6月は、合同説明会目白押し。その中で多くの学校がミニプレゼンを行っている。昨年とガラッと変わったのは、双方向型の授業を行っていることや学びのプロセスを大切にしていること、グローバル教育、タブレットの導入、アクティブラーニング実施など、21世紀型スキルを導入していることを一斉に標榜し始めたことである。
それは教育の方法やビジョンが大きく旋回し始めた時代の表象であるが、そのようなときは決まって玉石混交である。東京女子学園は20世紀末からすでにこの時代の変化の兆しをいち早くとらえ、21世紀型教育の準備を着々と進めてきた。
玉石混交をただ批判しても、それは雨が降ったら、天気がわるいと言っているようなもの。東京女子学園は、教育の実践において21世紀型教育のモデルを未来の道標としてプロジェクトしている。by 本間勇人:私立学校研究家
この21世紀型教育のビジョンや手法の玉石混交の状況について、東京女子学園の校長補佐辰巳順子先生はこう語る。
「解なき社会であるわけだから、21世紀型教育といってもいろいろあるというのでよいのでしょう。ただ、女子教育の伝統を担ってきた私たちは、21世紀型教育というのは、20世紀に達成しえなかった人間として大切なものを、21世紀になってやっと解決するビジョンが明快になり、その方法が教育として広く深く行えるようになったということだとまず思います。」
この前提があるからこそ、東京女子学園は6年間のキャリアデザイン教育が有機的なプログラムとして組み立てられている。有機的とは、知識が箱の中に整理され静態的に出し入れされるのではなく、知識と知識がまるで分子のブラウン運動のように動態的に飛び交っているからできる。そして一見異質な知識どうしが結びついて新しい知識が化学結合するわけである。
米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏の話は今ではあまりに有名で、その衝撃は大きかったが、多くの有識者が、10年単位で目の前にある職業や仕事の多くがなくなり、新しい仕事に入れ替わるという見方をする流れが大勢を占めている。
東京女子学園は、その見通しをすでに持っていた。知識が新しくなる。知識を新たに生み出すためには、知識をフルに活用しつづける知識の運動プログラムを創る以外にない。この挑戦自体、すでに世に言うプロジェクトである。
知識が創発されには、当然、既存の知識→問題意識→調査→議論→新しい問い→新しい知識の気づき→検証→レポート→プレゼンなどのような学びの過程が必要で、同学園のキャリアガイダンスのプログラムはまさにこの循環が6年間らせん状につらなっている。有機的で大型のプロジェクト学習なのである。
辰巳先生は、さらにこう語る。
「キャリアデザインのように、ふだんの授業ではない特別なプログラムはたしかに必要ですが、大切なのは日々の授業です。現代英語は、知識が固定していてそこをたどるガイドも定着しているような世界で活用されるわけではありません。
いまここで私たちの身近な生活でも実感しているような変化の中で、使うことができなければなりません。グローバルイシューも日々目まぐるしく変わります。ファッションやアートもそうですね。すべての変化が良いとか悪いとかではなく、その変化の中にこそ、生徒の問題意識はあるわけです。そこで英語が使える環境を創り出せたら、生徒のモチベーションは燃え上がります。
ご存知のように、東京女子学園ではワールドスタディーという変化の時代の中で使える英語をトレーニングする、やはり、これも6年間の大型のプロジェクト型学習のプログラムが積み上げられています。中学生と高校生のワールドスタディーの授業を見て頂ければわかると思いますが、中学では必要な文型や文法をQ&Aの形式「スクリプト」で活用していきますが、それはアクティブでインタラクティブです。
高校でもその基本形は変わらないのですが、さらにグローバルイシューについて、自分の考えを検証するために、調べて、編集してプレゼンするクリエイティブなアクションにまで発展します。このときiPadは欠かせません。
そして、これはどこの学校でも問題になりますが、他の教科でこのようなアクティブでインタラクティブでクリエイティブな授業展開は可能かということですね。生徒の方は、2つの大型のプロジェクト型の学びに慣れていますから、すでにその手法を部活や生徒会活動などに活かしています。ですから、実は以外と学びの転移は、他教科にも生まれています。
ただ、カリキュラムやシラバスの進度という設計要素を無視できませんから、講義とプロジェクト型学習の効果的なバランスは、常に先生方の議論の的です。まさに21世紀型ですね(笑み)。」
太陽のように大きなものは遠くからだとその全貌を見ることができるが、近くにいるとあまりに大きく全貌を把握するだけの視野はない。東京女子学園のキャリアガイダンスやワールドスタディーのプログラムもそれと同じで、一回授業を拝見して、6年間の大型プロジェクト型学習になっている全貌を見るのはなかなか難しかった。
1年間取材をさせて頂き、先生方の様子やお話の中から、汲めども尽きない教育実践の試行錯誤を知ることができた。そして、その軌跡が少し見えるようになってきた。