聖パウロ×工学院 高校入試ルネサンス(3)

21世紀型教育を通常授業で実現するには?

高橋先生:イタリア修学旅行の事前・旅行・事後のいわゆる探究学習は、長大なプロジェクト学習(PBL)で、部分的には教科の授業でも扱うくらい、学園挙げてのコラボ学習。この学習のエッセンスを一時間の授業の中に埋め込むことは果たして可能だろうか?

いつもこのジレンマを抱えながら、突破しようとがんばっている。教師は学者ではない。いまここで目の前の生徒の内なるルネサンスを見守るので精一杯のところもある。だから、自分の見聞したものや体験したものでなければ、やってみようと思わないだろう。日本の多くの学校が、未だに20世紀型の授業を行っているというのもわからないではない。

平方先生:全くその通りで、私自身もそうだ。だから、生徒の海外研修や留学のプログラムをデザインする積み上げのワークはとても大切で、そこで教師自身も生徒と共に学んでくる成果は、実は大きい。

高橋先生:たしかにそうだ。イタリア修学旅行にいってきたときに、日本の高校生との違いを知って驚いてきた教師もいる。日本とは違い、ヨーロッパは大学入試という制度がない。高校卒業資格試験というのがある。ドイツならアヴィトゥーアと呼ばれているし、イタリアだとマトゥリタと呼ばれている。4時間以上に及ぶ論文テストや口頭試問というスタイルで、数日かけて行われるらしい。

偏差値で苦しむというより、さすがはダ・ヴィンチの国。思考し、創造するところでみな悩み苦しむわけだ。ところで、このマトゥリタに向けて学校はどのような授業をするかとなると、1つひとつの授業に対話や議論を埋め込んで行っている。それを見てきた教師は、自分たちもできるしやらなければとモチベーションがあがる。

平方先生:まさに教師の内なるルネサンス。本校でもこの夏IB(国際バカロレア)の教師研修のワークショップに参加してきた教師が8人いる。ワークショップは、まったく対話型だし、議論が中心で、高橋先生のおっしゃるように、自分たちもこういう授業をやろうと、そのためにはカリキュラムイノベーションが必要だということになって、今来年度入学していくる生徒に向けて準備をしているところだ。

高橋先生:カリキュラムイノベーションというのはいいねえ。もしこういう21世紀型の授業が学校全体でできるようになったら、それは可能。本学園でも、高1の間は、入学者の学習状況に合わせて、何を教え込むかではなく、どこが躓きになっているのかを見つけ、そこをクリアすることによって、高校で学ぶ範囲を自ら学んでいけるようにシステムを変えていこうと考えている。

これを可能にするには、対話型の授業にしなければ、教師の予め用意したものだけを教え込んでいたのでは、生徒の学ぼうとする力は生まれないと考えている。

平方先生:本校は、オーストラリアのアデレードにホームステイに行くし、あちらからも来日し、本校の家庭にホームステイする国際交流を行っている。高橋先生のところもたしかオーストラリアの高校と交流しているはず。

高橋先生:そうなんだよ。メルボルンやゴールドコースト。やはり、生徒も教師も授業の中に21世紀型教育が織り込まれているのを体験してきている。

平方先生:実はメルボルン大学の教授が中心となって、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、カナダ、アメリカなどの教育者、それとマイクロソフト、シスコ、インテルがコラボして21世紀型スキルを子どもたちに身につけさせようという国際的な機関ATC21sが立ち上がっている。本校が交流している学校はIBを導入しているので、IBのエッセンスも学べるが、ATC21sでは、次の4つのカテゴリ10のスキルを目指していて、IBを現代化しているところが興味深い。

•思考の方法(Ways of Thinking)

【1】創造力とイノベーション
【2】批評的思考、問題解決、意思決定
【3】学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識)

•仕事の方法(Ways of Working)

【4】コミュニケーション
【5】コラボレーション(チームワーク)

•仕事のツール(Tools for Working)

【6】情報リテラシー
【7】情報通信技術ICTに関するリテラシー

•社会生活(Skills for Living in the World)

【8】地域と国際社会での市民性
【9】人生とキャリア設計
【10】個人と社会における責任(文化に関する認識と対応)

(以上は、静岡大学大学院教育学研究科 益川弘如研究室による)

高橋先生:ということは、今日本で日本語IBだとか21世紀型スキルだとか毎日のように話題になっている学びの拠点と交流しているということだね。それにしてもこのようなスキルを授業の中で生徒と共有していけば、たしかにモチベーションは生まれ、自信をもち、自己肯定感を抱きながら絆を広め深められる。

平方先生:たまたまなのか、そういう視点をこちらも持っていたからなのか、それはおそらく両方なのだろうが、確実に21世紀型教育の大きな波がやってきていて、それを私たち自身が、直接自ら受け入れ、対応できるようにカリキュラムイノベーションを日々行っているという手ごたえは感じている。

ATC21sのように、ガバメントや企業、そしてわたしたち私立学校や教育関係者がコラボレーションして、日本の文化も融合した21世紀型教育を創っていきたい。

高橋先生:おっしゃる通り。教育の21世紀ルネサンスをぜひいっしょに生み出していこうではないか。

 

 

 

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