ICT

桜丘のICT教育 次の次元へ!桜丘ショック!はまだまだ続く(1)

2015年12月18日(金)、桜丘は「冬のICTオープンスクール」を実施しました。同年10月、eラーニングアワードフォーラム2015における『第12回 日本e-Learning大賞』で桜丘の実践「生徒・教職員の創造性を刺激する,iPadがある学校生活」が文部科学大臣賞を受賞。

その実績、つまり「桜丘ショック」を、模擬授業空間やiPadを使っている生徒と直接対話できるスペースなどで、全国から訪れた先生方と共有しました。by  本間勇人 私立学校研究家

§1  iPadの効用

桜丘は、教職員も生徒も合わせて800台のiPadが稼働しています。今年2016年は、全校生徒が所有します。そうなると、1人ひとりがiPadを活用すると、どんな効果があるのか?まずそういう質問が世の中では必ずでてきます。それにきっちり回答してくれているのが、桜丘のICTオープンスクールです。文部科学大臣賞を受賞したのは、その貢献度の高さが故でしょう。

さて、具体的にどういう効用があるのでしょうか?これを考える時に、すぐに模擬授業見学したり生徒との対話をしたりした後に、どうも自分の所属する組織の都合に合わせた質問をする傾向があるのですが、実はそれでは、iPadの使いやすさとかコストとか、教師の準備時間の労力とか、どのくらい使っているのかという一見重要ですが、それは経営の理屈で診ているということに気づかない方々が多いですね。

たしかに、予算を通すためには、コスパが要求されるのでしょう。関連企業は、どのくらい購入してもらえるか有効性を定量的に測りたいのでしょう。やむを得ないのでしょうが、そのような質問が多くなりがちです。もっと生徒のどんな能力を伸ばすのかという観点で参加した方が良いとつくづく思います。もしブルーム型タキソノミーを活用したならば、それだけで教育の論理の効用は見えてくるはずです。

「生徒・教職員の創造性を刺激する,iPadがある学校生活」で文部科学大臣賞を受賞した意味はそもそも何でしょう。文部科学省は、このテーマと実践が、次期学習指導要領改訂と2020年大学入試改革において実施する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に対応できるICT教育であることを高く評価したのです。

では、次期学習指導要領及び「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に対応できるというのはどういうことなのでしょう。それはブルーム型タキソノミーでいえば、「知識」「理解「応用」「論理的思考」「批判的思考」という「学習を通じた創造的思考力」を育成することが最終目標です。たんなる思い付きではなく、学習を積み上げて掘り下げて行った末に爆発する破壊的創造力を想定しているのですね。つまり破壊的イノベーションというわけです。

こんな「学習を通じた創造的思考力」は、iPadやラップトップを活用しなければ50分前後の授業でプログラムを展開することは無理でしょう。実はこの授業、iPadを使わずにというか、なかったので、長い時間をかけてやってのけたのは、たとえば、大村はま先生です。あるいは、灘の橋本武先生です。お2人とも本物の授業を行った伝説の教師です。

最終的には「知識」「理解」・・・「批判的思考」を行って「学習を通じた創造的思考力」に到達する伝説の授業を行いました。しかし、伝説ですから多くの教師は、その境地に到達できませんでした。お2人の当時の授業では、アーカイブやデータは、アナログでしたが、今iPadを活用して授業を行ったとしたら、楽々授業が展開できたでしょう。それどころか、もっと密度を上げて、さらにスーパー伝説の教師になったと思います。それはともかく、実は、iPadの最大の効用は、「脱技能」あるいは2人の伝説の教師の授業スキルを「初期値」として設定できてしまうということなのです。

21会では、この伝説の教師を初期値としてさらに超えてしまう教師をスーパーグローバルティーチャー(SGT)と呼んでいますが、iPadでネットワークを活用し、ロイロノート・スクールやキーノートなどのプレゼンテーションツールやワードあるいはエクセルのようなソフト、それとSNSを教師と生徒が共に学ぶ環境があれば、教師はSGTに、生徒はアントレププレナーにすぐになれます。

「知識量」の心配、「思考力」の心配、「主体性」の心配、「協働性」の心配、「自分軸」や「判断力」の心配等々すべて不安を払しょくできます。それでも、限りある時間内で「カリキュラム」は、終わるのだろうかという完全に20世紀型教育である教師都合の不安も、実は払しょくすることができます。そういう創意工夫を教師や生徒に仕掛けてくるアフォーダンス機能が、iPad with networkには埋め込まれているのですす。

模擬授業は、ブルーム型のタキソノミーの「知識」「理解」を中心とする授業、「論理的思考」を中心とする授業などいわばトルソーにならざるをえないので、タキソノミーを意識して見学しないと、木を見て森を見ないことになりがちです。パーツのノウハウだけ持ち帰るということになりかねません。

しかしながら、今回、このすべてのタキソノミーの段階が埋め込まれている授業がありました。それは高2の政治経済の授業でした。

富士見丘 中1のアクティブ・ラーニング × ICT

文部科学省の指揮の下、アクティブ・ラーニングとICTが本格的に教育現場に導入されようとしています。5年後の大学入試改革と「生徒1人1台タブレト端末」を目標に、多くの学校が「教育改革」に本腰を入れて取りくんでいます。しかし、子供達の未来が明るくなる兆しがみえる一方で、そのための困難もまた多く見受けられます。実際、現場の先生方は「アクティブ・ラーニング」という新しい指導法に加え、不慣れなICT機器を使いこなさなければならず、その負担は無視できるものではありません。
 
いかに負担を少なくスムーズに、それでいて効果的なアクティブ・ラーニングとICTを浸透させていくかが「教育改革の鍵」といってもいいでしょう。今回はその好事例として、今年SGH(スーパーグローバルハイスクール)指定校に選ばれた富士見丘学園(以下、富士見丘)の取り組みをご紹介したいと思います。(ICTアドバイザー 福原将之)
 
 
 
以前、ご紹介したように、冨士見丘ではアクティブ・ラーニング型のLHRを中学一年生対象に月1回のペースで実施しています。今回ご紹介するのは、10月に実施された第5回のLHRです。アクティブ・ラーニング型の授業の質を左右するポイントとして、最初にテーマの選定が挙げられます。いかに「質の良い問いかけ(テーマ)」を投げかけられるかどうかで、生徒達の学びと気づきの深さが決まるからです。今回、冨士見丘の先生方が選ばれたテーマは「ロボットの未来」でした。このテーマの背景には、ご存知のとおり「人工知能三原則」「2045年問題」「ドローン問題」「ロボットの軍事利用」などが広がっています。
 
しかし実際の授業では、このような背景については一切生徒達に説明しません。なぜなら、このような背景が生まれた人類史の展開こそが、アクティブ・ラーニングを通して生徒達に体験してほしい本質だからです。能動的な学びに必要なものは2つ、テーマに関する「生きた情報」と「動機付け」です。スマートフォンを片手に、Apple TVを活用した大島先生のプレゼンテーションは、生徒達をロボットの世界に引き込んでいきます。
 
 
次に生徒達は、iPadを使ってロボットに関する様々な「生きた情報」を吸収していきます。ここでインプットさせる情報の質によって、この後のグループワークの深みが変わっていきます。富士見丘では、「ひとりひとりの気づきをグループでシェア」するボトムアップ型のアクティブ・ラーニングを採用しているため、特にこの「インプットさせる情報の質」には気を使われています。
 
 
そして、学びと気づきをシェアするグループワークに移ります。発想をポストイットに書き出し(思考の発散)、ポストイットをカテゴリー毎に並び替え(思考の整理)、そのカテゴリーにインデックスをつけていきます(思考の収束)。このクリエイティブな思考プロセス「発散→整理→収束」を、富士見丘では反復してトレーニングしてきました。まだ中学一年である生徒達も、馴れた手つきでポストイットにアイディアを書き、友達とシェアし、意見の違いに驚き、時に笑いながら「グループとしての意見」をまとめていました。
 
この段階のグループワークにおいて、iPadなどのICT機器を一切使っていない点もポイントのひとつです。実際、ビジネスの現場においても、クリエイティブな思考プロセスの補助には、ICTよりも紙ベースの方が好まれる傾向にあります。(私自身、創造的思考をする際はカラーペンやポストイットなどを愛用しています。)タブレットを導入したからといって、無理にすべてのプロセスで使用する必要はないのです。「ICTに使われる」のではなく、適材適所に活用していくことが「ICTの力」を最大限に発揮するポイントなのです。
 
 
グループワークの後は、いよいよ全体でのプレゼンテーションです。45分という限られた授業時間の中にプレゼンテーションを組みこむためには、やはりICTの力が必要不可欠でしょう。プレゼンテーション用の資料は、iPadのカメラ機能と専用のアプリを使って1分足らずで作成できます。前方のスクリーンへの投映は、Apple TVのAirPlayミラーリング機能を使って、iPadからボタンひとつで切り替え可能です。複雑な配線作業はもちろん、難しい設定も不要ですので、生徒達だけで簡単にプレゼンテーションの準備を行うことができるのです。
 
iPadを使ったプレゼンテーションでは、グループの代表が自分たちの意見や発見について説明をしていきます。生徒達のプレゼンテーション技術を鍛えながら、他のグループの意見を聞くことで「新たな問いの発見」を促すことが目的です。あるグループでは「ロボットに愛情をもたせたらどうか」という発想から、ロボットの行動原則・価値観・倫理観のあり方、そして「人工知能三原則」に近い発想にまで議論が及んでおり、富士見丘の先生方も驚いていました。
 
 
最後は、アクティブ・ラーニングの最重要プロセスである「リフレクション(振り返り)」を行って終わります。富士見丘のアクティブ・ラーニングでは、50の質問からなるオリジナルのルーブリックを用いて毎回リフレクションを行っています。詳細は非公開なのですが、このルーブリックこそが富士見丘アクティブ・ラーニングの要といっても過言ではありません。21世紀型スキルを鑑みて作られた質問項目はもちろん、生徒たちの回答を集計・分析し、それを授業内容に反映させていく先生方の創意工夫。生徒たちも継続して同じルーブリックに回答するため、冷静に自分自身の成長を捉えられるようになります。
 
 
しかし現実問題、リフレクションを毎回授業で行うのは、先生方の負担が大きいでしょう。授業時間が短くなることに加え、リフレクション・カードを作成する手間や、生徒達の回答を集計・分析するコストを考えると、リフレクションを実施するのは本当に大変です。実は21会では、この問題を「ICTの力」を使って解決すべくリフレクション・システムの開発を進めています。リフレクション・システムの詳細については、富士見丘のLHRに導入されるタイミングでご紹介させて頂きます。富士見丘のアクティブ・ラーニング×ICTは、これからも進化し続けるのです。
 
 
 

桜丘 ICTオープンスクール 未来に翔く(2)

IT機器やアプリの利用の仕方が先生によって異なるということは、生徒の学びがそれだけ多面的・多元的になるということである。桜丘では、iPad活用のためのインフラを整え、基本的なルールを定めたら、後は使う人の主体性に任せるといったスタンスが明快である。だからこそiPadの活用が進み、生徒と先生の経験値も上がるという好循環が起こるのであろう。

 高2生の英語のクラスを覗くと、Paul先生が、YoutubeやKahootといったインターネット上で利用できるアプリを使って授業を行っていた。英語のビデオをリスニングして情報収集を行い、隣り同士がペアになって協力しながらクイズに答えるというゲーム感覚あふれる授業である。

全員が同じペースでビデオを視聴するのではなく、各自のiPadでビデオを見るので、聞き取れなかったところを巻き戻すなど、自分のペースでビデオを見ることができる。

また、調べた内容に関するクイズがあることで、それぞれのペア同士がお互いの持っている情報をシェアするという状況が自然に出来上がっていた。

生徒たちはさながらクイズ番組の解答者で先生は司会者のようである。事前に調べる時間が加わっているところが通常のクイズとは違うところ。単に知識の多寡を競うというよりも、チームワークとリサーチの質が問われる。成績発表のたびに高得点者の名前がスコアボードに表示され、クラスが盛り上がっていた。

部活動の実践報告では生徒が主体的にiPadを利用している様子が紹介された。

バトン部ではiPadで撮影した映像をYouTubeにアップし、各自が自分の演技をチェックしているという。昨年全国大会に出場するという快挙を成し遂げたのはまさにYouTubeの成果なのだそうだ。

振り付けを覚えるといった個人練習は、YouTubeにアップされた模範演技を見て各自が家でやっておくべきこととなり、合同練習の場は全体の演技がどのように見えているかという点にフォーカスされるようになったのだという。なんとこれは反転授業の発想そのものである。

生徒たちは、道具があればそれを活用していく。「必要は発明の母」とよく言われるが、一方で、発明品がそれまで見えなかった需要を生み出す側面もある。iPadが学校に入ったことで、なぜこれまで気づかなかったのだろうという潜在的ニーズがどんどん引き出されている。そのようなイノベーションによって演技や学びの質が高められているのだ。

3時限が終了した後、体育館で行われた質疑応答では、これからiPadを導入しようと考えている学校の先生方から、導入に際して想定される問題に関して多くの質問があった。

導入を推進してきた品田副校長先生は、できるだけ多くの質問に対して、実際に現場で使っている先生に答えてもらうというスタイルをとっていた。心配な点やトラブルも含め、オープンに質疑応答ができる場を作ることに徹していたのだ。

さらに、そこには先生だけではなく、生徒も参加していた。IT学習環境は先生だけのものではない。生徒も主体的に関わっているのだ。実際、教室でiPadや通信にトラブルがあったときに、先生よりも設定を見るのが上手い生徒もいて、そんなときには生徒が先生を助けることもあるのだという。

質疑応答を聞いていて、ふと桜丘の先生方と生徒たちが新しい関係を築きつつあるのではないかと感じた。IT技術の進歩によって、多くの企業で働き方に変化が起こったように、学校の中での先生と生徒の関係も新しいあり方を探っていく時代なのかもしれない。ICT先進校である桜丘はひょっとすると、その潮流の最先端に位置しているのではないだろうか。そんな思いを抱かせてくれるオープンスクールであった。

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桜丘 ICTオープンスクール 未来に翔く(1)

7月17日、桜丘でICTオープンスクールが開催された。教育関係者や全国から集まった学校の先生など、総勢200名近くの見学者で賑わった。ICT先進校の地位を確立した桜丘にとって、iPadを使った授業はすでに日常の風景となっている。ICTリテラシーを自然に身につけながら、未来を切り開く創造性を発揮する生徒の様子を取材した。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

1時限から3時限まで、それぞれの時間帯で10教室を超える会場で授業やプレゼンが行われ、見学者はそれぞれ見たいイベントへと向かう。iPadを使った授業を実際に生徒が受けている教室だけでなく、これまでICTを活用してきた部活やホームルームの実践報告、またロイロノートなどのシステム面の説明をしてくれる教室など、まさにICTオープンスクールという名の通り、ICTに関するすべてのノウハウをオープンにしていこうという桜丘の意気込みが感じられる。

授業をしている教室を覗いて驚いたのは、昨年取材で授業を見学した時に比べ、先生も生徒もipadを格段にうまく使いこなしていることであった。

オープンスクールというイベントのためだから特別に使っているのではなく、ふだんからiPadを100%活用していることは一目瞭然。何しろ手際がよいのだ。

リーディング教材を映しだしたかと思うと、英単語のフラッシュカードに切り替えたりするなど、黒板に書きこんでいてはとてもできないスピード感のある解説が行われる一方で、生徒の方は、時にはリサーチのツールとして、時には書き込みのノートとしてiPadを活用している。

リサーチツールとしてのiPadの可能性もさることながら、ノートとしてのiPad利用も大きな可能性を秘めている。

化学の授業では、生徒たちがスタイラスペンや自分の指を器用に使ってiPadに解答を書き込んでいた。

その解答を先生が自分のiPadに集め、ホワイトボードに映し出しながらチェックする。

化学式では、書かれる数字の大小がその式の意味を変えてしまうので、生徒の手書き答案を先生がチェックする。一人一人のノートを見回るより、一度に生徒全員が共有できるので効率的である。

「生徒が答えをiPadに書き込み、その画像を先生に送信、先生がそれを集め、特定の生徒の解答を映し出す」ー 書いてしまうと何ということもないようなことであるが、これを実際にさらりとやってしまうことのできる環境が用意されている学校はそう多くはないはずである。iPadが全員に配られるだけでは十分ではない。桜丘のICT教育に威力を発揮しているもう一つの秘密がロイロノートである。このアプリを利用していることで、iPad同士のコミュニケーション、あるいはコラボレーションが非常にやりやすくなっているのだ。

基本的な環境を設定したら、あとは先生や生徒にその利用は任せる。これが桜丘のICTを推進する品田副校長先生の基本方針である。ロイロノートを多用する先生もいれば、その他のアプリを使う先生もいる。そのバリエーションの豊かさが、生徒のICTリテラシーを高めることに寄与している。次の記事では、そのバリエーションについて触れてみたい。

 

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桜丘 iPadが学校にやってくる

7月15日、桜丘中学・高等学校で、<iPadが学校に来ると教職員と生徒はどうなるのか>というテーマで、学校公開イベントが開催された。iPad導入を果たした桜丘を一つの事例として公開することで、他校の教職員や一般企業の方々とともにICT教育のあり方を考えていこうという意欲的な試みである。学校生活での様々な側面でiPadが浸透しつつある様子を取材した。  by 松本実沙音 (TES社リサーチャー:東京大学文科二類)

 
桜丘中学・高等学校では、今年度の5月より中学校一年生及び高校一年生の生徒全員に iPadを配布した。専任の教職員には、昨年度の5月からiPadが導入されており、ホームルームや授業で実際に使われている。教職員の方々は、iPadの活用方法は生徒たちと一緒になって模索していったと話していた。iPadを導入する目的や使用方法などを最初から限定するのではなく、「まずはやってみる」「iPadそのものに触れながら活用方法を考えていく」という姿勢で、生徒と教職員が手を携えてきたのだ。
 
ホームルームで生徒は iPadをどのように使用しているのか、あるクラス担任の先生が話してくださった。
例えば、MC(桜丘では、日直当番の人のことをMCと呼ぶ)は、連絡事項をクラスへと伝達する際、連絡掲示板の写真を iPadで撮り、それを読み上げる。今までなら、連絡掲示板の内容をわざわざメモに書き込まなければなかったのが、iPadのおかげで時間短縮につながっている。 更に、その写真をリマインダーとして、他の生徒のiPadへと送ることもできる。「全員が iPadを持っている」ことの強みは「共有」できることにあるだろう。
また、プリント管理をiPad上で行うことができるため、紙のプリントを忘れてしまっても、友達のiPadからデータを送ってもらい、アプリケーションを用いてそれに書き込むこともできる。
このように、iPadは生徒達にとって、作業の効率化をはかるツールとしてまずは機能している。
 
先生のお話で印象的だったのは、iPad同士をつなぐネットワーク上のシステムを用いて、授業のプリント配布・連絡事項の伝達・アンケート・小テストなどが行えるようになったという利便性に加えて、そのことがクラスのコミュニケーションの質を変えたという点である。
体育祭でクラスのオリジナルTシャツをデザインするというイベントでのこと。従来は、デザインが決まると係の者と担任とT シャツプリント業者の間での作業となってしまい、「クラスでTシャツをつくっている」という風に認識できなかった。しかし、iPadとネットワークを利用することで、作業の進捗状況をデータ化して報告したり、Tシャツの色デザインのサンプル画像をアップロードして人気投票を行ったりすることが可能になったという。
個々のメンバーが「クラス」という全体を強く意識し、コミュニティへの帰属意識を強くしたのではないかとお話されていた。連絡事項の伝達の速さ・正確さも格段に向上したとのことだ。
 
 
中学一年生の英語の模擬授業では、Quizletを用いた授業を見学させて頂いた。Quizletとは、「単語カード」を作成・共有・テストできるネット上のサービスのことである。単語カードの表に日本語が書いてあり、クリックするとそれがめくれて、裏に書いてある英単語が現れる仕組みである。単語カードの内容でMatchingゲームやテストを行うこともでき、生徒たちは自分の好きな方法で学習が進められるのだ。
このQuizlet、実は私が暮らしていたオーストラリアの私立高校でもよく使っていた。私の場合、選択授業の中国語のクラスでこれを利用した。中国語の単語を暗記するのに、ノートに単語を一つ一つ書き写すよりも遥かに効率が良いので、Quizletばかり使って勉強していた記憶がある。そんなことを懐かしく思い出しながら、iPadを利用するということが、世界中の教育リソース、学習コンテンツを利用する可能性に開かれることを意味するのだと改めて認識させられた。 
 
高校生の模擬授業は、数学と科学を見学させて頂いた。どちらの授業でも、ホワイトボ ードに先生のiPadの画面が映し出され、それにホワイトボードマーカーで書き込んだりして授業を進めていた。生徒達もそれぞれのiPadを机の上に置き、授業を受けていた。生 徒たちには授業の前日またはそれ以前から、データとしてプリントがすでに行き渡ってい るので、アプリケーションを使用してそれにメモを取ることが可能だ。しかし、興味深かったのは、生徒達がiPadとノートの両方を同時に使っていたことだ。どうやら、授業で使 っているプリントも紙媒体でも配られているようである。それを、例えば途中式が多い数 学の問題を解く際にはノートを使う、といった形で、使い分けているのだ。
 
最後の 質疑応答の時間に、「iPadとノートの使い分けはどのように決まっているのか」という質問があった。それに対する答えは、「授業を行う先生が基本的なルールを決めるのだが、 高校生に対しては、基本的には自分の使いやすい方を自分で選択させるようにしている」ということだ。iPadで全てのプリントを管理したい場合はそれで良いし、プリントに手書きで書き込みたい場合はそれで良いとのことである。紙媒体のプリントも、書き込み終えた後に写真を撮ってしまえば、再度データとしてiPadで管理できるので、紛失した場合も対応できるからだ。
このように、iPadを全面的に導入したからといって、紙媒体を使った勉強・授業の形がなくなるわけではない。むしろ、iPad上か紙媒体か、選択する機会が与えられたことで、より自分にあった勉強方法を見つけ出すきっかけを生徒たちに与えている。更に、全員がiPadを所 有しており、ネットワーク上で全員と繋がることができるからこそ、コミュニティとして の結束が固くなる効果もある。情報の伝達のスピード・正確さが増したことによって、あらゆる作業が効率化され、無駄を省くことが可能になった。
 
今回の学校公開では、「とりあえずやってみる」ことの大切さと、iPadという一見高度なテ クノロジーを持つものに挑戦する際の姿勢のお手本を見ることができた。1年間の試行錯誤の上、教職員方と生徒達が一緒になって見つけ出したiPadの活用方法は、これ からも更に新たな発見を経て、進化していくはずである。 

桜丘 未来への翼とコンパス(3)

数学のクラスを覗いてみる。ここでもiPadを使った授業が行われていた。

この教室でも先生の笑顔と元気な声が印象的だ。一人一人に渡されたiPadからは楽しげな電子音が鳴り、子どもたちは教科書を読むように、あるいはノートに何かを書き込むようにiPadを使いこなしている。

説明会で強調された「教育環境」というのは、やはりこういうことだったのだ。iPadは意識されない道具=環境となり、学習者が主体となる。

そこでシェアされる体験は教科内の知識に留まらない。

楽器の鳴らし方や指使いも。そして、スイングや捕球の仕方も。

知識は獲得の対象としてあるのではない。その場に参加した者がシェアし、いつでも参照できるものとして開かれているのである。

そう考えると部活動も授業も同じ時限で行われている意味も分かってくる。何を学ぶかということだけが大切なのではない。誰とどんなふうに学んでいくのか、その教育環境全体に目を向けるのが桜丘の21世紀型教育の神髄であろう。

桜丘 未来への翼とコンパス(2)

体育館での説明会が募集要項の話になるところで、子どもたちは授業・クラブ体験に移動。この日は全部で16の体験イベントが行われた。期待と緊張が入り交じった面持ちで子どもたちはお目当てのイベントへと向かった

「世界の食卓」というタイトルに誘われて、社会科のクラスにふらりと入ってみた。先生がにこやかに迎えてくれ、子どもたちもリラックスしているのが一目で分かる。

机に置かれているシートに自分の好きな食べ物を記入し、自己紹介をする。先生、先輩そして受験生と続いた。

自己紹介が一通り済むと、在校生と受験生それぞれにiPadが渡される。先生の指示に従ってアイコンを操作すると、そこには1枚の写真。写っているのはどこかの国の食卓だ。

チームで打ち合わせを行う。先輩が気づいたことをパートナーである受験生に相談。自分の知っている料理や素材を見つけては、どこの国のものかを検討する。

授業の始まりからわずか15分程の間であったが、21世紀型授業が展開されていることはすぐに分かった。机の配置。先生の立ち位置。そして「I DO YOU WATCH」「I DO YOU HELP」から「YOU DO I HELP」「YOU DO I WATCH」に至る、学習者を中心とした授業展開。さらに、生徒が知らない知識を授けるのではなく、生徒が知っている知識を利用して授業を展開する手法。このような授業の達人が何も偉ぶることなくそこに居るということに感動すら覚える。

この後チーム対抗戦が行われ、自分たちの判断の前提となった知識や推論の検証がなされた。体育館での募集要項の説明が終わり、保護者も体験イベントに合流する。

チーム対抗戦といっても、勝敗を競うわけではもちろんない。笑いと好奇心に包まれた雰囲気はそのままだ。ここではiPadはノートや教科書と同じ一つの道具、あるいは環境の一部である。

先生も在校生も子どもも親も、「主体的に学ぶ教育環境」をシェアしているのである。

 

桜丘 未来への翼とコンパス(1)

6月22日に行われた桜丘の中学校説明会は、あいにくの雨模様での開催であったにもかかわらず、来場者は体育館に用意された座席を埋め尽くすほど盛況であった。そしてそこで提示された中身も21世紀型教育が浸透しつつあることを印象づける新しい試みに満ち溢れたものであった。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

説明会の司会を務めたのは「キャンパス・ナビゲーター」と呼ばれる在校生。大勢の保護者を前に、堂々と開催の宣言をした。続いて音楽が流れ出し、バトン部のパフォーマンスが始まった。

正直、桜丘の説明会の始まりの意外性にまずは驚かされた。説明会といえば理念や教育方針の説明から始まって・・・という先入観を抱いていたわけだ。しかし、パフォーマンスを見ているうちに、学校を語るのは先生だけではなく、生徒も語るべきだし、生徒が自分たちの活動を披露する説明会があっても当然であるという気分になってきた。桜丘の学校説明会は、授業体験・クラブ体験をセットにした学校全体を体感するイベントなのである。

ほどなくパフォーマンスが終了し、校長の平先生の説明が始まった。

平校長は、写真をふんだんに利用したスライドを使い、イメージに訴えかけるようなスタイルで桜丘の教育についてプレゼンテーションを行った。

今年から入学した生徒全員に配られることになった iPad も早速自らが使っている姿を披露する。教職員にはすでに1年前に配布され、授業に活用するための準備期間となっていたとのことだ。

iPadを学びのツールとしながらも、桜丘ではICTのハード面だけを重視しているわけではない。仲間とのコラボレーション、コミュニケーションを成立させるための学び合いの教育環境を成立させるという前提があり、そのためにICTを利用するというスタンスなのである。

副校長の品田先生は、動画を挟み込みながら、21世紀型スキルの重要性についてTEDさながらのプレゼンを行った。

品田先生のプレゼンにおいても教育環境の重要性が語られた。桜丘において教育環境とは、施設などのハード面だけではなく、生徒が自立して能動的に学習できるようになるためのすべての条件を指している。

もちろんiPadもそのような教育環境の一つだ。iPadは、私たちを取り巻くデジタルネットワーク社会の象徴である。21世紀に必要な教養は「翼」に、そして未来を切り開く判断力は「コンパス」に。桜丘ではビジュアルや象徴を用いながら、生徒に未来への鳥瞰的な視点を授けているのである。

文化学園大学杉並 知性×感性のスパイラル(3)

全国でも珍しいなぎなた部が練習する道場を覗いてみた。

練習中の部員の一人がさっと案内に立ち、写真を見せて説明を始めてくれた。なぎなた部は、コシノジュンコ氏主催のファッションショーとのコラボをするなど、戦闘技術としてだけではなく、精神的な修養を目指しているのだ。ファッションショーが精神的な修養につながるというのは戸惑いを感じるかもしれないが、顧問の佐藤智尚先生によれば、こういうコラボを実際に行い、世界一流の人や企業に接すると共通するものに気づくのだという。それは「隙がない」ことだと。もちろんここで言う「隙」というのは、気の弛みとでもいう意味である。この隙のなさこそがなぎなたにおける修養、不如意を破ること(すなわち如意)に通じるという。

佐藤先生は、満面の笑みで楽しそうに説明を続ける。剣術における「理合」の考えや、文武両道の本来の意味についてなど。

お話を伺っているうちに、文杉の「グローバル」が日本的な伝統にしっかりと根ざしたものであることを確信した。世界から注目を集めるファッションリーダーのコシノジュンコにせよ、あるいは武士道の精神を英語で伝えた新渡戸稲造にせよ、グローバルな人材は、世界につながろうとする精神と日本的な感性を両立させている。

 

文化学園大学杉並で始まるダブルディプロマへの取り組みは、単に海外の基準を日本に持ち込むということにとどまらず、日本のスタンダードを世界に知らしめる大いなる挑戦にもなり得るのである。

文化学園大学杉並 知性×感性のスパイラル(2)

2時限目の実技教科、そして3時限目の部活動、と時間をかけて体験するにつれて、文杉の「知性」と「感性」が磨かれるプロセスが徐々に明らかになってきた。

家庭科のお菓子作りやビーズを使った裁縫、美術の絞り染め、茶道、書道といった授業を見学して気づくのは、いずれの授業でも何かを教え込もうというよりは、一緒にいる時間を楽しもうとしていることだ。そこでは、先生そして在校生が奉仕する者として存在している。解説や説明・指示・確認を行う教師はいない。代わりに、何かを作り上げるために協力していく仲間(=奉仕者)がそこにいるのである。

お菓子作りをしている教室では、お菓子を焼いている間、在校生と受験生がこんな会話をしていた。「好きな芸能人っている?」「志村けんとかかな」「えっ。そうなんだー。お笑いが好きなんて意外だね…」

何気ない会話に、文杉らしさが満ちあふれている。フラットな関係と形容するのもはばかられる(つまりフラットであることをすら強要しない)ほど自然な人間の関係。相手がお客様だからとか、自分は先輩だからなどといった、気負うところがまったくない。お菓子を焼いたり、ビーズで模様を作ったりすることを心から楽しんでいる。そして、在校生は材料を持ってきたり、次に必要なことを準備する。先生は必要なくなったお皿を洗ったり後片付けをせっせと済ます。

各自がそれぞれの役目を当然のように果たしながら、みんなで楽しむのである。狭い意味での知性にこだわっていては決してたどり着けない境地だろう。

人に楽しんでもらうことが自分の楽しみでもあるという環境。

ここに文杉が楽しく笑顔でいられる秘訣がある。

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