富士見丘 巨大な波VUCAに備えて

富士見丘は、1週間の間に2つの貴重な対話ワークショップを行った。1つは、国際理解教育・国際交流担当アドバイザーの吉田成利先生の『海外留学への道』と題する講演。もう1つは、建築家関本竜太氏(リオタデザイン代表取締役・一級建築士・日本大学講師)による講演『町の中のデザイン』。

どちらも、テーマは違っているが、対話型の講演であるし、その対話のシークエンスが似ている。体験から始まって重要な気づきに昇華し、最後に興味と関心を喚起された生徒が質問に講師を囲むのである。富士見丘の知の形勢過程を追ってみた。(by 本間勇人:私立学校研究家)

体験を共有するところから

吉田成利先生は、現在ロンドン大学キングズカレッジで博士論文を提出している。イギリスで研究しながら、富士見丘の生徒の留学先や進路先のコーディネートをし、ときには生徒と同行したりしてサポート。イギリスにもどるにあたり、留学生でなければ分からない情報、ものの見方・考え方を伝授した。まずは、ご自身の海外大学留学の体験談から。

この体験談は、富士見丘の生徒自身が欧米、オーストラリア、アラブ首長国連邦に留学したり研修旅行にいくので、参加者の興味と関心、好奇心の弦と共振する。

建築家関本氏も、自身が建築デザインした「隅切りの家」の設計から家を建てるまでのムービーを流した後に、生徒に模型を手に取ってもらっていた。

実際に手で触れることによって、好奇心が立ち上がる。

差異に気づく

吉田先生は、興味と関心がクラスに広がったのを確認すると、海外留学や海外大学進学の意味について、生徒といっしょに組み立てていく。その際、組み立てる要素を見出すために、生徒たちの漠然としていた海外に対する意識の原石を磨いていく。その手法は、海外旅行と海外留学、多様な留学などの差異を対話していくことによって。

関本氏も同様に、建物を建てることは、屋根や壁を組み立てるだけではなく、ロケーションやそこに住まう人々の生活をトータルに考える視点が必要であることを説く。しかし、説いたところで、最初は生徒たちもピンとこない。それは織り込み済みだったので、講演が始まる前に生徒に自分で撮影した町のデザイン写真を送ってもらっていた。それを参加者全員でなぜ撮影したのかそれぞれの視点の差異を共有していった。

明確に意識して撮影したわけではないが、そうさせた理由。広い公園の敷地の向こうに住宅があるアングルで撮ったものや建物の中から空を撮ったもの、電線のまるでスズメがとまっているようなオブジェ。そして関本氏も自身が撮った写真を幾枚か見せて対話。

公演の下には遺跡がねむっており、時代を超えて住宅のロケーションが一致しているという住まうということの視点、空というパースペクティブに惹かれる視点、何かに似ているというメタファの視点、行動を促すオブジェという視点など、無意識に人を行動に誘うアフォーダンスの原理について語り合った。

先入観、無意識、偏見、常識に気づく

吉田先生は、生徒たちの留学に対する意識が明確になり、ポジティブな世界が開けた段階で、世間でよく言われる留学に対するネガティブな情報について、それが偏見であり、むしろ、その背景に経済格差やそれを解決する重要な世界の問題が横たわっていることを解き明かしていく。

そして、留学の本質は、国内にいると気づかない身近な問題がグローバルな問題につながっていることを知り、世界の人々と協力して解決していくという意味でグローバルな学びであるというところに到達する。

関本氏も、アフォーダンスという認知心理学の視点から、建物が人間が周りの環境とシンクロして生活できるように、今までの建物中心の常識から有機的無機的全環境との関係からデザインを考える新しい常識へとシフトする結論に到達した。

興味と関心が未来の備えに

21世紀という時代は、 “VUCA”(variability, uncertainty, chaos, and ambiguity:可変性・不確実性・混沌・曖昧性)という未知なる局面の連続。したがって、子どもたちには、従来の常識や偏見を振り払い、未来のVUCAに備える教育環境が必要である。

しかし、日本の教育はまだまだその備えが十分ではない。富士見丘はその備えの機会を、学園の教師と外部の講師がコラボして多様に設けている。

そして、その未来のVUCAへの備えで最重要なことは、好奇心を未来のキャリアへつなげるモチベーションの内燃である。この内燃ができたかどうかは、講演会終了後に、講師を囲み質疑応答の対話が起こることによって測ることができる。21世紀型教育の奥義は、1人ひとりの生徒の好奇心にていねいに対話によっていっしょに未来を考える瞬間があることである。

富士見丘のそれぞれの学習プログラムは、領域が違っても、学習のスタイルは一貫している。これによって、好奇心→モチベーション→学び方→夢の実現という知の上昇気流が、多様な学習によってらせん状に広がっていくのである。

 

 

 

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