Created on March 25, 2018
そして、パネルディディスカッション「創造的破壊としての思考力育成とICT教育」が、首都圏模試センター取締役・統括マネージャーの山下一先生のコーディネートにより進められました。
聖徳学園中学・高等学校の学校改革本部長・品田健先生は「コンピュータは日常のツールだ」といいます。Google検索しても正解が見つからない問いを探究するために、素材を探してきたり、実現性を確認したりする面白さを実感できるといいます。また、授業時間不足の対策として、いつでもどこでも使えたり、履歴を使った評価を行ったり、タイピングの練習にもなったりするとのこと。
品田先生は情報収集能力から情報創造能力が問われる時代を生きる子どもたち、新しくできる仕事や価値観に対して、幸福を見出せるようにするツールとして活用できないかを考えようと呼びかけます。そして、STEAM(Science、Technology、 Engineering、Art、Mathematicsを統合的に学習する教育手法)を使って壁を超える必要性を唱えました。
富士見丘中学校・高等学校の教頭である白鶯訓彦先生からは、SGHの取り組みとICTとの関係性についての報告がありました。富士見丘ではサスティナビリティから考える海外に関する取り組みとして「サスティナビリティ基礎(高1)」「サスティナビリティ演習Ⅰ・Ⅱ(高2・高3)」、高大連携、グローバルワークショップを実施しています。
そのさい、プレゼンテーションは英語で行われ、SGH甲子園でも一定の成果が出ています。こうしたプログラムの土台にあるのがICTとのこと。今年度から一人一台iPadを導入するそうですが、それまでは学校からの貸出であり、活動に制限が出るなど、もどかしさがあったことからの決断だったそうです。
東京女子学園中学校・高等学校教頭の落合裕子先生は、地球思考コードというルーブリックを軸とした教育活動とICTとの関係性を論じました。学ぶ(教科学習)―描く(キャリア学習)―経験する(体験学習)という教育活動をつなぐツールとしてICTを活用しているとのこと。落合先生によると、ICTは思考を可視化したり、共有して深めたりすることで、自己肯定感を高めるツールとなるといいます。
プレゼンテーションスキル(中1)、課題に応えられる力(中2)、社会で生きる実践力(中3)を育成する一方、英語では英文を録音し、ウェブを介して提出したり、定期試験前に自分たちの問題を作成したりするなど、ICT利活用の事例を紹介していました。学習の振り返りのためにeポートフォリオを活用することにも力を入れているそうです。
和洋九段女子中学校・高等学校の教頭である新井誠司先生は、PBL(Problem Based Learning)の中でのICT活用についての紹介がありました。和洋九段ではPBLを全教科で実施していますが、それは育てたい生徒像に近づけるからに他ならないそうです。
和洋九段のPBLは、答えが一つでない質問<トリガークエスチョン>を示し、自分の考えを構築し(個人ブレスト)、グループディスカッション(グループブレスト)、プレゼンテーション(教室全体の共有)、レポートの作成と活動という一貫した流れがあるそうです。そうした中でフューチャールーム、電子黒板、個人タブレットを駆使し、ICT環境を活用しているのだそうです。校風もあり、穏やかな生徒が多く、生徒の伸びを実感しているといいます。
ここで、21世紀型教育機構理事・香里ヌヴェール学院学院長の石川一郎先生がパネルディスカッションに急遽参加。これから起こり得る未来の問題・課題に立ち向かうには創造的破壊が欠かせないといいます。そのさい、ICT活用と思考力が問われると指摘します。
「こうなったらいいな」ということを子どもたちが考えることができればよく、自由に創造できる力を養うことが学校には必要だとのこと。21世紀型教育機構の加盟校がそれぞれに持つ思考コード・メタルーブリックではそうした力を立体的に見ることができ、評価軸によって先生も生徒も学びのあり方を考えることができると述べました。
最後にパネルディスカッションに参加なさった先生方から、一言コメントがありました。和洋九段の新井先生は「今までの常識は通用しなくなっている。教える側が柔軟になることが必要。今まではこうだった、というところからの脱却が必要だ」と述べました。
東京女子学園の落合先生は「柔軟な姿勢が大切。教師サイドが学び続けることで生徒も学び続ける」と、教員側の学びに対する姿勢のあり方を指摘しました。
富士見丘の白鶯先生は「生徒は新しい学びに気づき始める。それがICTやアクティブ・ラーニングで引き出されている。学びに向き合う生徒を顕在化する役割を担っている」といいます。
聖徳学園の品田先生は「本当に学校に来てやることは何だろう。学校でできることは何かを考え、進化しないと生徒が学ぶ喜びを感じることができない」と警鐘を鳴らしました。
クリエイティビティを発揮するためのツールとしてICTは欠かせない時代となりました。機器を活用し、アプリケーションを駆使しながら、自分が考えた事柄を形にする喜びを通して、ICTを活用する力が育成されていきます。とかく「教育活動は紙で十分だ」「コストがかかる」という主張がまかり通る教育現場ですが、デジタルネイティブが入学してくる私学ではICTスキルの向上が必須となるといえるでしょう。
4校では自然にICT環境を使いこなせるよう、先生方の試行錯誤を重ねながら教育活動を行っています。また、ICTを学校教育の自他評価や方針決定のさいに活用する動きも今後は増えてくることでしょう。経験と勘に頼ってきた教育活動を尊重しつつも、さらなる教育活動の改善に向けた試みが行われていくことを期待しています。
第Ⅲ部 <21世紀型教育の本質>では、順天学園学校長の長塚篤夫先生より、「いまここで未来に必要な教育の本質」というテーマでお話がありました。
長塚先生は、まず私たちにフィンランドの職員室の写真のスライドを見るように促します。そして、学校現場の形式は日本と欧米は全く違うことに気づくでしょう、と投げかけます。海外はホームルームもなく、修学旅行も行事も行われないところが多いとのこと。日本だけでなく、世界に目を広げる必要があることを私たちに示しました。
そして、新しい学習指導要領の案が文部科学省より示されたことについて、マスメディアの報道に踏み込みが足りないと指摘しました。長塚先生は高校教育の改革とともに大学入試が変わることとセットで捉えることが大切だといいます。学習指導要領改訂は「何を学ぶか(コンテンツ)」「どのように学ぶか(方法論、アクティブラーニング)」が注目されがちですが、大事なのは「何のために」、つまり目的だといいます。それは「新しい時代に必要となる資質・能力の育成と、学習評価の充実」だと指摘します。長塚先生はこの目的を報じないマスメディアの姿勢に疑義を唱えました。
また、世界中で通用する汎用的能力を育成する教育、コンピテンシーベースの教育を行うことの重要性を唱えました。そのさい、コンピテンシーをどう評価するのかが、教育活動の中で鍵になると指摘します。社会で活動するさいの基本として「何ができるようになるか」を明示する必要があるとのこと。外国語の熟達度を示すヨーロッパ言語共通参照枠CEFRもその一種であり、創造的思考を育成するためのルーブリックもそうだといいます。
一方、ハーバード大においても「試験結果だけではわからない」、つまり、わが校にとって優れた学生を真に選び出すような試験は存在しないことを意味すると指摘します。よって、新時代に必要な資質・能力を測るための学習評価方法として、パフォーマンス評価、ルーブリック、ポートフォリオ評価などが様々な教育機関で研究開発されていると紹介。今後、AI時代に残る仕事に求められるスキルは「創造性」「社会性」だと言われています。そして、そうした流れを創るため、長塚先生は私学人が声を上げるべきだと主張します。
最後に、工学院大学附属中学校・高等学校校長の平方邦行先生より閉会の挨拶がありました。「教育の本質を支えるアクレディテーションそして教師」をテーマに、会を締めくくりました。
21世紀型教育機構は学校教育のアクレディテーション(外部機関による教育機関の品質認証)を行う機関としての役割を担っています。平方先生は「教育の本質があればいい」というのでは教育の質を保証することが難しいといいます。そして、2018年問題として掲げられるように、長い期間を考えると子どもが減少局面にあり、ここで私立学校がイノベーションを起こさなければ生き残れないと指摘します。
すべての生徒にGrowth Mindset×Creativityを授ける、それがグローバル教育3.0だといいます。現在、Growth Mindsetを測る指標を工学院は持っており、教育活動に活かす試みを行っているとのこと。
そして、21世紀型教育機構は限られた人間にしか恩恵が受けられないファーストクラスのような教育から、多くの才能をグローバル社会に送り出すためにクリエイティブクラス育成を行う共通教育システムをもつのだといいます。アクレディテーションだけでなく、SGT(スーパーグローバルティーチャー、Growth Mindset×Creativityを育むことができる教員)養成のための研修なども行っています。
工学院のハイブリッドインタークラスでは、高1でC1レベルを目指し、英語はスキルだと言っている授業はないとのこと。日本の高校生が卒業時に英検準2級以上を取得しているのは、3割程度しかいない現実に直面しています。グローバル教育3.0にバージョンアップすることは、変容する社会の中で将来輝ける生徒を育成したいという願いでもあると、平方先生が語り、会が終わりました。
お二人の先生から共通して言えるのは、教育の質保証に尽きるということです。教員は職人気質であり、ともすれば経験と勘によって教育活動を行いがちです。また、教育理念に紐づいた学校教育を創り上げることなく、各々の教員が自らの正義に従って授業を実践することが行われがちです。21世紀型教育機構はそうした問題を解消し、独自の取り組みによって学校の教育の質を担保しようと試みています。
学習評価を充実させ、外部機関による品質認証を行うのは、学習者である生徒中心の教育を実現するために他なりません。とかく生徒の存在を置き去りにし、才能に蓋をする教育者が存在する日本の教育の中で、21世紀型教育機構ではそうした学校と一線を画し、グローバル教育3.0への取り組みを加速していくことでしょう。