かえつ有明 石川副校長の勝利の方程式(1)

2014年中学入試において、かえつ有明では、実数で543名の受験生が挑戦した。中学受験市場全体としてはフリーズしているが、同校の高い人気は注目を浴びている。有明の地に移転し、共学だけど授業は別学という新しい共学校をプロデュースして卒業生も3期目を迎える。

生徒募集と大学進学実績の両輪が大きく回転し始めている。経営の倫理と教育の論理の統合はいかにして組み立てられたのか、その勝利の方程式について、副校長石川一郎先生に聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家

――今年の帰国生入試の出願数は、337人で、前年対比134%。思考力テストの出願数も100人を超えました。全体としても昨年を上回る出願数となりましたが、その理由、いわば勝利の方程式はいかなるものなのですか?

石川先生:この厳しい時代に、結果的に多くの受験生に選択してもらえ、たいへん感謝しています。そして、これはあくまで、結果論で、実際には勝利の方程式のようなものを巧んで、行ってきたわけではありません。もしあえて言うのであれば、学校全体が一枚岩になるときに、精神的に頑張っただけではなくて、共に教師も生徒も学べる組織づくりをしてきたということだと思います。最近邦訳されましたが、MITのピーター・センゲ氏が監修した「学習する学校」というのがありますが、まさにそれだと確信しています。

昨年110周年を迎えましたが、それに向けて、ここ数年、建学の精神である「怒るな働け」という精神を教師も生徒もみんなで、読み解いてきました。その際、大切にしてきたのは「怒るな働け」の定義を決めようとしてこなかったことです。創設者嘉悦孝は、アダム・スミスを原文で読んでいたと言いますから、アダム・スミス流に、「怒るな」を道徳感情、「働け」を経済科学として考える教師もいます。

またある教師は、嘉悦孝は儒学にも精通し、英語も体得していたから、東洋と西洋の見識を併せ持つことだと考える教師もいます。サイエンス科の授業で、嘉悦孝をサイエンスするというテーマに取り組んだとき、孝とジョブスにイノベーションの精神が共通しているとみなし、「怒るな働け」をイノベーションを生み出す気構えとしてとらえ返す生徒もいました。

私は、「怒るな働け」という建学の精神が、常に議論のための源泉で、そのシェアがモチベーションを生成する構造になっていることが大切だと思っています。共通の精神があるけれど、その意味は未規定のままがよいのです。常にそこに立ち返り、そこからまたビジョンを見通してみる議論の永劫回帰という構造が、一枚岩になる出発点なのです。

――勝利の方程式は、イノベーションへの意欲がわき出てくる組織づくり、ピーター・センゲでいう「学習する学校」作りであるということですね。

石川先生:そう言い換えてもよいかもしれません。とにかくビジョンの共有、しかもそれは常に議論のトリガーになるビジョンの共有というのは学校の核となるものですね。その核があるからこそ、何を具体的に創意工夫していけばよいのかプロデュースできます。

ここまでやってきたことは、1つはサイエンス科という哲学授業ですね。リサーチして、議論し、編集し、プレゼンするというサイクルに、多様なグラフィックオーガナイザーというマッピング用のワークシートを積み重ねていきました。

考えるプロセスをフォームにしていきますから、ポートフォリオもたくさんできるし、それがゆえに教師も生徒もどこのステップを改善すれば、最適なアウトプットができるのか見通しが立つようになりました。

もう1つは、何といっても国際教養の路線をまい進しています。高校2年の修学旅行では、イギリスとフランスを訪問し、語学学習と異文化体験のプログラムを作っています。ケンブリッジに嘉悦ホールがあるので、そこでの経験はなかなか得難いと思います。長期休暇を利用した海外体験学習も多様です。1年間長期留学プログラムもあります。

昨年は、高1生を中心とした選抜チームが、シンガポールのMethodist Girls’ Schoolで行われた合同カンファレンスに参加してきました。高2生の有志10数名がRaffles Instituteの生徒20名の来日に合わせ、ホスト役を務めたことも、国際教養ビジョンの成果です。このシンガポールのプログラムは、若い英語の先生方のイノベーティブな発想によって実現しました。

ビジョンがあるけれど、開放系になっているので、そこから流れ出た「サイエンス科」と「国際教養」のプログラムも、ビジョンの広がりや深さによって、進化していきます。そういう意味では、勝利の方程式というのは言いえて妙ですね。

つまり、y=f(a)g(b)という方程式のフォームはあるけれど、aとbに代入する値が違うと、yというパフォーマンスの数値も変わってくる。数値だけ見ていると目まぐるしく変わっているようだけれど、y=f(a)g(b)という方程式のフォーム=建学の精神は変わっていないということです。

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