今回の公開授業は、フィールドワーク、個人ワーク、PIL、PBLという一連のアクティブラーニングの手法を一望できたと同時に、中1から高3までの発達段階に応じて、そのようなアクティブラーニングの構成要素の組合わせによる≪衡平≫の創意工夫も感じられた。
中1のアクティブラーニングの創意工夫;講義→個人ワーク→PBL→プレゼン
中1の地理では、いきなり個人ワークを行うのではなく、ICTと黒板の両方を活用して講義をして知識の整理をしてから、それらの知識を活用して、ある程度見通しがつく、それでいて正解は一つでないフロークエスチョンを投じていた。
また、PBLも情報交換というレベルで、チームワークというよりグループワークの感覚で進めたので、グループに分かれる時に葛藤は起きなかった。もしも中1の段階で高い問題意識を要する問いを投げていたら、価値意識が情緒優先で進から、葛藤が起きかねなかっただろう。
生徒たちの発達段階に応じて、グループワークは教師主導で明らかにコントロール。それが明らかな方が、生徒はやりやすいのが中学1年生。これが高1までに、教師のコントロールではなく、自分たちでチームを作りたいという欲求がでてくるようになる。
中1の英語では、1つの文章を4つばらばらにした紙を1人1枚ずつ配布し、文章をつなげるグループをつくる。これもだれとグループをつくるか生徒は問題にしない。ゆるやかにグループ作りをコントロールする方法が工夫されていた。
アクティブラーニングと発達段階
このような創意工夫が必要なのは、たとえば、中1・中2では、自らルールをマネジメントするのではなく、教師などの外部の権威によって強制されなければまだ自律できない状況にあるからである。徐々に協調やコラボレーションが重要であるという自覚が、中3・高1で様々な葛藤を乗り越える段階で気づいていいく。
だから、高1になると、PBLでは、教師のチームに訪れる回数が多くなる。中学段階では、グループであるが、高1になるとグループではなくチームとメンバーという意識が芽生える。そこで葛藤も生まれる。中学段階では、教師はどちらかというとコーチや監督の役割を果たすのだが、中3から高1にかけては、カウンセラーとしての役割を演じるように変化している。
高3の数学授業では、生徒が教え合うPIL・PBLの最中に、教師は背後からそっと見守るファシリテーターの役を果たすように変化している。中1・中2の段階ではコントロールされているが、中3・高1では、自分のアイデンティティとルールの葛藤を自分の中で解決しようとする。しかしながら、結局は仲間によって救われるという得難い体験をする。
そして高2・高3になると自律しつつルールを相対化し、クリティカルシンキングを発動しながら協力もしていくという自律分散協調系のシステムがインサイドに形成される。内面の自問自答の大きく深く循環するシステムが出来上がる。
この自律分散協調系ベースの自問自答が形成されたとき、高い問題意識をもち探求へ没入するフロー状態が教室中にあふれていく。6年間あらゆる場面でハラハラドキドキしながら見守ってきた教師が、手をはなして、飛びたつ生徒たちの姿を見送る日がやってくるのである。
従来の一方通行型講義では、この内面の自問自答、つまり自律分散協調系のシステムの質を評価できないまま、生徒1人ひとりが気づくのに任せられていた。出来る生徒と出来ないままの生徒はそのままで卒業した。
しかし、工学院のPIL×PBL×ICTを中心とするアクティブラーニングの挑戦によって、工学院のすべての生徒が自律分散協調系の内的自問自答システムを形成し、未知の世界を自分の力と仲間と協力しながら乗り越えていくソリューションを創り出す力(フォース)を発揮していけるようになるだろう。
高度なIB型思考力と発達段階を見守りながらの新しい学びが始まったのである。