Created on 4月 8, 2017
オリエンテーション3日目最終日は、3つのリフレクションプログラムが実施された。1つ目は、校歌の練習を通して、伝統に流れる普遍的精神の響きを共感した。
2つ目は、3日間のオリエンを通してのリフレクション。Growth Mindsetができたかどうか、自分軸を自己認識できたかどうか、iPadやノートパソコでWebベースの回答フォームにチェックボタンをクリックしたり、200字記述の回答を書き込んだりした。
(吹奏楽部などで活躍している内進生のクラスが、デモンストレーションを行って、そのあと全員で合唱。)
3つ目は、一文字漢字に想いを込めた各クラスのアイデンティティを発表。
工学院の校歌の中には、「雨に嵐に、うち耐えて」という文言がでてくるが、合唱の響きの中に、オリエンのプログラムでも体験した「プラス思考」や「コラボレーション」というスキルの重要性を想起したに違いない。
「学び舎」という文言には、まさに今回のワークショップ型合宿プログラムに映し出された工学院の学びの環境を想起しただろう。
「貫き徹おす 真心」には、メンタルモデルとしての「自分軸」を今後どのように徹底していくのか、「重き使命」には、自分と他者とが共生できる世界をいかに開いていくのかを想い描いてきたオリエンのプログラムをリフレクションすることにつながったと思う。
Web ベースで書き込むオリエン全体を通してのリフレクションは、多様なプログラムや授業をやりっ放しにせずに、生徒一人ひとり、それぞれのクラスの強み弱みをリフレクションして見出し、さらに学習方略のヴァージョンアップを工学院全体でシェアしてくカリキュラムマネジメントシステム創出の第一歩を歩み出したシーンである。
メンタルトレーニングでも、プラス思考はリフレクションによって生まれてくることを確認したし、実はそれぞれのプログラムが終わるたびに、リフレクションを繰り返し実施してきた。<プロトタイプ→実践→思考→アウトプット→リフレクション→リファイン→・・・>の連続が肝だったのである。これによって、はじめて学びのポートフォリオが蓄積していくわけだが、従来の教育では、アナログで行われてきたものだ。
しかし、これだと、物理的時間が膨大で、生徒が個々でやり、AO入試や東大推薦入試などに挑戦する一部の生徒にしか適応されてこなかった。
メンタルケア、学習ケア、進路ケアは、従来の日本の教育では、どうしても生徒全体に行うことは難しかった。
欧米の名門私立学校などでは、1クラス12名くらいのサイズであるし、学費も年間300万くらいするから、チュータリングシステムも充実している。
日本の場合は、クラス担任のボランティア的行動に頼るしかなく、私立学校は日本全体の水準からみればはるかに面倒見がよいが、どうしても模擬試験の成績の集積で面談をしていくことが中心となり、1人ひとりの創造的才能発掘までには手が届かない。
新学習指導要領で、今回の同校のワークショップ型オリエンですでに行われている「主体的で対話的な深い学び(アクティブラーニング的視点で)」の活動が中心的柱とされているが、これを実行するために「カリキュラムマネジメント」をしなければならないことになっている。
しかしながら、日本全体の教育現場では、そもそも「主体的で対話的な深い学び」を実行できるかどうかもわからないし、「カリキュラムマネジメント」を行う指標すらない状態(工学院は思考コードという指標を独自に完成させている)である。そして、実はこのマネジメントは、2020年に生徒1人1台のタブレット型パソコンの活用という環境が前提になっている。
この理想的な学びは、先進諸国ですでに進んでいる21世紀型スキルの学びをモデルにしているようであるが、21世紀型教育の基礎が何もないところでは、絵に描いた餅で終わるだろう。
そういう意味で、工学院大学附属高等学校の新高1のカリキュラムマネジメントシステムは、学内のプロトタイプの範囲を超えて、日本の教育のモデルになるだろう。同校の教育それ自体が、社会に貢献することになるだろう。このアクションもまた、「挑戦 創造 貢献」という同校の理念の体現でもある。
300名弱の生徒が、カリキュラムマネジメントリーダーの岡部先生の説明と担任の先生方のファシリテーションによってサクサク入力していった。「自分軸」200字記述も3日間を振り返りながら、未来に想いを馳せた。
全員がフォームに入力するや、スプレッドシートに瞬時にデータが流れ込み、事前に行っていたサンプリングデータとの対比において、Growth Mindsetのスコアが119%という数値になった。学年主任の松山先生が、前日の夜の教師リフレクションミーティングで生徒の自己変革に大いに手ごたえを感じていると高校担当の先生方と共有していたが、それがスコアにも反映した。
カリキュラムマネジメントシステムの肝は、教師の豊かな感覚とデータの高感度な抽象性の重ね合わせである。両者が一致することは、もちろん重要であるが、ズレがあったとき、その理由を話し合うことによって、さらなる生徒の成長とそれをサポートする学びの環境を進化させることができる。
それから、最も大事なことは、学年やクラスというマクロ的なデータと生徒1人ひとりのマイクロスコアのズレをきちんとリフレクションすることである。
生徒の中には、「今回の合宿で、みんな話し合って、共感すべきところと違いを見出して尊重し合っている姿に感動した。でもまだそこに入っていけない自分がいることにも気づいた。今後の高校生活で、自分を変えていきたい」と率直に書き込んでいる生徒もいた。
岡部先生は、そういう自己認知ができるオープンな環境であったことは確かだけれど、それと生徒1人ひとりの状況は違うから、全体の雰囲気がよかたったからそれでよいというわけにはいかない。ただ足並みをそろえるだけではなく、1人ひとりの想いや価値意識を尊重したサポート体制が肝であると。それには、今回のデータをクロス集計や多変量解析して、カリキュラムマネジメントミーティングでビジョンのヴァージョンアップをする学びの方略を練っていく予定であると語ってくれた。
今までのように競争社会のときには、足並みを揃えるリーダーが勝ち組だったのだが、21世紀というハイブリッド化したグローバリゼーションの光と影が交錯するダイナミズムの中では、そのようなFixed Mindsetでは未来を創ることはできない。日本の教育を変えなければ、生徒たちの未来に備えられないという平方校長の意志は現場の先生方にも浸透している。
3つ目のプログラムは、オリエンのハイライト。各クラスの代表が、自分のクラスのアイデンティティを漢字一文字で表現し、その理由をプレゼンする。まさにGrowth Mindsetが大きく膨らんだ瞬間だった。
同校サイトによると、たとえば、こんなプレゼンとなった。
「3年間を自分の目標に懸けていきたいという思いでクラス目標は「懸」に決定。不安が期待へ変わり、絆を深めるいい経験になった。自分の主張の仕方を理解したりポジティブな考え方について学んだりする機会となった。」
「みな知り合いのクラスで2度目のオリエンでした。高校から入ってきた人たちとの新しいコミュニケーションが始まり新鮮でした。MoGの報告会があり、刺激を受けた。新しいことや新しい人に触れるチャンスはとても大切だと実感した3日間だった。」
なるほど、Fixed Mindsetが Growth Mindsetに開かれたオリエンテーション合宿だったのである。