聖徳学園グローバルセミナー成果報告会ー日本型グローバルリーダーの育成

3月26日、聖徳学園で「グローバルセミナー」成果報告会が行われました。「グローバルセミナー」は、聖徳学園が杏林大学と協力して開設した課外授業で、「日本型グローバルリーダー」をテーマに、高1生と高2生の希望者がプロジェクトベースラーニング(PBL)と英語ディスカッションを通して1年間かけて行ってきた探求活動です。学校の所在地である武蔵野市と、発展著しいベトナム社会に貢献することを目的とし、さらに社会貢献が恒久的なものとなるよう、社会企業モデルの考え方を導入したということです。グローバル教育センター長、山名和樹先生によるプログラム説明、そして、高校1年生2名による、1年間の活動報告プレゼンテーションを取材しました。 by 鈴木裕之 :海外帰国生教育研究家

山名先生はJICAの青年海外協力隊の活動をモデルにして「日本型グローバルリーダー」を育てるプログラムの開発を進めてきたと話します。グローバル社会でリーダーシップを発揮するには、日本人であるというアイデンティティーが大きな強みになるという思いは、アメリカ留学など、自身の豊富な海外体験に基づく実感でしょう。山名先生は、「協調性や思いやりの心といった日本人の特質を活かして、多様な価値観を受け入れながら困難を乗り越える力」が、これからの日本型グローバルリーダーに必要な特質ではないかと語りました。

一方で、この発表まで自分の考えを生徒たちに伝えることはせず、「日本型グローバルリーダー」について生徒たちが自ら考えてもらうように努めたということです。したがって生徒たちの考える日本型グローバルリーダー像と山名先生の考えとではギャップが出る可能性があるのですが、それはそれでお互いにとって貴重な学びの機会だと捉えているわけです。そのようなスタンス一つ取ってみても、生徒が課題を設定して探究する21世紀型PBLが聖徳学園に深く浸透しているのを垣間見ることができます。

山名先生のプログラムの説明に続き、生徒によるプレゼンテーションが始まりました。二人の生徒が、4月から8月までの活動と9月以降の活動をそれぞれ分担して紹介します。時系列に沿って説明するのですが、活動内容をただ報告するのではなく、「日本型グローバルリーダー」に焦点を合わせ、それぞれの活動がどのような意味を持っているのかについて自分たち自身の分析を加えていきます。聴き手を引き込む構成と話し方、またアイコンタクトや身振り・表情など、見事なプレゼンテーションスキルが発揮されます。生徒たちは、グローバルリーダーの特質の一つとしてプレゼンテーションなどにおける「発信力」に注目したようです。4月から5月にかけては、その基礎を築くために杏林大学の副学長であるスノードン先生の特別授業を受講するなど、徹底的にプレゼンテーションスキルを磨いてきたといいます。

彼らが練習して身につけてきたプレゼンテーションスキルは、しかし、8月になって試練の場に立たされることになります。JICAでプレゼンテーションを行った際に別の高校(順天)のプレゼンテーションのレベルの高さに衝撃を受け、自分たちに足りないものを学んだということでした。彼らにあって自分たちにないもの、それは「経験」だったということです。経験をプレゼンテーションに盛り込まないと説得力のあるものにならない。そう考えて、そこからさらにプレゼンテーションスキルに磨きをかけていったということです。

9月以降の活動を報告する、後半部のプレゼンテーションでは、ベトナム研修旅行の時の体験が動画を使ってありありと伝えられました。「経験」を盛り込むという前半のプレゼンテーションでの気づきが活かされた構成となっていたわけです。

ベトナムの様子を記録した動画の中では、地元武蔵野市の名物である唐辛子を販売するという目的に向けて、現地の日系企業やベトナムの人々と協力する生徒たちの様子が紹介されていました。現地の人との交流では、英語やベトナム語、さらには、ドラえもんの絵描き歌などがコミュニケーションツールとなって有効に使われていました。その様子からは、社会貢献が決して一方向的な支援ではなく、双方の協力で成り立っている活動であることが伺えます。このような交流を通して学んだことが日本人がもっと世界に発信するためのコミュニケーション力を磨く必要があるということが生徒たちの実感につながっていたのでしょう。

唐辛子の販売計画は、当初予定していた利益(3万円)を上げたということです。実は、この販売によって得た利益は、ベトナムの孤児の教育費の支援にするためにお寺に寄付するということがあらかじめ目標になっていたのです。目標から逆算して利益を出すといった経験は、マーケットや企業の営みを理解することにつながっています。しかしそれ以上に、お金に還元されない価値、例えば社会生活に関わる人々の幸福感などを増大させるという新しい経済のあり方を実感する絶好の機会だったのではないでしょうか。「社会企業モデル」というキーワードで表現していたことは、まさにこのような活動だったのです。

山名先生の報告会資料には次のようなまとめが書かれています。

(生徒達は)日本人としてのアイデンティティーを大切にしながら世界と関わるという意識を持ち始め、それをベトナム研修時に実行に移すことができた。本研究活動を通して、日本型グローバルリーダーを育成するプログラムの中には「日本人としてアイデンティティーを発見する機会を与えること。」「外部の協力を得ること。」「発信力育成の機会を与えること。」そして、「生徒達自身が気づく仕掛けをちりばめること。」を盛り込むことが重要であるということが発見された。今後はこの発見をもとに、それら一つ一つの内容をいかに精査し、深め、最終的には学校全体のプログラムとして発展させていけるか研究活動を続けていきたい。

これまで地元商店街やJICA、あるいは大学など外部団体との間に着々と築いてきた聖徳学園のネットワークは、生徒の学びのためのリソースとして今後ますます活用されていくことになりそうです。

ベトナムの人達と地元を結んだ「グローバルセミナー」のチャレンジは、その方向性の意義をはっきりと示したのです。

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