PBL

工学院 ライティングパワーが新しい学びを開く

工学院の21世紀型教育改革は4年目を迎える。プレ改革を入れると5年目。新高2が、そのプレ改革の学年にあたるが、すでに改革を牽引する学びの成果をあげている。

高1に引き続き高2のハイブリッドインタークラスの担任であると同時に、日本の教育における新しい学びのリーダーである石坂雪江先生(英語科)と今年から高校の教務主任に就任した田中歩先生(前英語科主任)がさらなる学びの新しいカタチを語る。 by 本間勇人 私立学校研究家

(左から石坂雪江先生、田中歩先生)

高2のハイブリッドインタークラスの生徒は、英検でいえば、準1級以上の生徒がほとんど。しかし、石坂先生は、民間英語試験のスコアを上げることが目的ではなく、教養をベースとした実用的な英語の授業が中心だという。

「実用的」というと、日常英会話ができることと思われがちだが、石坂先生は、人間や自然、社会にとって重要な問題について、ディスカッションやディベートなど多角的なパフォーマンスができることを意味するという。

そして、ディスカッションやディベートをするには、物事を捉え返し、自分なりに再定義できるクリティカルシンキングが必要なのであると。

石坂先生の授業のコンセプトは、そのためには、教養がなければならないというのである。なるほど、ギリシア神話、紋章学、詩学など日本の高校では扱わない領域の素材を使っている。しかし、そのような本を英語であれ、ただ読んでいるだけでは教養主義的で趣味人的な学びに過ぎないという。

では、何が「教養」なのか?それは様々な体験や読書、議論、対話を通して、自分なりに物語を創作できるようになることであるという。あるいは論理的仮説を立てられることだという。教養とは自己陶冶であるが、自己陶冶とは、オリジナリティとクリエイティビティが必要である。他人が書いたり言ったりしたことに拠って立って、ディスカッションしたり対話をしても互いに相乗効果を生み出せない。

知的に興奮できるコミュニケーションができるには、独創的でウィットに富んだ独自のコンテンツを物語れなければならないというのが、石坂先生の授業のフィロソフィーである。だから、ライティングの学びの環境が重要なのであると。

ハイブリッドインタークラスのライティングの授業は、多くの先生がかかわって行われている。上記の冊子の写真は、高校1年のときの同クラスのライティングの制作物の成果であるが、そのときかかわっていた外国人の先生は、ジョン先生(Jon Otto)、ジョエル先生(Joel Post)、アレックス先生(Alex Dutson)である。日本人の先生は岡部先生ともちろん石坂先生。

中でもジョン先生は、ライティングこそ死でさえ乗り越えることができるほどパワフルなのだという信念の持ち主で、石坂先生をはじめみなその想いを共有し、多様なライティングの機会を設けている。ある時は、フィクションとしての挿話、あるときは詩、あるときはロジカルシステム、あるときはドラマ、あるときはリサーチエッセイ。

上記の写真は、ジョン先生と岡部先生が協働して、グーグルドライブで、互いに自分のものの見方や考え方を共有し、リスペクトし合いながら、刺激を与えあいながら、パワフルなライティングを行っている。ICTも活用した先進的な授業のシーンだ。
 

授業の種類には、英語で哲学の授業もあるし、ドラマエデュケーションといった表現力を豊かにする授業もある。

しかし、その前提として多様なライティングの授業があるのである。先述したようないろいろな切り口のライティングの取り組みをすることで、表現への意欲や創造性が生まれ出てくるようになっている。石坂先生は、このマインドの形成こそ大きな成果だと語る。

田中先生も、この自分で物語を創るところから始めるのが、学びの本来の姿であると語る。「主体的・対話的で深い学び」と言われているが、調べ学習で終わったり、日本の大学入試で出題される課題文型小論文などのように、他人の文章の中に手がかり足がかりを見つけ、それをロジカルにアレンジすればできてしまうようなエッセイが行われている。

そのような入試に立ち向かうことは、疑似主体性でしかないと。やはり、自分なりに物語を創り、矛盾に遭遇し、それを創造的に問題解決していくところから始めることが主体性をつくるキーであるという。

今までは、英語科主任として、石坂先生と共に、そのような根源的なものを生み出す主体的な学習者を形成してきたが、今後は、すべての教科で、実行していきたいと教務主任としての抱負を語った。

特にハイブリッドインタークラスの生徒は、グローバル高大接続準備教育を行っているので、世界大学ランキング入りしている大学が選択されやすい。THEでは1100位くらいまで公表しているが、日本の大学も89校ランクインしている。

日本の大学も含め、世界大学ランキング入りしている海外の大学も射程に入れている。

しかし、このような視野を広めることによって、海外の大学と日本の大学には学びの格差があることにも気づかされると石坂先生と田中先生は語る。ある海外大学のエッセイの問について、いかに日本の大学入試と違うか説明してくれた。

もしも、入試問題のレベルや質に格差があるとしたら、それは学びにも大きな影響を与えるから、同じ17歳、18歳の生徒も、どの学びに取り組むかで、大きな差ができてしまう。日本の大学にだけ目を向けていると、世界では全く役に立たない偏差値ランキングという格差で思い悩むけれど、世界に視野を広めると、思考力のレベルの大きな差がついてしまうことに気づくのだ。

偏差値階層構造で競争している間に、そのシステム自体が、海外の学びのシステムに溝をあけられているということ。このことが示唆する背筋が寒くなる子どもたちの未来。石坂先生と田中先生は、すでにそのことに気づいている。

だから、工学院では、日本の大学を受ける生徒にも、この差を甘んじて受け入れるのではなく、その格差を解消できるパワフルなライティングの授業を行っているのである。今後が実に楽しみである。

 

三田国際 1人ひとりの価値を高める入学式

☆2018年4月7日(土)午前、三田国際学園の中学の入学式が挙行された。開幕10分前には、新入生の中学入試当日から、入学式に向けての足跡をドキュメンタリータッチの映像を流した。
 
☆この映像は、新入生にとって、この新しい人生の第一歩の記念すべき入学式のときのみ流される。激戦の中でいまここにいるそのかけがえのない三田国際生としての価値と誇りを生徒と保護者、教職員全員で共有する絶大なる効果があると思う。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
 
☆そして、午前10時。同校の吹奏楽部の響きが時を告げ、新入生は、会場に入ってきて、赤絨毯の上を歩きながら、自分の席についた。21世紀型教育改革、共学化、校名変更を大胆に行って4年目。生徒募集が成功したことは、あまりにも有名である。
 
 
☆そして、その効用の1つに、多様な部活が活発に行われるようになったということが挙げられる。今では、当たり前のように吹奏楽部が、美しもパワフルに演奏しているが、これも生徒募集を成功に導いた経営戦略があってこそである。
 
 
☆新入生が全員着席するや、入学許可のセレモニーが始まった。1人ひとりの名前が呼ばれ、1人ひとりが起立し、「はい」と返事をして着席する。このセレモニーは、1人ひとりを大切にしていることの証である。もちろん、赤絨毯の空間を歩むという行為にもその気持ちは染みわたっている。
 
 
その凛としたテンションの中、大橋学園長が登場し、このような趣旨の式辞を語った。
 
「かつてないほどダイナミックに時代が動いている。これからの時代に求められる気質は、今までのように言われたことや与えられたれたことをきちんと速くできるだけではなく、自ら考えることがキーになる。
 
一歩先を考えることで浮かび上がってくることがある。深く考えることでわかってくることがある。違う視点で考えることで判断がきくことがある。とにかく考え続けることである。そうしていくうちに、学ぶことに加え研究するという意欲につながり ひとたび研究者たるたる姿勢で学べば、自分だけにみえる鮮やかな景色がみえてくる。これからはこうしたいという気持ちもでてくる。
 
 
その積み重ねが、自分ならではの探究の景色を・世界を描くことができるようになるのである。
 
思考の扉を開き、世界に羽ばたきという校歌の言葉は、そのようなことを意味している。このことは決して簡単なことではないが、皆さんならきっとできるはずである。
 
また、今回の中学入試受験生のうち合格できたのは12%である。今、みなさんが、座っているその席に憧れ、夢をかなえることができなかった受験生もたくさんいる中で、それを勝ち得た皆さんは同士であり、同期生である。生涯変わらない同窓生となる。だから、結束して欲しいのである。
 
心から尊敬できる信頼できる友を持つことは、お互いの存在を称賛し、尊敬し合える生涯の友、人生の誇りを手に入れることである。ぜひ結束してほしい。この日のこの気持ちを、6年間の原点にしてほしい。それがいつか人生の原点なのだと誇りをもって言える日が必ずくると信じてほしい。
 
新しい三田国際生に「発想の自由人たれ」という言葉を送りたい。この精神で卒業生が必ずや社会で活躍し貢献していくはずである。同期生が一丸となって、先輩に続いてほしい。」
 
 
と三田国際の“Soul”を贈った。
 
それに応えて、新入生からも誓いの言葉があった。新入生代表は2人。1人は日本語で、もう1人は英語で。たしかに、今年の新入生は、6クラスのうち4クラスがインターナショナルクラスで、2クラスが本科である。もはや、学園生活そのものが日本語と英語の併用で行われるようになっているのだから、この誓いの言葉が、両方の言語で語られるというのは、自然なことなのである。
 
新入生は、こう高らかにスピーチした。
 
「夢に見た三田国際の生徒になった。毎日の勉強や部活を通して、新しい先生や友達との出会いがあると思う。その中で、難しいことにも挑戦し、協力していきながら考える力を身に着けたい。
 
 
明るく楽しい学園をつくってくださった先生方や先輩たちに学び、どんなことにも全力で立ち向かい、実りある生活をおくる。」
 
という頼もしい誓いの言葉が語られた。はやくもすばらしいプレゼンテーション能力を披露したのである。
 
今年の三田国際の新入生は、入学時点で、すでに深く学ぶ力、ハイレベルの英語力、豊かなプレゼンテーション能力を持っている生徒が多い。他校であれば、中学の間に、このくらい成長すればよいというレベルから中1をスタートできるのである。
 
 
☆吹奏楽部の演奏に合わせて先輩たちの合唱と共に新入生は校歌を歌った。その響きを聞きながら、また新たな三田国際の学びの景色を見ることができると期待が膨らんだのである。

静岡聖光学院 バージョンアップ イートン・カレッジと新たな交流に

静岡聖光学院は、一気呵成にグローバル教育の内容も質もアップデートすることになった。その突破口は、先月、あのイートン・カレッジとの新たな交流の連携が確定したことによる。イートンと言えば、伝統的な学校と思われがちだが、伝統と革新を統合させてきたからこそ、600年もの歴史を創り上げてこれたのだと同校サイトには記述されている。

その意味では、静岡聖光学院もキリスト教教育や探究という学問的な伝統と21世紀型教育という革新の統合を企図しているという点で同じである。両校が果たしてどのような連携を行っていくのか、今後その発展が大いに期待されるわけであるが、まずは、この3月にその出発点にしっかりと立ったわけである。by 本間勇人 私立学校研究家

(イートンカレッジは、イノベーティブな教育も促進している。写真は同校サイトから。)

今年3月、静岡聖光学院の副校長星野明宏先生と国際交流担当の佐々木陽平先生が、イギリスに飛び、マレーシアなど経由して、エスタブリッシュな私立学校視察を行いつつ、「グローバル教育3.0」のプロジェクトも同時に構築してきた。まずはイートン・カレッジとの2つのプログラムである。

とにかく、両校は、出遭った瞬間から意気投合したということだ。キリスト教教育をベースにした伝統的教育とイノベーティブな革新的な教育を実践しているし、ラグビーを始めとする卓越したスポーツやアクティビティのプログラムを実践しているからである。

 

もちろん、最も重要なことは、そのような伝統と革新の統合されたオールラウンドな教育によって、生徒のタレント(ここでは聖書に出てくるタラントの意味も含んでいる)を豊かにし、論理的思考を土台としたクリティカルシンキングやクリエイティブシンキングのスキルを高めること、強い身体と精神を育てるという生徒の成長を目標としているという点で強烈に一致したということである。

まずは、7月に実施するイートン・カレッジ・サマースクールのプログラムが確定したということだ。歴史が刻み込まれた学校施設を使って同校の教員から実際に指導を受ける。 英国そのものを築き上げてきた最高水準の教育と生きた国際感覚を体感するというのである。

そして、2つめは、2019年にイートン・カレッジのラグビー部初来日の受け入れ先が静岡聖光学院だということなのだ。受け入れるとは具体的には、部員全員のホームステイ先を静岡聖学院の在校生の家族が歓迎するというものである。そこを拠点に、静岡聖光学院をはじめ、いくつかの日本の高校のラグビー部とラグビー交流を行っていく。

このような交流ができるのは、静岡聖光学院のラグビー部が、花園の試合に出場してきた実績やその実力があるからであり、同時にイギリス伝統の競技としてジェントルマンの精神を内に秘めている生徒の存在があるからであろう。

(静岡聖光学院のラグビー場は、富士山を仰ぎながらのロケーション。イートンの生徒の驚く姿が目に浮かぶ。)

いずれにしても、2019年といえば、ラグビーのワールドカップも日本で行われるので、このラグビー交流は世間の耳目を集めることになるだろう。

それゆえ、静岡聖光学院では、ますますPBL型授業でディスカッションのスキルを鍛え、英語力を高めるさらなる創意工夫が展開していくことになる。開かれた学校は、相互に刺激を与えあいながら、教師も生徒もその成長曲線は指数関数的な弧を描くわけである。

そして、このような交流はイートン・カレッジにとどまらず、今回訪問してきた幾つかのパブリックスクールの中の1校であるハロー校とも交流が始まることが確定されたということだ。ハロー校と言えば、イートンと並び、イギリスパブリックスクールの双璧である。

さらにマレーシアのエスタブリッシュ私立学校マレーカレッジとの国際交流も7月から始まる。マレーカレッジは、イートンカレッジをモデルにしているため、伝統と革新の統合が図られているようである。革新的教育においては、ニューロサイエンス部・英語社会部・ユネスコ部・ロボット部・ソーラ ー部等は国内屈指の活躍をしているということだ。そういえば、イートン・カレッジもニューロサイエンスをはじめコンピュータサイエンスなどイノベーティブな学びにも力を入れている。

(マレーカレッジキャンパス)

毎年7月に行われているインターナショナルサミットに参加させてもらうことが決定。テーマはロボット・サイエンス・テクノロジーで、東南アジア各国から招待校が参加する。4名が招待されているから、7月までに、学校を挙げてその準備にかかる。こうして、教師も生徒も、そして学校も成長カーブを描くことになる。

2月に行われている国際 7人制トーナメントにも招待をうけているというから、イギリスから東南アジアにかけて、多様な文化、歴史、価値観との交流の幅が広がり、新しい時代を切り開く発想や思考の技術を創発させていくことになるだろう。

静岡聖光学院のグローバル教育の今後の進化に大いに期待したい。

 

 

富士見丘 教師力相互に磨き、グローバル教育3.0へ挑む!

2018年3月、富士見丘は、SGH認定校として3年目を終え、SGH1期生が卒業した。そして、その大学合格実績は世界大学ランキング1100以内(世界の大学の上位5%)に入っている国内外の多数の大学に進んだ。中でも、ロンドン大学キングスカレッジ(QS世界大学ランキング23位*)、トロント大学(QS世界大学ランキング31位*)、クイーンズランド大学(QS世界大学ランキング47位*)、シドニー大学(QS世界大学ランキング50位*)といった海外の名門大学への進学は、圧巻である。(*世界大学評価機関Quacquarelli Symondsが発表した「2018年世界大学ランキング」。日本の大学は、東京大学が28位、京都大学36位、東京工業大学56位。)

そして、SGHの後輩たちは、今年も、SGH甲子園や模擬国連で実績をあげている。このような成果は、5年目を迎える21世紀型教育を通してでたものであり、SGHプログラム開発とその実践は、中高6ヵ年の同校の21世紀型教育と親和性があったといえよう。しかしながら、富士見丘の教師は、この成果は始まったばかりで、これからもっと飛躍していく。そして、英語力、ICT技術などは、どんどん生徒が教師を超えていくのは火を見るよりも明らかだから、教師も学び続け、SGHプログラムや21世紀型教育のアップデートを行っていく必要があると覚悟を決めている。

そこで、今年4月3日、2018年度の富士見丘の先進的なグローバルな教育をアップデートするために、多様な研修が立て続けに行われたのである。by 本間 勇人 私立学校研究家

【ポータルサイト研修】

その1つは、Office 365のSharePoint Onlineを活用して、学園ポータルサイトの作成と活用法の研修。これによって、教師同士、教師と生徒は、出席から宿題提出、お知らせ共有のみならず、テキスト共有、生徒のプロダクト共有などができてしまう。

互いに6年間の学園生活や学びの軌跡を共有し、モニタリングすることができる。生徒1人ひとりの成長の飛躍を学園全体でサポートするバーチャルコミュニティの構築を行うのである。

もちろん、これは2020年大学入試改革の柱の1つであるeポートフォリオ作成の準備にもなるが、それだけが目的ではない。SGHプログラムでは、とにかくリアルに、そしてサイバー上で海外の高校や団体、そしてなんといっても大学とコラボレーションするため、ICT環境とそのマネジメントができていないと、そのつどバタバタしてしまう。教師も生徒も、グローバルな開かれた学びの環境のシステムを構築する必要があるのである。

したがって、教師も生徒も1人1台タブレット型PCを所有する環境を作る必要があり、その効果的な授業での使い方、リフレクションデータの使い方、生徒の非認知的能力のモニタリングなど、紙媒体で行うと、膨大な時間がかかり、結局やりきれないところを、すべてできるようにしようというのである。

同じ時間内に今まで以上のデータマネジメントをしていくわけだから、教育の質が向上しないわけにいかない。

【「経営の論理と教育の質」向上研修】

ポータルサイト研修終了後、今度はさらに「経営の論理と教育の質」向上研修が行われた。どんなに教育の質がよくても、それが市場に認知されなければ、生徒募集はうまくいかない。私立学校において、経営が持続可能になるかどうかの要は、学校場合は、生徒募集という方法論しかないと言っても過言ではない。

研修は、教師1人ひとりが、富士見丘に対する経営と教育について、自分なりにどんなイメージを持っているかダイアード形式で想いを語っていくところから始まった。

そして、チームにわかれ、市場の情報やデータなどから、外部の目はどのように富士見丘を見ているか議論していった。自分たちのイメージと外部の目とのギャップを明快にするために、7つの質問についても、さらに議論していった。

自分の想いや外部の目をダウンローディングするだけではなく、自分たちの本当の姿を見出す作業にはいると、ギアチェンジが起こりて、さらに真剣に議論は深まった。

富士見丘は、授業もPBLで行っているし、スタンフォード大学のデザイン思考の研修も行っているから、研修も全く同じスタイルで行った。ギャップに気づく過程は、議論の時間を短めに設定して、何度もチームごとプレゼンを続けるという、クイック・クリエイティブラーニングの手法で進行した。

7つの質問は、要は、生徒や保護者の価値と富士見丘の教育の質が化学反応を起こす時、市場が富士見丘の潜在的ブランド力に気づくというカスタマーエクイティに関する問いかけの学校バージョンだった。

富士見丘で、生徒が学園生活を送ることこそが、未来の自分の価値を高め続ける果てしない自己成長物語のプロトタイプであるという実感をいかに共有できるのか。先生方は議論に集中した。朝から長時間の研修を続けてきたにもかかわらず。

そして、最後に、教頭白鶯教先生は、7つの質問について額を集めて考え、議論してきた創造的問題解決の方法を、ワークショップで終わらせることなく、今年実現していけるように一丸となって突き進んでいこうと語られた。

かくして、富士見丘の先生方は、2018年、また新たなチャレンジに立ち臨むにあたって、自分たちの強みと弱みを確認し、弱みは強みに転換していこうという情熱と魂と戦略を共有するスタートを切ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

聖徳学園 国際協力プロジェクト ―「個」から「ネットワーク」の学びへ

国際協力プロジェクトは、他国の情報を分析し、問題を発見、解決方法を提案・実行する力を育むことを目標に、聖徳学園の高校2年生全員が1年間かけて行う活動です。主に総合科の授業で行っていましたが、2017年度は、ICT活用という側面も考慮し、情報科の授業とも連結させたということです。昨年先輩たちの報告会に参加し、発表を聞いていた生徒たちですから、昨年度以上にパワーアップしていることが期待されます。3月13日に行われた最終報告会を取材させていただきました。 by 鈴木裕之: 海外帰国生教育研究家

プロジェクトを推進するグローバル教育センター長の山名和樹先生は、国際協力プロジェクトが総合科だけでなく情報科と連動した意義について、STEAM*をキーワードにして説明を行いました。「想い」を形にするために、「創造力」「技術力」「展開力」を掛け合わせることが必要だと強調します。このプロジェクトを通して、生徒たちが3Dプリンターを駆使して贈り物を作成したり、あるいは、ランゲージアーツやビジュアルアーツの集積によってポスターや動画を作ってきたりした成果に触れ、最終報告に至るまでの道のりを振り返りました。

*STEAM…Science、Technology、Engineering、Art、Math

1組から6組までが担当する国はそれぞれ、ルワンダ共和国、ミクロネシア連邦、タイ王国、スーダン共和国、モザンビーク共和国、インドネシア共和国です。3人から6人くらいのグループが壇上で自分達の成果発表を行います。

各国の問題を発見するとは言っても、先進国のようにニュースが頻繁に報道されるわけではありません。インターネットという「利器」をもってしても、現地で暮らしている庶民の生活情報というのはなかなか入手できません。そもそも英語で入手できる現地情報は限られているのです。

そこで、実際に現地を体験したJICAの青年海外協力隊の力を借りることになります。聖徳学園では、ずっと以前から、JICAとの交流を続けていて、JICAの協力を仰ぐだけではなく、学校から職員をJICAに派遣するなど様々な相互協力を続けてきたそうです。そのようなネットワークがこのプロジェクトを支えています。

生徒たちは、協力隊の人たちの体験やインターネットで入手したニュース、さらに各国の基本統計データなどを総合して問題点を炙り出していきます。当然、同じクラスでもグループによって問題点の特定や解決策には違いが出てきます。

発表を行うクラスの代表グループは、そういった他のグループの活動にも配慮していました。つまり、他のグループの活動を通して、問題に対する複眼的な見方ができるようになっているわけです。他のグループの活動を排他的に捉えるのではなく、相互に組み合わさることでより多くの人々を助けることにつながるという考えが前提になっていました。

第1部のプレゼンテーションが終わると、体育館のあちこちで各グループのポスターセッションならぬ、iPadセッションが行われ、壇上に上がらなかったグループも自分たちの成果を高1生や来賓者に説明し始めました。成果とは、うまくいったものばかりではなく、反省すべき点もまた成果と言えます。なぜなら、その経験は後輩に受け継がれていくからです。「輸送費が意外と高いから、物品を送るのなら軽い物を選んだ方がいい」など、非常に具体的で実践的なアドバイスも聞かれました。

生徒のプレゼンテーションが終わって、来賓の方から講評がありました。ミクロネシア連邦大使館の末永氏は、ミクロネシア連邦は日系人が一番多い国で、自分も国籍はミクロネシアですと自己紹介した後、次のように語りました。

「この中で自分が国際貢献できたと思う人はどれくらいいますか。・・・私は皆さん全員が国際貢献をしたと思います。他国のことを少しでも理解したということがすでに国際貢献なのです」

非常に力強い言葉でした。国際協力とは、相手を知ることを通して自分の存在をリフレクションすることに他ならないのだと揺さぶられました。

伊藤校長先生は、学外からの様々なネットワークをつなげ、いくつものプロジェクトを大きな学びに展開していく手腕を発揮しています。

JICAと共同プロジェクトを始めたばかりの頃、勉強熱心な留学生に、そのエネルギーがどこから来るのか尋ねたところ、自分は祖国の人のために諦めるわけにはいかないという言葉が返ってきて衝撃を受けたとお話されました。

自分のための勉強なら、自分が諦めればそこで終わり。しかし、人のために勉強する立場になると、簡単に諦めるわけにはいかない使命が発生する。勉強は、どこかで人のためにつながっていることに気づくことが尊いと会を締めくくりました。

聖徳学園の国際協力プロジェクトには、グローバル市民社会を前提とした「グローバル教育3.0」の理念が息づいているのです。

 

第2回新中学入試セミナー どう変わる日本の教育・私立中高の教育 教育の再定義の時代 グローバル教育3.0(2)

そして、パネルディディスカッション「創造的破壊としての思考力育成とICT教育」が、首都圏模試センター取締役・統括マネージャーの山下一先生のコーディネートにより進められました。
 
 
聖徳学園中学・高等学校の学校改革本部長・品田健先生は「コンピュータは日常のツールだ」といいます。Google検索しても正解が見つからない問いを探究するために、素材を探してきたり、実現性を確認したりする面白さを実感できるといいます。また、授業時間不足の対策として、いつでもどこでも使えたり、履歴を使った評価を行ったり、タイピングの練習にもなったりするとのこと。
 
 
品田先生は情報収集能力から情報創造能力が問われる時代を生きる子どもたち、新しくできる仕事や価値観に対して、幸福を見出せるようにするツールとして活用できないかを考えようと呼びかけます。そして、STEAM(Science、Technology、 Engineering、Art、Mathematicsを統合的に学習する教育手法)を使って壁を超える必要性を唱えました。
 
 
 
富士見丘中学校・高等学校の教頭である白鶯訓彦先生からは、SGHの取り組みとICTとの関係性についての報告がありました。富士見丘ではサスティナビリティから考える海外に関する取り組みとして「サスティナビリティ基礎(高1)」「サスティナビリティ演習Ⅰ・Ⅱ(高2・高3)」、高大連携、グローバルワークショップを実施しています。
 
そのさい、プレゼンテーションは英語で行われ、SGH甲子園でも一定の成果が出ています。こうしたプログラムの土台にあるのがICTとのこと。今年度から一人一台iPadを導入するそうですが、それまでは学校からの貸出であり、活動に制限が出るなど、もどかしさがあったことからの決断だったそうです。
 
 
東京女子学園中学校・高等学校教頭の落合裕子先生は、地球思考コードというルーブリックを軸とした教育活動とICTとの関係性を論じました。学ぶ(教科学習)―描く(キャリア学習)―経験する(体験学習)という教育活動をつなぐツールとしてICTを活用しているとのこと。落合先生によると、ICTは思考を可視化したり、共有して深めたりすることで、自己肯定感を高めるツールとなるといいます。
 
プレゼンテーションスキル(中1)、課題に応えられる力(中2)、社会で生きる実践力(中3)を育成する一方、英語では英文を録音し、ウェブを介して提出したり、定期試験前に自分たちの問題を作成したりするなど、ICT利活用の事例を紹介していました。学習の振り返りのためにeポートフォリオを活用することにも力を入れているそうです。
 
 
和洋九段女子中学校・高等学校の教頭である新井誠司先生は、PBL(Problem Based Learning)の中でのICT活用についての紹介がありました。和洋九段ではPBLを全教科で実施していますが、それは育てたい生徒像に近づけるからに他ならないそうです。
 
和洋九段のPBLは、答えが一つでない質問<トリガークエスチョン>を示し、自分の考えを構築し(個人ブレスト)、グループディスカッション(グループブレスト)、プレゼンテーション(教室全体の共有)、レポートの作成と活動という一貫した流れがあるそうです。そうした中でフューチャールーム、電子黒板、個人タブレットを駆使し、ICT環境を活用しているのだそうです。校風もあり、穏やかな生徒が多く、生徒の伸びを実感しているといいます。
 
 
ここで、21世紀型教育機構理事・香里ヌヴェール学院学院長の石川一郎先生がパネルディスカッションに急遽参加。これから起こり得る未来の問題・課題に立ち向かうには創造的破壊が欠かせないといいます。そのさい、ICT活用と思考力が問われると指摘します。
 
「こうなったらいいな」ということを子どもたちが考えることができればよく、自由に創造できる力を養うことが学校には必要だとのこと。21世紀型教育機構の加盟校がそれぞれに持つ思考コード・メタルーブリックではそうした力を立体的に見ることができ、評価軸によって先生も生徒も学びのあり方を考えることができると述べました。
 
最後にパネルディスカッションに参加なさった先生方から、一言コメントがありました。和洋九段の新井先生は「今までの常識は通用しなくなっている。教える側が柔軟になることが必要。今まではこうだった、というところからの脱却が必要だ」と述べました。
 
東京女子学園の落合先生は「柔軟な姿勢が大切。教師サイドが学び続けることで生徒も学び続ける」と、教員側の学びに対する姿勢のあり方を指摘しました。
 
富士見丘の白鶯先生は「生徒は新しい学びに気づき始める。それがICTやアクティブ・ラーニングで引き出されている。学びに向き合う生徒を顕在化する役割を担っている」といいます。
 
聖徳学園の品田先生は「本当に学校に来てやることは何だろう。学校でできることは何かを考え、進化しないと生徒が学ぶ喜びを感じることができない」と警鐘を鳴らしました。
 
 
クリエイティビティを発揮するためのツールとしてICTは欠かせない時代となりました。機器を活用し、アプリケーションを駆使しながら、自分が考えた事柄を形にする喜びを通して、ICTを活用する力が育成されていきます。とかく「教育活動は紙で十分だ」「コストがかかる」という主張がまかり通る教育現場ですが、デジタルネイティブが入学してくる私学ではICTスキルの向上が必須となるといえるでしょう。
 
4校では自然にICT環境を使いこなせるよう、先生方の試行錯誤を重ねながら教育活動を行っています。また、ICTを学校教育の自他評価や方針決定のさいに活用する動きも今後は増えてくることでしょう。経験と勘に頼ってきた教育活動を尊重しつつも、さらなる教育活動の改善に向けた試みが行われていくことを期待しています。
 
 
第Ⅲ部 <21世紀型教育の本質>では、順天学園学校長の長塚篤夫先生より、「いまここで未来に必要な教育の本質」というテーマでお話がありました。
 
長塚先生は、まず私たちにフィンランドの職員室の写真のスライドを見るように促します。そして、学校現場の形式は日本と欧米は全く違うことに気づくでしょう、と投げかけます。海外はホームルームもなく、修学旅行も行事も行われないところが多いとのこと。日本だけでなく、世界に目を広げる必要があることを私たちに示しました。
 
そして、新しい学習指導要領の案が文部科学省より示されたことについて、マスメディアの報道に踏み込みが足りないと指摘しました。長塚先生は高校教育の改革とともに大学入試が変わることとセットで捉えることが大切だといいます。学習指導要領改訂は「何を学ぶか(コンテンツ)」「どのように学ぶか(方法論、アクティブラーニング)」が注目されがちですが、大事なのは「何のために」、つまり目的だといいます。それは「新しい時代に必要となる資質・能力の育成と、学習評価の充実」だと指摘します。長塚先生はこの目的を報じないマスメディアの姿勢に疑義を唱えました。
 
 
また、世界中で通用する汎用的能力を育成する教育、コンピテンシーベースの教育を行うことの重要性を唱えました。そのさい、コンピテンシーをどう評価するのかが、教育活動の中で鍵になると指摘します。社会で活動するさいの基本として「何ができるようになるか」を明示する必要があるとのこと。外国語の熟達度を示すヨーロッパ言語共通参照枠CEFRもその一種であり、創造的思考を育成するためのルーブリックもそうだといいます。
 
一方、ハーバード大においても「試験結果だけではわからない」、つまり、わが校にとって優れた学生を真に選び出すような試験は存在しないことを意味すると指摘します。よって、新時代に必要な資質・能力を測るための学習評価方法として、パフォーマンス評価、ルーブリック、ポートフォリオ評価などが様々な教育機関で研究開発されていると紹介。今後、AI時代に残る仕事に求められるスキルは「創造性」「社会性」だと言われています。そして、そうした流れを創るため、長塚先生は私学人が声を上げるべきだと主張します。
 
 
最後に、工学院大学附属中学校・高等学校校長の平方邦行先生より閉会の挨拶がありました。「教育の本質を支えるアクレディテーションそして教師」をテーマに、会を締めくくりました。
 
21世紀型教育機構は学校教育のアクレディテーション(外部機関による教育機関の品質認証)を行う機関としての役割を担っています。平方先生は「教育の本質があればいい」というのでは教育の質を保証することが難しいといいます。そして、2018年問題として掲げられるように、長い期間を考えると子どもが減少局面にあり、ここで私立学校がイノベーションを起こさなければ生き残れないと指摘します。
 
すべての生徒にGrowth Mindset×Creativityを授ける、それがグローバル教育3.0だといいます。現在、Growth Mindsetを測る指標を工学院は持っており、教育活動に活かす試みを行っているとのこと。
 
 
そして、21世紀型教育機構は限られた人間にしか恩恵が受けられないファーストクラスのような教育から、多くの才能をグローバル社会に送り出すためにクリエイティブクラス育成を行う共通教育システムをもつのだといいます。アクレディテーションだけでなく、SGT(スーパーグローバルティーチャー、Growth Mindset×Creativityを育むことができる教員)養成のための研修なども行っています。
 
 
工学院のハイブリッドインタークラスでは、高1でC1レベルを目指し、英語はスキルだと言っている授業はないとのこと。日本の高校生が卒業時に英検準2級以上を取得しているのは、3割程度しかいない現実に直面しています。グローバル教育3.0にバージョンアップすることは、変容する社会の中で将来輝ける生徒を育成したいという願いでもあると、平方先生が語り、会が終わりました。
 
 
お二人の先生から共通して言えるのは、教育の質保証に尽きるということです。教員は職人気質であり、ともすれば経験と勘によって教育活動を行いがちです。また、教育理念に紐づいた学校教育を創り上げることなく、各々の教員が自らの正義に従って授業を実践することが行われがちです。21世紀型教育機構はそうした問題を解消し、独自の取り組みによって学校の教育の質を担保しようと試みています。
 
学習評価を充実させ、外部機関による品質認証を行うのは、学習者である生徒中心の教育を実現するために他なりません。とかく生徒の存在を置き去りにし、才能に蓋をする教育者が存在する日本の教育の中で、21世紀型教育機構ではそうした学校と一線を画し、グローバル教育3.0への取り組みを加速していくことでしょう。

第2回新中学入試セミナー どう変わる日本の教育・私立中高の教育 教育の再定義の時代 グローバル教育3.0(1)

2018年2月18日、工学院大学新宿キャンパス「アーバンテックホール」で、21世紀型教育機構主催の「新中学入試セミナー」を開催いたしました。オープニングで、総合司会である21世紀型教育機構副理事長であり、工学院大学附属中学校・高等学校の平方邦行先生より「グローバル社会を生き抜く若者を育てられるか」という問題提起がなされました。
 
例えば、2014年開校のミネルヴァ大学はキャンパスを持たず、世界中を渡り歩きながら学ぶという新時代のリベラルアーツのあり方を提案しています。こうした新しい学校の在り方が示される中で、いま教育がどう変わるべきか、一緒に考えていこうと訴えかけます。そのキーワードとして「グローバル教育3.0」が挙げられるだろうと述べています。
 
AIの進化やグローバル競争と対立が大きな問題として予測される中、我々はどういう教育を通して地球市民を創り上げるのか、ということを真剣に考える時期にあることを参加者とまずは共有をしたのです。(株式会社カンザキメソッド代表であり、21世紀型教育機構リサーチフェローでもある神崎史彦氏に取材記事として寄稿して頂きました。)
 
 
 
 
そして、第Ⅰ部では<真実の21世紀型教育とは何か?>をテーマに基調講演がありました。「新たな日本の教育の行方~グローバル高大接続教育」をテーマに、21世紀型教育機構理事長・富士見丘学園理事長校長の吉田晋先生よりお話がありました。
 
 
吉田先生は、日本を支える次世代をどう育むべきかを本気で考えようと、我々に熱く訴えていました。日本では教育改革が行われようとしていますが、なかなかうまくいかない現状を指摘しつつ、思考力・表現力・英語4技能育成を積極的に行ってきた21世紀型教育機構をはじめとした私学中高が先導し、大学も入試を変えてきたという現状があります。
 
しかしながら、大学側は英語4技能の育成を担うこと、英語4技能・記述式・面接試験などを大学入試に導入する難しさに直面しています。吉田先生はそうした障害を乗り越え「人間にしかできないこととは何か」「日本人として堂々と生きる若者をつくることが我々の使命だ」と決意を述べます。21世紀型教育機構はグローバル教育3.0を掲げ、夢や希望に向かって何が必要かを考え、寄り添い、どう導くかを考えていきたいと締めくくりました。
 
 
 
首都圏模試センター取締役・教育情報部長である北一成先生は「中学入試の新しいウネリ」を論題に、今年の中学入試の現状を報告しました。
 
北先生は首都圏の中学入試受験生の増加に違和感を覚えていると指摘。その背景には中学入試の構造の変化があるといいます。従来型の塾に通う子どもが減る一方、思考力入試や英語入試、得意科目を選べる入試、習い事・プレゼンテーション型といった新しい入試にチャレンジし、4科受験の減少を埋めている現状があります。それは小学4年生になったとき、塾通いを選ばずに習い事を続けるケースがあるからではないかと分析しています。
 
一方、私立中の適性検査型入試、英語入試実施校がともに100校を超え、今後も増える可能性があります。大学入試改革やグローバル社会への対応を意識している様子が伺えます。帰国生入試も増加しています。帰国生の絶対数はそれほど増えていないものの、ダイバシティー化が進み、国内と英語学習者を混ぜる私立中高の動きもあります。
 
多様な入試を取り入れて、多様な受験生を受け入れる学校が伸びています。偏差値と進学実績を重視した学歴・塾歴社会では、一人一人が持つ才能を考慮しない入試が行われる傾向がありました。これまでの日本の教育が画一的だったとは、見識者によってよく語られてきたことでもあります。
 
しかし、若い保護者の価値観が変化しています。明らかに公立学校より早く進化できているのは私立中高一貫校です。そうした才能ある受験生を学歴・塾歴解放区へ引き入れ、伸ばそうと決意する21世紀型教育機構をはじめとした私学が認められる時代になったといえます。
 
 
 
21世紀型教育機構副理事長・三田国際学園学園長の大橋清貫先生は「高大接続のパラダイム転換」というテーマで私たちに語りかけました。
 
21世紀型教育機構の加盟校の大前提は、テクノロジーの進歩や世界のフラット化、AIの進歩、第4次産業革命など、起こり得る未来を前提とした教育活動を行うことだといいます。そして、これからコンピテンシー(成果を出す人に共通する行動特性)が求められ、知識・応用力を前提とした発想力・コミュニケーション力・問題解決力が欠かせないと言及し、「社会に出るまでに身に付けるべき力とは?」と問題提起します。
 
大橋先生は現状を批判的に捉えて創造的に破壊する力が今後は求められるのではないかといいます。そして、そのためには「学習習慣の置き換え」が必要だと指摘します。今までの学習者の習慣はPassive Learning、つまり理解して解答できることが求められてきました。しかし、今後は分析し、仮説を立て、実証し、説得するという時代に変わるといえます。
 
特に、最近ではすでに21世紀型スキルを持つ受験生が増えている現状を鑑みるに、学校教育も21世紀型教育もVer3.0を目指す必要があるとのこと。それは、中学入試が変化したからだと大橋先生は指摘します。C1英語(英語入試Essay Writing)×思考力(思考力問題、21世紀型入試)の実施によって新入生が変化し、知的好奇心が高く、成長速度が全く違う受験生が入学してくるようになったとのことです。
 
そして、こうした21世紀型教育機構の取り組みにより育まれた子どもたちが、6年後どんな大学に進学したらよいのかを考えるべきだと述べています。「大学選択=偏差値」という一般論を批判的に捉え、「コンピテンシーの高低」「トラディショナルかイノベーティブか」といった新たな指標を持ち込むことが欠かせません。そして、コンピテンシー型教育でありイノベーティブな大学が、21世紀型教育によって育まれた子どもにはよいのではないかと述べ、大学の変化に期待しているとのことでした。
 
4名の先生方が共通して論じていることは、学校教育のパラダイム(枠組み)の転換にほかなりません。従前の偏差値による学校選択や大学受験を頂点とした教育を批判的に捉え、何のための教育なのか、私立学校はどのような教育を展開すべきかを考え、実践し、その姿を世に発信しようという試みなのだと理解しました。
 
これからを生きる子どもたちを従前の枠組みに閉じ込めるのではなく、才能を掬い上げ、コンピテンシーや英語運用能力を育成し、グローバル社会で未来を創造すること。それが21世紀型教育機構の使命であるという強い意志を、4名の先生方の主張から感じ取ることができました。
 
そして、そうした子どもたちを迎え入れるために、思考力入試や英語入試をはじめとした新たな入試を開発し、その動きがますます加速しそうだという様子も窺い知ることができました。未来を生きる子どもたちのための教育を創り上げようとする、まさにフロンティアが21世紀型教育機構に加盟する学校なのだといえるでしょう。
 
 
第Ⅱ部は<教育のコペルニクス的転回>「グローバルコミュニティと連携する」テーマに、パネルディスカッションが行われました。
 
コーディネーターのGLICC代表・鈴木裕之氏より、グローバルコミュニティの連携はとても重要な概念であると指摘しました。グローバル市民がインターネットを介して市民同士と繋がれる時代において、教育はどう変わるべきかと問題を提起しました。今回登壇したパネリストの学校は、すべてグローバルコミュニティとコラボレーションして教育に取り組んでいます。
 
八雲学園は、ラウンドスクエア。文化学園大学杉並は、カナダのブリッティッシュコロンビア州の教育省、工学院は、ケンブリッジ・イングリッシュ・スクール、聖学院は、タイのメーコック財団。一部の生徒が海外研修や留学をするというプログラムではなく、このようなコミュニティとコラボレーションして、共に教育活動を行っています。今までの国際理解教育では行われてこなかった全く新しい取り組みです。
 
 
八雲学園中学校高等学校の高校部長・菅原久平先生からは、ラウンドスクエアの取り組みのご紹介がありました。ラウンドスクエアは6つの教育の柱「IDEALS」(Internationalism, Democracy, Environment, Adventure, Leadership, Service)に基づいて活動する、国際的な私立学校連盟です。八雲学園の建学の精神である「生命主義」「健康主義」を進化させ、ラウンドスクエアとの理念と融合させ、新しいステージに突入したという報告がありました。
 
 
 
文化学園杉並中学・高等学校の国際部主任・窪田淳先生はダブルディプロマ(日本+カナダの高校のカリキュラムを実施)について説明がありました。カナダの高校のカリキュラムは他者理解を重視し、たとえば社会の授業ではLGBTの理解など、他者理解から社会貢献に向かうマインドの形成に成功しているといいます。
 
 
工学院大学附属中学校・高等学校の英語科主任・田中歩先生からはグローバル市民を育成するため、ケンブリッジ大のコンテンツの活用をもとにした取り組みを行っているという紹介がありました。教員はケンブリッジ大の無料オンライン講座で学び、生徒は英語4技能をどう身につけ、能力をケンブリッジ英検で確認し、スキルの数値目標をもとにして自己を振り返るといった試みを実践しているそうです。工学院は、日本初のケンブリッジ・イングリッシュ・スクールの認定校です。
 
 
聖学院中学校・高等学校の高等部長・伊藤豊先生からはタイ研修旅行におけるPBL(Project Baced Learning)の紹介がありました。山岳少数民族の子どもたちとの交流を通し、社会的ハンディキャップを肌で感じ取ることを通し、子どもたちのために何ができるかを考えるプログラムです。世界の問題を読み解きながら、異文化異言語でも協働し、高次の探究スキルを習得しながら、社会貢献できる人材を育成し、自己成長を促すといいます。
 
また、鈴木氏はCLIL(学習内容を題材にさまざまな言語活動を行うこと)など、コンテンツと言語が表裏一体となる学習活動に関心が集まっているといいます。そこで、英語学習とPBLなど、教科横断的な教育活動が各校でどう行われているのか、パネリストから紹介がありました。
 
菅原先生からは探究活動を通したプレゼンテーションスキルの育成について話がありました。推し量る文化の中にいて、話すのが苦手な中高生にとって、プレゼンテーションは高度な問題になりがちだといいます。そもそも、そういう状況では国際社会に出るには通用しないと指摘します。お互いの理念を共有し、どう発すればリスペクト出来るのか、というマインド形成が非常に大切だとのことでした。
 
窪田先生は、ダブルディプロマを通した活動について述べました。カナダの授業では、自分の表現活動のなかで「自分がどういう目的でその内容を伝えようとしているのか」「オーディエンスを意識する」ということを意識しているそうです。加えて「Who am I?(私は何者?)」を理解し育成するための非認知的スキルを取り入れるカリキュラムが組まれているといいます。
 
田中先生からは「どう英語が身についていくか」ということを、表現活動の中で見出すことができると指摘します。子どもたちの創造的な活動を通し、自分たちの考えを自分たちの力で言えることを楽しむ教育活動が欠かせないといいます。また、LEGOによるクリエイティブ活動、地域の家の特性調べなど、教科横断型の授業は実際の生活に役立てることができるとのこと。英語で取り組み、「できた、うれしい、だからやる」というサイクルが生まれることを期待しているそうです。
 
伊藤先生からはPBLについての実践報告がありました。宿泊行事のPBL化、SDGsワーク、情報整理ワーク、論証ワークなど、探究学習に必要なワークなど、教科横断的な活動が積極的に行われているそうです。また、ソーシャルデザインキャンプと称し、湯河原の漁業体験を通した探究スキルの習得が行われています。体験を通して様々なスキルを学び取るコンテンツを豊富に用意していることが特徴とのことです。
 
そして、21世紀型教育機構ではグローバル教育をVer3.0にアップデートする試みがなされていますが、その事例紹介もありました。
 
伊藤先生からはタイ研修旅行の経験がその後でも活かされているといえる一方、自己肯定感が上がるが、社会に貢献する意欲に繋げられるかを考える必要があるとのこと。窪田先生は、みんなに同じ教育を提供するのは実は格差を生みかねないことから学習の個別化が欠かせず、それぞれの認知能力に合った教育の提供のためにICT活用が不可欠だと指摘します。田中先生は子どもたちが英語をどう使って、問題や課題に対するアイデアを英語で生み出しながらどう解決し、未来に繋げていくのかが大事だといいます。菅原先生はラウンドスクエアの活動を通し生徒が主体的に行動し、高度な社会問題まで扱う活動を通し、言語以上に大事な事柄を中高で責任をもってやっていくべきだと述べました。
 
4名の先生方の実践報告を聴き、タイトルにある「コペルニクス的転回」とは「知識や技能がなければ、創造的思考は発動されない」という教育現場の一般的なとらえ方が大きく変わりはじめていることを指すのだと理解しました。グローバルコミュニティのアクセスや英語習得を教育活動に自然に組み込み、そうした試みによって子どもたちに学びへの好奇心を発動するという仕掛けを各校で施していることがわかります。
 
創造的思考を発動させたのちに知識や技術を習得したり、これらを体験の中で同時並行的に学んでいったりするわけです。日本の公教育では基礎的な知識・技能を鍛錬することに精一杯で、それが大学入試に直結するゆえに、創造的思考を育む教育が施されにくい状況にあります。
 
それを4校ではその壁を乗り越えようとしています。自己の成長を喜び、時には役割を変えながら、創造的思考で問題や課題を解決する。そうした子どもたちの理想的な姿を追い求め、各校では切磋琢磨しながら教育活動に取り組んでいることが伝わりました。
 

順天 教育の本質の実現 SGH活動5年目を迎えて

2018年2月16日、順天中学校・順天高等学校(以降「順天」と表記)は、「SGH活動報告会」を開催しました。SGH(スーパーグローバルハイスクール)として認定されてから、今年は、いよいよ5年目の教育活動を迎えます。

SGHの活動は、かなりハイレベルの「主体的・対話的で深い学び」が要求されていますが、順天は、そのハードルを、4年間でクリアし、さらに、「グローバル社会で主体的に活躍する人材育成」という高い志も実現。教育の本質も豊かに展開しています。

参加された方々が、その質の高さと豊かさに目を丸くしていましたが、同校の生徒にとっては、もはや日々の教育活動であり、当たり前の学びとして認識されています。つまり、本物の教育がそこに横たわっているのです。

今回、神崎史彦氏(株式会社カンザキメソッド代表:21世紀型教育機構リサーチフェロー)にその様子を取材記事として寄稿して頂きました。

順天は1834年(天保5年)に設立された順天堂塾が起源の伝統校であり、「順天求合(自然の摂理にしたがって真理を探究する)」という建学の精神のもと、英知をもって国際社会で活躍できる人間を育成することを教育目標として掲げて、教育活動を行っています。

当日は大学・高校・教育関係者が多数全国から訪れ、メディアの取材も入り、熱量の高い発表会となりました。

当日はコミュニケーション英語(2年生)、保健(1年生)の公開授業も同時に開催されました。

英語の授業では、和田玲先生とShieba Magno先生のファシリテーションのもと、高校生が堂々と、自然体で英語でのコミュニケーションを行う姿が垣間見えました。冗談を交えながら英語でプレゼンテーションを行う姿、先生方による不意の質問であっても素直に会話ができる様子、そして多数の見学者がいる中でも高校生が自然体で英語を活用している姿は、まさにGrowth Mindsetが行われている証だといえるでしょう。

対話と質問を繰り返すWarm Up、お祝いの席の食事を語り合うIntroductionaly Quizを経て、本時のテーマである「飢餓のある世界」の対話へと続きます。和田先生の問題提起により、会場の空気が引き締まります。高校生たちは世界の栄養不良にかかる問題を自分事として捉え、思考を重ねていきます。

英語をスキルとして捉えるのみならず、そうしたコミュニケーションツールを通して地球課題まで思考を広げる授業が展開されました。まさに21世紀型の学びです。

一方、保健の授業もテーマは食糧問題。地球上で生産される食糧と生存に必要な食糧との比較を尋ねるなど、小林光一先生から発せられる多数の質問に対し、高校生が格闘して自分なりの回答を導いていきます。

解答するなかで仮説を立て、Open Mindで回答する高校生。そして、その回答に対して、小林先生は同意し、ときにはクリティカルな質問を投げかけたりしながら授業が展開されます。そして、小林先生は食料を生産するだけでなく、足りないところへ流すという視点の切り替えを示します。

現状への批判的思考から創造的な思考を生む視点、イノベーティブな視座の必要性を高校生にインストールしていきます。

最後に小林先生はそうした食糧問題を自分ごとにする大切さを説き、自らフードドライブ(家庭で余っている食べ物を学校や職場などに持ち寄りそれらをまとめて地域の福祉団体や施設、フードバンクなどに寄付する活動)の実践を行っていることを述べます。

授業での伝達だけで完結せず、自らが主体者として課題と向き合う教師がいることは、高校生にとって大きな学びとなることでしょう。

当日は、SGH課題研究のポスターセッションも行われました。順天高校では海外研修の中で課題研究のフィールドワークが行われており、その研究成果を発表していました。なお、高校生は「アジア短期型(台湾)」「オセアニア短期型(オーストラリア・シドニー)」「短期留学型(ニュージーランド南島・カンタベリー州・クライストチャーチ近郊)」「語学研修型(カナダ・ブリティッシュコロンビア州・ビクトリア)」「社会探究型(タイ・北部およびバンコク)」「科学研修型(オーストラリア・ブリスベン)」の6コースを選択しています。

個人探究や調べ学習の成果は非常に個性的です。フィリピンの雇用環境改善や言語教育、留学における自己変容、台湾の映画事情、タイの海外支援の課題、デング熱対策、伝統舞踊といった研修地に根差した探究活動を行っていました。

一方で、科学研修型のコース選択者は、ピクロス、モーツァルトの音楽と身体、台風の進路など、個性豊かな発表が行われていました。海外研修を通して探究課題を自分事とし、調べ学習やリサーチの積み重ねによって、根本問題にたどり着こうとしている姿が、各々の発表から伝わりました。

また、こうした探究活動を昇華するためには外部者の支援も欠かせませんが、順天では「Global Week(国内外から話題提供者を呼び、正解のない問題を立場に関係なく語り合う1週間)」を設けて、探究内容について相談できる環境を整えています。

順天の高校生が根本問題を捉えて探究活動が行えるのは、学校の外の人を校内に引き入れることができるからにほかなりません。「英知をもって国際社会で活躍する人間を育成する」という教育目標を達成しようという学校としての決意が窺えます。

その後、場所を大会場へ移し、講演の部が始まりました。長塚篤夫校長先生は、日本の高大接続改革に対する思いを述べました。大学入試改革の本質は、高校生を多面的な視点でみつめるところにあり、それを高校側はどう出願書類などに反映させるのか、大学が高校教育の多面的評価をどう使うのかを考えるべきだといいます。

そして、そうしたコンピテンシーベースの学びに変わるのに、メディアはそうした視点で語らないと指摘します。

21世紀型教育機構加盟校は、知識や技術の習得に加え、それらを論理的な思考をもとに活用し、現状をクリティカルに見て創造的な解を導こうとする力を養っています。

そうした知的活動を行って成長した高校生を送り出し、地球社会を活性化しようを試みる順天のあり方を意思表示するとともに、そういう高校生が大学をはじめとした社会に認められる世界をつくり上げることが、大人の使命ではないかという問いかけが、長塚校長先生の言葉に込められています。

次に、高校生の発表がありました。中退者と雇用環境についてのプレゼンテーションを英語で行っていました。さまざまな調査をもとに、いかに社会課題を向き合い、解決策を見出すのか。高校生の立場で考えうる可能性を示唆した発表でした。

社会課題を捉えるさい、高校生は他人事になりがちですが、彼女の発表はそうではありません。主体者としてどう中退者と向き合い、社会との接続をすべきなのか、批判・創造的思考を繰り広げながら考え抜いた姿が印象的でした。

彼女はまさに順天高校が目指す「英知をもって国際社会で活躍する人間」の代表です。これからも創造的な学力、国際的な対話力、人間関係を構築する力を兼ね備えた人財を輩出していくことを期待しています。

関西学院大学の尾木義久先生からは、文部科学省の大学入学者選抜改革推進委託事業(主体性等分野)の実証事業と新しい出願システムであるJAPAN e-Portfolioの説明がありました。

尾木先生は事業の内容を解説するとともに、新しい学習指導要領が目指す姿にも言及しています。次世代はどのように社会や世界とかかわり、よりよい人生を送るかを考えることが大切であり、大学入試も一人一人を見つめるものに変化していくとのこと。

世界を自分で変えられると思う高校生が増えるには、入試が変わり、大学が変わり、高校が変わることが必要だというメッセージを伝えました。知識や技能を測る試験が中心だった日本の大学入試制度が変わろうとしているのは、大きく変動する世界を生き抜くための力が求められているからです。

知識や技術の再生産だけでは社会問題を解決することが難しいものです。国を挙げて21世紀型スキルやコンピテンシーを育もうとする様子が垣間見えた講演でした。

最後に、SGH委員長の中原晴彦先生から活動報告が行われました。フィールドワークを通した世界各国の高校生たちとの協働を実践し、共同研究しやすい環境を整えているとのこと。

また「Global week」を通し、高校生が研究者としての意識を高め、大人と対等に対話する機会を設け、探究部が学校の外に出て発表するなどといった、学校外へ目を向けた活動を行っているそうです。中原先生の言葉からは、SGHの目的である資質・能力の育成を行ってきたことへの手ごたえを感じているように感じました。

今大きな転換点にある学校。そこで知識を得ると志が生まれ、世界が開ける。意欲や考え方、志といった必要な力、ICT活用のための力は、学校では足りない。だから、壁を壊し、外部の方々からの英知を借り、それによって高校生、そして学校はおのずと力はついてくる。学校の未来はそこにある。

こうした言葉は中原先生が格闘しながらSGHの活動と向き合ったからこそ紡げるものだと痛み入りました。順天のようなハイクオリティな21世紀型教育を推進する学校が果たすべき使命は、まさに高校生たちの志とそれに向き合う力の育成に他ならないのです。

21世紀型教育機構 第2回「新中学入試セミナー」

2018年2月18日、工学院大学新宿キャンパス アーバンテックホールで、≪21世紀型教育機構 第2回「新中学入試セミナー」を開催しました。セミナーについての記事は後日掲載いたしますが、セミナー全体を貫いた「グローバル教育3.0」の考え方について、最後に工学院の校長平方先生(同機構副理事長)がまとめました。

プレゼンのときに活用したパワーポイントの中の1枚に、コンパクトにまとめられている表がありましたので、それをここに掲載します。

 

 

21世紀型教育機構のすべての加盟校は、「グローバル教育3.0」を実践しています。各加盟校のその具体的実践については、今後も当サイトでお知らせしていきます。私たち機構の日々の実践の積み上げは、同時に自己変容の過程でもあります。

この過程は、2020年度の大学入試改革まで、続きますが、その時点で、国内の改革と21世紀型教育機構の改革には差異が明快になるはずです。

そのことに世間が気づいたとき、私たちは、次のステージに移行していると思います。

「グローバル教育3.0」の実践は、次のステージへの跳躍台となるでしょう。

そうならなければ、世界の国々と未来のイノベーションを共有できないフリーズした日本を子どもたちに押し付けることになるからです。

 

 

聖パウロ学園高等学校 21世紀型教育の意味

聖パウロ学園高等学校(以降「聖パウロ学園」と表記)は、高尾山の裾野に広がる森の中にある。東京都内で、このようなマインドフルネスな環境にある学校は他にない。冬になると、雪景色は美しくも厳かで清らかな時空が流れる。

自然体験あり、乗馬あり、まるで、ソローやエマーソンが森の小道の向こうから現れて、自然と社会と人間存在についての対話を誘うような雰囲気である。彼らの信条は、マハトマ・ガンディーのインド独立運動やキング牧師の市民権運動の精神とシンクロする。

そして、聖パウロ学園自身、20世紀型教育で、学力格差や偏差値競争によって、自らの潜在的才能に気づくことなく自己肯定感を持てないように強いられてきた生徒に自信と勇気を回復する場としてやはり共通した精神が流れ広がっている。by 本間 勇人 私立学校研究家

 

学校案内を開くや、こう問いかけてくる。

変わり続ける21世紀をキミたちはどう生きる?

高校3年間で、生徒たちは、森の中で、少人数クラスの中で、部活の中で、文化祭の中で、オーストラリアの研修で、自分を見つめ、他者を受け入れ、man for othersの精神を胸に、自分の道を森の小道の向こうに見つけていく。

聖パウロ学園の英語の授業は、オールイングリッシュで展開し、PBL型授業。英語力を学ぶだけではなく、教師と生徒、生徒と生徒による対話によって、多角的な視点を見出していく。グローバル市民として、人間存在を大事にし、自由を大切にするには、世界的市民の視野を広げる必要がある。

テキストもケンブリッジ出版のものを使い、そこから動画に飛びグーグルマップに飛ぶには、Webも活用する。聖パウロの英語教育は、今年4月から、グローバルコースも開設し、帰国生も入学してくる。日本語と英語、イタリア語、フランス語などの多言語に対する対応は、多様性の環境が不可欠だ。

英語で対話し、互いに創造的思考を交わすことができる英語のPBL型授業は、少人数クラスで、自然の環境の中だから最適なのかもしれない。

聖パウロ学園は、カトリック学校だから当然宗教の時間がる。そこでも聖書は日本語と英語だ。しかも、主の祈りを手話を通すことで、その意味を身に染みて感じるというlearnnig by doingも行われる。対話と体験というのは古くて新しい授業である。21世紀型教育は、新しい道具を活用しながら、20世紀政治経済社会によって忘却のかなたに追いやられてきたかけがえのない存在の価値を取り戻す教育でもある。

聖パウロ学園の授業は、教師と生徒の問答が絶えることのない対話の授業であるが、数学のように、生徒同士が教え合う場面も多い。教えることが伝わることに必ずしもならない歯がゆい体験こそ、数学的思考を教える自分が本当はまだ分かっていないのではないかというリフレクションを誘うし、教えられる側も、素直に疑問をぶつけることができる。

問答や対話や教え合いは、柔らかい関係性をつくる機会を生み出し、互いに自己変容するGrowth Mindsetを開いていく。自他のつながりが生まれる時にこそ、自己肯定感の発露が生じるのである。

柔らかい自然採光に包まれながら対話が中心の授業が日々行われていく。知識を覚えて再現するだけの授業から、対話をし、論理的で創造的な思考を大きく回転させていく生徒。その思考の回転は小宇宙の渦となり、そこに真理が顔をのぞかせる。

そのとき「私はこう生きる」という自分にとってかけがえのない価値が出現する。真理は個人に働きかけるからである。一人ひとりが、他者と違う自分の才能に気づくという真理の働きかけこそ「私はこう生きる」という仲間の集合を創り出す。

 

この体験が、大学や社会に進み、誰かが決めた基準に振り回されるストレスの中で、自分の才能に基づいた思考や判断をすることの大切さを共に気づいていこうと語りかける行為をする人材を聖パウロ学園からは生みだす大きな契機になる。

グローバルとは、政治経済的には、ひと・もの・かね・情報の分断を超えるもではあるが、人間存在という側面では、自己と他者の壁を越境し、互いの価値を分かち合う心の場を創ることでもある。

才能の芽を摘まれないように、小さくなって生きてきたキミ、聖パウロ学園で花を開かせようではないか。

ページ