ICT

聖徳学園ー新たなICT教育へのチャレンジ始まる

聖徳学園グローバル教育センター長でスクールカウンセラーでもある山名和樹先生が、ICT教育の領域で新しい試みを開始しました。早稲田大学大学院の教職研究科の研究室とのコラボレーションで、TalknoteというSNSを利用した中学2年生向けの公開授業を6月に実施。異なる世代の考え方に触れる体験を通して、情報リテラシーやコミュニケーション能力を高めるICT教育のあり方です。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

山名先生が示した授業目的は、次の3つです。

  • 外部とのつながりによる、新たな道徳教育の形
  • SNSの効果的な活用
  • コミュニケーションを考える

現代社会の働き方は、チームでのコラボレーションが重視されつつあります。会社の文化や世代の違いを超えてコミュニケーションをしていくことがますます求められている時代です。FacebookやツイッターといったSNSもまた、自分のメッセージが見ず知らずの人の目に触れてしまうかもしれないという意味で、実は高度なコミュニケーション能力を要求されるツールです。

聖徳学園では、そういう時代に要請されている高度なコミュニケーション力を育てつつ、しかもいきなり荒海に出るという危険性を回避するために、Talknoteというアプリを採用しました。学校外に開かれてはいるものの、一応学校の目を光らせておくこともできるSNSであるというところがポイントです。

そして、異なる世代で、顔も知らない大学院の学生とオンラインで交流することを通して、情報リテラシーやコミュニケーション能力を磨いていこうというわけです。

聖徳学園の中学2年生から大学院の学生に、Talknoteを通してすでに3つの質問が出されていました。

  1. 中学時代に戻ってやり直したいこと
  2. 中学時代に出会った大きなこと
  3. 14歳までに知っておくべきこと

年長の人たちが自分たちの年代を振り返った時にどのように感じるのか。自分が過ごしている「今」が未来からどのように見えるのか。こういうことを知る意味で、年長者による助言は時に有効な手がかりになります。特に中2という学齢は思春期の真っ只中で、自分を見失いがちな年代です。スクールカウンセラーでもある山名先生にとって、そういう問題意識がプログラムに活かされているのでしょう。

この日の授業では、学生がTalknoteを通して返してきた回答をカテゴライズして、それぞれのチームがプレゼンテーションを行うという流れになっていました。

この日、Talknoteでやり取りをした早稲田の学生は別室に待機していて、中継を通して教室の中2生たちの様子を見ていました。中2生の教室でも学生の姿がスクリーン上で中継されており、それまで顔が見えなかった相手がこの日初めて確認できたのです。「あの人が〇〇さんなのかも」と考えることで、どうやら親近感が湧いてきたようです。チームの対話も活発になってくるのがわかります。

ポスタープレゼンテーションでは、自分のチームでプレゼンテーションをするだけでなく、ルーブリックを用いて他のチームの評価もしました。

振り返りは、やはりTalknoteを通して行われました。中2生と学生とが、自分の感じたことをそれぞれ交換し合います。そこで印象的だったのは、顔が見えた後の安心感に言及している生徒や学生の意見が多かったことです。

SNSがコミュニケーションツールとしてこれだけ広がっている中、そのツールをただ禁止したり制限したりするのではなく、どのような特性を持っているのかを考えさせ、活用するための知恵を身につけていこうとする意味で、この授業はとても意義のあるものでした。実践を通して常に新しいことに挑戦する聖徳学園は、ICT教育においても新しい方向性を模索しているように感じられます。

おそらく今後はこうしたSNSを活用した学びをグローバル教育にも結び付けていくことになるのでしょう。年齢の異なる他者から文化が異なる他者へのシフトは、グローバル教育センター長である山名先生にとって、すでに想定済みのことであるように思われます。次の展開が今から楽しみです。

工学院 リーダーシップ研修 タブレット使って

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)は、多様な研修を内製化/内省化しています。もちろん、先生方自身、外部の研修でも自己陶冶していますし、NPOなどとの連携プログラムもコーディネートしています。しかし、最終的には、自分たちの力で学校をパワフルにしていく必要性を感じています。

ですから、自分たちでコーチングシステムを生み出し、学んでいこうとしています。授業・テスト・評価の流れをPIL・PBLに転換し、自らつくった思考コードというメタルーブリックでプログラムをつくり、データによって検証していくシステムはかなり進んでいます。プロジェクトチーム→教科チーム→全体研修と浸透を広めています。

しかしながら、最終的にはどんな局面でも、メンバーと協力し、乗り越えていくリーダーシップを発揮しなければなりません。そのため、リーダーシップ研修の内製化も開始したのです。 本間勇人:私立学校研究家

平方校長は、C1英語、PIL・PBL、ICT、思考力テスト、リベラルアーツなど、まずは中学から大改革を進めています。試行錯誤、紆余曲折はあるかもしれませんが、改革項目は中学校全体に広がりました。

したがって、来年から高校にまで広げていきます。しかし、高校は中学の3倍の生徒の数になりますから、たんに教育方法論を改革したからといって、入魂改革は容易ではありません。やはり、最終的には人材です。教師のモチベーションと生徒の未来を拓くリーダーシップこそ重要です。

だからといって、リーダーシップを発揮せよと号令をかけて動くものでもありません。改革のパラドクスは、改革の号令をかけると動かない人材がでてくるというものです。したがって、平方校長は、リーダーシップが教師1人ひとりの心に火がつくような学びのチームを形成しています。

中高から主任クラスを集めて、自分たちでリーダーとは何か?リーダーシップとは何か?どう語るのか?どう動くのか?メンバー一人ひとりの特性をどのように理解していくのか研修しています。

(左から太田先生、田中先生、岡部先生)

プロジェクトチームのリーダーである太田先生、田中先生、加藤先生(加藤先生は、今回は生徒のために海外研修にいって不在でした)が、リーダーシップ研修については、人生の先輩である岡部先生にプログラムを作成してもらい、指導を仰ぐという形式でスタートしました。

岡部先生は、その道の名ファシリテーターで、「映画」を使ったり、Web上のゲームを使ったり、要するにICTを自在に操りながら、何が一体乗り越える壁なのか、明らかにしていく機会(オポチュニティー)を創っていきます。

素材がわかりやすいものなので、互いにストレスなくオープンマインドで議論していく環境が整います。もちろん、参加した先生方は、この研修がリーダーシップ研修であると同時に、自分たちの授業でも活用できるサイトやアプリ、流れなどメタ的に理解しますから、一石二鳥なわけです。

リーダーシップ研修の内製化の何より重要なのは、映画やストーリーのケースを、最終的には自分たち学校の具体的なケースメソッドに落として議論していけることです。外部の研修ではこうはいきません。ですから、プレゼンにも責任を引き受けた真剣なものになります。

edModeを活用して、行うので、アンケートもとりながら、メッセージも共有しながら研修は進みます。簡易エゴグラムの結果も互いに一気に共有しますから、個人のリーダーシップの特徴を理解し合います。そして、とそれがチームになったときの組織的動きにどうつながらぬかも見えてきます。

事実確認をしながら、根本にある問題を共有し、それをどう解決していくのか。創造的問題解決型リーダーシップをトレーニングしているのです。

もちろん、この創造的問題解決型リーダーシップは、生徒も身に着ける大切な使命です。予想がなかなかできない未来にあって、生徒はこのリーダーシップを自分軸として持っていれば、なんとか突破口を見いだせるのではないでしょうか。

それにしても、少年少女のように学ぶ先生方。研修はいつもPIL・PBL型で行われるのですが、この姿はそのままふだんの授業の生徒の姿や表情に重なります。

教師も生徒も共に学ぶ組織が着々と形成されているシーンを見学することができました。

桜丘のICT教育 次の次元へ!桜丘ショック!はまだまだ続く(3)

§3 多様な思考スキル

アクティブラーニングは、タキソノミーという能力の段階とその段階の間を幾度も往復し、循環するための思考ツール、そして思考スキルの関係総体で展開されます。思考ツールには、iPad、レゴ、思考マップなどが強力ですが、粘土や木材、楽器、画材などなど無限にあります。しかし、iPadがそのほとんどを陵駕できてしまいます。立体的なものの触覚だけは今のところなかなか難しいかもしれません。しかし、IoTの進化でそれも克服できるかもしれません。いずれにしても、そうなれば、iPadのようなタブレットは、メタ思考ツールに昇格します。

【多様な比較スキル】

社会科の授業で、マップというアーカイブを活用する授業が展開していました。マップはズームなどが自在にできますから、地図をいろいろな角度から見ることができます。写真やコメントなども取り込めますから、多様な比較というスキルを瞬時に活用できる思考ツールとしてiPadが活用されていました。モノやコトを理解していくには、多様な比較というスキルを活用して差異や共通しているところから分析していくのは定石です。

しかし、iPadがなければ、多様な比較をするのに時間がかかります。限られた時間では限られた情報でしか比較ができませんから、理解の範囲は偏りがちになります。そこを補うために講義を行って知識で補強していくわけです。

昨今の風潮として、知識を記憶することが軽んじられていますが、知識自体は今も昔も大切です。知識を憶えることが目的なのではなく、目の前の限定的な情報で足りない部分を補うのに知識が必要なのです。それを極端に知識だけでモノやコトの理解の像をつないでいくことは、危険極まりないということは、ちょっと考えればすぐに気づくことでしょう。iPadの活用は、知識のみの偏向的理解を回避できるのです。こうして考えると、なぜ伝説の教師が注目されてきたのかは、よくよく理解できます。

【選択の最適化スキル】

オールイングリッシュの授業で、グーグルドライブなのかアプリなのか私にはわかりませんでしたが、機能としてはクリッカーが活用されていました。選択肢から正解を選んでiPadの画面をタッチすると、クラスメンバーの選択の分布が瞬時にグラフ化されるソフトです。

選択肢が正しいかどうかというより、どうしてこういう偏差が生じるのかを議論するところに価値があります。ものの見方や考え方を相対化し、何が妥当なのか信頼できるのか正当なのか、選択の最適化のスキルを獲得できます。

選択肢問題ができることも重要ですが、人生の岐路に立った時、どちらが最適なのか、妥当でも正当性がなかったり、信頼性があっても妥当でなかったりというようなジレンマに立たされるのが実際の問題なのです。

【引き出すとは因果関係あるいはカテゴライズのスキル】

生徒と直接対話しながらICT教育のあり方について、学ぶスペースが設けられていました。iPadを通じて先生方とどんなコミュニケーションをとっているのか、実際に画面に取り出してもらいながら説明してもらいました。資料や課題はPDFで送られてきます。記述の解答はメールで送るとコメントやメッセージが書かれて返ってきます。記述はノートやワークシートにそのまま手書きで書いてもよいし、メールで返信してもよいということでした。

ノートやワークシートに直接書き込んだ場合は、iPadで写真を撮ってメールで送るということです。おもしろいと思ったのは、ICT活用の普及で、合理的・効率的になったことによって、先生とのコミュニケーションの量、勉強の量がかえって増え、密度が高くなっている実感があるということでした。一日の時間は限りがありますから、量が増えたということは、質が向上したということになります。

これはおそらく先生の側も同じでしょうから、コミュニケーションと学びの量が増え、結果、教育の質が豊かになっているという質感が学内にあふれているということでしょう。

それは、模擬授業などの見学が終わってからの全体会議で明快に伝わってきました。オープンキャンパスを運営した教師と生徒が全員が、前に並んで、参加者の質問に答えている姿から、その雰囲気が醸成されてきました。

【ロールモデル化スキル】

数学の作図の授業には、実に興味深いものがありました。生徒一人ひとりが作図を終えたら、例によって、写真を撮り、先生に送ります。すると、ロイロノート・スクールに送られてきた解答をすべて白板に投影してシェアします。級友の書き方がシェアされるわけですが、それができるのは「オープンマインデッドネス」があることが前提です。また、この学びのシステムは、「システム思考」の一端を担います。互いの作図の方法の是非は論理的に「コミュニケーション」することが必要となります。

当然、このICT教育は協働するというチームワークも前提になっています。そして極めつけは、一人の生徒が代表して作図の実演をするところまでいくことです。この一見何気ない学びのシステムも、ロイロノート・スクールのアプリをiPadに搭載していないとできないのです。かりにアナログでやったとしたら、とてつもない時間がかかります。

それよりも重要なことがいくつかあります。この環境がなければ、全員の作図の方法がシェアできないので、代表者が実演することの意味が違ってきます。正解の発表という意味になってしまうのです。また、チームワークも必要ありません。それぞれができたかどうかだけが問題になります。オープンマインデッドネスも必要ないでしょう。

すると「シェア」「システム思考」「コミュニケーション」「オープンマインデッドネス」「ロールモデル」の5つの要素が揃わないのです。潜在的にあっても、可視化・顕在化していなければ意味がないのです。それでは、5つの要素が揃うとどんな意味が生まれるのでしょう?この5つの要素こそ、学びの組織を形成する重要な要素だったのです。

§4 次の次元へ

桜丘のICTオープンスクールに参加して、本当に驚愕でした。こんなにも学びの組織が浸透しているがゆえに、生徒一人ひとりが論理的にコミュニケーションをしたりプレゼンテーションするシステム思考が育っている姿に遭遇したのですから。

チームワーク、オープンな信頼関係、自分たちも先生方と一緒に学びの組織をつくっているのだという自信などがメンタルモデルとしてシェアされているわけです。昨今、国際比較で、自己肯定感が低い日本の生徒が多いと言われている中で、それを覆すような創造的自信を誇りにしている生徒がたくさんいるのに衝撃を受けました。

しかし、本当の「桜丘ショック」は、最後に待っていました。見学終了後、感動に満たされた気持ちで全体会に臨んだら、いきなり「導入に関する『先進校』としての役割は終わりました。このような形のオープンスクールは今回で終わりです。次の次元へ進みます。進んだらまたご招待します」と宣言されてしまったのです。

桜丘のICT教育の妙技をやっと知ることができたと思ったその瞬間に、学校としては、これでは満足いかないから、次のステージへと、パラダイムシフトしますと言われたのです。これが本当の「桜丘ショック」だったのです。

桜丘のICT教育 次の次元へ!桜丘ショック!はまだまだ続く(2)

§2 ロイロノート・スクールの効用

高2の政治経済の授業は、「学習を通じた創造的思考力一歩前」くらいまで到達する授業でした。「一歩前」と表現したのは、模擬授業の時間設定が30分だったからです。もしiPadやロイロノート・スクールなどのネットワークを活用しなければ、5時間以上かかる授業です。それを30分でやってのけるのですから、時間内にカリキュラムが終わるかどうかという不安はもはや払拭できるでしょう。

テーマは「パリ同時多発テロの背景を洞察して問題解決の正義判断をする」というものだったと思います。まずは、youtubeなどから、「同時多発テロ」を市民などが映した動画を見ていきました。担当の先生は、動画を活用することで「リアリティ」という思考のスキルをつかったのです。リアリティとは感覚ですが、思考する場合、問題発見をするときにはより「リアリティ」に近い状況を生み出すスキルとしての「リアリティ」がポイントになります。

ここにはリアリティのコペルニクス的転回がありますね。目の前の木とスケッチしている木とサイバー上に動画としてアップされている木とどれがリアリティがあるのでしょう。もし見ているだけではなく、実際に触るというスキルを活用すれば、リアリティを最も強烈に感じるかもしれません。

しかし、見ているだけなら、スケッチしている木や動画の木のほうがリアリティを髣髴とさせるかもしれません。つまり、リアリティとはイマジネーションを現実よりも強烈に脳内に映し出すことなのです。ちょっとカント的発想ですが、コペルニクス的転回ですから、そういうことでしょう。

これによって、生徒は、好奇心が立ち上がり、オープンマインデッドネスになり、なぜだろうという問いが生まれてきます。この状態をマインドセットといいますが、この3点セットがそろうと、生徒は探究思考の旅に没入していきます。議論は白熱します。次々と疑問が生まれます。フロー状態という没入状態はもちろん、モチベーションが内燃している状況です。

マインドセットされている状態をつくったうえで、先生はパリ同時多発テロの背景である欧米中心主義や、宗教問題、化石燃料の覇権の問題など、事実をキーノートを活用しながら情報提供します。ここは「知識」「理解」の段階ですね。もしマインドセットがないまま、いきなり講義に入ると、傾聴しない生徒も現れたでしょう。しかし、興味と関心が湧いて、自分事として意識できる状況ができていますから、生徒は真剣そのものです。

そして、このパリ同時多発テロについて、世界の人々の感じ方や物の見方の情報を提供します。時間があれば、検索してリサーチする機会を設定したでしょう。生徒はiPadを持っているので、PDFをメールで送ればよいのですが、ここはプリントを活用しました。なぜでしょう。それは、iPadは鳥瞰するのが苦手な道具だからです。

こういうところに、授業デザインの妙技があるわけですが、ともあれ、その多様な情報から、自分ならどれに共感し、どれに批判的になるかなど選択の意思決定をする段に進みます。

先生は、自分がなぜそれを選んだのか生徒それぞれがロイロノート・スクールに書いたものを、プロジェクターで映し出してシェアします。そして、プレゼンしながら、互いの考え方や感じ方の違いをシェアしていきます。

また、ロイロノート・スクールはウェブ上に保存できますから、他のクラスの生徒の考えをシェアすることもできます。このような多様なものの見方のシェアこそ、なぜどこが自分とは違うのだろうというリフレクションになるわけです。そしてこのとき、選択判断をしている自分という基準が現れてくるのです。「自分軸」の自己認識とでもいいましょうか。

「学習を通じた」というのは、実はこの「自分軸」を見出す過程だったのです。この「自分軸」があることによって、意思決定ができるし、自分独自の創造的な発想が生まれてきます。ここまでを「創造的思考力一歩前」と表現したのです。ここまでくれば、あとは生徒自身が創造の翼で飛翔するでしょう。

桜丘のICT教育 次の次元へ!桜丘ショック!はまだまだ続く(1)

2015年12月18日(金)、桜丘は「冬のICTオープンスクール」を実施しました。同年10月、eラーニングアワードフォーラム2015における『第12回 日本e-Learning大賞』で桜丘の実践「生徒・教職員の創造性を刺激する,iPadがある学校生活」が文部科学大臣賞を受賞。

その実績、つまり「桜丘ショック」を、模擬授業空間やiPadを使っている生徒と直接対話できるスペースなどで、全国から訪れた先生方と共有しました。by  本間勇人 私立学校研究家

§1  iPadの効用

桜丘は、教職員も生徒も合わせて800台のiPadが稼働しています。今年2016年は、全校生徒が所有します。そうなると、1人ひとりがiPadを活用すると、どんな効果があるのか?まずそういう質問が世の中では必ずでてきます。それにきっちり回答してくれているのが、桜丘のICTオープンスクールです。文部科学大臣賞を受賞したのは、その貢献度の高さが故でしょう。

さて、具体的にどういう効用があるのでしょうか?これを考える時に、すぐに模擬授業見学したり生徒との対話をしたりした後に、どうも自分の所属する組織の都合に合わせた質問をする傾向があるのですが、実はそれでは、iPadの使いやすさとかコストとか、教師の準備時間の労力とか、どのくらい使っているのかという一見重要ですが、それは経営の理屈で診ているということに気づかない方々が多いですね。

たしかに、予算を通すためには、コスパが要求されるのでしょう。関連企業は、どのくらい購入してもらえるか有効性を定量的に測りたいのでしょう。やむを得ないのでしょうが、そのような質問が多くなりがちです。もっと生徒のどんな能力を伸ばすのかという観点で参加した方が良いとつくづく思います。もしブルーム型タキソノミーを活用したならば、それだけで教育の論理の効用は見えてくるはずです。

「生徒・教職員の創造性を刺激する,iPadがある学校生活」で文部科学大臣賞を受賞した意味はそもそも何でしょう。文部科学省は、このテーマと実践が、次期学習指導要領改訂と2020年大学入試改革において実施する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に対応できるICT教育であることを高く評価したのです。

では、次期学習指導要領及び「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に対応できるというのはどういうことなのでしょう。それはブルーム型タキソノミーでいえば、「知識」「理解「応用」「論理的思考」「批判的思考」という「学習を通じた創造的思考力」を育成することが最終目標です。たんなる思い付きではなく、学習を積み上げて掘り下げて行った末に爆発する破壊的創造力を想定しているのですね。つまり破壊的イノベーションというわけです。

こんな「学習を通じた創造的思考力」は、iPadやラップトップを活用しなければ50分前後の授業でプログラムを展開することは無理でしょう。実はこの授業、iPadを使わずにというか、なかったので、長い時間をかけてやってのけたのは、たとえば、大村はま先生です。あるいは、灘の橋本武先生です。お2人とも本物の授業を行った伝説の教師です。

最終的には「知識」「理解」・・・「批判的思考」を行って「学習を通じた創造的思考力」に到達する伝説の授業を行いました。しかし、伝説ですから多くの教師は、その境地に到達できませんでした。お2人の当時の授業では、アーカイブやデータは、アナログでしたが、今iPadを活用して授業を行ったとしたら、楽々授業が展開できたでしょう。それどころか、もっと密度を上げて、さらにスーパー伝説の教師になったと思います。それはともかく、実は、iPadの最大の効用は、「脱技能」あるいは2人の伝説の教師の授業スキルを「初期値」として設定できてしまうということなのです。

21会では、この伝説の教師を初期値としてさらに超えてしまう教師をスーパーグローバルティーチャー(SGT)と呼んでいますが、iPadでネットワークを活用し、ロイロノート・スクールやキーノートなどのプレゼンテーションツールやワードあるいはエクセルのようなソフト、それとSNSを教師と生徒が共に学ぶ環境があれば、教師はSGTに、生徒はアントレププレナーにすぐになれます。

「知識量」の心配、「思考力」の心配、「主体性」の心配、「協働性」の心配、「自分軸」や「判断力」の心配等々すべて不安を払しょくできます。それでも、限りある時間内で「カリキュラム」は、終わるのだろうかという完全に20世紀型教育である教師都合の不安も、実は払しょくすることができます。そういう創意工夫を教師や生徒に仕掛けてくるアフォーダンス機能が、iPad with networkには埋め込まれているのですす。

模擬授業は、ブルーム型のタキソノミーの「知識」「理解」を中心とする授業、「論理的思考」を中心とする授業などいわばトルソーにならざるをえないので、タキソノミーを意識して見学しないと、木を見て森を見ないことになりがちです。パーツのノウハウだけ持ち帰るということになりかねません。

しかしながら、今回、このすべてのタキソノミーの段階が埋め込まれている授業がありました。それは高2の政治経済の授業でした。

富士見丘 中1のアクティブ・ラーニング × ICT

文部科学省の指揮の下、アクティブ・ラーニングとICTが本格的に教育現場に導入されようとしています。5年後の大学入試改革と「生徒1人1台タブレト端末」を目標に、多くの学校が「教育改革」に本腰を入れて取りくんでいます。しかし、子供達の未来が明るくなる兆しがみえる一方で、そのための困難もまた多く見受けられます。実際、現場の先生方は「アクティブ・ラーニング」という新しい指導法に加え、不慣れなICT機器を使いこなさなければならず、その負担は無視できるものではありません。
 
いかに負担を少なくスムーズに、それでいて効果的なアクティブ・ラーニングとICTを浸透させていくかが「教育改革の鍵」といってもいいでしょう。今回はその好事例として、今年SGH(スーパーグローバルハイスクール)指定校に選ばれた富士見丘学園(以下、富士見丘)の取り組みをご紹介したいと思います。(ICTアドバイザー 福原将之)
 
 
 
以前、ご紹介したように、冨士見丘ではアクティブ・ラーニング型のLHRを中学一年生対象に月1回のペースで実施しています。今回ご紹介するのは、10月に実施された第5回のLHRです。アクティブ・ラーニング型の授業の質を左右するポイントとして、最初にテーマの選定が挙げられます。いかに「質の良い問いかけ(テーマ)」を投げかけられるかどうかで、生徒達の学びと気づきの深さが決まるからです。今回、冨士見丘の先生方が選ばれたテーマは「ロボットの未来」でした。このテーマの背景には、ご存知のとおり「人工知能三原則」「2045年問題」「ドローン問題」「ロボットの軍事利用」などが広がっています。
 
しかし実際の授業では、このような背景については一切生徒達に説明しません。なぜなら、このような背景が生まれた人類史の展開こそが、アクティブ・ラーニングを通して生徒達に体験してほしい本質だからです。能動的な学びに必要なものは2つ、テーマに関する「生きた情報」と「動機付け」です。スマートフォンを片手に、Apple TVを活用した大島先生のプレゼンテーションは、生徒達をロボットの世界に引き込んでいきます。
 
 
次に生徒達は、iPadを使ってロボットに関する様々な「生きた情報」を吸収していきます。ここでインプットさせる情報の質によって、この後のグループワークの深みが変わっていきます。富士見丘では、「ひとりひとりの気づきをグループでシェア」するボトムアップ型のアクティブ・ラーニングを採用しているため、特にこの「インプットさせる情報の質」には気を使われています。
 
 
そして、学びと気づきをシェアするグループワークに移ります。発想をポストイットに書き出し(思考の発散)、ポストイットをカテゴリー毎に並び替え(思考の整理)、そのカテゴリーにインデックスをつけていきます(思考の収束)。このクリエイティブな思考プロセス「発散→整理→収束」を、富士見丘では反復してトレーニングしてきました。まだ中学一年である生徒達も、馴れた手つきでポストイットにアイディアを書き、友達とシェアし、意見の違いに驚き、時に笑いながら「グループとしての意見」をまとめていました。
 
この段階のグループワークにおいて、iPadなどのICT機器を一切使っていない点もポイントのひとつです。実際、ビジネスの現場においても、クリエイティブな思考プロセスの補助には、ICTよりも紙ベースの方が好まれる傾向にあります。(私自身、創造的思考をする際はカラーペンやポストイットなどを愛用しています。)タブレットを導入したからといって、無理にすべてのプロセスで使用する必要はないのです。「ICTに使われる」のではなく、適材適所に活用していくことが「ICTの力」を最大限に発揮するポイントなのです。
 
 
グループワークの後は、いよいよ全体でのプレゼンテーションです。45分という限られた授業時間の中にプレゼンテーションを組みこむためには、やはりICTの力が必要不可欠でしょう。プレゼンテーション用の資料は、iPadのカメラ機能と専用のアプリを使って1分足らずで作成できます。前方のスクリーンへの投映は、Apple TVのAirPlayミラーリング機能を使って、iPadからボタンひとつで切り替え可能です。複雑な配線作業はもちろん、難しい設定も不要ですので、生徒達だけで簡単にプレゼンテーションの準備を行うことができるのです。
 
iPadを使ったプレゼンテーションでは、グループの代表が自分たちの意見や発見について説明をしていきます。生徒達のプレゼンテーション技術を鍛えながら、他のグループの意見を聞くことで「新たな問いの発見」を促すことが目的です。あるグループでは「ロボットに愛情をもたせたらどうか」という発想から、ロボットの行動原則・価値観・倫理観のあり方、そして「人工知能三原則」に近い発想にまで議論が及んでおり、富士見丘の先生方も驚いていました。
 
 
最後は、アクティブ・ラーニングの最重要プロセスである「リフレクション(振り返り)」を行って終わります。富士見丘のアクティブ・ラーニングでは、50の質問からなるオリジナルのルーブリックを用いて毎回リフレクションを行っています。詳細は非公開なのですが、このルーブリックこそが富士見丘アクティブ・ラーニングの要といっても過言ではありません。21世紀型スキルを鑑みて作られた質問項目はもちろん、生徒たちの回答を集計・分析し、それを授業内容に反映させていく先生方の創意工夫。生徒たちも継続して同じルーブリックに回答するため、冷静に自分自身の成長を捉えられるようになります。
 
 
しかし現実問題、リフレクションを毎回授業で行うのは、先生方の負担が大きいでしょう。授業時間が短くなることに加え、リフレクション・カードを作成する手間や、生徒達の回答を集計・分析するコストを考えると、リフレクションを実施するのは本当に大変です。実は21会では、この問題を「ICTの力」を使って解決すべくリフレクション・システムの開発を進めています。リフレクション・システムの詳細については、富士見丘のLHRに導入されるタイミングでご紹介させて頂きます。富士見丘のアクティブ・ラーニング×ICTは、これからも進化し続けるのです。
 
 
 

桜丘 ICTオープンスクール 未来に翔く(2)

IT機器やアプリの利用の仕方が先生によって異なるということは、生徒の学びがそれだけ多面的・多元的になるということである。桜丘では、iPad活用のためのインフラを整え、基本的なルールを定めたら、後は使う人の主体性に任せるといったスタンスが明快である。だからこそiPadの活用が進み、生徒と先生の経験値も上がるという好循環が起こるのであろう。

 高2生の英語のクラスを覗くと、Paul先生が、YoutubeやKahootといったインターネット上で利用できるアプリを使って授業を行っていた。英語のビデオをリスニングして情報収集を行い、隣り同士がペアになって協力しながらクイズに答えるというゲーム感覚あふれる授業である。

全員が同じペースでビデオを視聴するのではなく、各自のiPadでビデオを見るので、聞き取れなかったところを巻き戻すなど、自分のペースでビデオを見ることができる。

また、調べた内容に関するクイズがあることで、それぞれのペア同士がお互いの持っている情報をシェアするという状況が自然に出来上がっていた。

生徒たちはさながらクイズ番組の解答者で先生は司会者のようである。事前に調べる時間が加わっているところが通常のクイズとは違うところ。単に知識の多寡を競うというよりも、チームワークとリサーチの質が問われる。成績発表のたびに高得点者の名前がスコアボードに表示され、クラスが盛り上がっていた。

部活動の実践報告では生徒が主体的にiPadを利用している様子が紹介された。

バトン部ではiPadで撮影した映像をYouTubeにアップし、各自が自分の演技をチェックしているという。昨年全国大会に出場するという快挙を成し遂げたのはまさにYouTubeの成果なのだそうだ。

振り付けを覚えるといった個人練習は、YouTubeにアップされた模範演技を見て各自が家でやっておくべきこととなり、合同練習の場は全体の演技がどのように見えているかという点にフォーカスされるようになったのだという。なんとこれは反転授業の発想そのものである。

生徒たちは、道具があればそれを活用していく。「必要は発明の母」とよく言われるが、一方で、発明品がそれまで見えなかった需要を生み出す側面もある。iPadが学校に入ったことで、なぜこれまで気づかなかったのだろうという潜在的ニーズがどんどん引き出されている。そのようなイノベーションによって演技や学びの質が高められているのだ。

3時限が終了した後、体育館で行われた質疑応答では、これからiPadを導入しようと考えている学校の先生方から、導入に際して想定される問題に関して多くの質問があった。

導入を推進してきた品田副校長先生は、できるだけ多くの質問に対して、実際に現場で使っている先生に答えてもらうというスタイルをとっていた。心配な点やトラブルも含め、オープンに質疑応答ができる場を作ることに徹していたのだ。

さらに、そこには先生だけではなく、生徒も参加していた。IT学習環境は先生だけのものではない。生徒も主体的に関わっているのだ。実際、教室でiPadや通信にトラブルがあったときに、先生よりも設定を見るのが上手い生徒もいて、そんなときには生徒が先生を助けることもあるのだという。

質疑応答を聞いていて、ふと桜丘の先生方と生徒たちが新しい関係を築きつつあるのではないかと感じた。IT技術の進歩によって、多くの企業で働き方に変化が起こったように、学校の中での先生と生徒の関係も新しいあり方を探っていく時代なのかもしれない。ICT先進校である桜丘はひょっとすると、その潮流の最先端に位置しているのではないだろうか。そんな思いを抱かせてくれるオープンスクールであった。

Tags: 

桜丘 ICTオープンスクール 未来に翔く(1)

7月17日、桜丘でICTオープンスクールが開催された。教育関係者や全国から集まった学校の先生など、総勢200名近くの見学者で賑わった。ICT先進校の地位を確立した桜丘にとって、iPadを使った授業はすでに日常の風景となっている。ICTリテラシーを自然に身につけながら、未来を切り開く創造性を発揮する生徒の様子を取材した。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

1時限から3時限まで、それぞれの時間帯で10教室を超える会場で授業やプレゼンが行われ、見学者はそれぞれ見たいイベントへと向かう。iPadを使った授業を実際に生徒が受けている教室だけでなく、これまでICTを活用してきた部活やホームルームの実践報告、またロイロノートなどのシステム面の説明をしてくれる教室など、まさにICTオープンスクールという名の通り、ICTに関するすべてのノウハウをオープンにしていこうという桜丘の意気込みが感じられる。

授業をしている教室を覗いて驚いたのは、昨年取材で授業を見学した時に比べ、先生も生徒もipadを格段にうまく使いこなしていることであった。

オープンスクールというイベントのためだから特別に使っているのではなく、ふだんからiPadを100%活用していることは一目瞭然。何しろ手際がよいのだ。

リーディング教材を映しだしたかと思うと、英単語のフラッシュカードに切り替えたりするなど、黒板に書きこんでいてはとてもできないスピード感のある解説が行われる一方で、生徒の方は、時にはリサーチのツールとして、時には書き込みのノートとしてiPadを活用している。

リサーチツールとしてのiPadの可能性もさることながら、ノートとしてのiPad利用も大きな可能性を秘めている。

化学の授業では、生徒たちがスタイラスペンや自分の指を器用に使ってiPadに解答を書き込んでいた。

その解答を先生が自分のiPadに集め、ホワイトボードに映し出しながらチェックする。

化学式では、書かれる数字の大小がその式の意味を変えてしまうので、生徒の手書き答案を先生がチェックする。一人一人のノートを見回るより、一度に生徒全員が共有できるので効率的である。

「生徒が答えをiPadに書き込み、その画像を先生に送信、先生がそれを集め、特定の生徒の解答を映し出す」ー 書いてしまうと何ということもないようなことであるが、これを実際にさらりとやってしまうことのできる環境が用意されている学校はそう多くはないはずである。iPadが全員に配られるだけでは十分ではない。桜丘のICT教育に威力を発揮しているもう一つの秘密がロイロノートである。このアプリを利用していることで、iPad同士のコミュニケーション、あるいはコラボレーションが非常にやりやすくなっているのだ。

基本的な環境を設定したら、あとは先生や生徒にその利用は任せる。これが桜丘のICTを推進する品田副校長先生の基本方針である。ロイロノートを多用する先生もいれば、その他のアプリを使う先生もいる。そのバリエーションの豊かさが、生徒のICTリテラシーを高めることに寄与している。次の記事では、そのバリエーションについて触れてみたい。

 

Tags: 

桜丘 iPadが学校にやってくる

7月15日、桜丘中学・高等学校で、<iPadが学校に来ると教職員と生徒はどうなるのか>というテーマで、学校公開イベントが開催された。iPad導入を果たした桜丘を一つの事例として公開することで、他校の教職員や一般企業の方々とともにICT教育のあり方を考えていこうという意欲的な試みである。学校生活での様々な側面でiPadが浸透しつつある様子を取材した。  by 松本実沙音 (TES社リサーチャー:東京大学文科二類)

 
桜丘中学・高等学校では、今年度の5月より中学校一年生及び高校一年生の生徒全員に iPadを配布した。専任の教職員には、昨年度の5月からiPadが導入されており、ホームルームや授業で実際に使われている。教職員の方々は、iPadの活用方法は生徒たちと一緒になって模索していったと話していた。iPadを導入する目的や使用方法などを最初から限定するのではなく、「まずはやってみる」「iPadそのものに触れながら活用方法を考えていく」という姿勢で、生徒と教職員が手を携えてきたのだ。
 
ホームルームで生徒は iPadをどのように使用しているのか、あるクラス担任の先生が話してくださった。
例えば、MC(桜丘では、日直当番の人のことをMCと呼ぶ)は、連絡事項をクラスへと伝達する際、連絡掲示板の写真を iPadで撮り、それを読み上げる。今までなら、連絡掲示板の内容をわざわざメモに書き込まなければなかったのが、iPadのおかげで時間短縮につながっている。 更に、その写真をリマインダーとして、他の生徒のiPadへと送ることもできる。「全員が iPadを持っている」ことの強みは「共有」できることにあるだろう。
また、プリント管理をiPad上で行うことができるため、紙のプリントを忘れてしまっても、友達のiPadからデータを送ってもらい、アプリケーションを用いてそれに書き込むこともできる。
このように、iPadは生徒達にとって、作業の効率化をはかるツールとしてまずは機能している。
 
先生のお話で印象的だったのは、iPad同士をつなぐネットワーク上のシステムを用いて、授業のプリント配布・連絡事項の伝達・アンケート・小テストなどが行えるようになったという利便性に加えて、そのことがクラスのコミュニケーションの質を変えたという点である。
体育祭でクラスのオリジナルTシャツをデザインするというイベントでのこと。従来は、デザインが決まると係の者と担任とT シャツプリント業者の間での作業となってしまい、「クラスでTシャツをつくっている」という風に認識できなかった。しかし、iPadとネットワークを利用することで、作業の進捗状況をデータ化して報告したり、Tシャツの色デザインのサンプル画像をアップロードして人気投票を行ったりすることが可能になったという。
個々のメンバーが「クラス」という全体を強く意識し、コミュニティへの帰属意識を強くしたのではないかとお話されていた。連絡事項の伝達の速さ・正確さも格段に向上したとのことだ。
 
 
中学一年生の英語の模擬授業では、Quizletを用いた授業を見学させて頂いた。Quizletとは、「単語カード」を作成・共有・テストできるネット上のサービスのことである。単語カードの表に日本語が書いてあり、クリックするとそれがめくれて、裏に書いてある英単語が現れる仕組みである。単語カードの内容でMatchingゲームやテストを行うこともでき、生徒たちは自分の好きな方法で学習が進められるのだ。
このQuizlet、実は私が暮らしていたオーストラリアの私立高校でもよく使っていた。私の場合、選択授業の中国語のクラスでこれを利用した。中国語の単語を暗記するのに、ノートに単語を一つ一つ書き写すよりも遥かに効率が良いので、Quizletばかり使って勉強していた記憶がある。そんなことを懐かしく思い出しながら、iPadを利用するということが、世界中の教育リソース、学習コンテンツを利用する可能性に開かれることを意味するのだと改めて認識させられた。 
 
高校生の模擬授業は、数学と科学を見学させて頂いた。どちらの授業でも、ホワイトボ ードに先生のiPadの画面が映し出され、それにホワイトボードマーカーで書き込んだりして授業を進めていた。生徒達もそれぞれのiPadを机の上に置き、授業を受けていた。生 徒たちには授業の前日またはそれ以前から、データとしてプリントがすでに行き渡ってい るので、アプリケーションを使用してそれにメモを取ることが可能だ。しかし、興味深かったのは、生徒達がiPadとノートの両方を同時に使っていたことだ。どうやら、授業で使 っているプリントも紙媒体でも配られているようである。それを、例えば途中式が多い数 学の問題を解く際にはノートを使う、といった形で、使い分けているのだ。
 
最後の 質疑応答の時間に、「iPadとノートの使い分けはどのように決まっているのか」という質問があった。それに対する答えは、「授業を行う先生が基本的なルールを決めるのだが、 高校生に対しては、基本的には自分の使いやすい方を自分で選択させるようにしている」ということだ。iPadで全てのプリントを管理したい場合はそれで良いし、プリントに手書きで書き込みたい場合はそれで良いとのことである。紙媒体のプリントも、書き込み終えた後に写真を撮ってしまえば、再度データとしてiPadで管理できるので、紛失した場合も対応できるからだ。
このように、iPadを全面的に導入したからといって、紙媒体を使った勉強・授業の形がなくなるわけではない。むしろ、iPad上か紙媒体か、選択する機会が与えられたことで、より自分にあった勉強方法を見つけ出すきっかけを生徒たちに与えている。更に、全員がiPadを所 有しており、ネットワーク上で全員と繋がることができるからこそ、コミュニティとして の結束が固くなる効果もある。情報の伝達のスピード・正確さが増したことによって、あらゆる作業が効率化され、無駄を省くことが可能になった。
 
今回の学校公開では、「とりあえずやってみる」ことの大切さと、iPadという一見高度なテ クノロジーを持つものに挑戦する際の姿勢のお手本を見ることができた。1年間の試行錯誤の上、教職員方と生徒達が一緒になって見つけ出したiPadの活用方法は、これ からも更に新たな発見を経て、進化していくはずである。 

桜丘 未来への翼とコンパス(3)

数学のクラスを覗いてみる。ここでもiPadを使った授業が行われていた。

この教室でも先生の笑顔と元気な声が印象的だ。一人一人に渡されたiPadからは楽しげな電子音が鳴り、子どもたちは教科書を読むように、あるいはノートに何かを書き込むようにiPadを使いこなしている。

説明会で強調された「教育環境」というのは、やはりこういうことだったのだ。iPadは意識されない道具=環境となり、学習者が主体となる。

そこでシェアされる体験は教科内の知識に留まらない。

楽器の鳴らし方や指使いも。そして、スイングや捕球の仕方も。

知識は獲得の対象としてあるのではない。その場に参加した者がシェアし、いつでも参照できるものとして開かれているのである。

そう考えると部活動も授業も同じ時限で行われている意味も分かってくる。何を学ぶかということだけが大切なのではない。誰とどんなふうに学んでいくのか、その教育環境全体に目を向けるのが桜丘の21世紀型教育の神髄であろう。

ページ