーニングの特色です。
 
 
授業の中で、知が豊かになり、リーダーシップも養われます。いわば、PBL型アクティブラーニングは、シリコンバレーに象徴される第4次産業革命時代が最重要であるとみなしているリベラルアーツ・ルネサンスなのではないでしょうか。
 

東京女子学園 学びの空間リフォーム

今年の夏、東京女子学園は、キャンパスの一部の空間をリフォームしました。学内で進んでいる「地球思考ルーブリック」の作成とそれに基づいた「深いアクティブラーニング」を実現する学びの空間をデザインするためです。

PBL型の「深いアクティブラーニング」は、知識・理解・応用を中心とする≪lower order thinking≫を超えて、創造的思考に向かう≪higher order thinking≫をフルに展開します。そうなると、脳だけではなく、末梢神経にいたるすべての脳神経系の循環が起こります。知性・感性・身体性という総合力をアウトプットする空間が必要になるのです。(by 本間 勇人 私立学校研究家)

OJスペースはマルチプルスペースで、まだ虚空間ができたばかりですが、近い将来、教師も生徒もいっしょになって、議論したり、ランチをつくって対話をしたり、もちろんアクティブラーニングなどの学びの空間になります。

なぜOJスペースと呼ぶのかというと、これは生徒たちが名づけました。TOKYO JOSHIのoとJからとって、open とjointの意味を付加しました。また、東京女子学園は東京エリアの中心にあるから座標の「0」の意味も重ねているということです。そして、多様な関数関係を結び付けていくという数学的発想が広がる場でもあるわけです。

今後どのように具体的に展開していくのか楽しみです。

訪れたときは、梅香祭準備のシーズンで、図書館≪PLUM≫(梅は同校のシンボルです)では、図書委員がかいがいしく準備をしていました。この図書館は一面ガラスの壁で囲まれていて、インサイドとアウトサイドの相互浸透性がコンセプトになっています。

つまり、空間とは壁や屋根のような物質ではなく、そこに住まう人間の精神という虚数空間であるという岡倉天心の発想があります。明治以来ずっと欧米の建築家や芸術家に影響を与えた≪私学の系譜≫の発想です。

(オープンな空間の中に静かに読書する精神がやわらかく生成されます)

図書館を一歩外に出ると、これもまた不思議な空間が広がります。

上記の写真のような空間は、オシャレな雰囲気ですが、実はそれだけではありません。ここにはアフォーダンスという、空間のアクティブな働きかけが仕掛けられています。この場所に生徒が集まると次のようになります。

親密な対話空間をデザインする仕掛けが埋め込まれているのです。アクティブラーニングの空間デザインの真骨頂です。

職員室の前の廊下の空間は、床に仕掛けがあります。木目の学びのスペースと歩く廊下の部分には、柔らかい境界線があります。これによって、学ぶ側のインサイドとアウトサイドでスイッチの切りかえができるようになります。このスイッチの切り替えが没頭状況(フロー体験)を作るわけです。

それでいて、教師との対話もオープンにジョイントできるわけです。

そして、なんといってもキャンパスの空間は、生徒自身の作品を展示するギャラリーでもあります。創造的思考の成果を互いにリスペクトしながら振り返ることができるのです。

リフォームは不易流行の流行の部分ですが、不易の空間があってこそです。不易の空間とは、上記写真のような空間をつなぐ入口出口の空間です。茶室の躙り口さながらのスペースで、ここを通るたびに視界がいったん狭くなり、通り過ぎると空間が広がります。つまり、世界の変化を感じる仕掛けになっています。

世界を変える、創るという生徒1人ひとりの創造的精神を豊かにすることが、未来を描いて貢献をする女性を輩出することになるのです。

ページ